【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話   作:しゅーがく

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第4話  艦娘

 寝てしまったみたいです。身体を大淀さんに揺さぶられ、私は起きました。

床が茜色になっていて、窓から夕日が差し込んでいます。

 

「すみません。起こさせていただきました。これから夕食です」

 

 どうやら夕食みたいです。

 

「そうなんですか? わざわざありがとうございます」

 

 お礼を大淀さんに言って、身体を起こします。

 

「では、食堂に行きますよ」

 

「はい」

 

 私は大淀さんに付いて部屋を出ました。

廊下に出ると、艦娘がチラホラと歩いています。どうやら皆さん、これから夕食みたいですね。

 

「碧さんは……異世界から来たとか。それは本当ですか?」

 

 黙って歩いていると、大淀さんが私に話しかけてきました。

どうやら武下さんに聞いたみたいですね。

 

「はい」

 

「そうですか」

 

 それで話が途切れました。まぁ、これ以上、異世界から来た云々の話を続けても仕方ない様な気もしましたからね。

 10分程、歩くと食堂に着きました。今日の午前中、大淀さんに案内してもらったので覚えています。中に入ると、大勢の艦娘がいます。その中に、私みたいな人は居ません。

横を通り過ぎる艦娘は、私に会釈をしてくれます。私もそれに答えて会釈をします。何かを話すわけでもありません。

 

「食堂では先ず、カウンターで何を食べるかを注文します」

 

 私は大淀さんがする事を真似ます。トレーを取って、カウンターに並ぶ列に並びます。

 

「朝昼晩と食堂では食事が出来ます。メニューは全て日替わりです。注文するときは和食、中華、洋食の3種から選びます。碧さんはどれにしますか?」

 

 私はカウンターまでの列の途中にある、看板に目をやります。そこに今日のメニューが書かれています。

 

「洋食にします」

 

「では、カウンターの順番が来たら、間宮さんにそれを伝えて下さいね」

 

 順番が来て、私より先に大淀さんが注文します。大淀さんはどうやら和食を選んだみたいですね。私の番になり、カウンターの前に立ち、間宮さんに注文します。

 

「洋食でお願いします」

 

「はい。お席でお待ち下さいね。それと、貴女が碧さんですか? よろしくお願いしますね」

 

「はい」

 

 私は間宮さんに注文を取ると、そこから離れます。そして、大淀さんを探して席に座ります。

大淀さんが座っていたのは、どうやら金剛型戦艦の艦娘が集まっているところの横みたいです。

 

「こっちですよー」

 

 そう大淀さんは呼んでくれます。

 

「早いですね」

 

「そうでしょうか?」

 

 トレーを机に置いて、大淀さんの横に座ります。せっかく呼んでくださったので。

 

「オゥ、ニューフェイスデスネー。お名前ハー?」

 

「碧 葵です」

 

「葵デスネ。私は金剛型戦艦 一番艦 金剛デース。いきなりで悪いデスガ、どうやってここに入ったデスカ?」

 

 大胆に肩を露出させた巫女服に、特徴的なカチューシャをしています。それに顔をとても整っています。他の艦娘にも言えたことですけどね。

 

「色々ありまして、異世界から……」

 

 私がそう言った途端、食堂の空気がガラリと変わりました。なんというか、張り詰めたような感じです。

 この空気になったのは、私の発言が原因でしょう。異世界という単語がそうさせたのかもしれません。

 

「そ、そうなんデスカー。ということは、葵は提督なんデスカ?」

 

 無理に話を繋げたのは見え見えです。ですけど、私からしてもありがたいです。

 

「提督では、あるかな?」

 

 艦これは紅くんの失踪後から始めていましたので、嘘ではありません。

どうやら提督であることの話題には、特段、反応することはないみたいです。

 

「ほぉー! 何処のデスカ?」

 

 金剛さんは興味津々に訊いてきます。そんな気になる事、なのでしょうか。

 

「岩川です」

 

「岩川デスカ! 演習で何度か相手になってマシタ」

 

 金剛さんも無理矢理には見えませんが、変な感じがしますね。勝手なイメージを、私が押し付けているだけかもしれませんけど。

 

「岩川の提督なら、どうして葵は岩川じゃくてここに居るデスカ?」

 

 急な金剛さんからの質問だけど、どういう事なんでしょうか。どこの提督かと聞かれえて、答えただけです。なのに、ここに居ることを疑問に思われているのでしょう。

もしかしたらというか、絶対、私が岩川のサーバーでプレイしているという言い方を変な風に答えてしまったからです。

ですけど、このまま行きます。ここでゲーム云々の話をしても仕方ないです。そもそも、艦娘たちがそういった事を知らない可能性だってありますからね。

 

「それはどういう意味ですか?」

 

「そのままの意味デース。それと敬語はいいデス」

 

 私は回答に困りました。

良い説明が思いつかないのです。少し私が悩んでいると、金剛さんが口を開きました。

 

「異世界から来たという事は、葵が"艦娘に呼び出された"って事デスヨネ?なら、ここに居る事はおかしいデース。ここはもう、提督がいますカラ」

 

 "艦娘に呼び出された"とはどういう意味でしょうか。話の前後関係を考えると、異世界から来る人は、艦娘に呼ばれなきゃいけないという事なんでしょう。

 

「鎮守府や基地、泊地に所属している艦娘が一定の功績を挙げることで、艦娘は妖精さんから"提督を呼び出す力"を使えるようになりマス。それによって自分たちを指揮している提督を異世界から呼び出す事が出来るのデス」

 

 金剛さんの言い方によれば、私の元居た世界での艦これとこの世界は密接な関係にあるようです。それに、自分の指揮しているという言葉。何だか、含みがあるように思えて仕方ないです。

 

「普段からこうなので、気にしないで下さい。そうなんですか?」

 

「そうデスカ。ハイ。だから葵が異世界から来たという事ナラ、力を与えられた艦娘によって、その力が行使されなければあり得ない事デース。デスカラ、何故、ここに現れたのか……おかしいデス」

 

 そんな話を金剛さんと話をしていると、大淀さんが話に加わってきました。

 

「不具合でもあったのでしょうか?」

 

「それは、あり得マス。これまでに、この力を行使したのは1回だけデスカラネー」

 

 金剛さんと大淀さんがそんな事を話します。

そんな中、私はある言葉が気になりました。金剛さんの『1回だけ』ということです。

話の流れを見て考えると、この世界に提督として呼ばれた人がいるという事です。安直な考えですが、それが、紅くんなのでは、と私は考えます。

気になりましたので、話の間に入って聞くことにしました。

 

「1回って、どこの鎮守府ですか?」

 

 多分、何の気なしに答えたんでしょうけど、一気に周囲の気温と雰囲気が変調しました。悪い方向に、です。

 

「ここデス。横須賀鎮守府」

 

 そう言った金剛さんもすぐに分かったのか、苦虫を噛み潰したような表情をしました。

 その表情を見た瞬間、私はある事を悟りました。紅くんに何かがあったのだ、と。

ですけど、それを私は表情に出さずに、話をそらします。

 

「それとさっきから気になっていたのですが、功績ってなんですか?」

 

 私が気になっていたのは"提督を呼び出す力"を使えるようになる条件、一定の功績です。まだ1回しかないのなら、相当難しいものなのでしょうね。

 

「それはデスネー、司令部レベルが1ケタ台の時に、レア艦、レア装備を一定数持ってる事デース」

 

 納得しました。それは確かに難しいでしょうね。

レアな艦娘の建造も、レアな装備の開発も、かなりの資材を使いますから、1ケタ台の時にはそんな事、出来る余裕もないですからね。よっぽど運が良くないかぎりあり得ないでしょう。

 

「そうなんですね」

 

「ハイ」

 

 金剛さんはそう返事して、食事を進めます。話しながらなのに、とても器用です。

 

「そういえば葵。どこに現れたデスカ?」

 

 不意に金剛さんがそんな事を私に訊いてきました。

 

「ここから近いところです」

 

 そう私が答えると、今後は大淀さんが訊いてきました。

 

「それは、鎮守府の塀の向こう側ですか?」

 

「いいえ。ここから離れたところにある、高い建物の屋上です」

 

 そう私が答えると、大淀さんは首を傾げました。多分、おかしなところがあるんでしょうね。それは私も重々分かっています。これまでの話を整理すると、私がこの世界に転移するとすれば、岩川だったという事です。それにも関わらず、私は、ここから比較的近いところに現れました。大淀さんの話も付け加えると、現れるのなら、鎮守府のすぐ近くみたいです。

 

「変なところは多々ありマスガ、赤城がいいと言ったからここに居るみたいデスシ。葵からも危険な雰囲気はしませんノデ」

 

 そう言って金剛さんは食べ終わったのか、箸を置きました。

 

「まぁ、デスガ、ここに来たということは、何か目的があるという事デスヨネ?」

 

 この鎮守府に入って思うことがあります。鋭い人ばかりですね。

私はここで嘘を言っても仕方ないので、目的を教えました。

 

「探している人がいるんです。それで探し始めたのはいいんですけど、右も左も分からないですから、軍人さんに保護されてここに」

 

「そうだったのですか?」

 

 どうやら武下さんは大淀さんに、どうして私がここに来たかということは教えてないみたいですね。ですけど、武下さんに教えたものは嘘なんですけどね。

 

「はい。それで、ここから調査を始めようかと」

 

「そうデスカ」

 

 そう答える金剛さんですけど、何だか様子が変です。異世界の話をしている時のような、そんな雰囲気です。

 

「ちなみに、探している人ってどんな人デスカー?」

 

 さっきと同じように、金剛さんが空気を変えようと、違うことを私に訊いてきました。私は今回も嘘を言わずに真実を言います。ですけど、名前をいいません。どんな人か、と聞かれているだけですからね。

 

「物静かで、歳の割に大人びてます。私の面倒を結構見てくれます……」

 

「ということは、大人デスカ?」

 

「いいえ、今年で19歳です」

 

 そう私が言うと、金剛さんの顔が見るからに青くなっていきます。金剛さんの回りに座っている金剛型戦艦の他の姉妹も同様です。そして、それはかなりの範囲に伝染しました。

 

「そ、それで……アテはあるデスカ?」

 

 金剛さんが訊いてきているのは、何処に居るのか検討が付いているのか、という事でしょう。本当は分かっていますが、はぐらかします。

 

「さぁ……分からないですね」

 

 そう私が言うと、突然、金剛さんがモノを纏め始めました。どうやら離席するみたいです。

 

「それでは、私はこれで失礼シマス」

 

 金剛さんはトレーを持って立ち上がりました。どうやら帰るみたいですね。

私は少し挨拶をしました。とりあえず、知り合いましたからね。

 ふとトレーを見てみると、来た時は無かったものが置かれています。

 

「食堂は変なシステムになっています」

 

 私の様子を見て説明を始めてくれるみたいです。

 

「料理の注文受注と、作るのは間宮さんが行いますが、運搬は妖精さんがやります」

 

 そう大淀さんが言っているのを聞き流して、私は目の前の光景に注目しています。妖精さんがあれこれと持って運んでいるのです。それがどんどん私や、大淀さんのトレーに置かれていきます。

 

「驚かないんですね」

 

「そりゃ、勿論」

 

 これに関しては本当に驚いていません。驚く要素はありませんからね。この世界では。

そんな事より、大淀さんに聞いて置かなければならない事があります。それを聞くことにします。

 

「大淀さん」

 

「はい、何ですか?」

 

「入っちゃいけない場所とか、ありますか?」

 

 私がそう聞くと、大淀さんは即答してくれました。

 

「私が説明してもいいんですが、やはり赤城さんに聞いた方がいいでしょうね」

 

「赤城さんですか……」

 

 私はこの世界に来るときに見た、画面の映像がフッラッシュバックしました。

こちらに背中を向けた赤城さんに、その先に見えたこちらを向いた紅くん。接触しておいて、損はないでしょうね。

 

「分かりました。赤城さんに聞いてみる事にします」

 

「そうですか。私もそろそろ帰ります。ですけど、出たところでお待ちしていますので、終わったなら声を掛けて下さい」

 

「はい。では」

 

 私もご飯を食べ終わりましたので、トレーを1度、片付けた跡に私は赤城さんを探し始めました。

赤城さんは特徴的な艦娘です。長い黒髪ストレート、袴を改造した様な格好の上にミニスカ、白いニーハイソックスを履いてます。多分、艦これのキャラで赤城さんみたいな特徴をしている艦娘はいません。

 目を凝らして、食堂の中を見渡すとすぐに赤城さんを発見できました。私はそこに向かいます。

 赤城さんは食事を終えていた様で、トレーを片付けた後にまた、座りにきていたみたいですね。傍らにはテレビのリモコンがあります。どうやらテレビの管理をしているみたいですね。

 

「はじめまして」

 

「……あら、今日の方ですね。はじめまして」

 

 私が声を掛けると、ほんの数秒考えた後、すぐに誰だ分かったんでしょう。はじめましてと、返してくれました。

 

「私は碧 葵です」

 

「私は航空母艦 赤城です。葵さんでよろしいですか?」

 

「はい」

 

 軽く自己紹介をし合ったあと、私は赤城さんの正面に座りました。

 私は赤城さんの顔をよく見ます。幾ら、創造物の登場人物だったとしても、今は異世界です。ですけど、それを抜いても美人です。まるで絵から飛び出してきたかのような。

 

「ここに居させてもらえるとの事ですけど、入ってはいけない場所とかあります?」

 

 ここに居させてもらう、ということは大丈夫でしょう。ですけど、入ってはいけないところなんて分かりません。軍事施設ですから、そんなところいくつもあっても不思議じゃありません。多分ですけど、大淀さんの案内の時に回らなかった場所。そこが立ち入り禁止なのかもしれませんね。

 

「基本的には出入り自由です。ですけど、モノの持ち出しは禁止ですので、それだけ守っていただければ有り難いです」

 

「そうですか。ありがとうございます」

 

 私がそれを聞いて立ち去ろうとすると、赤城さんに止められました。

 

「待って下さい。ここに来た時、荷物はほとんど持ってないそうですね?」

 

 急でしたので、何も持ってません。強いて言えば持ってきたものは、携帯電話と財布くらいです。

 

「一応、食事はここで摂る分にはお金は発生しません。ですけど、服などを用意するにはお金が必要です。お金は持ってますか?」

 

 そう言われて、私はその場で財布を見せました。普通なら見せないものですけどね。

 

「紙幣はともかく、硬貨はみたことないモノです。硬貨は使わないようにしてくださいね」

 

「わかりました。では」

 

 金剛さんといい、鋭い人、多過ぎです。それに洞察力や情報力にも驚かされました。

 その後は、艦娘寮に戻って、ベッドに寝転がっています。ですけど、やることがありません。帰ってくる最中、大淀さんに『お風呂は、艦娘寮の地下1階ですからね』と言われて入ってきました。

 情報を整理しようにも、ここに紅くんが居るって事しか分かってないです。それに、紅くんは外出中みたいですね。どれくらいで戻ってくるか、聞いておけば良かったと思いました。

 




 何だか最初よりも時の流れが遅いような気もしなくもないですねぇ。
これだけやってまだ2日くらいしか経ってないんですよね。

 ご意見ご感想お待ちしてます。

2016/05/15 リメイク版に更新しました。

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