【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話   作:しゅーがく

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第46話  豹変

 

 

「良くて広告塔。悪くて政治利用。……私が考えうる紅提督の”利用法”デス」

 

「り、利用法……」

 

 これまで訊いてきた横須賀鎮守府の艦娘なら、言わないであろう言葉を金剛さんは口から次から次へと出していきます。

 

「大本営の総督にも上がイマス。それが天皇陛下なのか、政府高官かは分かりマセン。デスガ、『はい。では天色 紅の身柄をお返ししますね』なんて素直に返すデショウカ?」

 

 純粋に鎮守府に返そうとしているならば、そんな風に帰ってくるでしょう。

ですが相手は自分の組織や自分自身の利益を考えている可能性がある、そう金剛さんは言いたいのでしょう。

 大人になって分かったことの1つでした。

 

『1人は皆のために。皆は1人のために』

 

こんな都合のいい標語、ありませんよ。組織は集団の利益を優先し、グループが組織の力を優先します。そして個人は個人とグループの利益を優先します。

そんな標語が通用するのは、精々大学生くらいまででしょう。

 私は自然と視線が下へと落ちていきました。

現実をここに来て、私は金剛さんに叩きつけられたのです。

 

「……私はましろの提案に賛成デス。ですが、慎重に行動することをおすすめシマス」

 

 金剛さんはそう言って立ち上がりました。そのまま私に歩み寄り、手を広げます。

そしてその腕が私を包み込みました。

ギューっと力強く腕を絞め、且つ、私が苦しく思わないように力加減をします。

柔らかく、温かく、いい匂いに包まれながら、私は耳元で囁く金剛さんの声を聞きました。

 

「まだ早いデスガ、お疲れ様デシタ」

 

「はぇ?」

 

 今まで考えていたことが、その一言で全て吹き飛びます。

頭の中は完全に、その言葉の意味を探し始めました。ですが答えは全く見つかりません。

 

「私にはこれくらいしか出来マセン。……いいえ、出来なかったんデス」

 

 そのままの姿勢で、金剛さんは話を続けます。

私も抵抗せずに、金剛さんに抱かれたまま話を聴きます。

 

「ましろもきっと、色々投げ捨ててきたんデス」

 

 最初、金剛さんの言っている言葉の意味が分かりませんでした。

 

「紅提督と同じようにして来た、そう思いマス。デスカラ、ましろも紅提督と同じように……」

 

「えっと……」

 

「素直に探しに来たと言ってここに来て、私たちと接触して、ここに留まるために兵士になりマシタ。私たちはましろの友人で家族デス。誰が何と言おうと」

 

 そう言って金剛さんは、私から離れました。

 さっきまでの金剛さんとは違い、優しい笑みを浮かべています。

この笑顔が本当の金剛さんの顔なんでしょう。

 

「……ありがとうございます。では、やりましょう」

 

 私は立ち上がります。

そして宣言しました。ここから、私たちは紅くんを脅かす敵の排除に動きます。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 警備棟には大会議堂、100人以上収容出来る会議室があります。

そこに、『柴壁』全部隊の指揮官を呼び出し、ある会議を始めます。

 これから始まるのは、大本営と共同歩調を取りつつ、横須賀鎮守府艦隊司令部が独断で起こす作戦行動の方針を決めます。

 

「天色 ましろです。今回、それぞれの部隊指揮官にお集まり頂きまして決めることがあります」

 

 私は大会議堂の中心でマイクを使い、私は話し始めました。

 

「これから『柴壁』は戦闘活動を活発化させ、国内で作戦に従事していただきます。その説明をする前に、あることを伝えなければなりません」

 

 一息吐きました。

 

「先日、横須賀鎮守府艦隊司令部指揮官である天色 紅海軍中佐の生存が確認されました」

 

 大会議堂がワッと騒がしくなります。手元に持ってきていたであろう手帳やペンを空に放り投げたり、隣通しで抱き合ったりしています。

そんな空気は一瞬で終わり、皆の顔が引き締まります。

 

「これに踏まえ、私たち『柴壁』は国内に存在する敵対勢力を撃滅すべく、皆さんには先ほども申しました通り、作戦行動に従事していただきます」

 

 武下さんによって、全体に資料が配られていきます。口頭で説明しても良かったのですが、再度確認出来るようにと武下さんに無理を言って刷ってもらいました。

 私はそれが全員に行き届いたのかを確認すべく、会場を一周見渡します。そうすると、1人が手を上げました。

 

「資料が届いておりません」

 

 手を上げたのは『猟犬』第4中隊A小隊小隊長でした。顔もよく知っていますし、よくしてもらっています。

 

「他のところで余っているところが在るはずだ」

 

 武下さんがそう言い、集まっている部隊長は手元の書類の枚数を確認する。

 やはり誰も余分には持っていないようだ。

 武下さんは私に耳打ちをします。

他に聞かれたら不味いことを話すのでしょう。

 

「ここに集まる全員分しか用意しておりません。配る際にも枚数は確認しています」

 

 今から行われようとしている会議は、外に漏れた場合かなり不味いことになるようなものです。なにせ、横須賀鎮守府の『柴壁』が軍事行動を起こすということですからね。しかも国内で。

テロリストとして処罰される可能性が十二分にあります。

ですから、この会議は秘匿性が高いものとしています。大会議堂に入る際、身体検査を行って記録できるものを持ち込めないようにしてありますし、室外には鈴谷さん、室内には金剛さんが立っています。何か異常があれば、実力行使するということになっています。

この場での情報収集は不可能なんです。

 では何故、枚数が足りないのか。

武下さんのミスということも考えられます。それに部隊長の数え間違えということも。

枚数確認に関しては、私もしています。印刷する際、この会議に参加する部隊長の人数分の印刷枚数を選択していましたし、プリンターから排出された用紙を纏めたのも私です。

そして保管していたのも。保管中は触っていませんし、入れてあった容器も先ほど触ったのが、印刷して仕舞って以来初でした。

 部隊長たちはそれぞれ、自分の手元にある資料が重なっていないか確認しています。

何度も、何度も。2回、3回と確認して。隣に座っている部隊長同士で確認するほどでした。

この会議の重要性を知った上での行動だということは自明です。

 

「だとしたら、余分に1人居るんでしょう」

 

 武下さんは、最も可能性の高い事柄を私に伝えました。

それならば、枚数が足りないことにも納得がいきます。

 私は金剛さんの方を見ます。今、ここで起きていることを理解しているようで、すぐに動き出しました。

長机と長机の間をゆっくり歩きながら、それぞれの部隊長の顔を見ます。そして、あるところで歩みを止めました。

刹那、金剛さんの身体が光だします。艤装を身に纏ったのでしょう。

駆動音を鳴らしながら、ある1人の方に機銃の銃口を向けました。

 

「そこの貴女。何者デスカ?」

 

 一斉に全員がそちらを向きます。

 そこに座っているのは、他の部隊長同様の格好をしている、女性指揮官でした。

帽子を深く被り、金剛さんから目線を反らします。

 

「……言わなくても分かるのでしょう?」

 

 金剛さんから殺気が放たれます。誰だか分かったのでしょう。ですが私には分かりません。

室内の空気を察知したのか、少し扉が開きます。鈴谷さんです。

少し覗き込むと、すぐに扉を閉めました。状況をすぐに理解できたのでしょう。加勢をする必要はないと判断したということです。

 

「日本皇国空軍中部航空方面隊所属 第六航空団 天見……」

 

 誰だか分かりません。鎮守府内に『柴壁』以外の日本皇国軍の軍人がいるとは思えなかったのです。

どうして、何のために……私の頭の中にそんなことが巡ります。

 

「戦闘機乗りがこういったことをすることは、私も流石に考えていませんデシタ。……まぁ、このようなことをすることは、分かっているのデショウ?」

 

「さぁ、何のことやら……」

 

 金剛さんから出てくる殺気から滲み出てくる量が増えました。

悪寒を感じ、身体が震えます。

 

「……目的は?」

 

 金剛さんは艤装を動かし、照準を再調整しました。

 

「……」

 

「吐かないデスカ……。良いデショウ。……その者を捕まえて下サイッ!!」

 

 鶴の一声の如く、部隊長たちは一斉に天見さんの身体の自由を奪っていきます。

持っていたものを使い、腕の自由を奪い、足の自由を奪います。

そして肩に担ぎ、私の目の前に転がしました。

静かに床に下ろすのではなく、投げ下ろしたのです。ドンと床が鳴り、天見が顔を歪めました。

 

「目的は?」

 

「……」

 

 武下さんが天見の顔を睨み、目的を吐かせようとします。

ですが武下さんも、その行動が無駄だということは分かっているでしょう。

 この会議は”一応”、出席する人間に口外しないようにしています。『柴壁』なら会議があることは知っています。だが内容も出席する人間が誰かということまでは知らないはずです。

 『柴壁』が会議を行うことは結構あります。その毎回毎回がこういう口外してはならないような任務を行うためのものだったことなど、これまでにあったのでしょうか。

大体が配置のことや、『血猟犬』による情報収集した結果の報告だったりしていたのです。

その時から、こうやって天見が侵入していたとしたら……。

あり得ないです。

 これまでの会議というのは少人数でした小隊長クラスが会議に出ることはなかったのです。中隊長が会議に出るものでした。両手で数えられる程度の人数でしたので、紛れて話を聴くことは出来ません。

つまり、天見はこの会議を狙って紛れ込んだということになります。

 

「聞くまでもないな。だが、私には表面しか分からない。吐いてもらうぞ」

 

 武下さんは唸るような低い声で、そう天見に言いました。

分かっていたんです。武下さんも。

天見がどうしてこの会議に紛れ込んだのか。

 吐いてもらうのは、言質を取るためです。

大本営と共同戦線を張ることになり、その上、情報源を大本営に頼ってしまう状況にある以上、天見から取れるであろう言質は、私たちにとってはかなり貴重なものです。

 

「連れて行け!! 地下牢にある”あの”部屋だ」

 

「「了解ッ!」」

 

 “あの”部屋とは一体なんでしょうか。

私は首を傾げます。

 武下さんは抑えていた部隊長が部屋を出て行くのを確認すると、天見が座っていた席に残されている資料を手に取り、破りました。

そして、枚数が不足していた部隊長に自分の資料を手渡しします。

 

「コレを」

 

「ありがとうございます」

 

「あぁ」

 

 武下さんはもと居た場所に戻っていきました。

それと同時に、天見を見つけた金剛さんが私のところに来ます。

 

「ましろ」

 

「はい」

 

「天見は『海軍本部』かそれ以外の勢力に情報を流していた可能性が高いデス」

 

「そうなんですか?」

 

「はい。天見が来たのは、鎮守府が空襲を受けた後デシタ。『海軍本部』の行動が活発になってきた頃デス」

 

「そう……ですか」

 

 今、その情報はあまり必要ないです。私はそう思いました。

 それを言った金剛さんは、私の返事を聞いてすぐに自分の居た場所に戻っていきます。

それから数分後、天見を連れて行った部隊長が元の席に座りました。

 やっと本題が始められます。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 大会議堂での会議は滞りなく進み、方針を決めることが出来ました。

 大本営と共同戦線を張るにあたり、『血猟犬』と『猟犬』は完全に鎮守府防衛の任から外されることになりました。鎮守府の守りは『番犬』のみで対応することに。

さらに『猟犬』は完全武装をし、鎮守府が所有するトラックを装備品としました。

これにより『猟犬』を『機械化猟犬』というロボット犬を彷彿とさせるような名前に変更されましたが、実際は獰猛で攻撃力のあり且つ機動力が増した猟犬へと姿を変えたのです。

 『血猟犬』はというと、そのままの名称ですが、任務内容が完全に変わりました。

『機械化猟犬』と共に戦闘に参加します。ですが、『機械化猟犬』が侵攻する前に破壊工作を行うということです。

侵攻目標に潜入し、機能を麻痺させるのが目的です。指揮官を殺せれば御の字です。

 この『血猟犬』と『機械化猟犬』の改革により、地下司令部をこの2つの隊の指揮所として決め、これに赤城さんが同意します。

さらにある取り決めが成されました。

『機械化猟犬』の一部を『降下猟犬』として、侵攻目標への強襲作戦のための部隊を用意することになったのです。

 空母艦載機を改造。流星改の爆弾倉から人を降下させることとなったのです。

これが決められたのには、赤城さんのある言葉のためでした。

 

『先手必勝。そして敵のど真ん中に痛烈な一撃を与えるのでしたら、地べたを走るよりも上から落とした方が良いです』

 

これにより『降下猟犬』が新たに編成されることになったのです。

 私たちは本格的に動き出しました。紅くんを2回も手に掛けた『海軍本部』を潰すために。

 





 なんだかスパンが早いのは気のせいでしょうか? きっと気のせいですよね。

 ということで、物語が大きく動き出します。
いつ、天見を出すかと悩みましたが、このタイミングが一番いいと思いましたので、ここで出させていただきました。
前回のエンディングでも、天見が内通者だということが分かっていましたので、こちらでも出て来るだろうと見ていた人は何人かいらっしゃるかと思います。

 ご意見ご感想お待ちしています。

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