【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話   作:しゅーがく

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第57話  束の間の休息⑤

 

 今日は休みです。小隊がまるまる休みなんですけど、半分くらいの人が外出していきました。家のこととかあるみたいです。

沖江さんも家に戻ると云って、早朝に出ていったそうです。それで暇を持て余した私は、皆さんが休日もやっているという"サービス警備"をやろうと思い立ちました。

休日扱いですので、警備の際に必要な小銃と拳銃、無線は使えません。第5通用門の詰所に行っても、管理の人からは借りることが出来ないんです。

ということなので、普段から身につけてもいいとされているナイフを腰にぶら下げて、鎮守府内を適当に散歩することにしました。

 

「はぁ~!! 天気が良いですねぇ」

 

 そんなことを呟きながら、私は歩きます。

横を通り過ぎていく艦娘の皆さんも、元気よく挨拶をしてくれます。私の見たことのない風景ではありますが、コレが本来の鎮守府の姿なんでしょうか。

 たまに、私と同じように装備を付けていない『柴壁』を見かけます。私と同じでサービス警備でもしているんでしょうか。

その人をよく見たら長政さんです。相変わらずフェイスマスクをしていますね。

 

「あ、どうも」

 

「おはよう、ましろ二等兵」

 

 長政さんは『ましろ二等兵』と私のことを呼びます。紅くんと名字が同じですから、言いわけているんでしょう。

 

「長政さんもサービスですか?」

 

「そんなところだ。……サービス警備をしているのなら、この後付き合ってくれないか?」

 

 突然、長政さんはそんなことを言い出します。

何か手伝って欲しいことでもあるんでしょうか。私はてっきり、運ぶ荷物があるだとかそういうものだと思っていたんです

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「……で」

 

 私は長政さんに手伝って欲しいといわれて、付いていった先は、私の想像していたところとは全然違いました。

警備棟にある一室。第3会議室。いつも使うのは第1なので、初めて入る部屋です。そして、そこで待ち受けていたのは……。

 

「う~ん……」

 

「お姉さま、ブランクがある分忘れてませんか?」

 

 ビスマルクさんとオイゲンさん。

何かしていますね。

 

「電子辞書貸して下さいぃ~」

 

「ほら、これ使いなさい」

 

 英語のテキストを片手に、電子辞書を求める阿武隈さんとそれを貸す五十鈴さん。

 

「じゃあ、ましろ二等兵。質問されたら教えてやってくれ」

 

「えっと……どういうことです?」

 

「警備棟第3会議室は、戦術以外の勉強をしている艦娘に向けて自習室として開放している。というか、自然とここに集まってきた」

 

「本部棟にも空き部屋はたくさんありますよね?」

 

 つまり、ここは小さな塾みたいになっているということらしいです。

 

「最初は本部棟でやっていたそうなんだが、勉強が進むに連れて分からないところが出てきたらしい。どうして良いか分からなくなった艦娘たちは、紅提督に助けを求めたと。それで、紅提督は私たちに依頼をしたんだ。警備棟で教えてやってくれないか、とね」

 

「そんなことが……」

 

「あぁ。今では個人の自習は本部棟の資料室。教え合ったり、分からないところがあればここに来るといった形になっている」

 

 なんというか……何ともコメントし辛いものです。

 

「という訳で頼んだ。俺も質問の受付をするから」

 

「分かりました」

 

 という具合に、突然講師をすることになりました。

 私には筆箱と辞書、無地の紙、参考書が支給されました。それを使い、質問を受けた問題の解説をしろということです。

私としては得意不得意があるので、不得意のものを言われたら困るんですが……。

 隣の長政さんも同じものを出し、質問を待っています。

何というか、暇ですね……。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 ぼけーっとしていると、私の前に誰かが立ちました。

 

「質問、良いですか?」

 

「はい。どうぞ」

 

 阿武隈さんです。手にはノートと英語の参考書。教えられる科目ですね。

 

「ここなんですけど……」

 

「はいはい。えぇと……」

 

 参考書に目を落とします。

英語の文章題です。問にある問題を読み、私の方も考えてみます。

読んでは見たものの、別に難しい問題でもないですね。特殊な単語を使っている訳でもなければ、文法も普通に勉強していれば分かるものしかありません。

 

「うーん……。とりあえず、これを解く時に何をしましたか?」

 

「問題を順に解きつつ、英文も同じように読み進めたんですけど」

 

「それじゃあ駄目です。一度、英文を全て読んで下さい。それから、問題を解いていくんです」

 

「やり方ですね。分かりました!! ありがとうございます」

 

 阿武隈さんは戻っていきました。

この後も数分置きに、1人の割合で質問に来ます。私はそれの応対をしていきますが、困ったことが起きました。

五十鈴さんが来たんです。それは問題ではありません。持ってきたものが問題だったんです。

 

「えっと……」

 

「物理よ。分野は波ね」

 

 科目が物理だったんです。私は高校生の時に物理Ⅰ(物理基礎)しかやっていないんです。

波は物理Ⅱですから、分からないんですよね。

 

「すみません。……物理はやってないんです」

 

「そうなの?」

 

「はい。私が教えられるのは数学と英語、国語、生物くらいです。他は苦手科目だったんですよ」

 

 本当の話です。ちなみに物理Ⅰでも赤点ギリギリだったので、習ってはいましたが教えれません。

 

「じゃあ長政に訊いてくるわ。ありがとう」

 

「いいえ。こちらこそ、力になれずにすみません」

 

 五十鈴さんは離れていきました。

 こうして時間が過ぎていき、会議室が茜色に染まる頃、長政さんに声を掛けられます。

時間ではあるんですけど、私が来た時から人数は減ったどころか増えました。それだけに、質問のスパンも短くなって大変でしたけどね。

 

「そろそろ終わりだ。皆も片付けて夕飯食べてこい!」

 

 長政さんの声で、皆さんは片付けを始めます。終わり次第、会議室を出ていきます。そして最期まで居たビスマルクさんとオイゲンさんが出ていったのを確認した私たちも、会議室を出ていきます。

鍵を締め、鍵を返しに行き、寮に向かいます。私たちも夕飯を食べに行くんです。それに、この時間なら小隊の皆さんも帰ってきている頃でしょう。

 

「付き合ってくれてありがとう」

 

「いえいえ、気にしないで下さい」

 

「いつも1人で大変だったんだ」

 

 そう言った長政さんは、寮に向かう道すがら、あの会議室でのことを話してくれました。

紅くんに頼まれて開いたのは良いが、教えるために常駐できる人間があまり居なかったこと。片手間にやることで、休暇返上くらいしないといけないこと。そもそも教えれる人が少ないこと。

そう言った訳で、長政さんと他数人で回している現状らしいです。その数人は全員が元『猟犬』。何かなければずっと暇をしているところです。

今は長政さんは『降下猟犬』らしいですけど、他の人達は『機械化猟犬』に変わったそうです。

 陽もかなり傾き、薄暗くなって来た頃、長政さんはあることを訊いてきました。

 

「また、頼めないか?」

 

 あの会議室での質問を受け付けるのを、頼めないかということです。

人手不足なのは聞いて分かりましたし、断る理由もありません。

 

「良いですよ」

 

「ありがとう」

 

「えぇ」

 

 そう言っていると、寮に着きました。

今まで気にしてきませんでしたが、かなりお腹が空きました。それに、沖江さんたちも帰ってきている頃でしょうね。何か土産話でも聞ければ良いんですけど。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 艦娘寮に戻ってくると、沖江さんたちは既に帰ってきていました。

私は私室に戻り、ベッドに寝転がります。普段やらないことをすると、かなり疲れますからね。

 ゴロゴロしていると、夕食の時間になります。

私の部屋に沖江さんが来ます。夕食のお誘いですね。

 

「ましろさーん。行きましょー」

 

「今行きます」

 

 BDUがちゃんと着れていることを確認し、私室から出て沖江さんと合流します。

 私服だったであろう沖江さんはBDUに着替えており、いつも通りの格好になっていました。

ですけど髪型まではいつも通りには戻っていません。少しよそ行きの様子です。

 

「家に戻っていたんですよね?」

 

「はい。実家まで」

 

 地雷を踏んだと思いました。沖江さん。今にも泣きそうな表情になりましたからね。

 

「ううう……。帰るという連絡は昨日の夜にしてあって、始発で戻ったんですけど、両親に色々言われまして……」

 

「何を言われたんですか?」

 

 踏んでしまったのなら、最後まで付き合いましょう。そう諦めを付け、私は沖江さんの愚痴のようなものを聞くことにしました。

 

「『憲兵になって昇進して、あの横須賀鎮守府勤務になって鼻が高いよ!』って前帰った時には喜んでいたんですけど、今日は怒られました……。『離反したんだってぇ? 横須賀鎮守府の私兵になったそうじゃないの。どういうこと?』と母に言われて、父には『ニュースで見たが、同胞を討ちに襲撃したそうじゃないか。いくら情勢が情勢とはいえ、味方を撃つような娘に育てた覚えはないぞ!』と言われてしまって……」

 

 思った以上にドデカイ地雷でした。

私が返答に困っていると、沖江さんは話を続けます。どうやら私が返答しようとしていることに気づいていないみたいですね。

 

「挙句の果に『逮捕もしくは軍法会議に掛かったら絶縁』って言われて……うううっ……グスッ」

 

 かなり酷いことになっていたみたいです。

やはり鎮守府の外に出てみると、そういう認識なんでしょうか。

 そもそも聞いた話によれば、国民は戦争に関する認知がかなり甘いらしいです。言ってしまえば国民のほぼ全員が『日本皇国が戦争をしている』という事実を認めていないんですよね。

その事実に私が驚きですし、一部の人間は戦争を認知していたとしても戦争に否定的みたいですからね。

沖江さんのご両親もそういう感じなんでしょう。現場に居ないと分からないこともありますからね。

 

「私、悪いことをしているんでしょうかぁ~!! 正しい道を歩んでいるつもりですのに……」

 

「あぁーもう、泣かないで下さいよー」

 

 遂に泣き出してしまいました。仕方のないことだとは思いますけど、どうしようもありませんからね。

メディアに公開されている事しか教えることが出来ないですし、もし沖江さんがそれ以上のことを話してしまうと本当に逮捕ですからね。軍規的にも。軍ではありませんけど。

 私は沖江さんにハンカチを渡し、背中をさすります。

 

「分かってはいましたけど……やっぱり、開示されてる情報だけでは正しい判断が出来ないんですねぇ……」

 

「もうそろそろ着きますから、涙ちゃんと拭いて下さいよ」

 

「はい。……グスッ…………はぁ……。早く紅提督帰ってこないですかねぇ……」

 

 そんなことを呟きながら、沖江さんは食堂に入っていきます。私も一緒に入り、注文をして席に座りました。

 他の一角でも、空気が淀んでいます。

どうやら沖江さんと同じく、実家に戻ったりした人がああなってしまっているんでしょうか。

 

「これ……本当にどうなるんでしょうか……」

 

 そんなことを呟きながら、私は沖江さんに水が入ったコップを渡します。

 沖江さんをなだめつつ摂った夕食は、少し嫌な気分になりました。

この国の国民の認識や、正確な情報を伝えないメディア。そもそものことの元凶である『海軍本部』……。『海軍本部』さえなければ、沖江さんたちは泣かなくて済みましたし、認識によっては離反になるようなこともしなくて済みましたからね。

 

 





 束の間の休息という皮を被った別物でしたね。一応、このサブタイも今回で終わりです。
事態が動き出します。

 ここ数日ですけど、こちらの執筆がかなりおろそかになってきています。別方面での執筆はそこそこやっているんですけどね……。全体的に作業速度が落ちました。
刺激になるようなこともやっているんですけどね。基本的に本屋に行ったりですけど。
 それは置いておいて、そんなことを言っていますがストックは結構あります。あと1週間は書かなくてもいい程度にはですけど。
 それと今更なんですけどね、色々と方向転換をしています。詳しくは言いませんが、このエンディングも結構近づいてきましたね。……それだけです。

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