【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話 作:しゅーがく
束の間の休息です。厚木飛行場から帰ってきた次の日ですが、鎮守府内は結構落ち着いています。雰囲気もそうですし、『柴壁』と艦娘共にとても穏やかに過ごしているように見えます。
作戦決行前に、艦娘たちは以前の状態に戻ったと武下さんは言っていました。
閑散とし、何処を歩いても誰もないような状況からは一変し、何処を歩いても艦娘の姿があり、楽しそうな笑い声が聞こえてくるようになりました。
そんな状態に陥ったからか、ある問題が生じていたんです。
「『血猟犬』なのに、配置が変更になったんですか?」
「はい。肩書は『血猟犬』のままですが、『番犬』の任を任されました。とは言っても、正門などではありませんけどね」
「確かに……ましろさんに正門を任せるのは、気が引けますね」
今の会話通り、私は無期限有休が終了し、本来の任に戻っていました。とは言っても、『血猟犬』としては働かずに、『番犬』としての任を負うことになってしまいましたが。
そうなったのに関しては、色々と話があります。
武下さんが赤城さんに、私の無期限有休終了の申告と承認をした時です。
本来の『血猟犬』の任である体外的な情報収集任務を私が出来るのか、という議論になったそうです。聞こえは悪いですが、悪い意味ではありません。私の身の上を考慮した話です。
ここ横須賀鎮守府の警備を行っている『柴壁』。その部隊構成員は、基本的に軍隊の教育課程を修了し、一通り満足に訓練を受けている兵士たちだけで構成されています。その中に簡略化した教育課程を2ヶ月半で終わらせています。しかも、正規の訓練ではなく、教育経験がないものばかりの中から、選抜された兵によって教育されています。
つまり、海の向こうにも身内にも敵が多い横須賀鎮守府の体外的な情報収集任務を行う上で、最も付きまとう偶発的な戦闘に私が耐えられない可能性が高かったんです。つまりはあっけなく死んでしまうのではないか、ということですね。
その議論の結果、『柴壁』の構成員である以上は働く必要があるのと、本人の『働かざるもの食うべからず』という意見を尊重し、比較的にデモ隊が集まらない門の警備を交代で行うことになったという訳です。
「何気に酷いこと言いますね、加賀さん」
「そうかしら?」
前置きはさておき、今は移動中です。私はその警備する門に向かっている最中。偶然同じ方向に向かう加賀さんとばったり会い、一緒に行くことになったんです。
「話を聞いている限りだと、赤城さんと武下さんの判断は適切だと思うのだけれど」
「そうですよね……。悪い言い方をしてしまえば、非正規訓練を受けた傭兵ですからねぇ、私」
「……失言でした。すみません」
「え? あ、はい。……それより加賀さん。用事ってなんですか?」
道を歩きながら、そんなことを話します。
私がこの世界に来てからというもの、基本的に話をする艦娘と言ったら赤城さんや金剛さん、鈴谷さんばかりでした。
加賀さんはそれ以外の艦娘の中では、比較的によく話す相手ではありますね。
「ましろさんの警備する門、こっち方面ですと工廠裏の門ですよね?」
「そうですけど……」
「私は工廠に用があるんです。正確には工廠に集まっているだろう、赤城航空隊の妖精さんたちにですが」
どうして赤城航空隊の妖精さんに用事があるんでしょうか。加賀さんも空母の艦娘。自分の航空隊、加賀航空隊を持っているでしょうに。
それなのに、他の航空隊に用事があるとは変な話ですね。
「どういった要件なのか、訊いても良いですか?」
「構いません。……赤城航空隊に近日先行試験配備される予定の流星がどのようなものなのかと、運用方法を訊きに行くんです」
「赤城航空隊に先行試験配備される流星……。あぁ、アレですか」
私はその流星のことを知っています。
『海軍本部』との戦いで使用するだろうと、用意をすることになっていた改造流星です。爆弾倉に人を入れ、上空で降下させるというものですね。
「知っているんですか?」
「はい。アレがどういうものか、どれくらい知っていますか?」
「改造されている、ということしか知りません」
私は本格的な説明を聞く前に、予習のつもりで少しだけ説明をしておくことにしました。
「その流星は爆弾倉に人間を入れて降下させるために改造されたものですね。今後、運用する予定があるものです」
「人間を爆弾倉に……。奇っ怪なものですね」
「仕方ないですよ。ここには滑走路も無ければ大きい飛行機もありませんからね」
私の言う大きい飛行機とは輸送機のことです。
「落下傘部隊が必要になる事態が想定されているんですね」
「はい。『柴壁』内で再編成があったのはご存じですか?」
「知っています。『猟犬』が変わったとのこと。『降下猟犬』と『機械化猟犬』でしたっけ?」
「はい」
加賀さんが少し黙ってしまいました。多分、考え事でもしているんだと思います。
「となると、次の作戦には空母機動部隊が出撃することになりそうですね」
「『降下猟兵』を投入するかは分かりませんけども、可能性としては大いにあります」
「……前回の作戦は金剛さんが大筋を立案したと聞きました。赤城さんが作戦立案の指揮を執ってしまうと、どうしてもボロが出てしまいます。他の娘たちも外に出てくるようになりましたし、霧島さんに任せてみてはどうでしょう」
「まだ作戦立案にすら入っていませんが……霧島さんですか」
霧島さんのことでしたら、この世界に来てから鈴谷さんと初めて話した時に聞きました。
紅くんと艦隊運用法や作戦立案をしていた、と。
それでしたら、加賀さんからも霧島さんの名前が出てくるのは納得です。
「ましろさんもここが長いですし、話は聞いているでしょう?」
「はい」
作戦立案の場には私と武下さん。場合によっては他の『柴壁』も居ます。そして艦種代表。そこには霧島さんは含まれていませんが、呼んでもいいでしょうね。厚木飛行場の時にはビスマルクさんとフェルトさんも居ましたし。
かれこれ話していると、加賀さんの目的地に到着しました。
工廠からは作業音が絶え間なく漏れており、風下に居れば鉄と油の臭いが漂ってきます。
「では、私はこれで」
「はい。また、加賀さん」
「はい」
加賀さんが工廠へと入って行ってしまいました。
私はその姿を見送り、工廠裏の門へと向かいます。
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工廠裏の門。通称『第5通用門』には『番犬』の第4中隊 第1・2小隊が警備をしているそうです。ここに来る前、武下さんから聞いています。
私はここに配属になったことが、少しですけど嬉しかったです。この第5通用門の警備に配属されている小隊には、入った当初の訓練をしてもらっていた西川さんと、友だちの沖江さんがいますからね。
他の構成員が仲良くないという訳ではありませんが、特筆してよく話をしたりする相手がいますから安心します。
第5通用門に到着し、私は門の近くにある詰所の扉をノックして開きます。
通達も着ているはずですので、私が到着したことを知らせるのは社交辞令みたいなものでしょうか。
扉を開き、中にいる先輩方に挨拶をします。
「本日付で第5通用門の警備を命じられました、天色 ましろ二等兵です。よろしくお願いします」
詰所の中はかなり広く、20人近くが椅子に座ってそれぞれ思い思いに過ごしているように見えました。
「おぉ!! 話は聞いていましたが、お久しぶりです」
「西川さん!! お久しぶりです!!」
こうして会うのが久々なだけで、夕食の時とかは結構一緒に食べていたりします。
私は持ってきていた小銃の銃床を床に付けます。
空いている椅子に座っても良いんですけど、まぁ、下っ端ですし何か言われるまでこのままで居ようと思います。
「あ、ましろさん。腰掛けて楽にしてもらっていいですよ」
「はい」
そう言われたので、私は遠慮なく椅子に座りました。
椅子に座り、小銃を壁に立てかけると、西川さんが話しかけてきました。
「話は聞きましたよ。……まぁ、その武下大尉と赤城さんの判断は普通だと思いますよ」
「えぇ。私も考えてみましたが、まぁ、普通の判断ですよね」
私が『番犬』の任を任されることになった理由のことです。
やはり行き先でもそういう話は通しておくものなんですね。
「……取り敢えず色々と説明することがあります。覚えてくださいね」
「分かりました」
早速、この業務についての話が始まりました。
門を警備する上での必要なことや、休憩の取り方、緊急時の対処方法、備品の置き場所、交代のタイミングや時間配分等など。色々な説明が盛り沢山です。
「まずは警備をどうするか、です。警備の際には一個小隊全員約40名を半分に分けて、さらにそれを5チームに分けて行います。配置は門の内に8人2チーム。第5通用門周辺の所定のルートに12人3チームに分かれて巡回を行います」
結構な重警備ですね。まぁ施設の重要さを考えれば足りないくらいではあるでしょうけども。
「警備中の全員は小銃を携帯。平時は安全装置を掛けた、弾倉を刺した状態です。緊急時には薬室に弾薬を装填して、発砲時のみ安全装置を解除して下さい」
私はそう言われ、自分の小銃をチラッと見ます。
私の小銃には弾倉が刺さっていません。持ち運ぶ際には外して行動するように、訓練中に教わりましたからね。その教官は目の前に居ますが。
「休憩は同じチーム内の人間に伝えた後、できるだけ急いで休憩をして下さい。給水・お手洗いはその休憩を使って下さい」
結構緩いような気もしますね。私がこの世界に来る前に働いていた病院よりも、休憩のニュアンスが違うみたいです。
「緊急時には先程も言った通り、薬室に弾薬を装填した後、チームはそれぞれで判断し行動します。その事象に直接関わっているチームはそれの対応を。それ以外のチームは各々で判断し、行動します」
緊急時の対応は何だか普通ですね。各々で判断が多い気がしますが、まぁ、そういうものでしょう。
「この半個小隊で常時・緊急時に警備を行います。それで交代に関してですが、ここには二個小隊が振り分けられていますので、半個小隊で行う警備はそれぞれ6時間ですので、1日4交代制です」
なんというか、勤務時間が実質6時間っていうのが素晴らしいですね。
「まぁ、それでも結構な人数がそれ以外でも警備をしていたりするんですけどね」
と、西川さんは付け足しました。まぁ、深く言わなくても意味は分かります。
つまり、半個小隊での決められた警備外でも警備を行っている、ということです。
「備品の置き場所ですが、まず何が備品としてあるかです。各通用門には連絡用の装輪装甲車が2両、放水砲が1門、探照灯が2つあります。それぞれは同じ倉庫に保管されています。この他にも個人携帯用の催涙手榴弾や鎮圧用ラバー弾を撃つショットガンなども同じく倉庫に保管されています」
この鎮守府には2桁までは行かないものの、結構な数の通用門があります。そしてそこに正門があるんです。
そう言った装備は結構揃えてあるんでしょう。
「交代のタイミングですが、引き継ぎのチームと合流してから一度この詰所に戻ってきた後、自由になります。その時間は何をしていただいても結構です。自ら率先したその時間も警備を行うか、艦娘たちと遊んできても良いです。夜はもちろん寝て欲しいですけどね」
夜には夜に割り当てられたところが警備をするんでしょう。
それにしても、私には気になったことがありました。『柴壁』は門の内側しか警備していないんです。門の外側に居る人たちは何なんでしょうか。
「訊いてもよろしいでしょうか?」
「はい」
私はそのことを訊いてみることにします。
「門の外の人たちは一体何処の誰なんですか? 私たちが警備するのは内側だけですよね?」
そう聞くと。西川さんは少し間を開けて話を再開します。
「彼らは私たちが軍を辞めてから派遣された、新しい門兵ですよ。ですけど海軍も人員不足ですから、本来ならばこういう配置にならない憲兵が来ています」
まぁ、大筋分かりました。『柴壁』とはほとんど同じようなところから派遣されている人間が警備をしている、ということです。
それも外だけみたいですが。
「勤務内容は私らが門兵として居た時よりも酷いみたいですよ。人数は少ないので2交代制らしいですし、人数もそこまで居ないですからね」
そう言って西川さんは話を変えました。
もう説明は終わりみたいですね。
「分からないことがあれば、同じチームの兵に訊いて下さい。次の交代でましろさんにも出てもらいますので、よろしくお願いしますね」
「はい」
こうして私の『番犬』としての任務が始まったのです。『血猟犬』所属ですけども。
まだ交代まで時間があるということでしたので、私はそのまま腰を掛けて目を閉じました。
次の作戦が最期。これを終わらせれば紅くんに逢えるんです。ですが、攻略目標が『海軍本部』の司令部的なところです。厚木飛行場のようには上手く行かないでしょうね。
そんなことを考えながら、次の時間までを過ごしました。
最近の本編の内容が、全然艦これ関係ないなって思っているのは自分だけではないはず……。
ということで、少し休息のようなものに入ります。物語の中で、です。
今後数回続く予定ではあります。
ご意見ご感想お待ちしています。