【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話 作:しゅーがく
共同歩調を取り、勢力を潰す動きを決めてた次の日、大本営から早速情報提供がなされました。事務棟に速達で届けられましたので、赤城さんが受け取りに行き、現在、地下司令部でその開封を行っています。
封筒から紙を取り出し、広げてみる。
そうするとそこには写真が数枚と地図、規模などが書かれたモノが3枚入っていました。
「……場所は厚木海軍飛行場ですね。現在、空軍が航空隊を1つ置いています」
武下さんは、私が置いた紙を見てそう言いました。
多分、私のために教えてくれたのでしょう。
「航空隊と言っても哨戒機しかありませんし、今では滑走路の半分も使っていないでしょう。おそらく、米海軍が使用していた辺りに今回の殲滅目標があるのではないでしょうか」
航空写真を手に取り、私は飛行機が1機も止まっていないところを見ました。
「大本営からの書類によると、勢力は『海軍本部』の下部組織です。解体以前に受け持っていた海兵だと思われます」
「海兵、とは?」
「米海軍で言うところの海兵隊のようなものです。海軍所属の歩兵部隊ということになりますね。この辺り(横須賀)に駐屯していた部隊だと思いますが、戦線の後退に伴い、自衛手段を持ち合わせていない海兵は米海軍が使っていた飛行場を新たな駐屯地とした、と思われます」
「ということは、正式な辞令の下で厚木に居ると? それと同時に、横須賀鎮守府に牙を剥く存在ということですか?」
武下さんは頷きました。
「兵力は1個師団です。海兵ですので重装備はしていません。歩兵主体の軽装備部隊です」
「1万人は居るということですか?」
「おそらく……」
軍隊での部隊編成人数は、『柴壁』に入る時に覚えさせられました。
私は溜息を吐きます。
1万人相手に、私たちの最大兵員投入数は400人以下。普通なら歯が立たない人数です。
「……元より兵力が少ないのは、私たちですからね。作戦立案に移りましょうか」
武下さんは封筒に入っていた資料を取り、ホワイトボードを引っ張って来て書き込みはじめました。要点のみ書き出し、地図は持ち込んだものを使用します。
この場に来ているのは、私と武下さん、『機械化猟犬』の部隊長が1名。金剛さんも居ます。全員がそのホワイトボードに注目し、考え始めます。
「……普通に考えれば、私たちも1万人用意する必要がありマスネ」
金剛さんは呟きました。
「大本営に援軍要請をして、こちらの指揮下に編入することなんて……」
「出来ませんよ。唯一編入できそうな部隊に心当たりがありますが、それでも3000人が限界です」
『機械化猟犬』の部隊長である、速川さんが言いました。
この人は鎮守府に海軍海兵の補充兵として、800人が編入された時の海兵指揮官だそうです。
この前、話を聞きました。
壮年の男性で、現場よりもデスクワークの方が好きだと言っていました。『柴壁』の中でも割りと普通な経歴の持ち主で、対深海棲艦戦闘を予想して訓練を積んでいたらしいです。もちろん、対人戦闘の訓練も同時に積んでいたらしく、速川さんらの原隊員たちは皆、重火器を背負って山道を走ったりするなど、化け物級の体力を持ち合わせているだとか。
「”海軍第三方面軍第一連隊”か……」
「はい。消耗戦ならば、私たちの右に出る部隊はありません」
消耗戦が得意ということは、兵器や人員を温存した戦闘が得意ということになります。
ですが、『柴壁』に入ってからは、特殊部隊に囲まれていたためか、最小兵力によるゲリラ戦なども訓練として積んでいるみたいです。
『柴壁』の構成員が特殊部隊出身というのは、こういうところから言われているみたいですね。
実は『柴壁』の構成員の殆どが先ほどの”海軍第三方面軍第一連隊”出身らしいんです。ここに移った後、下から居た『柴壁』の人員から訓練を受け、模擬戦を繰り返し、特殊部隊と言ってもいい程の練度を獲得した、と聞いています。
「……正面から当たらずとも良いとは思いますが?」
私はその中で、発言しました。
「大手を振って飛行場正面から攻める訳では無いのですよね?」
「……それは剣などの時代でしょうに」
「はい。ですから、普通に奇襲してしまえば良いのでは」
私はそう言いました。
考えてみれば、普通のことです。正面から殴り合うのは得策ではないのだとしたら、寝首を掻くくらいはしなければなりません。
草案も私の中でできていました。
「第一段階。『血猟犬』によって、内部工作を行います。目標は厚木海軍飛行場の海兵側の通信設備の破壊と指揮官の暗殺。できれば送電設備も。第二段階。艦載機による建築物への航空爆撃。これは指揮官の暗殺が明るみになる前に行います。第三段階。混乱したところを『機械化猟犬』が突入。殲滅します。この際、厚木海軍飛行場の空軍側には話を通しておくと良いでしょう」
「投降兵はどのように?」
「厚木の空軍側が良い返答をいただけるのなら、そちらに押し付けた後、大本営に送りつけます」
私は暫定的な草案ではありますが、現状で一番良いと思われる作戦を提示しました。
「……駄目なら飛行場の中心で纏めておけばいいかと」
そう言って、私は手元にあった装備品リストや部隊表を確認しました。
あまり見る機会がありませんでしたので、どういう風に部隊の選別をすれば良いのか分かりませんが、見ないよりかはマシだと思います。
取り合えず、装備品リストを見ました。小銃やら拳銃、短機関銃、それぞれの弾薬はかなりの量の備蓄があるみたいです。それに比べて他の小火器の数が少ないです。
ぶっちゃけてしまえば、爆発物がほとんどないんです。手榴弾が全部隊1人2つまでなら用意出来るみたいですが、それで在庫がなくなるようです。火砲なんて以ての外。そもそも守りのための部隊ですから、砲撃はしないみたいですね。
「全部隊が純粋な歩兵ですか」
私は呟きます。これに関しては、私以外の全員は分かっているみたいですね。誰も意見しませんでした。もしくは、考え事をしていたから聞こえていなかったのかもしれませんが。
「……他に作戦がなければ、このまま行きましょう」
誰も口を開かないこの現状を、私はその言葉で暗に意見を求めます。
「依存はありません。ただ、第二段階の艦載機による航空爆撃は少し気が引けますね」
速川さんがそう言いました。その意見には武下さんも同意見のようです。一方で赤城さんや金剛さんは別に気にしていないみたいですが、どういうことでしょうか。
「周辺に住宅街があるから、ですか?」
「工場などもありますが、住宅街もあります。それに南には学校があります」
「それならば、航空爆撃は止めた方が良いかもしれませんね。まぁ、銃を撃つのも……」
そんなところにあるのであれば、爆発物や銃の撃ち合いなんてしていたら迷惑がかかってしまいます。
ですがそれを認めてしまうと、厚木飛行場の『海軍本部』残党の鎮圧など出来ません。世間体的には良くないことですけど、必要なことですからね。
『海軍本部』の方が国民的にも悪の方でしょうし、私らが悪く言われることもそれなりには抑えられることも考えられます。
「……ましろ、ちょっと借りマス」
「え、はい。どうぞ」
作戦方針の再考をしていると、金剛さんが私が持っていた大本営からの資料を持っていきました。
何度も見たでしょうに。もう一度、何か確認でもしているんでしょうか。
「ましろ。……銃撃戦はなるべく控えたい、そうデスカ?」
「出来れば、ですけど」
厚木飛行場を制圧するのに、最良の方法を金剛さんが聞いてきました。
銃撃戦を避けつつ『海軍本部』の制圧を進める。ほぼ無理だと思ったこの作戦に、金剛さんは何かを思いついたようでした。
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厚木飛行場制圧作戦の大筋が決まり、準備に突入しました。
私と武下さん、速川さんは『柴壁』で部隊の選抜と兵站の準備に入ります。赤城さん、金剛さんは別のことをしていました。
紅くんが撃たれてから1年近くが経っています。
本調子とはいかないものの、艦娘たちも外に出てくる人数が増えました。それらを赤城さんと金剛さんが集め、ある話をすることになったんです。
私はヤブからその状況を見ています。今、私の目の前でそれが行われようとしているんです。
「どうしたんですか? 金剛さん。それに赤城さんも」
「……」
ベンチに座っているのは扶桑姉妹です。そしてその2人の前に、赤城さんと金剛さんが居ます。ベンチは2人用ですから、2人とも立ったまま話をするみたいですね。
「扶桑、山城。外に出られるようになったみたいデスネ」
「……いつまでもうじうじしていられませんから」
扶桑さんはそう答えます。いつまでもとは言うものの、1年近く引きこもっていた訳ですし、それくらい期間があれば出てきますよね。
「姉様のおっしゃる通りです。それに私たちは古参。古参がこうでは、後発に示しが付きません」
山城さんもそれに続きます。
2人を初めて見ましたが、なんというか落ち着いた雰囲気が出ています。これまでにあまり話は聞きませんでしたし、扶桑姉妹が居ることすらも知りませんでした。
話を聞く限り、横須賀鎮守府では長いみたいですね。
「ならばその示し、皆さんに示しましょうか」
赤城さんはそう切り出します。
「それはどういう……」
「もし、紅提督が生きていたとしたら、扶桑さん。貴女はどうしますか?」
扶桑さんの赤い瞳が見開きました。
「……その望みは、既に捨てました。ですが、その根拠を教えて下さい。今更になってそのような事を言いだした根拠を」
少し取り乱したようですが、すぐに立て直します。扶桑さんの横の山城さんは聞いてはいるようですが、反応が鈍いみたいです。無理矢理に外に出てきたのでしょうか。
「先日、総督より言質を取りました。生きてらっしゃると」
「総督……なるほど。それならば」
扶桑さんは長い髪を揺らし、少し考え始めたみたいです。その間を繋ぐように山城さんが話し始めました。
「それは信頼出来るのでしょうか。友好的な関係ではあるのかもしれません。ですが、それは紅提督がいらっしゃった時だけ。現在がどのような関係にあるのかなんて、私たちですら分かります」
「えぇ。軍から大勢の特殊部隊員を引き抜き、戦闘行動を中止している横須賀鎮守府への不満はあるでしょう。ですが彼らも憂いているんですよ」
山城さんは赤城さんのその言葉を訊くと、口を閉ざしました。こう、少ない言葉で意思が通じるのは、見ている私からすると状況が把握できません。
山城さんが何を考えたのか、何を知っているのかが全く分からないんです。
扶桑さんは山城さんが黙ったすぐ後に、口を開きました。
「この話を持ち出したということは……何かするんですね?」
赤城さんは頷きます。
「敵対組織の排除を行います」
「……『海軍本部』ですか?」
「はい。こちらからも戦力を捻出して攻撃を行います。既に初戦の目標は決まっています」
「それで、私たちに声を掛けた理由は何でしょうか?」
「使えるものは全て使います。紅提督のために」
「なるほど……よく分かりました。長門さんたちに声を掛けておきます。そうすれば水上打撃部隊も出てきますよ」
「助かります」
水上打撃部隊。横須賀鎮守府に所属する艦娘の括りらしいです。戦艦、重巡で構成された部隊だそうです。
「今すぐにでも行動しましょう。私と山城は長門さんに会ってきます」
「お願いします」
「空母機動部隊と水雷戦隊の方は頼みましたよ」
「お任せ下さい」
扶桑さんと山城さんは立ち上がりました。
「それと金剛さん」
「なんデスカ?」
「比叡さんたちは貴女に任せます。私が言うよりも良いはずです」
「分かってマス」
「では」
2人は行ってしまいました。
これより赤城さんと金剛さんたちは、空母機動部隊と水雷戦隊。つまり空母の艦娘たちと軽巡・駆逐艦の艦娘たちのところへ赴き、『紅提督が生きている』ということを伝えに歩き回りました。
空母機動部隊は赤城さんが1声で皆を外へ連れ出し、動く意思を伝えることに成功。全員が使われることに同意しました。
金剛さんは自分の姉妹の説得と、水雷戦隊へ。姉妹たちは元より、度々姿を消していた金剛さんのことを察して居たらしく、既に覚悟は決まっていたみたいです。
水雷戦隊の方はどうやら夕立さんと時雨さんが触れ回ったらしく、裏で鈴谷さんが手を回していたみたいですね。大井さんから伝播されていました。
最後に、『番犬艦隊』と呼ばれる艦娘たちのところへ行きます。
これに関しては、赤城さんと金剛さん。それに私も向かいました。
どうやら艦娘たちの中で一番心に傷を負っているのは、この『番犬艦隊』の艦娘たちみたいです。
「ビスマルクさん、入りますよ」
艦娘寮のビスマルクさんの私室の扉をノックし、私たちは入りました。
部屋に鍵はありますが、鍵が掛かってなかったんです。
中に入り、靴を脱いで部屋へと入りました。
整頓が行き届いていて、引きこもっている人がいるような部屋には見えませんでしたが、ある1部は違いました。
ベッドの上です。こんもりと盛り上がっているそこに、おそらくビスマルクさんがいるんでしょう。その周りには写真立てが2つと水、くしゃくしゃになっているティッシュがありました。
赤城さんはベッドの傍らに座り、金剛さんも同じく座ります。私はそのまま立ったまま、状況を見ることにしました。
「ビスマルクさん、調子はどうですか?」
「……」
返事は返ってきません。
「顔を見せてくださいよ」
そう言うと、こんもり盛り上がった布団がみるみる高くなり、布団がぱさりと落ちます。
そしてビスマルクさんが現れました。
髪はボサボサで青い目に輝きはありません。そして目の下にはクマがありました。
寝ていないんでしょうか。
私が想像していたビスマルクさんの姿とは、かなりかけ離れています。
ロングストレートで金髪の髪でもなければ、自身に満ち溢れている目つきもありません。
「顔色、前見たときよりも良くなりました?」
「……そんな風に見えるかしら。それで、今日は何?」
素っ気ない言葉で、そんな事を言います。
「貴女の友人は帰ってきますよ」
「帰ってこないわ。死んだのよ」
「いいえ。帰ってきます」
「死んだの……」
「帰ってk」
「死んだのっ!!! 私が、私が守れなかったっ!!! 貴女が一番分かっているでしょう?!」
ビスマルクさんは赤城さんの胸ぐらを掴み、ガクガクと揺らします。
それに赤城さんは抵抗をしません。自分の胸ぐらを揺らすビスマルクさんの手を優しく包み込みます。
「帰ってこなかった娘は何度も見た!! だけど、だけどっ!!!」
ビスマルクさんの瞳から涙が流れ出ます。
それを拭うことなく、ビスマルクさんは言葉を投げつけます。
「戦場に赴いた娘とは違うっ!! 戦争だからって割り切れた!! でも違うじゃない!! あの人は戦争で死んだんじゃないわっ!!」
ぼたぼたと大粒の涙がシーツを濡らします。
そんな時、私は写真立てに入っている写真が目に入りました。
1枚は集合写真みたいです。真ん中に紅くんが映った集合写真。そしてもう1枚は……。
「ビスマルクさんっ!! 私の話を聞いて下さいっ!! 貴女が『番犬艦隊』として紅提督を守りきれなかったことは、散々1年前に話したでしょうっ?!」
もう1枚は紅くんが、執務室のあの椅子に座って微笑んでいる写真でした。
あまり微笑むことはしない紅くんの微笑んでいる写真です。
ビスマルクさんは赤城さんのその言葉を聞いて、胸ぐらから手を離します。そして私の顔をちらっとみると、私の顔を睨みました。
「……そこの女は? 門兵にそんな人、居なかったわよね?」
「あぁ、彼女ですか? 今は教える訳にはいきませんね。ですけど、ここに居るということがどういうことか、貴女は分かりますよね?」
ビスマルクさんは頷きます。
「それで、何なの?」
「ある人の護衛を頼みます。とは言っても、結構後なんですけどね。……これだけ言えば、分かりますよね?」
「……信じていいの?」
「えぇ。裏切られればその時は」
ビスマルクさんは立ち上がり、ベッドから降ります。そして綺麗に畳まれていた服を取り、着ていきました。そうすると、私に見覚えのある格好へと変わっていきました。
帽子はどうしてか被りませんでしたが、ハイニーソを履いて、腕を組みました。
「『番犬艦隊』を起こしてくるわ。でもツェッペリンは私だけじゃどうにもならないから、赤城にも頼めるかしら?」
「えぇ。構いませんよ」
腕を解いたビスマルクはそのまま自分の私室を出ていきました。言葉通りなら『番犬艦隊』を起こしに行ったんでしょう。
「……どうやら私は必要なかったみたいデスネ」
「はい。もし私の言葉で駄目だったら、金剛さんに焚き付けてもらうつもりでしたが、無駄足だったようです」
金剛さんはフフンと鼻で笑うと、スッと立ち上がりました。
「じゃあ、赤城はフェルトに声を掛ける準備をしておいて下サイ。私はましろに説明しておきマス」
「分かりました。ではフェルトさんの部屋の間で待ち合わせを」
そう言って赤城さんも部屋を出ていきました。
フェルトさん。つまりグラーフ・ツェッペリンさんのところに行く、それの本意とは何でしょうか。
話を聞いている限り、金剛さんから説明があるみたいです。
「ここを出て、私の部屋に行きまショウ。妹たちとは同室デスガ、プライベートスペースはありマス。そこで」
そう言われ、私は金剛さんの後を追って行きました。
今回は少し長めになってしまいましたが、気にしないでください(マガオ)
大きく話が動き始めます。それと、久しぶりのこちらに移ってからの別の艦娘とのシーンです。本当、すごく久しぶりです。
ご意見ご感想お待ちしています。