【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話 作:しゅーがく
第9通用門の横を通り過ぎ、十数分歩くと海沿いに出てきます。
岸壁がかなり長い距離続いていますが、この海岸線の1/3は要塞砲で埋め尽くされていました。
巨大な砲塔。太くて長い砲身。それ全てをひっくるめて、私が何十人何百人という大きさの要塞砲は、ずっと海の方に砲門を向けています。
「これを見たのは初めてですか?」
「いいえ。こっちに来たばかりの頃、案内されて一度見ています」
「そうですか。……大きいですよね。何でも長門さんたちが積んでいる41cm連装砲とほぼ同じものらしいですよ」
私の目の前をその41cm連装砲が通り過ぎていきます。超巨大なそれのことは、私も艦これをやっていましたのでそれなりには知っているつもりです。
フィット砲なんて言葉もありましたが、私は知りません。取り敢えず開発で手に入る一番強い砲だからと云って、戦艦の艦娘には片っ端から装備させていた記憶があります。
「これは破壊されても代わりが作れるそうですから、運び込まれた数16基全てが今も動いていますよ。とは言え、最初はバンカーに収まっていたものですけど、今では長門さんの主砲と同じ状態になってしまっていますけどね」
苦笑いしながら、沖江さんはそんなことを言います。
昔は要塞砲の周りをコンクリートで囲っていたなんて、想像も付きません。今は41cm連装砲そのものですからね。
そんな要塞砲群の横を歩いていくと埠頭が見えてきます。
要塞砲とは比べ物にならない程、巨大なその構造物は建物なのではないかと錯覚する程に大きいです。
そんな艤装を見て感動をしてはいるんですけど、1つ問題があります。艦娘なら見れば誰だか分かりますが、艤装を見ても誰のものなのかが全然分かりません。
「凄いですね……」
「いつ見ても凄いです。……さっきは日替わりで変わっていると言いましたが、この前の作戦までは変わってなかったんですよね」
沖江さんはそう呟きます。
確か、ここに停泊している艤装はだいたいがその日や前日に戦闘を行った艦娘の艤装があるということになりますね。毎日出撃していた頃からすると、毎日変わっていたことになりますもんね。
そんな話をしているところに、深谷さんが話に入ってきました。
「ここにあるのは厚木飛行場に行った艦娘の艤装ですよ」
「まぁ、そういうことになりますよね。となると、あの似た形をしている大きい艤装は榛名さんと霧島さんのですか」
「そういうことになりますね。……って言いますけど、どっちが霧島さんので榛名さんのなのか、全然分からないんですけどねー」
そう言って、深谷さんは笑います。確かに見てもどういうところに違いがあるのかなんて、全然分かりませんね。姉妹艦ですからね。
他にも並ぶ艤装に目が行き、あれやこれやと沖江さんと深谷さんに教えて貰いながら埠頭を通過します。
艤装を見るのは面白いです。普通、女の人はこういうものに興味を示さないものですけどね。私は何というか、軍艦とかそういう視点で見ている訳では無いんですよね。
あの艤装1つ1つに艦娘が振り分けられていて、その人がその艤装と同じ名前をしていて、その人が笑っていたり、御飯を食べていたり、遊んでいたりするんです。
とてつもなく不思議な感じになります。
そんな風にして埠頭を通り過ぎようとしていた時、神崎さんと杉原さんが会話の輪に入ってきました。
「嬢ちゃん。榛名ちゃんの艤装の艦首1・2番砲がダズル迷彩に塗り替えられているから、簡単に見分けが付くと思うぞ」
私はバッと振り返り、それを確認します。
さっきまでは艦尾しか見えていませんでしたが、今では全体が見えます。それに丁度良く、金剛型が並んでいるので良く分かります。確かに艦首の砲塔の色が白黒になっている艤装がありますね。
「アレが榛名さんの艤装なんですか」
「……そう。だが、他の金剛型の艤装の見分けは難しい」
あ、神崎さんが口を開きました。
これまでに自己紹介以外で口を開いているところは見たことありませんでしたからね。それに『番犬』の仕事をするようになるまでは、一言も話したことがありませんでした。今回の『番犬』の仕事をするようになって、初めて会った人の1人です。
「そうなんですか?」
「あぁ」
また口を閉じてしまいましたね。
私たちはそのまま入渠場へと近づいていきました。
入渠場。艦娘の艤装が損傷した際に、修理のために入れられるところですね。私のイメージだとお風呂に艦娘が使っているようなものしか思いつきませんが、艦娘寮には大浴場があったはずです。なら、ここは本当に船を修理するところなんでしょうか。
確かに、見てくれは鎮守府の建物の中でもかなり大きいものですね。工廠よりかは大きくないと思いますけど。
「毎日ずっと動いていた入渠状も、ずっとコレですよ。昨日は少し動いていたみたいですけどね」
厚木飛行場制圧中、会場に居た海兵以外からの攻撃はそれなりにありましたからね。
「海域奪回作戦が発動される度に、私たちや酒保の人たちもここで帰りを待ったものです」
感慨深そうに沖江さんはそう言いますが、それって良いことだったんでしょうかね。
「まぁ、その後お叱りを受けるんですけどね!」
やっぱり駄目だったみたいです。
この後は入渠場を通り過ぎ、特に何がある訳でもないところを歩きます。
ただの海岸線を通り、滑走路跡が見えてきます。巡回はまだまだ回るところがありますから、沖江さんたちと話しつつ時には静かにしながらも巡回を完遂しました。
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私は寮の前で待っています。
先程巡回も終わり、昼食を食べて、ひとっ風呂浴びた後にここに来ています。
これから何をするのかというと、沖江さんと一緒に鎮守府の外に買い物に行きます。私は付き添いみたいなものですけどね。
冷蔵庫の中も確認してきましたし、良いものがあれば私も何か買おうかと考えています。
「お待たせしましたー」
沖江さんが寮から出てきます。
私はこの世界に来たばかりの時に買った服です。特に理由もなく選んだ服ですが、これまで着る機会がありませんでした。
何度か買い物に行こうかと考えてはいましたが、想像以上に必要なものは少なく、寮内に設置されている売店でも手に入るもので満足していたので、今まで鎮守府の外には出たことが無かったんですよね。
沖江さんの私服姿は何度か見たことがあります。
その度に思うことですが、やはりこうやって見ていると軍人には見えませんね。憲兵だなんて以ての外です。
今日はどうやら膝上までの黒いプリーツスカートに白いブラウス。青のカーディガンを羽織っているみたいです。
ヘルメットを被っていませんし、フェイスマスクもありませんので違和感が少しありますね。
そして驚きなのが、足元です。ヒールの低いパンプスを履いています。沖江さんくらいの歳ならば、ヒールの高いものを履いていてもなんらおかしくありません。
「さーて、行きますよー」
そう言って沖江さんは歩き始めます。
外を出歩く時、一応ではありますが、私たちは拳銃の携帯を義務付けられています。
軍だった時は分かりませんが、このご時世ですので、そういう措置が取られているみたいです。女性は特に携帯しろとのこと。
私も持っていますが、もちろん沖江さんも携帯しているでしょう。
何処に隠しているかは分かりませんが。
「そういえばましろさん。拳銃はどこに?」
門を出る前に、沖江さんが訊いてきます。
外出する際には、最低限持っていかなければならないものがあります。
認識票と拳銃です。認識票は門を通る時に必要になります。外の門兵さんと、内の『柴壁』に見せてからでないと入れません。
私は拳銃を取り出します。
私は拳銃をカバンの中に入れています。こんな格好(黒のレギンスパンツに灰色のパーカー)をしていますからね。パーカーのポケットに入れても良かったんですけど、形が出てしまいますので、すぐに分かってしまいます。
「ありますよ。沖江さんは?」
「ここに」
そう言って沖江さんは、スカートをバサッと上げて拳銃を出しました。
一瞬、どこから出したのか分かりませんでしたが、すぐに分かりました。
多分、普段使っているホルスターをそのまま足に付けているんです。向きを変えて。
「いやぁ、いつもこうやって携帯していますよ。……って、そんな目で見ないで下さい」
「……そこに入れるんですね」
「ショルダーホルスターが欲しいんですけどねぇ……」
「あったとしても、何かしら持っているのはバレバレですよ」
そう言いながら、私たちは認識票を見せて外に出ます。
何だか立っていた『柴壁』の人が顔を赤くしていたのは気の所為でしょうか。
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第5通用門を出て十数分歩いたところにあるスーパーマーケットに来ました。
スーパーマーケットとは言いましたが、普通のとは違い、中に衣類やら家電やらブランドのテナントが入っている大きな施設です。酒保ほどではありませんが。
その中をウィンドウショッピングしながら、食料品が売っているコーナーへと入って行きます。
「プリン~アイス~シュークリームぅ~」
そんな変な歌を歌っている沖江さんですが、私も少しテンションが高くなってきていました。
約半年ぶりの買い物ですし、何より違和感がないんです。戦時下にあるとはいえ、食料物資が不足していない日本皇国ですから、かなり潤沢に食べ物が置いてあるんです。
砂糖や卵、小麦粉を大量に消費するお菓子が山のように積んであるんです。
「私も何か買いましょうかね」
そう呟きながら、私は棚に置かれた商品を見ていきます。
沖江さんもかごにポイポイいれています。いつも袋を大量に持って帰ってくるので分かってはいましたが、買い物かごにこれだけお菓子やスイーツが入っていると違和感があります。
そういうこともあり、何か目立っているような気もしました。
カゴに山のようにお菓子やスイーツを入れている若い女性、鼻歌混じりであれこれと入れているその姿は確かに目立ちます。
私はそこまでポイポイ入れていませんので、そんなに多くはありませんが、沖江さんはどうしても目立ってしまいます。
「あ、ちょっと会計に行ってきますね」
どうやらカゴがいっぱいになったのか、会計に行ってしまった沖江さんを尻目に、私も切り上げようかと少しカゴに入れてから会計に向かいます。
レジにかごを置き、レジ打ちのおばちゃんがバーコードを読み取っている間、沖江さんは袋に買った商品を詰めていました。
「1852円ねー」
私は財布をカバンから取り出し、2000円を置きます。
その時、おばちゃんの動きが止まりました。目線を追ってみると、その先にあるのは私のカバン。
肩から掛けていますが、今は前にあります。
物をそこまで入れる人でもない私のカバンはそれなりに小さいです。中には財布とハンカチ、ティッシュ、エチケット用品と拳銃が入っていました。
冷や汗が額に滲み出たのが分かります。
「に、2000円のお預かり、ね」
手元を見ずに、おばちゃんは私のカバンから目を離しません。
「お、おつりの148円……まいど」
私はカゴと袋を受け取って移動しようかと思ったその時、おばちゃんに呼び止められました。
そのレジには私の次の客はいません。時間帯ですし、他にもお客さんは少ないようにも見えました。
「あ、ちょっと」
「……はい」
私はカゴを持ったまま、振り返ります。
おばちゃんはマスクをしていますので表情が分かりませんが、雰囲気が変わったのを感じました。
目つきが変わり、レジの台に手を乗せて口を開きます。
「あ、アンタ……」
何を言おうとしているんでしょうか。強烈な緊張が私の身体を襲います。
私の視界には映っていませんが、沖江さんは既に袋詰を終わらせていたみたいで、私の耳には館内アナウンスと空調の音しか聞こえてきません。
静けさが辺りを包み込み、私に底知れぬ緊張感が襲いかかります。
「もしかして……メス犬なの? 貴女……」
何ですか、それ。私は理解が追いつきませんでした。
いきなり呼び止められ、そう私に訊いてきたんです。『メス犬』とは一体、どういう意味なんでしょう。
底知れぬ緊張感に不快感が追加されます。
この状況、私はどう動けばいいんでしょうか。
このおばちゃんの纏っている雰囲気は、さっきのレジ打ちをしていた時のものとはまるで違います。全く別のものへと、さっきの一瞬で変わってしまっていたんです。
私の身体は硬直してしまいました。
脳の処理が追いつかなくなったんです。
特別編短編集の方が、昨日一区切り着きましたね。
それは置いておきましょう。一応、他作品ですし……。
ということで、今回は束の間の休息というサブタイを被った別の何かです。
初のましろ鎮守府外への私的な外出です。
細かいことはいいませんよー。ネタバレになりますし……。
ご意見ご感想お待ちしています。