【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話   作:しゅーがく

52 / 86
After Story 日本皇国最期の盾の話⑦

 

 『番犬艦隊』の指揮下に全軍が編入。すぐに作戦が指示された。

 作戦の指揮はビスマルクが担当。

第一段階。大本営にも通信部隊を設置し、残りの海軍海兵部隊と陸軍の連隊、戦車部隊は艦娘と共に横須賀鎮守府へ前進。

この時、戦闘ヘリ部隊は大本営にて臨戦態勢で待機。空軍は上空の深海棲艦の艦載機の迎撃に。

第二段階。横須賀鎮守府に到着後、拠点を構える。インフラの確認後、稼働する機器は全て稼働状態へ。同時に妖精の捜索、回収、救助、確認。工廠と入渠場の復旧開始。

この時、戦闘ヘリ部隊は横須賀鎮守府へ移動。空軍は引き続き艦載機の迎撃。それと併せ、近海の哨戒。

第三段階。松代に連絡。鎮守府地下にある資源の後送及び、可能ならば増援の要請。鎮守府の地下司令部の復旧。

戦闘ヘリ部隊の輸送ヘリは、兵員を乗せて主要地の奪還。

 どうやら横須賀鎮守府を拠点に、各地の主要施設の奪還を目指すということみたいだ。

効率的というよりも、艦娘の支援が行き届きやすいような配慮が成されている。そして、備考には『鎮守府港湾の対艦防御兵装の復旧』が書かれていた。どうやら、深海棲艦の侵攻があったとしても、これで時間稼ぎが出来るということらしい。とはいえ、それは妖精たちがいればの話らしいが。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 私は『番犬艦隊』からの命令で、番犬艦隊を輸送するトラックの1つに乗っていた。

誰を輸送しているのかと言うとビスマルク。『番犬艦隊』の長である艦娘だ。

しかも今度は助手席ではなく、荷台。ビスマルクが艤装を身に纏った状態で居るところに、椅子を置いて、そこに座っていた。ここには通信兵が2人、一緒に乗っている。ビスマルクが移動中に全軍に指示を出す時に補佐してもらうためだ。

 

「新瑞」

 

「なんだ?」

 

 黙っていた通信兵の目が見開いた。どうやらビスマルクが私のことを名字の呼び捨てで呼んだからだろう。

 

「輸送部隊の直掩をしていたグラーフ・ツェッペリンからの要請があるんだけど、聞いてもらえるかしら?」

 

「答えられるならばな」

 

 そう答える。

 

「ふふっ。貴方もズルい人ね。……要請は『現在地からの前進』。陸軍大宮基地の横に艤装を展開しているグラーフ・ツェッペリンだけどね、あそこからだと、今から進む横須賀周辺に飛ばせないんだって」

 

「……航続距離か」

 

「そう。戦闘なんてすれば、途中で機体を捨てることになるわ。だからといって、機体下部に増槽と付けても、どのみち1度しか戦闘できない。だから、今の大宮から前進して、大本営辺りまで行きたいそうよ」

 

 そう訊いてきたビスマルクの表情は揺るがない。

常に眉間にシワを寄せ、真剣な眼差しを私に向けていた。

 

「……現在の私に、全軍に命令を下す権限はない。ビスマルクにその権限が移っているのだから、ビスマルクの思うように指示すれば良い」

 

 そう私が答えると、ビスマルクは細い腕を組んで答えた。

 

「そう云うだろうと思って、既に指示済み。現在、通信部隊と憲兵を半分、対空陣地付きの兵以外はトラックに乗って大本営に向かっているわ。それによって、松代からの補給も大本営に集積されるけど、問題ない?」

 

「それもビスマルクがしたいようにすれば良い」

 

 私はぶっきらぼうに答える。

 この『番犬艦隊』に以降の指揮権を委ねて欲しいというのは、ビスマルクからの要請だったのだ。だから私はそのようにした。

なのに、ビスマルクは私に色々と訊いてくる。というよりも、確認をしてくるのだ。

 

「……作戦指揮なんて初めてなのよ。紅提督の護衛はやってきたけど、部隊を率いて作戦行動なんてしたことないし……」

 

 どうやら心の声が聞こえてしまったらしい。

私だけに聞こえる程度の声で、そう言ったのだ。

 

「そう……か。まぁ、大丈夫だ。天色の作戦指揮は見てきたのだろう?」

 

「まぁ、たしかに見てきたわ。私たちが護衛している時は、艦隊が作戦行動中だったからね」

 

 そう言ってビスマルクは組んでいた腕を解く。

 

「でも歩兵の指揮は皆無よ。多分、私の指揮は自分の手足のように部隊が動くことが前提だと思うから、それ通りに動いて貰わないと困るわね」

 

「それが理想形だが、たいがいはそうはいかないだろうな」

 

「まぁいいわ。……通信兵!」

 

 いきなり声を挙げ、ビスマルクは通信兵に通信の準備をさせる。

 

「プリンツ・オイゲンが敵編隊を電探で確認! 対空戦闘用意! ここからはあちらの領域よ! 身を隠すなんて小細工、通用しないと思いなさい!」

 

「り、了解っ! ……こちら指揮車、こちら指揮車! 全車停止し、対空戦闘用意! 対空戦闘用意っ!」

 

 そう言った通信兵の胸ぐらを、突然ビスマルクは掴んだ。

 

「何言ってるの! 走りながら対空砲火をしなさい! なるべく隊形を乱さずに」

 

「撤回、撤回! 全車そのまま、対空戦闘! 対空戦闘っ!」

 

 パッと通信兵の胸ぐらを離し、とてつもない目つきで一言言った。

 

「停止したらこんなトラック、ただの的よ。横須賀鎮守府に到達すらしていないのに、貴方は兵力を無駄に削りたいの?」

 

「ひっ!?」

 

 機械の動作音をさせながら通信兵の方を向くビスマルクは、艤装の主砲口を通信兵に向けた。

 

「私の言葉足らずだったのも悪いわ。だけどね、全車停止命令は出してないわ」

 

「申し訳ありませんっ!」

 

「私たちは貴方たちの味方であり、同じくにに属する戦力でもあるわ。だけどね、同じ軍隊ではないの。私の所属は日本皇国海軍横須賀鎮守府艦隊司令部で、貴方の所属は日本皇国陸軍第一五連隊。私の指揮権は常に紅提督で、貴方の指揮権は陛下よ。その辺りのこと、よく考えなさい」

 

 寒冷な風が吹き付けるような語りに、通信兵は怯えてしまった。

無理もないことだが、流石にこれはやり過ぎだ。今後に影響する。

 

「おい、ビスマルク」

 

「……大丈夫よ。駄目になったのなら死ぬだけ。手を下すのは深海棲艦だけどね」

 

 そう言ったビスマルクは、他の通信兵に指示を出した。

 

「走破性の高い戦車は対空戦闘にも向いてないから、全速前進! 先に横須賀鎮守府へ向かいなさい! 人員を乗せているトラックは走行したまま射撃! 歩兵は分隊支援兵のみ射撃! その他は走りなさい!!」

 

「指揮車より各部隊へ! 戦車は本隊を離脱し、そのまま横須賀鎮守府へ。戦車はそのまま横須賀鎮守府へ! トラックは走行したまま対空戦闘、歩兵は分隊支援兵のみ対空戦棟! 歩兵は走れ!!」

 

 私が乗っているトラックが増速することはないが、銃声が鳴り始めた。

対空戦闘が始まったのだろう。確かに空を飛ぶエンジン音が聞こえている。艦載機が有効射程内にでも入ったのだろう。

 甲高い金属音が絶え間なく鳴り、各所で弾薬補充を求める声が上がる。

それに応答するように、弾薬補充を行っている兵が弾薬を持って走り回る声がしていた。

 

「……」

 

 それなのに、ビスマルクは黙ったままだ。

 多分だが、プリンツ・オイゲンや他の艦娘から情報収集しているのだろう。

現状、何が起きているのかを見極め、大局を見るために。

 数十秒ほど立つと、ビスマルクから新たな指示が出た。

 

「この先の交差点で全軍停止し陣地を構築。編隊の襲撃へ本格的な迎撃を開始するわ。この際、Z3が艤装を出すので注意!」

 

 すぐさま通信兵が全軍に指示を連絡する。

その様子を見届け、ビスマルクは宣言した。

 

「深海棲艦の編隊はこれ以降、私たちが作戦終了するまでに1回か2回しか来ないわ。初回はしっかりと追い返すわよ!」

 

 トラックが停車し、そのままビスマルクは飛び降りて直接、陣地の構築を指示し、喝を入れた。

 

「貴方たち、それでも栄えある日本皇国軍人かっ!! 下劣にも得体の知れない未確認の金属の塊にここまで攻め入られて、悔しくないの?! 故郷を失い、首都は陥落させられ、身を寄せ合いながら少ない資源や食料を分け合いながら暮らすのがいいの?!」

 

 きっと、陣地構築が遅かったからだろう。

それは、こんな破壊しつくされた市街地の交差点で陣地を作ったことなんてないだろう。だがそれは言い訳にしかならない。より迅速に、より正確にそれをなし得たのなら、編隊の迎撃も効率的に行うことが出来るだろう。

それを咎めるため、自らがそう喝を入れたのだ。きっとそうに違いない。

 

「私は嫌よ。だからこうやって戦う! 貴方たちも戦いなさい!」

 

 返事はない。だが、見るからに動きは変わった。作業する速度が上がったのだ。そして、瓦礫を上手く利用し、陣地の構築することも始めたのだ。

壊れた車で四方を囲み、その中に分隊支援兵が入り、仰向けに寝て、機関銃を上に向けているのだ。

そして、その他の歩兵はトラックからバケツリレーのように並び、機関銃の弾薬ベルトを運ぶ態勢を整え、残りの火器兵装類を利用しようと思案する。

ビスマルクの一声でここまで変わったのだ。

そのビスマルクは、各陣地に詳細な指示を出しながら、Z3に艤装展開地点を指示、空を睨んでいた。

そしてその時は来た。

交差点で空を見上げていると、先ほど襲撃してきた編隊とは別の編隊。おそらく、本隊と思われる集団が見えてきたのだ。

まだ小さく見えるから、ここから撃っても当たらない。一斉射撃の準備を進めていたビスマルクは、その指示を出すのを今か今かと空を睨んで待っている。

そしてその時は来た。どういう形をしていて、どんな爆弾を積んでいるのか分かる程までに降下し、攻撃態勢を取っていた深海棲艦の艦載機編隊が、こちらの射程範囲に入ったのだ。

そして、編隊は急降下。攻撃を始めたのだ。

それに呼応するように、ビスマルクは大声で叫ぶ。

 

「射撃開始ッ!!!」

 

 上向きに閃光が走るのと同時に、地面に光の矢が降り注ぐ。地面は砂煙や破片を跳ねさせながら、時には大きなモノを落としていく。

爆発を繰り返し、周辺に大穴が空く。だが、陣地の分隊支援兵たちは怯まずに機関銃を撃ち続けた。

5.56mmという、艦載機に有効打が出るか分からない弾丸だ。だが、それでも弾丸であることには変わりはない。ときには7.62mmも撃つ。それは有効打を出せる可能性が大いにあった。12.7mmもまた然り。むしろ、それが本命だろう。

車載重機関銃の仰角を限界まで上げ、空へ撃つその様は天へ突き刺さる槍の様だった。

 真鍮が地面に跳ね、時には金属の鈍い音が交じる。

金属と金属の擦れ合う音が鳴り、やがて空を飛び回る鉄の鳥はある者は燃え上がり、ある者は逃亡を始める。

 

「いいわ! このまま追い払いなさい!」

 

 ビスマルクも興奮し、通信兵から受け取った受話器を片手に空を見上げ、声を高らかにあげていた。

 やがて交差点からの視界の範疇から編隊は消え失せ、エンジン音も聞こえなくなる。

迎撃に成功したのだ。

 

「……各部隊は被害状況を纏めて報告して」

 

 そうビスマルクは受話器に向かって言うと、今度はZ3と話し始めた。

と言っても、端から見たら独り言を言っているように見えるが、実はちゃんと話をしているらしい。私にはその辺はよく分からない。

 

「マックスも艤装を身に纏って撤収よ。被害は?」

 

 それだけが私に分かる『番犬艦隊』の現状だった。

 

「損害軽微、ね。直撃弾はなかったのね?」

 

 心配そうにZ3の艤装を見上げるビスマルクは、自分の艤装の主砲を撫でる。

 

「不発弾、ね。了解。それの処分は任せるわ」

 

 ビスマルクは各所から出てくる被害状況を聞き、全体に指示を出す。

 

「先行させた装甲部隊に追いつくわよ。総員、直ちに乗車。点呼が取れ次第前進」

 

 完結に指示を出し、自分もトラックに乗り込む。

そして、自分らの乗車を確認すると、トラックの運転を任せている兵に出すように指示。

私とビスマルクの乗ったトラックは前進を始めた。

 もう、横須賀鎮守府まで少しだ。

目的地が近い。そう私は確信していた。

 





 1週間程、投稿のことを忘れていました(汗) すみません。

 3本程溜めていますので、期間を起きつつ出していこうかと考えています。ですが、前にもこんなことを言ったような気がしますね。
 それは置いておいて、このアフターストーリーを早く終わらせねばと、若干作者は焦っております。理由は色々ありますけどね。
ですが、なんとか予定通りに進めて完結させようと思いますので、お付き合い下さい。

 ご意見ご感想お待ちしています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。