【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話   作:しゅーがく

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終結の章 (マルチエンディング その2)
第44話  『紅葉狩り』


 

 朝食を摂り終えた私は、外に出て『血猟犬』を見送りました。

その後、他の人たちを見送りに行きます。

 場所は補給部隊しか使わない門の前。この場には私と武下さん、赤城さんと酒保の従業員で、今回の作戦の初動に征く人たちしかいません。

酒保の従業員はこれから『灰犬』と呼び、紅くんが収容されている軍病院の特定と、施設の構造などの情報を集めに行きます。BDU姿だと怪しまれるので、女性らしい格好をしてもらい、身体には携帯火器を忍ばせているみたいです。

人数の少ない見送りに寂しさを感じつつ、私は『灰犬』に声を掛けます。

 

「……なんとしても、紅くんが収容されている病院を突き止めて下さいよ?」

 

「はい、承知しました」

 

 代表、今の小隊長が私に答えました。

 

「では、お願いしますね」

 

「はッ!! 行って参りますっ!!」

 

 覇気のある返事と敬礼をした『灰犬』たちは、振り返って歩き始めました。その背中を私は目で追いかけます。

この作戦も全ては彼女たちの情報が頼りなのです。

もし情報収集に失敗したり、万が一バレて捕まるようなことがあれば、作戦自体の再起が不可能になってしまいます。

どうか成功することを祈りながら、私は門の向こう側を見つめました。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 見送った私たちは、そのままとあるところに入りました。

そこは地下司令部です。横須賀鎮守府の戦闘指揮所になります。どうやら地上施設がなくても、鎮守府として活動が出来るようになっているようです。

紅くんはここを非常時にしか使わなかったそうです。

基本的には執務室からか、自分が鎮守府内を歩き回って指示を出していたらしいです。

 今回は無線機を用いてやりとりをしますので、作戦立案者である私がすぐに緊急時に対応できるようにと、地下司令部に入ることになったのです。それに、無線機が十分に使えるところが地下司令部にしかなかったから、というのも理由にあるらしいですが、私には分からないことですので、それは気にしませんでした。

 武下さんは『よっぽどのことが無ければ、定時連絡を受けるだけですよ』と言っていましたが、それはそれで重要なことな気もしますけどね。

軽々しく言っているように、私には聞こえました。そうは言うものの、重要なことには変わりないはずですので、そんな軽々しく扱わないとは思いますけどね。

 

「こちらが通信妖精です。他にも役職のある妖精がいますが、基本的には通信妖精とのやりとりが多くなります」

 

「そうですか。……私は天色 ましろといいます。よろしくお願いしますね」

 

「よろしくお願いします」

 

 手のひらに乗ってしまうのではないかというサイズの妖精さんは、私に向かって敬礼をして席に戻っていきました。

 

「さて……。出て行ってから30分程経っています。情報収集を始めた頃でしょう」

 

 武下さんはそう言って、用意されていたであろうパイプ椅子に腰を掛けました。

 

「『灰犬』には何の情報も無い状態ですので、手がかりから探しているでしょう。短くても1週間は掛かると思います。最も、横須賀周辺ではないところに収容されているのなら、その予想も当てにはなりませんけどね」

 

「そうなんですよね。こちら側は情報が不足し過ぎています。そういうことなので、赤城さん!」

 

 私は赤城さんを呼びます。艦娘で今回の作戦に関係ある中で、長時間姿を消していても問題ない艦娘、赤城さんは私の声に応え、通信妖精のところに歩いていきました。

 

「通信妖精さん。一般電話回線ってどこですか?」

 

「それならあちらに」

 

 通信妖精さんに話しかけた赤城さんは、一般電話回線とかいう単語を発して、机にポツンと置かれていた固定電話の前に立ちました。

そして受話器を取り、ボタンをプッシュして受話器を耳に当てます。

 

「……横須賀鎮守府の赤城です。新瑞さんをお願いできますか?」

 

 そうです。赤城さんは最初の偵察、『灰犬』が出たのと同時に、再度安否を確認をしようとしているのです。

その返答次第で、私がこの部屋から出ていくかこのまま居座るかが決まります。

 私の居るところからは、電話越しの声が少しだけ聞こえていました。

 

『少々お待ち下さい』

 

 女性の声で、電話口でそう応対されたみたいです。受け付けの方にでも最初に繋がったのでしょうか。

電話の内線保留音が20秒位流れた後、音が途切れます。

 

『海軍部長官の新瑞だ』

 

「あ、新瑞さん。横須賀鎮守府の赤城です」

 

『……要件は?』

 

「はい。これまでに何度か伺っていますが、紅提督の容態か安否を教えて頂きたく」

 

 間が開く。新瑞さんという人が返答に困っているんでしょう。

電話口の言葉から察するに、新瑞さんというのはかなりの偉い人の様子です。

 

『私では判断し兼ねる』

 

「そうでしょうね。横須賀鎮守府の外に出た紅提督は要人中の要人です。何かあったときのことを、想像しての配慮でしょう」

 

 一呼吸開けた赤城さんが続けます。

 

「この対応も、私が日本皇国海軍横須賀鎮守府艦隊司令部所属の航空母艦 赤城ということも疑っているのではないでしょうか? そうですよね。もし違っていたなら、それは暗殺を企てていた組織の一員である可能性しか残らない。2つに1つですからね」

 

 新瑞さんはまだ返答しません。

 

「要人中の要人を殺められた後のことを考えている……」

 

 それはつまり、最悪な状況です。私としてもあってはならないことですし、赤城さんもそれを望んでなど居ないはずです。

 

「統率を完全に失った私たちが何を仕出かすか、それを考えたんでしょう。きっと新瑞さんが考え至ったその答えは正しいです」

 

 赤城さんが何を起こすかなんて考えたくもありません。

 

『…………』

 

 長い沈黙が電話口の向こうから伝わってきます。

 静寂に包まれますが、こちら側はさして緊張した空気は流れていません。それを感じている私がそれを言うのもなんですが、この空気の中、私だけが緊張しているのかもしれないです。

 一方で、電話の向こう側。新瑞さんはきっと、極度の緊張を感じているに違いありません。自身の命、焦土となるかもしれない眼下の街、燃え上がる大本営、吹き飛んだ皇居……。考えれば考える程、その緊張は増長されているはずです。

新瑞さんがどういう人となりをしているか、私には分かりません。ですがきっと、かなり偉い人であることに変わりはありません。そういう人というのは、無能で下から持ち上げられた人であることはあり得ないのです。聡く、行動力があり、慕って付き従う部下がいるはずなんです。軍隊ならなおさら。

 

「新瑞さん」

 

 念押しでしょう。赤城さんが力の篭った声を出しました。

 

『……私では判断し兼ねる。これは先ほど言った通りだ。言葉の意味、分かるな?』

 

「えぇ、分かりますよ」

 

『では、私はそちらに根回しをしよう。少し待ってくれ』

 

 赤城さんは受話器を置きます。

 私はその姿を見て、鈴谷さんに訊くことにしました。

 

「鈴谷さん、訊いても良いですか?」

 

「ん? いいよー」

 

「新瑞さんってどんな人ですか?」

 

「あぁ、ましろは知らなかったっけ? えぇとね、新瑞さんって言うのは、日本皇国軍の頭、大本営の海軍部。海軍のトップの人だよ」

 

「え……」

 

「まぁ驚くのも無理ないよ。そんな人に電話がすぐに出来る辺り、流石横須賀鎮守府ってことかな?」

 

 鈴谷さんは足を組んで、目を細めました。腕を組み、囁くように話し始めます。

 

「日本皇国の要衝、日本皇国の矛、日本皇国の盾、そんな風に揶揄されるのは耳タコだよね? そんな風に言われているのは、ただの下っ端軍人が仲間内で囁いている渾名じゃないんだ。海軍公認、軍公認、政府公認、陛下公認。最後のは違うかもしれないけど、それだけの軍事力の実績を兼ね備えているんだ、この鎮守府は」

 

「それはなんとなく、これまでここに居て分かっていますが……」

 

「うん。だから、ここは特別なの。何もかも、全てがね」

 

 それだけで済まされてしまいました。

特別。その2文字で済まされるというのは、嫌というほど聞きました。ですがそれをここで実感することになるとは思いもしなかったのです。

 

「普通の戦争をしたら、私たちは負ける。だけど深海棲艦との戦争だったら、私たちはその辺で野垂れ死んだ軍隊とは違う。それはなんとなく察していると思うんだ」

 

 鈴谷さんの言う通り、私はそれを察しています。

一介の高校生が指揮する軍隊。それが1つの国家軍の中で最強。普通に考えればあり得ない話です。ならもし、普通の軍隊と戦争をしたら? 言わずもがな負けるでしょう。戦術・戦略なんてもの、高校生が備えている訳がありません。一昔前の戦とも違います。

フィクションであるような、異世界転生・転移した先で軍師となり、国家軍を率いて降りかかる軍隊を一蹴する。そんなこと、設定次第ではありえないことなんです。

 それを言っても尚、どうして現代戦にも近いこの世界で最強なのか。それは、深海棲艦という異質の敵と戦っているからでしょう。軍隊ではない。否。軍隊と言ってもいいのかも怪しい敵と戦うことに長けている、そういうことです。

 

「……まぁそういうことだよ。鈴谷はどうでも良いけどね、そんなこと」

 

 そう言って『紅提督さえいれば良いかなぁ』と続けただけでした。

 私は少し考えますが、深く考えません。再三考えた横須賀鎮守府のこと。

今更何か新しいことを知ったとしても、私はそれを整理することしか出来ないんです。行動に移せるようになるのは、まだまだ先の話。

 私は赤城さんの方を見ました。新瑞さんとの電話から少し時間は経っています。5分くらいでしょうか。

赤城さんもこのタイミングだと思ったんでしょう、受話器を取り、どこかに電話を掛けます。

 

「横須賀鎮守府の赤城です」

 

『あぁ、赤城。ご無沙汰だな』

 

「そうですね。以前お会いしたのは、いつぞやの報告以来でしょうか?」

 

『そうだったな』

 

 他愛もない話をしたあと、すぐに本題に入りました。

 

「ところで総督」

 

『なんだね?』

 

 総督。聞きなれない言葉です。

新瑞さん。長官でも話が出来ないような案件を、一体誰から聞き出そうとしているんでしょうか。思いつくことと言えば、先ほどの鈴谷さんの言葉を反芻すると分かります。新瑞さんは海軍のトップ。ということは、陸軍と空軍にも同じようなトップがいるということ。それが示唆することとは、陸海空軍を纏める人がいるということです。

それがきっと総督なんでしょう。

 

「新瑞さんからお聞きしていると思いますが」

 

『あぁ、聞き及んでいる』

 

 私は息を飲みました。当然、赤城さんも息を飲みます。

話の流れから察するに、総督という人は紅くんがどうしているのかを知っているんです。そしてそれを今まで頑なに教えてくれなかった。それが今、赤城さんへと伝えられようとしているんです。更にそれが私たちへと伝播し、横須賀鎮守府へと広がります。

 私は身震いをしました。

総督の言葉で私たちの運命が左右されるんです。

 

 





 さてさて、皆さんお待ちかねのエンディングその2が開始しましたよ。
長かったエンディング1のアフターストーリー。どうやら賛否両論な様子。作者としては満足しているんですけどね。

 まぁそんな話は置いておきましょう。
今回のエンディングは、前回のエンディングとは違い、かなり察しやすいものにします。以前より読んでいただいている読者さんならすぐに察すると思いますので、感想欄にてそのことを触れるような発言はお控え願いたいです。他の読者さんも楽しめるように、お願いします。

 ご意見ご感想お待ちしてます。
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