【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話 作:しゅーがく
人気が全くない住宅街や商店街を抜け、巨大な壁が目に入った。
もう目的地には着いたのだ。
日本皇国海軍横須賀鎮守府艦隊司令部。
日本皇国の要衝、最後の砦。皇国軍最大戦力を保有する基地。
だがそれも今では空だ。誰もいない、人っ子一人として居ないのだ。
「正門から入り、グラウンドにトラックを止めて」
「了解。指示を出します」
艤装を身に纏ったまま、ビスマルクは通信兵に指示を出していく。
「戦車中隊はZ1の指示に従って偽装を始めて。それからここを拠点として使うことになるけど、入っても良いところを指定するから、各部隊の指揮官は私のところへ集合」
「補給部隊の到着が予想されるから、艦娘寮から近い門の開閉に部隊を向かわせて。もしかしたら人力で開閉させることになるだろうから、それなりの人数で」
ビスマルクの周りに集合していた、通信部隊の無線兵、総勢10名はあちこちの方面に散っている通信兵に連絡を次々と入れていく。
その様子はなんというか、小さな戦闘指揮所にでもいるような感覚に陥った。
一通り連絡を回した通信兵は、ビスマルクについて回る兵を自らで決め、他は各方面へと散る。
「新瑞」
「なんだ?」
少し考え事をしていたビスマルクが突然、私に話しかけてきたのだ。
「武器とかに詳しい人、力のある人とか居ない?」
「……さぁ、どうだろうか。基本的に兵士は皆、一般人よりかは力が強いぞ」
「そう。……10人くらい集めて欲しいわ。少し運ぶものがあるから」
「分かった。何処かの歩兵部隊から選出しよう」
私はビスマルクの下から離れる。頼まれたことをこなすため、海軍の歩兵が集まって拠点を用意しているところへ入っていく。
グラウンドは車両を置くところとし、食住するところは『番犬艦隊』の指示で、かつて『闘犬』の兵舎として使用されていた建物の裏手にある広いところに陣を用意していた。
そこには陸海軍の歩兵部隊が一緒になってテントを張ったり、仮設施設の準備をしていた。
物資はあまり持ってきてないが、後々到着する補給部隊が今後の行動をするのに必要不可欠な物資を運んでくる。それまでの繋ぎ分を出しているのだ。
「中尉」
「新瑞大将。どうされましたか?」
「君の独断で構わない。兵器に関する知識が豊富な人間と、手の開いている人員を回して欲しい」
「……分かりました。前者の方は少し時間がかかると思いますが、後者は今すぐにでも」
「いいや。同じタイミングで構わない」
「そうですか? ……分かりました。5分で」
そう言って中尉は走り出してしまった。
私はその場に立ち尽くし、兵士たちの作業を眺めていると、中尉が私の視界に入ってくる。どうやら人員の確保が終わった様だ。
「ご用意いたしました。全員海軍の人間です。ある程度のことは覚悟しているので」
「ありがとう。では、失礼する」
「はい」
私は中尉の用意した11人を引き連れて、ビスマルクの下へと戻りに脚を向けた。
「あ、新瑞大将?」
そんな私についてきていた1人が、話しかけてきた。
何を訊いてくるかなんて、想像し易い。これから何をやらされるのか、それが不安なのだろう。
無理もない。私から呼び出され、どこかに連れて行かれるのなら。
それに『番犬艦隊』のこともある。いくら海軍の人間とはいえ、艦娘をよく思ってない人間だって居ない訳がない。
その辺りを考えているとキリがないので、私は話しかけてきた兵の言葉に耳を傾けた。
「私たちは一体……」
「重要任務だ」
「そ、そうですか」
「……多分」
私にも分からない。ビスマルクの指示で私が用意した訳だが、どうして必要なのかも聞かなかった。
想像できるにはできるのだが、いかんせん色々ありすぎる。私も正直、何をやらせるために呼んだのかも分からないでいたのだ。
「正直、俺も頼まれただけだからな」
「そうでありますか……」
「何させられるかなんて、大方検討はついているんだがね」
そう言いながら歩く。そしてビスマルクのもとに着くと一言。
「ありがと、新瑞。そこの11人、付いてきなさい。装備は置いていってね」
「「「はっ!!」」」
不審がってはいたものの、命令された通りに動く海兵たちはその場で装備を外して、邪魔にならないところに追いやると、そのままビスマルクの後をついて行ってしまった。
どうやら私もここでお役御免らしい。私にも出来る仕事でも探して時間でも潰していよう。
それに、今後起こりうることの予測でも立てて置く。
経験がないことを自白したビスマルクたちのためだ。もしもの時、判断材料になるならばいいだろう。
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横須賀鎮守府艦隊司令部での設備設置は完了し、野営地も確保した。
テントが立ち並ぶ道の脇にある並木の向こう側では、トラックから荷降ろしされたありとあらゆる物資が並べられ、そろそろ野戦病院用のテントが出来上がるころだろうと言う時、ビスマルクたちが帰ってきたのだ。
ビスマルクが連れて行った11人は誰も掛けておらず、何やら疲れた様子でこちらに歩いてくる。一体、ビスマルクは兵たちに何をやらせたのいうのだろうか。
「戻ったわ」
「あぁ。……それで、一体何をしに行っていった?」
そう私が訊くと、渋るかと思っていたがすんなりと答えてくれた。
「事務棟と警備棟、酒保以外の全ての施設を回って妖精さんの捜索。それと、工廠と入渠場の再稼働、港湾の状態の確認、沿岸の要塞砲の点検と残弾の確認」
「あぁ、もう良い。いわゆる、再稼働だな」
「そうなるわね。といっても、ここが発揮できる設備の半分しか動かしてないけどね」
そう言ったビスマルクはあれこれと施設を教えてくれた。
後で開ける予定の地下牢やあちこちの林の中にあると思われる防空設備、地下司令部、シェルターなどなど。ここに一時的に駐屯する私たちの補給物資ともなり得るものも稼働していない施設の中に入っているという。
「あとはなんとか掻き集めた妖精さんたちに頼んで、優先順位が高いものから稼働開始作業中よ」
ビスマルクはそういって私にあるものを渡してきた。
それは紙だ。だがただの紙ではない。
「これは?」
「新瑞に一時的にここの指揮権の一部を委譲するのよ。どうしても艦娘では出来ないところもあってね」
「そう……か。……だが、私にこんなものを渡しても良かったのか?」
「構わないわ。指揮権とはいえ、一部だけ。火器管制だけよ」
「そうか」
これ以上何を言っても仕方ないので、私は素直にそれを受け取った。
「その指揮権も今は使えないけどね。……地下司令部の復旧が済み次第、通信兵だけを付けて入って貰うわ。私たちは私たちのことで手一杯だから、任せるだけよ」
「そう……なのか?」
「えぇ。こうやって身に纏っている状態なら良いんだけど、船となると話は別。私たち艦娘の役目は、その時点で艦長となるわ。それを務めるだけでも大変だっていうのに、地上部隊の指揮なんてやれっこないわよ」
そうため息混じりに言ったビスマルクに少しだけ教えて貰った。
それは本来ならば、私の耳に入っていてもおかしくないことなのだが、何故か入らなかったことだったのだ。
「工廠には装備や艦載機の予備が大量に納められているわ。でも中に入られた形跡がなかった。どうしてここに入らなかったの?」
「えっ?」
「……じゃあ、私は指揮をするわ。新瑞、貴方は連れて行く通信兵の選定を」
「分かった」
はぐらかされてしまったが、もうどうしようもない。訊くに聞けない状況を作られてしまったし、聞いたところで私に理解出来ることなのだろうか。そのように直感的に考えてしまったのだ。
「そことそこの、少し良いか?」
通信兵が居る通信部隊のテントの近くに行き、目についた通信兵を指す。
「はっ!」
「なんでありますか?」
無線機を背負ったまま、私の前に立って敬礼する。それに答礼し、呼んだ趣旨を伝えはじめた。
「『番犬艦隊』の命令で、艦娘では手に負えないところを任された。各部隊への連絡役を頼めないだろうか?」
「了解しました」
「了解」
2人とも了解してくれたみたいだ。だが、まだ施設の稼働は済んでいないようなので待機を言い渡す。
時間になればまた呼びに来るとだけ伝え、私はその場を離れることにした。
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特に求めている訳ではないのだが、私のところに続々と状況が集まってきていた。
この場にいる最高指揮官は私なので、仕方ないと言えば仕方ないことなのだが、一応、指揮権は艦娘にある。私もただの仲介役として機能していないこの場で、私に情報を集めても、後で纏めて伝えることくらいしかやることはないのだ。
情報を整理する。
現在、テントの設置や荷降ろし、集積所の設置、巡回の警備の番、偽装等は全て完了。どうやらビスマルクからの指示だったらしい。それと伝達を総員に伝えたことを確認したという報告があった。
伝達内容はいくつかある。まずは、一切の艦隊機能を維持するための施設への進入禁止だ。そういうことを伝えたということは、艦娘としての自分の言葉なのだろう。それと、火器類から弾を抜いておくこと。弾を込めるのは緊急時だけだということだ。それを徹底して全軍に伝えるように言われていたらしい。
「松代からの補給部隊が到着しました」
「そうか。門を開き、中に入れてやれ」
「了解」
私はビスマルクなどの代理をして、陣地の指揮をしている。
今、ビスマルクは稼働させる施設を妖精と共に点々としているらしく、他の艦娘は警備のために海に出ているということだ。とはいえ、沖には出れないそうなので、それまでだが。
ビスマルクが妖精たちに上手く指示を出しているためか、私のところにも妖精が来るようになった。
妖精の好意で、工廠にある火器類を持ってくるというものだ。
「それで、工廠には歩兵用火器があるので?」
「はい。滅多に使うものではありませんが、対空機銃や小口径の艦砲が沢山あります。貴方たちでも使えるように改造してありますので、ここを守って下さいね」
言い方に含みがあるように聞こえなくもないが、それも仕方ないだろう。
一応、ここに居させて貰っている立場であるからな。そういう訳で、私も敬語を使っている。
「分かりました。手の開いている兵の数を後に報告します」
「はい。では」
そう言って、身長がとても小さい妖精は立ち去っていった。
もっと幼い口調を使うと偏見を持っていたが、そうでもなかった。というよりも、普通の兵士のような口調振りだった。
そんな疑問を持ちながらも、私のところに来る兵にあれこれと指示を出しておく。
もちろん、妖精の好意で使える小口径砲の操手を数えるためだ。
妖精からの話では、どうやら艦娘に装備される砲は自動化が進んでいるらしく、操作には砲手と観測手、通信手くらいだけで済んでしまうようだ。
だから、妖精が要請した兵の数は1門につき3人+α。このαは、交代要員みたいなものらしい。
私は思案する。どこの部隊から兵を引き抜くか。
ここに居る全軍は、それぞれが必要だから存在している。
編成時にも連れていける最低限度の兵員数を要請しているから、今から別のことを任せたら、本来やるべきことが出来なくなってしまうのだ。それだけはなんとしても避けたい。
だが、妖精から有り難いことに、小口径砲の付与があるのだと考えると、そちらに人員を割いた方が良いのは自明の理だ。
なら、私はどうするべきなのか。
ビスマルクに付いていった通信兵に連絡を入れ、ビスマルクに指示を仰ぐ。
ビスマルクからの返答は、『砲兵経験のある歩兵を使ったらどう?』だった。私としては、適当な歩兵部隊を丸々移せばいいとは思うのだが、ここは未経験の兵を多用するよりはマシだろう。
「さぁ、行くか」
そう自分に言い聞かせ、行動を開始する。
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横須賀鎮守府艦隊司令部の全機能が回復したのは、到着して2日後のことだった。
それまでずっと、ビスマルクは妖精たちと共にあちこちを周り、工事を行っていたみたいだ。確かに、あちこちで工事をしているような音はしていたのだ。
帰ってきたビスマルクからは、2言目から指示が飛び出した。
どうしていたとか、何を直していたとかあっても良かったとは思うが、それは個人としての話。時と場合を考えれば、ビスマルクの取っている行動は正しいのだ。
「陸軍の部隊を2つに分けるわ。第一ニ、一五連隊、臨時自走砲連隊第一大隊、第六戦車連隊第九中隊。第ニ連隊、第八連隊、臨時自走砲連隊第ニ大隊、第六戦車連隊第一◯中隊。それぞれを第一派遣部隊、第二派遣部隊とし、海軍工廠とプラントへ向かって。出発は3時間後」
「臨時海兵第一、ニ、三大隊は横須賀鎮守府に残って」
その指示が飛び、集まっていた各部隊の指揮官は蜘蛛の子を散らすように四散した。
各々の部隊へ向かい、指示を全員に通達。すぐに準備に取り掛かり始める。
周囲は騒がしくなり、ビスマルクたちの周りには海兵の指揮官たちが来ていた。
「あら、分かってるじゃない」
「えぇ。何かあるでしょうから」
海兵の指揮官たちは分かっていたようだ。
ビスマルクから指示があることを。
「第二憲兵師団からそれぞれの派遣部隊に中隊を付けて欲しいわ。任務は工廠の確認とプラントの再稼働。残りはここで守備と連絡役よ。海兵たちは工廠に残っていた艦娘用の兵装を運用してもらうわ」
あくまで予想だが、ここに海軍の人間だけを残したのは、扱いやすくて言う事を聞くからだろう。
「了解。すぐに部隊を捻出します」
「すぐに兵に伝達します。それとビスマルクさん」
憲兵は走り去り、海兵の指揮官たちが残った。
「何かしら?」
「部隊を工廠に向かわせ、手伝わせますが?」
「えぇ、お願い。……そういうことなら、今すぐに動いて欲しいわ」
「了解しました」
海兵の指揮官たちはすぐに走り出す。
それを見送ったビスマルクは、私の方を向いた。
「新瑞」
「何だ?」
「地下司令部の復旧も終わったから、確保した通信兵と共に入りなさい。海兵たちの指揮は頼んだわ」
「分かった」
そう言って私は後ろで待っている通信兵たちに声をかけ、呼び出す。
「無線機だけ持ってきて、もう一度集合してくれ」
「了解」
通信兵は敬礼をすると、海兵たちと同じように走り出した。
それを見送った私も行動を始めようと、歩き始めるとビスマルクに引き止められる。
「ちょっと」
「……あぁ」
「これから私たちが取る行動を、新瑞には教えておくわ」
そう言ったビスマルクは今後の方針を語りはじめた。
「陸上部隊が奪還に向かっている最中、私たちは近海に居る可能性のある深海棲艦の目を引き付けるわ。だから、ここに出す艦娘用の兵装というのは対空兵装。対空砲と機銃よ」
目を引き付ける、だと。
ここの防衛をする訳ではないみたいだ。しかも、危険な任を自らが請け負うのだ。
「今、ツェッペリンがこちらに急行しているわ。2時間後には着くと思うわ。……派遣部隊が出撃し、それぞれの施設に入って整備を始めたころに私たちは出撃する」
タイミングも完全に囮となるとしてはいい頃合いだ。
「奇襲攻撃を仕掛けるから勝率は高いとは思うけど、本音を言ってしまえばどうなるか分からないわ。もしかしたら、誰かが欠けるかもしれない」
欠けるかもしれない。……つまり、轟沈が出るかもしれないということだ。
轟沈してしまえば帰ってこない、と以前に回収した書類には書いてあった。考えてみれば普通のことだ。どれだけ言っても仕方のないこと。
「なんて言ったって、私たちは練度が1」
練度。戦闘経験のことだ。これも回収した書類にあった。
「今回が初陣よ」
「そう、なのか」
「えぇ。いくら鎮守府近海に出没する深海棲艦とはいえ、こんなところに空母がいるとなると、完全に”イレギュラー”よ。だから、私たちはかなりの被害が出るだろう、そう言っているの」
私には何が言いたいのか分かったような気がした。
「ここを奪還し、近海をうろつく空母を撃破するまでは私たちは退かないわ」
退かない。戦闘を続けるということだ。
「……言いたいことは分かってるわね?」
「……」
「ふふっ……。じゃあ、準備してくるわ」
何も答えなかった私を見て、ビスマルクは立ち去ってしまった。
何故、なにも言えなかったのか。それは、ビスマルクが何を考えているのかが分かったからだ。
きっと、ビスマルクはここで死ぬ気なのだ。
きっと、ビスマルクは早々に逢いに行くのだ。
「それは望んではいないだろうな」
私はそうつぶやき、自分の仕事を始めた。
既に通信兵は私の下に到着していたからだ。
「行くぞ」
気を引き締め、私は地下司令部へと向かった。
前回の投稿から期間が開いている気がしなくもないような気がします。はい。
ということで、佳境に入ったと思われます。
それと報告です。⑩でアフターストーリーは終わりです。
ご意見ご感想お待ちしています。