【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話   作:しゅーがく

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第52話  ティータイムは方針会議の後で

 

 横須賀鎮守府帰還後、すぐに会議が執り行われました。

デブリーフィングかと思っていましたが違い、次の作戦に向けた方針の決定です。

 今度の会議は艦娘寮の空き部屋を使うのでは無く、警備棟の大会議堂。

参加するのは私と艦種代表の艦娘たち、武下さんくらいです。それだけの参加者なのに、そんな大きな会場を使ったのには、特に理由はありません。

 

「先日の厚木飛行場制圧作戦の事後処理は大本営が執り行っています。艤装の展開跡の修復と、銃撃戦の残骸以外は特に何かあるということはなかったみたいです。現状はそのようになっていますが、今後新たに報告が入ると思われます」

 

 事務棟を通して、赤城さん宛に届いた事後処理に関する内容はそれだけでした。

私たちが撤退する前に、既に作業は始まっていましたし、そのくらいの速さで進んでいるのも当然でしょうね。

 

「次、展開予定の作戦はありません。追って大本営から情報が齎されると思います」

 

 これで一応、今後の方針を決めるのに必要な情報は出切りました。

本題に入ります。

 

「……さて、今後の方針を決めましょう」

 

 私が切り出します。

 

「一応、『共同戦線』を張ることにはなっていますが、完全に私たちは『駒』です。今回決めることは、私たちは大本営から齎される情報を元に、『駒』として戦うのか。もしくは、『紅くんを助けるため、自分たちの力だけで戦う』のか。……コレ以外を選んでも良いんです。大本営が片付けていくのを『支援』するだけだとか、削っていくのではなく頭を吹き飛ばすのか」

 

 全員が言葉を詰まらせます。

一応、今の横須賀鎮守府の方針を決めれるのは艦娘たちです。彼女たちの決定に、私や武下さんは従うでしょう。

 赤城さんたちは考えます。

刻々と時間が過ぎていき、遂に口が開かれました。

口を開いたのは吹雪さんです。

 

「頭をぶっ飛ばす……と言いたいところですが、それが分かれば良いんですよね」

 

「そ、そうですね。頭を潰せは組織としては崩壊します」

 

 その言葉に赤城さんが便乗しました。

 

「まるで今の私たちみたいだな」

 

 そんなところに、長門さんが一言言いました。確かにその通りですね。紅くんが居なければ、機能不全を起こしてしまっているここは、そういうものです。まぁ、普通の組織ならまだ動けるでしょうけど。

 

「『海軍本部』の頭があるのは、どこなんですか?」

 

 吹雪さんが聞いてきました。この流れは、どうやら今後の方針としては『周りを無視して、頭を落としに行く』というものみたいです。

 

「ハッキリとは分かっていませんが、大本営に聞けば分かるかもしれません」

 

「……訊いてみましょう」

 

 そう言って、突然赤城さんが動き出しました。

大会議堂に備え付けられている固定電話の受話器を取り、プッシュ。

耳に受話器を当てました。私たちは声を聞きに行きます。

 

「横須賀鎮守府の航空母艦 赤城です。総督でしょうか?」

 

『あぁ。なんだね、赤城』

 

「お聞きしたいことがあります。私たちは今後の方針で『海軍本部』の頭を落としに行くと……」

 

 そう言いかけたところで、総督が口を挟みました。

 

『まぁ待て。そう焦るな。……今配送中だが、次に頼みたいところがある。それの話を聞いてからでも遅くはないだろう』

 

 そう言われて、赤城さんは聴く姿勢を取ります。

 

『それを話す前に、現状を報告しておこうと思ってな。……現在、君たちが制圧した厚木飛行場の事後処理を行っているだろう? その厚木飛行場なんだが、一応、『海軍本部』の最大戦力だったんだ。私たちもアレにはどうも手を焼いておっての、こっちとしても助かった』

 

 そんな話は初耳です。

 

『君たちが行動を止めてから、どうしてか行動を再開するこの1年間。私たちは徐々に狭まる海域を眺めていただけじゃない。天色 紅の生存を確認するのと共に、1年間ずっと『海軍本部』の手が付いている組織を消して回っていた。これは前にも話しただろう?』

 

「そうですね。それで前のお電話で、火消しが終わってないと」

 

『あぁ。それが厚木飛行場の件だったんだ。それが終わった今、残すは本拠地だけ』

 

 私や電話をしている赤城さんが目を見開きます。

 

「そこへ攻め込むんですか?」

 

『あぁ。一応、そこへ攻め込む算段は立てているが、横須賀鎮守府からも力を貸して欲しい』

 

「えぇ、分かりました。……それで、何処なんです?」

 

『倉橋島だ。瀬戸内の』

 

 私は手書きのメモで武下さんに『倉橋島』について伝えます。

 

「作戦に関する詳細は後日、送られてくるんですよね?」

 

『もちろんだ。では切るぞ』

 

「はい」

 

 これで大まかな方針は決まりました。

『海軍本部』の本拠地である倉橋島を襲撃し、根絶やしにすること。これが最終目標です。それまでにすることの詳細を決める必要が出てきましたね。

 受話器を置いた赤城さんが、席に戻ります。私も戻り、武下さんの帰りを待ちます。

 武下さんはすぐに戻ってきました。

手に持った資料は数枚だけでしたが、それを机の上に広げます。

 

「総督から色々と伝えられましたので、ここで言っておきます」

 

 赤城さんはそう言って、武下さんの持ってきた資料を手に取ります。

 

「一応、次に私たちが攻撃する場所は聞き出すことが出来ました。それがここ、倉橋島です」

 

 私も近くにあった資料に目を落とします。

 倉橋島。瀬戸内にある島の1つで、呉からかなり近い位置にあります。瀬戸内海に浮かぶ島の1つですね。

 

「ここは『海軍本部』の本拠地としてあるらしいですので、コレを片付けてしまえば終わり、だと思います」

 

 私以外のこの場に居る全員が目を見開きました。

そりゃそうですよね。私だって、まだまだ時間が掛かるものだと思っていましたから。ですけどやはり、紅くんが居なくってからずっと大本営は動いていただけあります。

火消しに時間が掛かっていることを赤城さんに指摘されていましたが、無能という訳ではないみたいです。時間は掛かかりつつも、確実に潰していっていた、ということですね。

 

「話を聞いている限り、今回の作戦はどうなるか分かりません。私たち単独になるのか、共同戦線らしく双方の部隊が入り交じった混合部隊になるのか……」

 

「ですので、それまではどちらでも対応出来るように準備を進めておきましょう。それと、紅くん帰還に向けた準備も水面下でお願いします」

 

「「「「「了解」」」」」

 

 話は纏まりました。一応、今回の会議は終わりになります。

皆さん、各々準備を整えて席を立ち上がります。私も荷物を持って部屋に戻りましょう。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 一度部屋に戻り、色々と片付けなどを済ませた私は、金剛さんの呼び出しで外に出てきていました。

時刻としては午後9時過ぎ。もうあと1時間くらいしたら、艦娘寮は消灯の時間になります。原則消灯ですので、結構点いているところもあるんですけどね。

 私が今居る寮から出て、数分歩いたところにあるベンチ。

鎮守府内のあちこちに置いてあるベンチの1つ。ここが集合場所です。金剛さんには事前に、ここに来るように言われていましたからね。

 ベンチに座って待っていると、金剛さんはすぐに来ました。

時間指定もそこまで細かく決めていませんでしたので、そこまで慌ててきた様子もありません。

 

「お呼び立てして申し訳ないデース」

 

「いいえ」

 

 そう言いながら、金剛さんは私の隣に腰を下ろしました。

そして持ってきていた手提げカバンから、不意に魔法瓶を取り出します。蓋を開け、カバンからカップを取り出して中身を注ぎ、私にそれを渡してきます。

香りから察するに、紅茶だということは分かりました。

 

「ここに来る前に淹れてきマシタ。寒いデスカラ」

 

「ありがとうございます」

 

 カップを受け取り、私は口に紅茶を含みます。

 

「……それで、どういったご用件なんでしょうか」

 

 紅茶の感想を言おうか迷いました。ですが、言うのを止めます。

率直に話を切り出してから、最後に言えば良いでしょうからね。

 

「薄々感づいていると思いマス」

 

 金剛さんはそう切り出しました。

 

「ましろ。……貴女は紅提督と同じで、もう元の世界には……」

 

「分かっています」

 

 私はその言葉を遮りました。

私だってそのことは考えています。それに、もう決心だって付いていますからね。

 

「貴女にもあっちで積み重ねてきたことが……」

 

「えぇ。そのことは気にしないで下さいって言っても、きっと気にするんでしょうね」

 

「……」

 

 金剛さんは答えません。ただ、カップを握ってうつむいたままです。

隣に居ますが、ここからでも表情は全く見えないんです。

 

「私はここで生きていきますよ。心配しないで下さい。そして、気にしてしまうのなら、私が困っていたら助けて下さい。貴女たちが、紅くんにしてきたように」

 

 私はそう言ってカップの紅茶を飲み干します。

 

「この話はお終いです!! 私は金剛さんとはもっと別の話がしたいですよ!」

 

「……ハイ」

 

 まだ顔を俯かせたままです。どういう心境なのかは、なんとなくですが分かります。

ですので、無理やり話を反らします。痕に残る話ではありますが、もうそんなことを考えていても仕方ないんです。

紅くんと同じように、私はこの世界に来てしまったんです。帰る手段も分からない、そんな状態だからこそ、私はこの世界で精一杯生きていこうと決めたんです。

前々から考えていたことですけどね。初めて誰かに対して口にしました。

 

「これまで色々と付き合いがありましたけど、こういう話をしてみたかったんですよ」

 

 どういう話だか、私は言わずに話を持っていきます。

 

「金剛さんって、私の知識だと『提督LOVE』っていうイメージが凄く強いんですけど、実際のところはどうなんですか? 紅くんのこと大好きなんですか?」

 

 そう聞くと、金剛さんはハッと顔を上げて私の方を見ます。

その表情は暗く沈んだ表情ではなく、恥ずかしいのか照れているのか、顔を赤くしている金剛さんでした。

 

「も、も、もちろんネー! 朴念仁ではありマスガ、ずっと見ていれば……」

 

 カァーっと金剛さんの顔が真っ赤に変色していきます。

 

「朴念仁ですよね。ですけど、アレで結構気が効きますし」

 

「ハイ。……デスカラ、紅提督の艦娘という色眼鏡はありますが、それがなかったとしても私は……」

 

 そう言って金剛さんは遂に耳まで真っ赤にします。

 

「良いところが沢山ありマス。一杯、一杯ありマス。硬い性格をしているのが玉に瑕、デスカネ……。抱き付いても、添い寝しても、全くなびきマセン……。少し自分に自信が無くなりそうデシタ」

 

 いきなりぶっちゃけましたね、金剛さん。

この様子だと、他にも紅くんにこんな感じの艦娘は一杯居るんでしょうね。元居た世界では全くモテなかったのに、ココに来てこんなにモテていたとは驚きです。

 確かに良いところは、長年見てきた私も分かっています。それを金剛さんも理解していますからね。それでいて、私でも知らないような面もあるとは思いませんでした。

 

「付け入る様で卑怯な手を使いマシタガ、それでも紅提督は……」

 

 付け入るって、何か心傷でもあったんでしょうか。

そのことはすぐに私も思い出します。きっと、一時期鎮守府内がギスギスした時期の話ですね。色々な艦娘が紅くんのために行動を起こしていたのが裏目に出たという。

 

「……ギューって抱き締めてあげたい」

 

 片言な言葉ではなく、流暢な言葉でそれだけを言いました。

どうしてそこだけ流暢になったのか、私には分かりませんが、金剛さんの心がとても篭っていたと思います。

 

「頑張ったって言ってあげたいデス。もう心配ないよって優しく言いたいデス」

 

 金剛さんのアホ毛が垂れ下がりました。

 

「私は、”私たち”は、紅提督の”家族”デスカラ……」

 

 

 





 今回から少し、話の内容が軽くなる予定ではあります。作者視点ですが……。

 金剛のストレートな告白って、今までありましたっけ? そんな事を考えながら、今回のは書きました。
方針会議の方ですが、まぁ……言い方で分かって欲しいです(ネタバレ厳禁)

 ご意見ご感想お待ちしています。

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