【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話   作:しゅーがく

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第5話  警備棟

 私はどうやら、寝てしまっていたみたいです。昨日、お風呂に入った後、何もない部屋のベッドに寝転がったところまでは記憶があるんですけどね。

 私は起き上がりますと、フラフラと立ち上がりました。着ている服は、昨日着ていたものですけど、着替えがありません。今日、酒保に買いに行けばいいでしょう。

よたよたと歩きますけど、今、目がぼやけていますので、部屋の状況が分かりません。ですので、ぼやけが取れるまで、ベッドに戻って座ります。

ぼやけが取れましたので、改めて立ち上がりました。それと同時に、昨日の記憶を掘り返します。昨日の出来事は、情報量が多過ぎました。色々な事が、1度に起こったからです。私はそんなに要領がよくありませんので、整理は追いついていませんが、これだけは言えます。私は今、異世界に居るんです。紅くんが消えたであろう。

 私は顔を洗い、髪を手櫛で整えると、扉のノブに手を掛けました。

私はこの時ほど、癖っ毛の無さに感謝した事はありません。髪にどう手を加えても、私の髪はそれに反発してストレートに戻るんです。パーマをかけようが、ヘアワックスをつけようが、意味がありませんでした。どうしてそうなるか、未だに理由はわからないんですけどね。

それと、私は普段、化粧をあまりしません。大人の女性としてどうなのか、とも思いますが、必要ないんです。色白ですし、アイプチも必要ないです。女性の敵だと、友人に昔言われましたが、女性が女性の敵ってどういう事でしょう。少なくとも私は、女性である事を捨てた覚えはありません。

 そんな事を考えつつ、携帯電話をポケットに押し込みながら、扉を開きました。そうすると、突然、目の前に金剛さんが立っていました。

 

「お、おはようございます。金剛さん」

 

「おはようございマース。……ノックしようと思ったら出てきたノデ、心臓が飛び出るかと思いマシタ」

 

 金剛さんはそう言って、胸を撫で下ろしました。そうとうびっくりしたんでしょうね。

 

「起こしてくださろうとしていたんですか?」

 

「そうデス。鎮守府の朝は早いデスカラ」

 

 金剛さんがここに居た理由なんて、それくらいでしょうからね。逆に、それ以外の理由があるのかと思う程です。

携帯電話を不意に取り出して、時間を確認します。今は午前6時8分。私からしてみれば、いつも通りです。これくらいに起きて、準備をしてから仕事に向かうのです。

 

「あっ」

 

 私はある事を思い出しました。異世界に来たはいいものの、仕事場に何も連絡をしていないんです。

 

「ン? どうかしたデス?」

 

「私、働いているんですけど、その先に連絡を入れてないんですよ」

 

「それって、悪い事なのデスカ?」

 

「はい。無断欠勤です。つまり、サボりというやつですね」

 

「アチャー」

 

 金剛さんは額に手の平をあてて、少し大げさなリアクションをして下さいました。きっと私への気遣いでしょうね。

 

「良くないんですけど、こちらからは何も連絡出来ません。仕方ないですね」

 

「いいんデスカ?」

 

「いいんです」

 

 そんな事を話しながら私たちは歩いていました。

 直に食堂に着き、私たちは入っていきます。昨日の夜と食堂の雰囲気は変わりません。いつも通りなんでしょうね。

 

「さぁーて、何食べるデスカ?」

 

「そうですねぇ……洋食にします」

 

 いつも、朝はパンと決めていますので、洋食にします。多分、パンが出てくるでしょうからね。

金剛さんもどうやら洋食を頼んだみたいです。トレーを持って、席に座りました。

 

「おはようございますッ! 葵さん!」

 

「おはようございます」

 

「おはようございます」

 

 私と金剛さんが座ると、他の金剛型戦艦の艦娘が集まってきました。

 

「おはようございます」

 

 私はそう軽く、挨拶を返します。そんな私に金剛さんが話しかけてきました。

 

「昨日、聞き忘れてましたガ、私の姉妹の見分けは付きマスカ?」

 

「勿論ですよ。私の金剛さんを挟んだ反対側が比叡さん。正面の左が榛名さん。右が霧島さん」

 

 艦娘の見分けがつくか、という事みたいでしたので、私は答えました。

流石に、艦これはやってましたから、分かります。大体の艦娘は分かるんじゃないでしょうか。

 

「正解デース。なら、他の艦娘の紹介も要らないデスネ」

 

「はい」

 

 そう言って一息吐いた金剛さんは、私にある事を訊いてきました。

 

「そういえば、人を探すなら頼れる人を知ってマース。この後、行きますカ?」

 

 唐突な話ですが、正直、いらないです。紅くんがここの提督をしているのは分かっていますからね。ですけど、それをバラしていない今、何かしらの工作は必要でしょう。

 

「本当ですか?」

 

「ハイ!」

 

 私はそれを頼る姿勢を見せます。

 私が本名と誰を探しているのかを隠しているのかというと、単純に、何が起こるか分からないからです。疑われて、警察に突き出されるってのが1番怖いですね。殺されるなんて事はないと思いたいです。

 

「じゃあ、その人に会ってみましょうかね。金剛さん、よろしくお願いします」

 

「任せるネー! それでサー、葵の探している人の写真とかないノ? さっき携帯電話持ってたケド?」

 

 そう金剛さんは私に訊いてきます。私は携帯電話を取り出して、金剛さんに画面が見えないように操作をします。ここで感づかれたらそこでアウトですからね。

 ここでもし、紅くんの写真を見せたらどんな反応をするか分かりません。相手は紅くんの艦娘です。

それよりも私は気になる事があります。昨日、話の途中で出てきた"艦娘に呼ばれた"という言葉。どういう意味なんでしょうか?ですけど、これが紅くんの消えた謎に繋がるとしか思えないんです。

そもそも、この世界で起きている事が丸で分かりません。昨日も考えましたがさっぱりでした。眼と鼻の先にある防衛線、コンボイ、対空陣地……。一体、何があってこんな状況になっているのでしょうか。それに対空陣地の人が言っていた、『提督が……』、『提督さえ戻ってきて下されば……』という独り言も気になります。前者はともかく、後者に関しては、ある事を揶揄しているように思えて仕方ありません。

 

(あの言葉をそのまま解釈すれば、紅くんが姿を消しているということでしょうか?)

 

 単純に考えたらそういう事になります。それならコンボイの人や、聞いた話と辻褄が合います。対深海棲艦戦闘を担ってきた横須賀鎮守府が活動していないとなれば、それまでに奪還していた海域を深海棲艦に再攻略されてしまうのも理解できます。

そうなると、横須賀鎮守府の皆さんは姿を消している提督を探そうと動いていないように見えるのは、何故でしょうか。私が1日2日で分かるようなことでもありません。私が気づいていないだけで、水面下で捜索が行われているのかもしれませんからね。

 

「葵?」

 

 考え事をしていた私に顔を、金剛さんが覗きこんできました。

 きめ細かい白い肌に大きな目、長いまつ毛、端正な顔立ち。女の私でさえも、ドキッとする程の美人です。

 

「あっ、いや、なんでもないです。……見つからないですね」

 

「そうデスカ……。それを手がかりに出来れば、と思ったんデスケド」

 

 金剛さんはそう言って落ち込んでしまいました。

私の人探しに熱心になってくれるのは有り難いですが、もう、探す必要はないんですよね。それに、人探しをするにしても、異世界から来た人間なんてすぐに分かると思います。それだで十分、特徴になっていますからね。

 

「いいですよ。そもそも、異世界から来てる人ですから、すぐに分かりますって」

 

 そうフォローを入れます。親身に考えてくれますからね。

 

「そうデスネ……とりあえず、食べ終わりましたノデ、その人のところにとりあえず行きマスカ?」

 

 私も金剛さんも食べ終わってましたので、トレーを持って立ち上がります。

 

「はい」

 

 比叡さんたちに少し会釈すると、私は金剛さんと食堂を出て行きました。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 金剛さんに案内された先は警備棟でした。昨日来たばかりですが、金剛さんの言う頼れる人がここにいるんでしょう。

私は黙って、金剛さんの後を付いてきます。

 中に入ると、金剛さんが迷彩服を着た人に『巡田さんは帰ってきてマスカ?』と言っていました。多分、頼れる人というのが、その巡田さんという人なんでしょう。それからの話を聞いている限り、まだ帰ってきてないらしいです。ですが、もう少ししたら帰ってくると仰っていました。そのまま私たちは、警備棟の中で待つことになりました。

 金剛さんは武下さんに用事がある、といって席を外しましたので、私はその場に1人になってしまいました。離れたところに迷彩服を着た人が2人、立っているだけです。

 私は考え事を始めました。今度は"艦娘に呼び出された"の真意です。言葉通りの意味だということは分かっています。ですけど、その意味が何を指しているのか分かりません。私は、その言葉が出てきた場面を思い出します。その時は金剛さんと、異世界から来たという話題をしていた時でした。

その時の言葉を出来る限り、思い出します。

 

『異世界から来たという事は、葵が"艦娘に呼び出された"って事デスヨネ?なら、ここに居る事はおかしいデース。ここはもう、提督がいますカラ』

 

 金剛さんがそう言っていたんです。私が意味を知ろうとしている言葉の簡単な説明がありました。

端折ったものでしょうけど、話を整理したら『紅くんが横須賀鎮守府の艦娘に呼び出された』という事になります。

なんて簡単なんでしょう。私の率直な感想です。約半年間、考え続けてきていざ異世界に来たら、たった1日で紅くんの失踪原因が分かってしまったんです。

紅くんの失踪原因は、横須賀鎮守府の艦娘です。自供しているので、その通りなんでしょう。

 私は今、考えていた事を携帯電話のメモに書き残しました。

 真新しい訳ではありませんが、割りと内装が綺麗な警備棟です。ですけど、迷彩服を着ている人の様子が変です。外に立っていた人たちと同じ格好ではあるんですけど、なんといいますか、違います。よく見れば、持っている銃も違います。細身でシュッとしているものではなく、角ばっています。紅くんに聞けば分かるんでしょうけど、今はいません。

じっと私が見ていると、あちらも流石に気付いたみたいで、こちらに来ました。

 

「昨日来たというのは貴女ですか? 何でも、異世界から来たとか」

 

「そうですけど、貴方は?」

 

「私は横須賀鎮守府付私設軍事組織『柴壁〔さいへき〕』 番犬第1中隊の西川です』

 

「あっ、はい。私は碧 葵です」

 

 途中までは理解できましたけど、西川と名乗ったこの男の人は何を言っているのでしょうか。ここは曲がりなりにも軍事施設なのに、私設軍事組織が中に居るとはどういうことなんでしょうか。

 

「あの。ひとつお尋ねしてもよろしいでしょうか?」

 

「なんなりと」

 

「何故、軍事施設に私設軍事組織が?」

 

「話せば長くなります。私たちは軍を離れてまで、ここにいたいと思いましたから、雇って頂いているんですよ」

 

 そう西川さんは笑顔で返してくださいました。となると、門の前に立っていた人たちは軍人で、施設内に居る人たちは隊員、社員みたな扱いなんでしょうね。

 

「それで、碧さんはどうしてここに? 鎮守府内には現在、許可が降りないと入れない様になっているはずですが?」

 

 西川さんは聞いてきました。この質問は昨日も聞かれたものです。軍事施設なら許可なら必要ですけど、西川さんの言い方ですと、並のことでは入れないみたいですね。

ここで理由を正直に言ってしまっても、別に不利益はありません。

 

「異世界から来たんですよ。人を探しにですが」

 

 間違った事は言ってません。

 

「えぇ、それで?」

 

 どうやら凌げたみたいですね。あまり深く聞かない性格なんでしょうか?

 

「外で探していたら兵士に捕まってしまいまして、若い女がほっつき歩いていたら危ないからと、ここに連れてこられました」

 

「そうなんですか。それで、探している人は?」

 

「その為に、巡田さんという人に頼ろうと思いまして、ここに居るということです」

 

「あぁ、巡田さんですか」

 

 西川さんはそう、私の話に相槌を打ちます。金剛さんと誰かが話していたところで出てきた人の名前を適当に上げただけです。それが当たっていたということですね。

 

「了解しました。それと、先ほどの自己紹介でなんとなく察しているとは思いますが、ここの警備に関して説明させていただきます」

 

 唐突にそんな事を、西川さんは私に言いました。まぁ、ここに居ると分かった訳ですからね。教えない訳にもいかないんでしょう。

 

「お願いします」

 

 西川さんは説明をしてくださいました。ここ、横須賀鎮守府は過去に様々な事件に巻き込まれていた事を念押しされました。それを踏まえての説明です。

国内外の勢力からのデモ、圧力、攻勢などに対抗するために、私設軍事組織の前身である、横須賀鎮守府警備部があったらしいです。今となっては、解体されてないそうですけどね。訳あって解体されて、その任を現在の私設軍事組織が担っているそうです。

任務内容は多岐に渡っているらしいですけど、決まりがあるそうです。『自らの命が危ぶまれない限り、殺してはならない』だそうです。いわゆる、専守防衛と攻勢を混ぜたものという事らしいです。

そして、私設軍事組織の維持は横須賀鎮守府が出資しているそうです。

 

「そんな……ここって、軍事施設ですよね?」

 

「そうですよ? ですけど、ここは特殊なんです。例外が利きますからね」

 

「特殊なんですか? 他にも、艦娘が所属している基地はあると思いますけど?」

 

「はい。艦娘とか関係なしに特殊なんです」

 

 少し、話をはぐらかされた気もしますが、話をしていて分かってきた事があります。西川さんは横須賀鎮守府の提督、つまり紅くんとそれなりに交友があったのでは、と思いました。度々、話をしたり、出掛けたりしていたみたいな事を言ってましたからね。

これは、有力な情報源を手に入れました。ですが、金剛さんの仰っていた巡田さんに会いますので、まだまだですね。それにその巡田さんにどこまで話すか、どんな人か見て判断しましょう。もし、信頼するに値する人でなければ話しません。

 

「その特殊というのを、見てみたいですね。既に、色々と特殊なところは多いと思いますが」

 

「まぁ、今ではその特殊なところは、見れないでしょうね」

 

 どういう意味でしょう。

 そう言った西川さんは、『あまり長話していますと、怒られてしまいますので、これで戻りますね』と言って、戻ってしまいました。

それと同時に、金剛さんが戻ってきました。誰かを連れて歩いています。

 

「お待たせしまシター。葵ー、この人がその人デース」

 

 そう金剛さんが言うと、金剛さんが連れてきた人が話し始めました。

 

「私は巡田と申します。金剛さんから聞きました。何でも、異世界から来たとか」

 

「はい。私は碧 葵です」

 

 軽く挨拶を済ませます。

 

「では、立ち話も何ですから、移動しましょう。会議室を借りていますので」

 

 私は巡田さんの後を、金剛さんと共に付いていきました。

この巡田さんという人、何だか気が抜けないと感じました。なんと言って表現すればいいんでしょうか。見透かされている……そんな感じがしました。

 




 色々端折ってますが、軍を抜けて横須賀鎮守府で働きたいと赤城たちに言いに行った武下さんらは民間軍事組織を作り雇われているという事になってます。

 それよりも書き溜めしていたものが今日で尽きます。頑張りGW中に4話分くらいは用意しておきたいですね(吐血)

 ご意見ご感想お待ちしてます。

2016/05/15 リメイク版に更新しました。
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