【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話 作:しゅーがく
松代の第二司令部。そこにある、会議場に大勢の人間が集まった。
その場に不相応な年の士官ばかりで、私くらいの年代はほとんどいない。
「ここに、『突風』作戦の概要を説明する」
アナウンスは総督。年に合わず、ハリがありよく通る声を会場に響かせた。
これから始まるのは、作戦概要。直前に全軍の意思を疎通させるために行う、全体ミーティングだ。
集まった人間は皆、この作戦に参加する部隊長やその母体の部隊の長。派遣員ばかり。
全員が緊張した面持ちで傾聴している。
「概要説明は本作戦の立案、主軸となる海軍部。海軍部長官の新瑞から説明がある」
この作戦、主導権は結局海軍が握ることとなった。
陛下と総督の要請で、作戦立案を行っていた私の元に、作戦の主軸となるよう命令が下ったのだ。
最高の状況を用意してもらったのだ。この作戦を失敗する訳には行かない。
「海軍部長官の新瑞だ。説明を始める。手元に配布した資料を見ながら聞いて欲しい」
私の背後にあるスクリーンに投影が始まった。
「『突風』作戦は首都、プラント、工廠、航空基地や放棄した物資の奪還を主任務としている」
「参加部隊は陸軍第三方面軍第一ニ連隊、第一五連隊、臨時自走砲連隊。第四方面軍第ニ連隊、第八連隊、第三一連隊、第六戦車連隊第九中隊、第一◯中隊。臨時航空団第一◯ニ飛行隊。空軍航空教導団、臨時輸送隊。海軍第二憲兵師団、臨時海兵第一大隊、第二大隊、第三大隊」
陸軍の約2/5は関東方面に駐留する、第三方面軍からだ。その中でも第一ニ連隊、第一五連隊は神奈川東京横須賀撤退戦時に、後方支援を行った部隊で、あまり被害もなかったところだ。臨時のついている部隊は全て、再編成を行い、あちこちの所属の部隊が統合されたところだ。指揮系統が若干心配なところがある。
臨時航空団第一◯ニ飛行隊はヘリを装備する部隊。攻撃ヘリや負傷兵や装備を運搬する輸送ヘリを運用する。こちらも上記同様。統合部隊だ。
空軍からは、かの有名な航空教導団が全機出ることになっている。
航空教導団の本来の任務は、横須賀鎮守府艦隊司令部に接近する深海棲艦の迎撃任務だった。だが、その横須賀鎮守府はもうない。それによって、行き場を失った航空教導団が、この作戦に立候補したのだ。そして、臨時輸送隊は、撤退戦の時に撤退域内から詰めるだけの物資を積んで逃げ切れた輸送機による統合部隊だ。
そして、海軍はこの作戦に全戦力を投入する。
東京や大阪、京都、松代などの主要都市に居る憲兵や、それぞれの鎮守府の門を番している憲兵は皆、第一憲兵師団。第二憲兵師団はというと、暴動やらが起きた時の対応などをする、海兵同様に陸上戦闘訓練を積んだ部隊だ。たまたま、大本営にも松代にも居なかったので、丸々生き残っていたのだ。
それと、臨時海兵第一~三大隊。ここは完全に生き残りだ。各地にそれぞれ少数で散っていた海兵と、撤退戦を生き残った海兵の集合体だ。完全にありあわせの部隊である。
「そして、横須賀鎮守府艦隊司令部所属『番犬艦隊』が本作戦に参加する」
そう言うと、会議場が一瞬淀めいた。
「作戦の流れを説明する」
私はそれを無視し、話を続けた。
「作戦開始日時までに松代第二司令部周辺に、陸上部隊は集合。集合が確認された翌日の明朝に歩兵はトラックにて出立。航空部隊はそれと同時にこちらから、作戦開始の趣旨を伝える」
「松代を出た陸上部隊は上信越自動車道、更埴JCTより上田高崎方面へ向かい、そのまま佐久で降りてから軽井沢臨時集積場に向かう。そこで程度のいい武器弾薬を受け取る」
「礁氷軽井沢から上信越自動車道に入り、藤岡JCTで関越自動車道へ。川越で自動車度を降り、陸軍大宮基地へ向かう」
「大宮基地では放棄した物資の回収及び、中継基地として第二憲兵師団の一部と第一五連隊の通信部隊を置く」
「大宮基地出立より大本営までは歩兵はトラックを下車。徒歩で移動をする」
「大本営へ到着後は第ニ憲兵師団が内部の調査を行った後、部隊を収容。体勢を立て直しつつ、復旧作業へと入る」
ここまで聞けばただの施設部隊の任務だ。だがここから先が戦闘部隊を連れて行く所以でもある。
「付近のインフラの整備を行いつつ、電気の復旧が確認された後、横須賀鎮守府艦隊司令部と海軍工廠の奪還を目指して横須賀へ向かう」
今度の淀めきはすぐには静まらなかった。
この任務の大まかな話は先に伝えてあったがのだが、大本営奪還後の話はまだ伝えていなかったからだ。
そして、ここからがこの作戦の要。神奈川東京埼玉を取り返す作戦の肝。
「ここまでは我々の部隊が主だって動くことになるが、ここからはそれ専門の部隊に任せる。ここで『番犬艦隊』を使う」
「だが、番犬艦隊はここまで来る道中に後方支援を行っているので、それ相応の時間や補給が必要となってくる。そこで、我々の出立後に松代から補給部隊が後を追いかけてくる。この補給物資を彼女たちに補給し、これ以降の攻勢は『番犬艦隊』の指揮の下で行うことになった」
ここから先は、深海棲艦との戦いに慣れている艦娘に任せるのが妥当だろう。
それに彼女たちは横須賀鎮守府の艦娘だ。きっと天色から戦術やらを学んでいるに違いない。
私はそういう期待も込めて、こういう手はずにしているのだ。
もちろん、陛下や総督に許可は貰っている。だからこの場で反論したところで、代替案が無いのならただの愚図りになってしまうのだ。
繰り上げ任官の部隊長でもそれくらいは分かっている。皆、口を詰むんでいた。
意見はあるだろう。思うところもあるだろう。だが、これが一番確実な作戦なのだ。
「彼女たちから聞くには、横須賀鎮守府が最優先。そこへ一度部隊を集結・休息・再編成を行い、再度部隊を展開。海軍工廠とプラントの奪還に乗り出すと言っていた」
大まかな作戦の道筋は言った。
ここからは、色々なリスクやらを話す。
「私の見立てでは、大宮基地周辺から深海棲艦の迎撃があると予想される。迎撃の種類は内陸では艦載機による航空爆撃及び機銃掃射。沿岸に近づく程に艦砲射撃が加わってくると予想される。若しくは、攻撃をされないか……」
どちらかだ。撤退戦の時は、大宮の向こう側まで航空爆撃があったから、大宮に入った時点で攻撃をされる可能性は大いにある。
だが、その時の深海棲艦は侵攻。今回は迎撃。
正直のところ、大宮よりもこちら側に入った時点で迎撃が始まるということも考えられる。
予測不可能とまではいかないが、見極めるものが多い。
「撤退戦で損耗した全軍から、本作戦のために捻出して頂いた全兵力を全て失うことが想定される」
最悪なケースだ。
艦砲射撃と航空爆撃をされ続けた結果、引き際を見失った我々が陥る最悪の結末。
「作戦の概要は以上だ。質疑応答に移る」
そう私が言うと、手を上げた。
陸軍第八連隊の連隊長だ。
「新瑞大将殿。発言の許可を」
「許可する」
「はっ! 先ほどの『全兵力を全て失うことが想定される』というのは、どういった場合でしょうか? 私としては、兵を無駄死にさせたくはありません。ですので、どういった原因でそうなってしまうのかをお教え頂きたいです」
「……引き際を見誤った時だ。それと、横須賀鎮守府に到着した後に『番犬艦隊』の指揮下から外れた場合が予想される。他にもいくつかあるが、言うのも野暮だ。それは先の撤退戦で証明されている」
そう。撤退戦の戦闘記録やらを見ればそれは分かるのだ。航空爆撃や艦砲射撃が主な部隊の損失に関わっているのだがな。
「それに、あるものを用意させてもらった」
そう言って私はスクリーンにあるものを映すように言う。
それはグラーフ・ツェッペリンから受け取ったものだ。そして、この作戦と国の行く末を左右する代物。
準備にはかなりの時間を要したが、今朝方準備が整ったことの趣旨を聞いた。
海軍が主導権を握ったとの報を受け、すぐに製造と換装を頼み、2ヶ月もこれまでに掛かったものだ。
「本作戦に参加する航空教導団の戦闘機は、最新のアップデートパッケージに換装してもらった」
「これは元は横須賀鎮守府艦隊司令部で開発・運用されていたものなので、航空教導団が使いこなせるかはいささか不安ではあるが、投入する価値はある」
「現在の空軍の装備である、F-2とF-15Jを大幅の性能向上を目的とした改装キットだ。これにより、その双方共に化物染みた性能を有することになった。旋回すれば、それはジェットの機動ではないもの。上昇力は桁違い。アビオニクス以外は全て新規のものだ」
一見、航空教導団を馬鹿にしたような話し方だが、横須賀鎮守府艦隊司令部と航空教導団は模擬戦をしたことがあるのだ。
勝敗は、横須賀鎮守府の圧勝。アグレッサーでも勝てない程の力量を持った航空隊が居る、ということは全軍に知れ渡っている。
それを知っているからこそできる発言だったのだ。
「兵装に関しては、あちらのものを手に入れられなかった。だが、それは兵士の技量でどうにでもなる」
私は手に持っていた資料を置く。
「奪われた沿岸部を取り返すぞ。そのために、全軍の力が必要だ」
これでミーティングは終わりだ。
後のことは、後日郵送やメールで参加部隊に送ることになっている。後は、当日を待つだけだ。