【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話   作:しゅーがく

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第51話  厚木飛行場制圧作戦②

 

 定期慰安会の会場入りをしたのは、廃工場を出てから遠回りをして20分後くらいです。

正門から堂々と門兵の横を通り過ぎ、海兵の指揮官が詰めているところまで通されました。

 先ほどは分かれて行ったように見せかけましたが、実は違います。

『血猟犬』も私たちと同じタイミングで飛行場に入っていました。手口は私たちと共に来た出演者が乗っていることになっているマイクロバスです。もちろん窓には全てカーテンが掛かっており、中は覗けないようになっています。

普通ならば、この状態であることに疑いを持つべきではありますが、門兵はこのことを疑うことはしませんでした。

理由としては、誰が出るのかは直前まで極秘であること。それは保安上調べる必要があるものであったとしても、楽しみが減ってしまうことを防ぐためとされています。このことは横須賀鎮守府を出る前に、金剛さんが裏を取ったと言っていました。

 そわそわとしている海兵たちを尻目に、私たちは与えられている待機室へと案内されます。私たちというのは私と南風さんのことです。マイクロバスの方のは、中での待機で問題ないということを伝えておき、後で直接会場に言ってもらうことを伝えておきました。ですので、海兵側が想定していたよりも少ない人数の入った、楽屋みたいなところで私は時計を見ています。

 

『開始から5分は私と南風さんのフリートークです。ここで他愛もない話をしつつ、途中で他で勤務をしているであろう海兵に呼びかけを行います。良いですか?』

 

『はい』

 

 このやり取りは盗聴されていることを鑑みて、携帯電話のメッセージでやっています。

流石にこれを傍受するだけの設備を、一個師団ばかりが持っているとは考えられないからです。

 

『話の内容はどうされますか?』

 

『私が話の主導権を持ちます。南風さんはあくまでアシスタントですから、相槌を打つみたいにお願いします』

 

『分かりました』

 

 そういう会話だけをメッセージで行い、他は楽屋をキョロキョロしてみたりだとか、コーヒーを飲んで過ごします。

緊張をしてしまってますので、少し手が震えてしまっていますが仕方ないです。

南風さんもカタカタとコーヒーカップを揺らしてますからね。

 

「失礼します」

 

 ノックを4回した音がし、兵士が1人入ってきました。

 

「そろそろ時間ですので、舞台袖の方へお願いします」

 

「はい」

 

 いよいよ作戦の時間です。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「日本皇国海軍厚木飛行場所属 第3海兵師団の皆さん! 私は司会、大本営海軍部広報課の城田です!」

 

「同じく、司会補佐の北条です」

 

 ここで偽名を使います。一応、書類の方ではその名前が書かれていますからね。金剛さんが偽名まで用意してくれていました。

城田が私で北条が南風さんです。

 

「いよっ!! 待ってたぜー!!」

 

「ひゃー!! キタキタァ!!」

 

 男女比、ざっと見7:3くらいの海兵たちが、地べたに座り込んで食べ物やビール片手に盛り上がっています。まだ始まったばかりだと言うのに。

 

「今回はお待ちかねの定期慰安会という訳ですが、北条さん。海兵さんのところはいつも用意が良くていいですよねぇ」

 

「そうですね。定期慰安会だというのに警備は怠らず、歩哨はちゃんといました。それなのにこの準備の綺麗さ。素晴らしいです」

 

「舞台の設置、皆さんの整列、綺麗ですねぇ。それに皆さん1人1人が何かしら口に入れる物を持っていますね。あ、そこのお兄さん。私にも焼きそば下さい」

 

 こんな風に冗談を言いながらフリートークを始めます。

 

「城田さん城田さん。一応コレ、仕事ですよ」

 

「あははは、そうでした。……という訳で話を戻しましょう。近頃は色々とお忙しい軍ですので、こうやって定期慰安会も回転率が上がっている訳ですが皆さんは大丈夫でしょうか? お体などなど。ちょっと聞いてみましょう。……そこのお姉さん」

 

 私は舞台から降り、近くに座っているお姉さんに声を掛けます。お姉さんと云いますが、年は私よりも3つか4つ年上って感じですね。同い年と言われても、あまり違和感がないような気がします。

 

「身体の方は大丈夫ですか?」

 

「えぇ大丈夫よ! さっきも5.56mmの弾薬箱を運んでたけど全然平気!」

 

「いやぁ、戦闘員の方は違いますね!! 私どもは軍属ではありませんが戦闘員ではありませんので。あ、私、力強い人好きです! 彼氏募集中!」

 

 こうやって言っていくのも結構良いですね。男性陣は大盛り上がりです。

これでは女性陣も盛り上がりませんので、女性陣の方も盛り上げてもらいます。

 

「城田さんちょっと待って下さい。えぇと……知り合いから頼まれていることがありますので、私的ではありますが少し時間を拝借」

 

 咳払いをした後、南風さんは話し始めます。

 

「私どもはこういった仕事をしていますので、各地で友人が出来たりします。その中で1人。彼女募集中の方が」

 

そう言って南風さんは写真をペロリと1枚、胸ポケットから出しました。

 

「エリート士官なのですが、女難だそうです。適当なところで彼女募集中と言って欲しいと頼まれましたので、興味がある方は海軍第一憲兵師団の晴丘まで」

 

「おおおぉぉぉぉ!! エリート!! 憲兵だけど……」

 

「玉の輿ィ!! 憲兵だけど……」

 

 憲兵って何処の世界でも嫌われているんですね。

良い人多いと思うんですが。

 

「という訳で、最初の方は本題からかなりズレましたが、早速定期慰安会の方に移りたいと思います」

 

 『おー』と喝采が起こり、私たちはそれが収まってから話し始めました。

定期慰安会最初のイベントを確認しようと、手元の資料を見ました。そうすると、もうそこには作戦開始を促す言葉が書かれていました。

『スライド表示』

そう書かれていたんです。時間を確認すると、もう5分経っています。

どうやらフリートークだけでちゃんと5分は潰せたみたいですね。

 

「その前に、今回のお品書きのように今後の予定を前に映します」

 

 南風さんは舞台袖にあるPCの操作に向かい、私はその場に残りました。

すぐにスクリーンにスライドが映され、私のタイミングで南風さんがスライドを進めてくれます。

 

「この定期慰安会は午後7時から11時までを予定しています。それまでに、この場にお呼びしたゲストを迎えて、皆さんに楽しんでもらいます」

 

 切り替わり、タイムスケジュールが出てきます。

一通り説明を終えて、切り替わったスライドが最後です。ここから動きが変わります。

舞台袖に居た南風さんは瞬時に着替えBDUを着込み、完全武装になっています。小銃の薬室に弾丸を装填し、安全装置を確認しているのが見えました。

 一方で会場はざわめいています。いきなりスクリーンに映し出された言葉に、全員が困惑しているんです。

 

「『投降せよ』って……」

 

「城田さーん。スライド、誤字ありますけど大丈夫ですか?」

 

 そんな声が聞こえてきますが、既に私の中でのスイッチは切り替わっています。舞台袖から短機関銃が投げられ、私はそれを受け取り、弾倉を差し込みます。

短機関銃を投げたのは南風さん。護身用にと投げたものですけど、一応南風さんは護衛なんですよね。

そして南風さんは舞台に再び姿を表します。

中央で立ち止まり、安全装置を解除。銃口を上に向けて引き金を引きました。

連続した炸裂音と共に、地面に甲高い音が転がります。

 

「海兵第3師団の将官に忠告する。我々が完全に包囲している。無闇な抵抗は避け、大人しく武装解除及び投降せよ。もし抵抗するならば」

 

 視界の端、海兵の1人が拳銃を抜いていました。

 

「き、貴様は横須賀のッ?!」

 

「射殺します」

 

 とてつもないスピードで小銃を構えた南風さんは、拳銃を抜いた兵士に銃口を向け引き金を引いていました。

 弾丸が頭部に命中。後頭部から大量の血が、弾丸の起こした物理エネルギーによって後ろに弾き飛びます。脳みそも混じっているようです。

そのまま撃たれた海兵は絶命してしまいました。

 私の目の前で人が死にました。仕方のないことではありますが、見ていて気持ちの良いものではないです。むしろ、どうして南風さんがためらいなく引き金を引けたのかが疑問です。

 

「抵抗をしなければ彼のように、地面に脳みそをぶち撒ける必要は無くなる」

 

 強い言い方をして、南風さんは会場に居る海兵全員に銃口を向けました。

突然のことで理解が追い付いていない海兵は混乱しているものの、冷静な海兵はとても従順でした。両手を挙げているんです。

 すぐに状況は動き出します。

地響きが鳴り、私たちがいる一帯が明るくなりました。作戦艦隊が集結し、探照灯投射を始めたんです。これには海兵もかなり驚き、そしてこれまで銃を持った女1人しかいかなった状況を舐めていた反動で恐怖します。

そこにいるのは艦娘ですからね。海にいるはずの艦娘がここに居る。そして、状況を考えれば、馬鹿じゃなければ分かるはずです。

ここに居るのは全員が横須賀鎮守府の人間であり、艦娘は横須賀鎮守府の艦娘だということに。

 

『私は日本皇国海軍 横須賀鎮守府艦隊司令部所属の戦艦 榛名です。日本皇国海軍厚木飛行場第3海兵師団の皆さんは、即刻武装放棄及び指揮官は指揮権の凍結を行い、速やかに投降して下さい』

 

 拡声器での警告が言い渡されました。

 

『投降に応じない場合、私たちは武力行使を行います』

 

 モータ音が聞こえきました。砲が旋回しているんでしょう。

12人の艦娘による3面包囲陣。残された1面はこの舞台ですから、追い込まれたようなものです。

 

『ここにいらっしゃらない仲間を当てにすることも出来ません。現在、私兵の特殊部隊が突入し、抵抗兵は全て殺処分されています。貴方たちはもう終わりです』

 

 全員が状況を飲み込めたようです。ざわざわしていた会場が静まりかえりました。

 会場に向けて小銃を向けていた南風さんが近寄り、私に耳打ちをします。

 

「作戦終了です。後は投降兵の移送だけですので、空軍の方に援軍要請をします」

 

「お願いします」

 

 刹那。発砲音が木霊します。

ここの会場からではありません。別のところからです。

 すぐさま南風さんは無線機に耳を当て、流れる状況報告を聞き始めます。

銃声は断続的に響き、それも数はいくつもあります。銃撃戦をしているような音のようにも思いました。

 

「……現在、突入した『血猟犬』と分隊規模の集団とが交戦中。時期に殲滅するようです」

 

「そうですか」

 

「地下などでも抵抗があり、突入した4班全てが銃撃戦をしています。それと、移動中にいくつも足音が聞こえたそうなので、注意を」

 

 南風さんは目を細めて、周囲警戒をし始めました。

分かっていました。思惑通りに話が進むとは思っていません。ですので、こういう事態も想定していました。ですが、実際に起こってしまうと、どうしようもありませんね。

 私は腰に刺していた拳銃を引き抜き、薬室に弾丸を装填して安全装置を掛けます。

指に引き金は掛けず、トリガーガードに指を添えます。

 

『……ッ!! 武装解除して下さいッ!!』

 

 拡声器の声が聞こえてくる前、近くで発砲音が鳴りました。

どうやら作戦艦隊の背後、艤装に向けて銃撃があったみたいです。銃撃を受けたのは駆逐艦のようですが、注意を促すのは榛名さんみたいですね。

それと共に、駆逐艦からの銃撃が開始されます。

元々対空兵装として備わっている機関銃ですから、人体に当たれば吹き飛ぶでしょうね。目的としていた的が違いすぎます。

近くの駆逐艦なども銃撃に参加し、程なくして銃撃音はピタリと止みました。艦娘が負けるなんてことはあり得ません。ですからきっと、攻撃を仕掛けた海兵が全滅したか、投降したかのどちらかでしょうね。

 

「厚木飛行場の警備隊から連絡です。『非番の部隊を向かわせ、移送作業を行う』だそうです」

 

「『ありがとうございます』と、返信を」

 

「はい」

 

 無線でどうやら連絡が入ったみたいですね。厚木飛行場の空軍とも連携が取れて良かったです。

 やがて『血猟犬』の突入と掃討は終わり、部隊が会場に集合してきました。

銃撃戦を行く先々で行っていたようで、弾薬もかなり消費したとのこと。それと、会場以外での投降はなかったようです。全員が攻撃してくるか、逃げたみたいです。逃げたのは射殺したらしいですが。

 ともかく、目の前で投降兵の移送作業が始まっています。

そして大本営からも事後処理のために、佐官が派遣されてきています。それが今、目の前で話をしています。

 

「大本営の佐々木です。一連の件の事後処理を担当しています」

 

「部隊指揮官の南風です」

 

 一応、表立っては南風さんが指揮官ということになっています。私は構成員ということに。

 

「大本営もここには手こずっていましたので、どうもありがとうございました。こちらの指示には聞くものの、『海軍本部』の息が掛かっているものですから、解散をさせる訳にはいかなかったんですよね」

 

 今、佐々木さんは何と言ったんでしょうか。

『海軍本部』の息の掛かった組織の全摘を行うのが、私たちも手を貸すことになっているこの案件ですが、ここは非合法なところじゃなかったということなんでしょうか。

佐々木さんの言い方からすると、そういう解釈になってしまいます。

 

「いいえ。では、我々は帰還します」

 

「えぇ。事後処理は我々が引き継ぎますので」

 

 南風さんは気付いていないようですが、そのまま私たちは横須賀鎮守府へ撤退となりました。

 

 





 時間がありますので、最近スパンが短いです。

 今後の話の流れはゆったりとなる予定です。
まぁ、話が話ですからね。

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