【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話 作:しゅーがく
私と金剛さん、巡田さんは会議室に入りました。
中は至って普通な会議室です。机が楕円状に並べられています。巡田さんと金剛さんは並び、その正面に私は座りました。
「金剛さんからお聞きしました。私に何かして欲しいそうですね?」
「はい」
私のところに戻ってくるまでに、金剛さんは巡田さんにある程度、話してくれていたみたいですね。
心の中で金剛さんにお礼を言って、話を始めます。
「人探しを、お願いしたいです」
「ふむ……私は探偵ではないんですが。それで、どんな人を探しているのでしょうか?」
そう巡田さんが訊いてきました。反射的に携帯電話に手が伸びましたが、出す寸前で躊躇しました。この場で写真を出すと、面倒な事になると思ったらです。
そもそも、巡田さんに写真を見せたところで、どうしようもないんです。探している対称が、ここの提督ですからね。
「私と同じ、異世界からこの世界に来た人です。と言っても、私よりもかなり前に来ているみたいですけども」
私がそう言いますと、巡田さんの表情が険しくなりました。
「少し、席を外して貰えますか?」
「……分かったネー」
突然、巡田さんが金剛さんを会議室から追い出しました。理由が分かりません。
「どうしたんですか? 金剛さんを追い出して」
「どうしたもこうしたもないです。異世界から来た人を探して欲しいって……碧さんはともかく、私が知っている限りだと提督しか居ません」
そう言った巡田さんは、私に訊いてきました。
「もしかして、探している人というのは、提督の事ですか?」
巡田さんに言われて、私は初めて気付いた事があります。よくよく考えて見れば、異世界から来た人で自分から堂々と、『私は異世界から来ました』なんて言う人は居ないでしょう。それを私は堂々と、言って回っています。そして、どうしてか知りませんが、この艦これの世界では、紅くんが異世界から来た人だということが知られています。普通に考えれば、私が探している私と同じように異世界から来た人なんて、紅くんしか居ません。だから、あの機関銃のあったところで会った男の人は、私はここに導いたんでしょう。
私は悩みました。ここで、本当の事を言ってしまいましょうか。それとも、嘘を貫き通しましょうか。
ですが、ここで本当の事を言っておいた方が、良いのかもしれません。そう、私の心は揺らぎました。
私は、携帯電話をポケットから取り出し、画面に紅くんだけが映る写真を、巡田さんに見せました。
「この人です。私が探しているのは」
そう言って私は、紅くんの写真を巡田さんに見せました。そうすうと、巡田さんの様子がおかしくなりました。顔が次第に青くなり、頭を抑え始めたんです。
私はなんと言えばいいか、わからなくなりました。
この写真を見せたなら、私が何者かなんて分かってしまうでしょう。
「こっ、この方はっ……てっ、提督?! しかも、第二種軍装ではない、高校生が着ているようなブレザー……」
今までの反応でハッキリしました。この人はまだ若いし、経験が浅い様です。口から感情が駄々漏れしています。斯く言う私も、人のことを言えないですけど。
ここから先、何を言おうか悩みました。偽るか、本当の事を言うかです。
私は考えます。どちらが正解なのか分かりません。
「貴女は一体、何者なんですか? 提督の写真を持って、探しているだなんて」
単純な疑問でしょう。こんな写真を持っている事が、この世界ではおかしい事なんです。
そんな私は、答えに悩んでいます。どう答えたものかと。
先ほど、私は偽名を名乗りました。それをコロッと『さっきのは偽名です』なんて言ったら、どうなるか分かりません。それに、巡田さんに会う前、西川さんから聞いたあの話、横須賀鎮守府の警備状況に関して、気になるところがあります。こんな状況になってしまった経緯が、単純に気になっているんです。
「質問に答えて下さい。もし答えないのでしたら、実力で貴女を"消す"事も出来るんですよ」
黙って考え事をしていた私に、そう巡田さんは言いました。それに後で言った言葉が気になります。私を"消す"事が出来るということはつまり、殺せるということでしょう。
「殺人罪になるのでは? 無抵抗な人間を殺すとは」
ここで私が落ち着いていられるのは、人を殺すための道具が見当たらないからです。もし、巡田さんの手で首を締めるなりして殺すなら、抵抗する猶予は何秒かでもある筈です。
ですが、武器があればどうでしょうか。一瞬で私は殺されてしまいます。
「私が何者か答えてもいいですが、その前に拳銃やナイフは床に置いて下さい」
これは保険です。巡田さんが何者か分かりませんが、ここの警備をしている人間となると、武器を持っているのは確実です。
巡田さんは私に言われた通り、拳銃とナイフを床に置きました。やはり持っていたんです。
「これでいいですよね? これをさせるという事は、貴女が私"たち"にとって不利益な存在であると?」
私は意を決しました。本当の事を言います。私が紅くんの姉だという事をです。
「どうでしょうね?」
手に汗が滲みます。背中も暑くなってきたのと同時に、足も震え始めます。
「さっきのは……偽名です」
言ってしまいました。
「本名は、天色 ましろです」
何が起こるのか、それすらも私には分かりません。どんな反応を巡田さんがするのかなんて、私に分かる訳がありません。この世界にとって、紅くんがどんな存在だったかなんて、私には知る時間もありませんでしたからね。
「天色っ!? まさかッ!!」
予想に打って変わって、巡田さんの反応は私の想像とは全然違いました。
本名を言っただけで、巡田さんはこの世に絶望したような表情をしています。
何故、そんな反応をするのか分かりませんが、私は話し続けます。紅くんとの関係、この世界に来た目的を巡田さんに伝えます。
「横須賀鎮守府の提督である天色 紅は、私の弟です」
そう言った瞬間、巡田さんはしゃがんで拳銃を手に取りました。そして、その拳銃を操作すると、私に差し出しました。
「私を、撃って下さい」
唐突に巡田さんの言った言葉を、私は理解出来ませんでした。
何故、いきなり私に撃てと言ったのでしょうか。
「どういう事ですか?」
私は拳銃を受け取らずに、巡田さんに聞きます。そうすると、答えは返って来ました。
「横須賀鎮守府艦隊司令部司令官である天色 紅中佐、提督は……貴女が来られる数週間前に……」
巡田さんは、そう言いかけて止まりました。というより、躊躇しているみたいです。
「数週間前に、紅くんに何かあったんですか?」
私がそう聞くと、巡田さんは膝から崩れ落ちました。
涙を零し、焦点が合ってない目で私の目を捉えてきます。
「……腿と足の甲、左胸を撃たれたんです」
「うそっ……」
手と足が震えているのが、自分でも分かります。いきなり突きつけられた現実に、私は混乱しました。考えていた事も、全て阻害されてしまったんです。
「それに……私は約5ヶ月前、提督を撃ちました」
巡田さんが、何故そんな事を言ったのか分かりません。ですけど、強烈な殺意が込上がってきました。
反射的に、巡田さんが持っていた拳銃をひったくりました。そして、巡田さんの額に銃口を突きつけます。
「この距離なら、絶対に外しませんッ!!!」
身体が勝手に動きました。頭の中で私の声が、『こいつを殺せ』と訴えかけてきます。私の弟を、紅くんを撃った人なんです。
「命乞いをするつもりはありません。ですが、聞いて下さい」
私は答えこそしませんが、引き金から指を少し浮かせました。
「提督を撃った時、当時の私は洗脳されていたんです」
「洗脳?」
「はい。説明は省きますが、『海軍本部』という組織に以前、私は所属していました。そこは艦娘を統制し、深海棲艦との戦争を上から見下ろしていた集団です」
私は引き金から指を離しました。巡田さんの話は、聞く価値があると思ったからです。
「どういう意味ですか?」
「この世界は、貴女の思っているよりも複雑なんですよ。……『海軍本部』という組織は艦娘をモノの様に顎で指図して戦争を押し付けていた集団です」
巡田さんの言った事は、半分くらいは理解できました。最後の『海軍本部』という組織は、というところ以降はよく分かりませんでしたけどね。
「その組織に私は洗脳され、ある任務を任されたんです。その任務が『提督の暗殺』でした。目的は今でも分かりませんが、排除しなければならなかった事は確かです」
「紅くんを、ですか?」
「はい。それで洗脳されていた私は、何故か警備が厳重になっていた横須賀鎮守府に潜入しました。監視や警備の目を掻い潜り、提督の目の前に現れた私は撃ちました。ですが、当たったところは致命傷にはならなかったんです」
そう言って、巡田さんは自分の右胸に手を当てました。
「ここに当たりました。心臓には破片すら当たっていません。弾は身体を貫通し、肺に穴が空いただけで済んだんです。それから私の洗脳は解かれて、今に至ります」
どうやら洗脳が解けた事で何かがあり、その殺そうとした相手のいる横須賀鎮守府で働く事を決めたみたいです。
確かに、これだけでも複雑です。こんな事を細かく説明していたら、かなり時間が経ってしまっていたでしょう。
「まぁそれは置いておいて、です。撃たれた時の状況を知っているということは、目の前で見ていたということですか?」
巡田さんが何をしていたかなんて、どうでもいいです。紅くんがどんな状態で、どうなったのかを私は知りたいんです。
「はい。警備に800人以上投入し、艦娘の皆さんにも協力していただきました。ですが、拉致されてしまい、誰もいない廃工場で……」
手が震えます。拳銃の重みに耐えられないのと、怒りです。一体、誰がどんな目的で撃ったんでしょうか。
「見ているだけしか出来なかった私は、貴女になんと申し上げればいいかッ!! あの最悪な状況で、足を踏み出せなかった私を撃って下さいッ!!」
そう言って巡田さんは、拳銃を握っている私の手を掴み、支えました。外さないように、ということでしょう。
「肝心な事、忘れてませんか?」
そんな巡田さんの手を払い、私は拳銃を床に置きました。
「えっ?」
巡田さんは肝心な事を言ってません。その時の紅くんの容体、現在の様子です。それを聞かない限り、私は巡田さんを撃つ気になれないのです。
それにもし、紅くんが死んでいたとしたても、多分私には巡田さんを撃つ勇気はないです。人を殺すんですから。
「紅くんのその時の容体ですよ。巡田さん、最低限の知識はありますよね? どうなったら人が死ぬのかくらい」
私がそう言うと、すぐに巡田さんは答えました。
「先ず、腿を撃たれました。動脈血も出ていました。次に足の甲です。最後に右胸」
聞く限り、動脈血を出しているのなら酷い状態です。
「それからは?」
「軍病院に搬送されました。それからは……連絡がありません」
「こちらからの連絡は?」
「取りましたが、どうやら軍の要人扱いらしく、部下だと言っても教えてくださらなくて……」
どうなっているか、私には分かりました。紅くんは生きています。
死んでしまったのなら、この世界に来てからの経験から、かなり大事になるはずです。唯一心配なのは、障害が残っていないかだけです。
「成る程……分かりました」
私はそう言って手を差し伸ばします。
「それなら多分、生きていますよ」
「え?」
「死んでしまったのなら、大事になりますよね? 違いますか?」
「違いませんけど……」
「なら生きてます」
私は巡田さんを立ち上がらせて、拳銃を返しました。
「これといった根拠はありません。それでも、死んでないと断言できます。紅くんはこの国にとって、とても重要な存在。そうですよね?」
「はい」
「なら、紅くんの情報をシャットアウトするのは当然ですよね?」
拳銃を受け取った巡田さんは、弾倉を抜いて薬室の弾丸を抜くと、拳銃を仕舞いました。次にナイフを拾い、仕舞うと私に向かって敬礼をしました。
「ありがとうございますッ!」
「何がですか?!」
「私は前向きに考える事を放棄していたんです。この鎮守府は、いつも良くない事が降りかかり、その度に提督が払ってきたんです。その提督が居ない今、私は正常な考えをすることが出来ませんでした。考えてみればそうですよね。提督が要人なのは当然です」
巡田さんの表情から、沈んだ雰囲気は消え去っていました。
「少し用事が出来ましたので、失礼します!」
そう言って巡田さんは、走って会議室を出て行ってしまいました。
「あー。せめて、外まで連れてって欲しかったです……」
その一方で、私は置いてかれました。
ですけど、良かったです。最初、撃たれたなんて聞いた時、とんでもなく不安になりました。それでも状況を聞けば、簡単な事だったんです。
そんな状況なら、紅くんが生きている事は確実です。完治まで隔離でもされるんでしょうね。
急ではありますが、本作の本文を全て、リメイクすることになりました。
ですが、第7話まではリメイク前の文章です。リメイクしたモノは、追いつき次第、更新させていただきます。
リメイクしたモノはあとがきにリメイクした事を書き加えますので、見て判断して下さい。
ご意見ご感想お待ちしてます。
2016/05/15 リメイク版に更新しました。