【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話   作:しゅーがく

72 / 86
第60話  黎明の空、前日

 横須賀鎮守府から出撃する前日。

選出された作戦艦隊及び『降下猟犬』は警備棟、大会議堂に集められていました。

作戦艦隊旗艦を勤める大淀さん。第一戦隊旗艦の長門さん以下陸奥さん、金剛さん、比叡さん、高雄さん、愛宕さん。第二戦隊旗艦の扶桑さん以下山城さん、榛名さん、霧島さん、摩耶さん、鳥海さん。第三戦隊旗艦の鈴谷さん以下最上さん、熊野さん。第一航空戦隊の赤城さん、加賀さん。第二航空戦隊の蒼龍さん、飛龍さん。第五航空戦隊の翔鶴さん、瑞鶴さん。第一水雷戦隊旗艦の川内さん以下吹雪さん、白雪さん、夕立さん。第二水雷戦隊旗艦の神通さん以下磯波さん、叢雲さん、村雨さん。第三水雷戦隊旗艦の那珂さん以下綾波さん、敷波さん、時雨さん。第四水雷戦隊旗艦の大井さん以下北上さん、島風さん、白露さん。

『降下猟犬』全隊、95名。

ほぼ全ての席を埋め尽くし、作戦の最後確認を行います。ちなみに、『血猟犬』は先行して出撃。陸路で呉司令支部に向かっている最中です。

 

「それでは、最終確認を始める」

 

 武下さんが司会をし、始めます。私ももちろん同席しています。

 

「明後日、4月2日0800から発動される『黎明の空』作戦に際し、日本皇国海軍横須賀鎮守府群横須賀鎮守府艦隊司令部より編成された作戦艦隊、38名の艦娘及び私設軍事組織『柴壁』隷下『降下猟犬』全隊、95名は本日3月31日1400に横須賀鎮守府艦隊司令部から出撃。4月1日2200までに倉敷島東100kmの海域に到着」

 

 スライドが映されます。

 

「第一段階。『血猟犬』は倉橋島に先行潜入し、待機。可能ならば情報収集を行う。収集された情報は呉司令支部及び横須賀鎮守府艦隊司令部に発信。作戦艦隊には鎮守府を経由して伝えられる。日本皇国空軍航空教導団は羽田基地から出撃」

 

「第二段階。『血猟犬』が情報収集を行っている間、日本皇国海軍第二憲兵師団、第一海兵師団。日本皇国陸軍第三七機械化歩兵師団。は、日本皇国軍呉司令支部へ集合し待機。航空教導団は広島空港国際線ターミナルにて補給及びこの間に、何かしら妨害及び襲撃があると予想される。この時までに、作戦艦隊は倉橋島東100kmの海域に到着していることとする」

 

「第三段階。4月2日0800、作戦艦隊及び呉司令支部へ集合した全部隊は展開開始。倉橋島への侵攻を開始。航空教導団は対地・対空装備で倉敷島上空へ侵入開始」

 

「第四段階。作戦艦隊より第二航空戦隊から艦爆隊および護衛戦闘機隊出撃。倉敷島を航空爆撃。同時刻。第一、第三戦隊は作戦艦隊より離脱。先行して倉橋島へ接近を試み、航空爆撃後に艦砲射撃を敢行」

 

「第五段階。第二戦隊、第五航空戦隊は先行隊に続き倉橋島への航空爆撃と艦砲射撃を敢行。第二、第三雷戦隊は作戦艦隊旗艦の護衛位置に。同時刻。呉司令支部より出撃した陸上部隊は倉敷島に向け、攻撃開始」

 

「第六段階。第一航空戦隊及び第一、第四水雷戦隊は倉橋島へ。ある程度接近した後に、『降下猟犬』を乗せた流星隊及び護衛戦闘機隊は出撃。倉敷島に到着した流星隊より『降下猟犬』は降下開始。内部に潜入済みの『血猟犬』と共に『海軍本部』施設の制圧を開始。陸上部隊も掃討戦へ以降、倉敷島全島の制圧を行い完了させる」

 

 割りと完結に説明されました。受け取ってきた作戦書には陸上部隊の細かい動きも書かれていましたし、突発的な予想外の事象に関するリストアップもされていました。

それを今回は省略したんでしょう。指揮官レベルの人ならば知っている必要はありますけど、全体に対する確認ですから必要無かったんです。

 この後、質疑を取りましたが誰も手を上げることはなく、そのまま解散となりました。

解散とは言っても、これからお昼を取って作戦艦隊と『降下猟犬』の方々は乗艦待機ですからね。私はお昼を取った後、西川さんの運転で呉司令支部に向かいます。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 お昼ご飯は気を聞かせてくれたのか、カツカレーがメニューに入っていました。いつもなら特別な日にしかないらしいですが、今日がその特別な日らしいです。

そして『降下猟犬』の皆さんは、強制的にそれを食べさせられるらしいです。言われなくても食べると言ってましたけどね。

私も『降下猟犬』の皆さんと同じように、カツカレーにします。私は直接戦う訳ではありませんが、作戦に大きく関わる指揮所に入る訳ですからね。

 沖江さんたちに労われ、私は一足先に横須賀鎮守府を出発します。

西川さんは備えあれば憂い無しとか言いながら、乗っていく自動車を白の乗用車にしました。というより私物らしいです。どういう車種か分かりませんが、国内でも随一の自動車メーカーの自動車です。

 

「荷物は良いですか?」

 

「はい。さっきトランクに入れました」

 

「手元に必要なものは?」

 

「大丈夫です」

 

「BDUは?」

 

「トランクです」

 

 念には念を入れて、私も西川さんも私服を着ています。護身用の拳銃はホルスターに入ってますし、短機関銃は手の届くところにありますけどね。本当に念には念を入れています。

襲撃を受けるかなんて分かりませんのに……。

 『柴壁』には礼装がありません。全員基本的にBDU着用です。本当に必要な時にはスーツらしいですが、私の分は事前に採寸して注文しておきました。途中で受け取ってから行きます。

 全ての準備確認をして、私は自動車に乗り込みました。

内装も普通の一般車ですね。

 

「高級車じゃないですよ」

 

「あはは……。乗用車と言いつつ、軍の指定車両かと思いまして」

 

「違いますよ。あ、ですけど武器は積んでますよ」

 

「知ってます。私が積みましたもん」

 

 門の前まで出てきて、門を開けてもらいます。

 

「いってらっしゃい!!」

 

「行ってきます」

 

 正門担当の番犬の人と挨拶を話し、そのまま道路へと走り出ます。

そして高速道路に乗り、広島を目指します。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 西川さんとの広島へ向かう旅は終始話をして盛り上がり、途中で運転を交代しながら向かいました。

走行時間は約半日。時々渋滞しているところもありましたし、休憩もよく挟んでいましたからね。

そして広島、呉にある呉司令支部に着いたのは、出発した日の深夜でした。

 呉司令支部に入る前、私服からスーツに着替えて中に入ります。門兵の人にも、私たちがどこから来たかを伝えて様々な手順を踏み、中に入ることができました。

荷物は全て持ち、別の門兵の人の案内で寝る部屋に案内されます。女性用と男性用でいくつも用意されており、どうやら作戦に関わる人はかなりの人数が到着しているみたいですね。

西川さん曰く、男性用の方はかなり埋まっていたそうです。女性用の方もぽつぽつと埋まっていました。

 私は一番近い部屋に入り、荷物を置きます。

次の日は新瑞さんなどの作戦に関わっている将校の人と話をするらしいですが、私がいる必要があるんでしょうかね。そんなことを考えながら、お風呂に入って身支度を済ませ、眠りに落ちました。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 昨日、作戦に参加している部隊の指揮官が集まり、詳細な方針の決定や様々な確認が成されていました。

やはり私は座っているだけで、口を開くことはありません。後ろに立っている西川さんもまた然りです。

 基本的に呉司令支部での武装は、門兵以外はあまり認められていませんでしたが、私と西川さんは認められていました。

私はスーツの中にショルダーホルスターを付けて、護身用拳銃を携帯しています。西川さんもショルダーホルスターに護身用拳銃を持っていましたが、それに加えて短機関銃も持っています。

本当に念には念を入れた態勢です。

 そして今日、私は朝早くからあまり美味しくない朝食(呉司令支部のご飯は総じて不味い)を食べた後、作戦室に入っていました。

既に何人ものオペレーターが作業を行っており、あちこちに飛ばしているんでしょうが、偵察機の映像が正面に並ぶモニタに映し出されています。

新瑞さんによると、映像を送信している偵察機は無人偵察機らしいです。有人偵察は航空教導団がやるそうです。

 午前7時30分。作戦室に内線が鳴り響きました。

受話器を取った新瑞さんはテレビを付けるように、オペレーターに命令を下します。

 

『――――――おはようございます』

 

 テレビの向こう側に、壇上が中央に映されています。その背後には国旗が掲げられているだけの質素な背景です。

そして、壇上にはある壮年の男性が立っています。テレビ越しでもそのオーラは力強く伝わり、圧倒されます。そして私は今更ながら、テロップに目を向けました。

そこには『天皇陛下の激励』とだけあります。

 

『今日という日を、私は天皇として不本意ながら望んでいました。私個人が望んでいたことです』

 

 その語りは重くずっしりとしており、とても丁寧に話されます。

 

『不甲斐ない私の代わりにこの国を、この本土を、私の愛する全ての国民を守っていた存在――――――』

 

『――――――天色 紅は約1年前に、『海軍本部』という国のために考え、尽くしていた方に撃たれました』

 

『彼によって維持されていた日本皇国の平和は、その時に一瞬で崩壊し、私たちに再び深海棲艦の脅威に怯える日々が襲い掛かってきたのです』

 

『我が国の輸入に依存していた資源も絶たれ、沿岸部は深海棲艦の爆撃の音に身体を震わせています』

 

 無音です。聞こえてくるのは、テレビからの声と私の呼吸音。鼓動音だけです。

 

『あの日あの時、誰もがそのことを耳にしたことでしょう。天色 紅が撃たれたことを』

 

『日常にありふれる事件のひとつとした人もいらっしゃったことでしょう。ですが、この事件はありふれるものではありません。愛する国を窮地に叩き落としたのです』

 

『度々、報道番組などで横須賀鎮守府のことは報道されていました。あの青年が率いる艦隊が何のために何をしているのか、私たちに何をもたらしているのかを』

 

『日常生活レベルで言いましょう。私たちの食していた魚介類は、周辺の海から深海棲艦を一掃し、その状態を維持していた横須賀鎮守府があったからです。私たちが普段食べている食べ物、これは横須賀鎮守府にある技術により、日本各地に食料を生産するプラントを設けたからです。海岸にありますから、もちろん運営は私たちの誰もが関わっていません。どうして私たちの友人、家族が今も笑顔でいられるのでしょう。それは横須賀鎮守府が"私たちの代わりに"深海棲艦との戦争を一身に請け負っていたからです』

 

『責任が誰にあるなどではありません。本来、私たちが私たちのためにやるべき戦争を"彼らが代わりに"請け負っているんです。これは以前もお話しましたね?』

 

『それに重要なことを忘れていませんか? 天色 紅は異世界から自らの意志ではなく、この世界に連れてこられた挙句、代理戦争をしていたのです』

 

『非常に、私の情けなさに頭が痛いです』

 

 大きく間が開きました。

 

『今日、私の命によりある作戦が発動されます。愛おしいこの国と国民を脅かす存在を断罪するのです』

 

『既に賽はこの手で投げました』

 

『作戦に参加する全ての兵へ。皆さんの手は私の手です。彼らを討つのは私の手です。作戦が開始されれば、親兄弟友人を討つことになるかもしれません。きっと彼らを討ったことで、心を痛めるでしょう。そうしたならば、私を恨みなさい。自らを嫉んではなりません』

 

『全ての責任は私にあります』

 

『この放送が何のことだか……真相はすぐに分かることでしょう』

 

 画面が切り替わりました。

 約10分間ほどの話でしたが、あの言葉全てにとても重みを感じました。そして、何か心に湧き上がるものがあります。

何とも言葉で表現は出来ませんが。

 

「……よし。現状を報告せよ」

 

 最初に声を出したのは新瑞さんでした。

 

「作戦艦隊は予定海域に停泊中」「陸上部隊、出撃準備完了」「航空教導団、羽田基地から出撃開始しています」

 

 オペレーターが応答します。

 そして再び作戦室に静寂が訪れました。

作戦開始直前の緊張感に当てられながら、私は無人偵察機の映像を見ながら時間の経過を感じます。

ゆっくりと進む時間に、少し飽きが来始めた頃、新瑞さんが私に声を掛けました。

 

「緊張しなくても良い。力を抜いて」

 

「は、はい」

 

「彼我の戦力差は圧倒的だ。何か隠し玉を持っている可能性が十分にあるが、対応は出来るだろう」

 

 隠し玉。何かあるかもしれない、ということでしょう。私はその言葉を聴き、少し背筋が伸びます。

そして刻々と時間が過ぎていきました。

 

 




 遂にこの時がやってきました。

 後書きに書くべきことは、今回は少ないです。
あと、ここで次回の予習をしておきます。
今までは『ましろの一人称』で物語を進行してきましたが、次回からは途中で赤城の一人称で進行します。ご注意下さい。
次回の前書きにその説明は入れませんので、ご注意下さい。

 ご意見ご感想お待ちしています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。