【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話   作:しゅーがく

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第61話  作戦艦隊編 黎明の空① 

 4月2日0800。それは静かに始まりました。

 

「全作戦参加部隊に通達。これより『黎明の空』作戦を発動する」

 

 この作戦の指揮官である新瑞さんの号令の元、作戦室が急に慌ただしい雰囲気に飲み込まれていきます。

 

「HQより作戦艦隊。状況を開始せよ」「HQより第二憲兵師団、第一海兵師団は状況を開始せよ」「HQより第三七機械化歩兵師団、状況を開始せよ」「HQより航空教導団。攻撃隊は出撃せよ」

 

 オペレーターが指示を飛ばしていく中で、無人偵察機がそれを確認する映像を作戦室にまで送られてきています。

 敵戦力に関しては、先行して潜入した『血猟犬』より情報が伝えられていました。予想されていたのは、対空兵器及び軽装歩兵だけでした。念押しをして、陸上部隊には対装甲兵器を装備させていましたが、どうやらアチラ側に戦車があるようです。隷下に付けた部隊に戦車部隊でも居たんでしょう。大隊規模の戦車部隊があるという報告を昨日の時点で受けていました。そして総戦力も。

確認出来ているだけでも陸上部隊は、こちらが用意している部隊よりも半分にも満たないです。ですが、戦車や自走砲はもしかしたらアチラのほうが多いかもしれません。

そして航空戦力は少ない様で、戦闘ヘリが中心となった部隊構成のようです。一部、戦闘機隊がいるみたいですが、航空教導団に刃が立つとは思えません。

 

『作戦艦隊 大淀了解いたしました』『第二憲兵師団了解』『第一海兵師団了解』『第三七機械化歩兵師団了解』『航空教導団了解』

 

 瀬戸内海に浮かぶ艦隊が動き始めます。これまでに見たこともないほどの巨大な艦隊に、私は少し圧倒されました。そして私のいる呉司令支部からは、トラックや戦車などが長い列を成して出撃していきます。

これでも集まった数は少ない方だと新瑞さんは言いました。ですけど、私から見れば大部隊です。途切れることなく続くトラックの線は、永遠に続いているのではないかと錯覚する程でした。

 順調にことを動かしていきます。

そして、私たちはあることに直面することになりました。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 作戦艦隊全体の指揮を執っているのは大淀さんということになっていますが、彼女の存在は情報収集と情報伝達が任になっています。なので、実際のところは少し違っていたりします。

水上打撃部隊である第一から第三戦隊の指揮は長門さんが、第一、第二、第五及び各水雷戦隊の指揮は私が執っています。

作戦立案を私にさせてはならないというジンクスというか決まりがありますが、作戦そのものの指揮は私がした方が上手くいくことがあります。ですので、私が指揮を執っている次第です。

 

『蒼龍より赤城さん』

 

「はい」

 

 通信妖精さんから渡された受話器の向こうから、蒼龍さんの声が聞こえてきます。

 

『先行して出していた偵察機からの報告です』

 

 先発隊として、第四段階に移行してから出していた偵察機からのことです。現在、第二航空戦隊及び第一、第三戦隊が艦隊から離脱中です。

艦隊間の距離もそこそこ開いてきた頃のことでした。

 

『前方、方位265、約80kmの海域にて艦影を確認』

 

「……確認を」

 

『どこかしらから出撃した艦隊と思われます。不明艦隊の進路は090』

 

 こっちに着ていますね。鎮守府正面海域を抜けるのなら、こちら側か反対側を通らなければ呉鎮守府は抜けられませんからね。

私は蒼龍さんに伝えます。

 

「何かしらの艦隊だと思います。艦隊の進路を変えるように連絡をお願いします」

 

『了解しました』

 

 念のために連絡をしてもらいますが、私には気がかりがあります。何がとははっきりと分かりませんが、何か引っかかります。

そう思って、私は受話器を通信妖精さんに返していません。

そしてその連絡はすぐに来ました。

 

『蒼龍より赤城さん』

 

「はい」

 

『返答ありません。艦隊の進路そのままです』

 

 やはりそうでしたか。憂いは晴れませんが、一応作戦通りに動きます。

 

「ならばこちらから躱します。蒼龍さんたちはそのまま先発隊として、先行して下さい」

 

『了解しました』

 

 手を打っておきましょう。もし、私の考えている通りならばきっと……。

 通信妖精さんに言って、私は呉司令支部に繋いでもらいます。

用件は簡単です。

 

「赤城より司令部」

 

『司令部。用件は』

 

「敵に不明戦力があります。念のため、航空教導団にお伝え下さい」

 

『司令部、了解』

 

 これで一応良いでしょう。突発的な事象にもより確実に対処できるはずです。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 司令部から連絡がありました。航空教導団が倉敷島に侵入した際に想定されていたよりも、迎撃隊の数が多かったこと。そしてジェット戦闘機ではない、別の戦闘機隊が混じっていたことを。

航空教導団の隊から知らされたのは『白いボディの艦載機』ということだけ。搭乗員が誰なのか、何処の隊なのかも分からなかったそうです。

そして司令部はあることを、私にもたらしたのです。

普通ならば、『所属不明機』や『IFFに該当しない機体』というらしいです。ですけど、私に言ったのはそのどちらでもない『所属不明の零戦ニ一型』でした。

これが何を指しているのか……。私たち作戦艦隊に参加している第一、第二、第五航空戦隊の艦載機は揃えてあります。艦戦は雷電改、震電改、烈風改のどれか。艦爆は彗星一ニ型甲。艦攻は流星改で統一されているんです。それは出撃前にも確認してあることでした。

そして倉敷島で確認された『所属不明の零戦ニ一型』は私たちが航空隊に装備させたものではありません。ここから導き出される答えは……。

私たち以外に、倉敷島周辺に艦娘がいるということです。

 それと同じくして分かったことがありました。倉敷島から私たちに向かってきていた艦隊の正体です。

考えられる事象はいくつもありますが、最低限、共通していることがあります。私たちに向かってきている正体不明の艦隊の空母から発艦した零戦ニ一型が倉敷島で迎撃隊として上がっている、ということでした。

 私は通信妖精さんに言って、受話器を取ります。今度は個人に対してではなく、作戦艦隊全体への連絡です。

 

「赤城より作戦艦隊全艦へ。……現在所属不明の零戦ニ一型が航空教導団と交戦中です。対空警戒を厳と成し、規定通り作戦を遂行して下さい」

 

 返事はありません。ですけど、全員に伝わったことでしょう。

そして、すぐに私たちに直面します。正体不明のその艦隊が何だったのかということに。

 先行していた第二航空戦隊から再び通信が入ります。

 

『蒼龍より作戦艦隊全艦!! 不明艦隊発砲!!』

 

 全体への通信でそれが知らされます。そして通信の向こう側が騒がしくなります。

蒼龍さんも受話器を通信妖精さんに返さないまま、あちこちに指示を出しているようです。

 

『艦載機は早急に対艦装備に変更!! 偵察機は帰ってこなくて良いです!!」

 

『長門より第一戦隊へ!! 陣形を単縦陣に変更!! 砲雷撃戦よーいッ!! 第二航空戦隊は一時後退せよ!!』』

 

 こちらでも警報を出します。第一航空戦隊も少しですが、状況を変更せざるを得ません。現在、甲板に流星隊が出ていますが引っ込めます。護衛戦闘機隊を出し、上空警戒に当てるべきでしょう。

 

「甲板で作業中の妖精さんに通達」

 

「はい」

 

 伝令妖精さんもとい各部署に連絡を飛ばす妖精さんを呼びつけます。

 

「現作業を中断し、護衛戦闘機隊発艦準備」

 

「了解しました」

 

 連絡妖精さんが艦橋から駆けていきます。

私は次にするべきことを考えます。

 蒼龍さんの偵察機の情報は、『不明艦隊』がいるということだけでした。詳細が分かりません。編成が欲しいところです。欲を言えば艦種と数の特定。数は分かるかもしれませんが、艦種の情報は欲しいところです。

 受話器の向こう側では、先ほどの騒がしさは少し落ち着いています。

蒼龍さんと長門さんがあちこちに指示を出していましたが、それも既に収まっています。他の皆さんは指示に従うだけですから、特に返事をしたりだとかはする必要がありませんからね。

ですので、私は蒼龍さんに問い合わせることにしました。

 

「赤城より蒼龍さん」

 

『蒼龍です。どうされました?』

 

「偵察情報の詳細を教えて下さい」

 

『はい』

 

 少しした後、返事が返ってきます。

 

『不明艦隊は……空母機動部隊』

 

 それは想像していました。そして『所属不明の零戦ニ一型』という話から想像したことが正しければ、蒼龍さんはきっと……。

 

 

 

 

 

 

 

『飛鷹、隼鷹、山城、多摩、皐月、初霜……です』

 

 

 

 

 

 

 

『不明艦隊はっ……艦娘の艦隊ですッ!!』

 

 

 

 

 

 

 やはりそうでしたか。想像はしていました。というか、それ以外に考えられなかったんです。

『所属不明の零戦ニ一型』が迎撃隊として空を飛んでいる時点で、何機もいるということになります。と考えると、1機や2機の再現が可能でもそんな数を用意出来るとは思えませんし、何よりパイロットがいません。ですから艦娘が関与していることは自明でした。

 そして彼女たちは現状、私たちに敵対をしています。

進路上を移動中であり、砲撃をしていますからね。どこに着弾したかは知りませんが、こちらに砲撃を仕掛けてきたのなら敵とみなすべきでしょう。

 ですが、私は信じたくありませんでした。もし違っていたら、もし普通に出撃しているだけで、私たちに敵対している訳ではないのだとしたらどうでしょう。

あちらが何を撃っているのかを見定める必要があります。

 

『赤城より作戦艦隊全艦へ』

 

 通信妖精さんに言って、全艦に繋げてもらいます。

 

『被弾した際は報告するように。それまでは砲雷撃戦を禁じます。第二航空戦隊は艦載機を発艦し、上空待機です』

 

 まばらに返事が返ってきます。それもそうでしょう。不明艦隊が艦娘の艦隊であったこともですけど、それが敵対している可能性がありますからね。状況から鑑みれば、十中八九敵対していますが、まだ確証は得られていません。私たちが攻撃をするのならば、正当性を持てないといけませんからね。

ですから私は攻撃を禁じたのです。あちらがバカスカ撃っているのは分かっています。そのうちに誰かに夾叉・着弾するでしょう。戦艦からの攻撃ですから着弾した場合は損害が大きいですが、現状、先行隊には大型艦しか居ません。ダメージコントロールでどうにかなるでしょう。それに被弾艦を交代させれば、今後の戦闘に支障を出すこともないです。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 待機を命じてから数時間が経とうとしていました。本来ならば、ここで倉敷島に航空爆撃と艦砲射撃の第一波が行われる予定でした。ですが想定外のことが起きてしまったために、作戦自体が圧しています。陸上部隊の話は全く入ってきませんが、そのうち分かるでしょうから今は忘れておきます。今は目の前で起きていることを気にするべきですからね。

 現在、こちら側は待機状態を維持しています。先行隊とあちらの艦隊が既に交差するであろう距離までの接近を何度もしており、その間ずっと第二航空戦隊及び第一、第三戦隊は沈黙を守っています。砲撃が夾叉・直撃していませんからね。判断が下せずにいます。

 そして事態は急に動き出したのです。

 

『最上より作戦艦隊全艦へッ!! 魚雷直撃ーーッ!! 発電機室に浸ッ!!』

 

 実弾でした。

 

「赤城より、さ、作戦艦隊へっ……」

 

 覚悟はしていました。状況も分かっています。理解しています。ですが、どうしても……どうしても声に出すことが怖いんです。

今、私たちが待機しているところからでも見えるんですよ。最上さんに魚雷が直撃し、水柱が上がるところも。それにあちらの艦隊の動きも。そしてあの艦隊が艦娘たちであることも……。

よく知った顔の艦娘があそこにいるんです。それに、私たちの待機しているところには同名艦だっています。

 山城さんはどんな表情をしているんでしょうか。何か話している声も聞こえてきませんし、ずっと黙ったままです。

自分と同じ姿、声をしている、いわばもう1人の自分が味方を攻撃しているその光景は……きっと見ていられないんだと思います。私もそれは同じです。

 私が言わなければ誰が言うんですか。この状況で、『味方を討て』と。

私自身の心拍数が上昇し、手と額がじっとりとしているのが分かります。緊張をしているんです。そして怖いんです。

紅提督に怒られていた方が、何億倍もマシです。

 受話器の向こう側は静寂そのものですが、私が何か言わないと何も動きません。

魚雷が直撃した最上さんだって、きっと自分の艤装のことで忙しいはずです。

判断が迫られています。『味方を討て』と、私の口で言わなければこの作戦は水泡に帰します。それだけは絶対に回避しなければなりません。これまでの努力も、不必要であったかもしれない犠牲も全てが無駄になります。

 私は左手の拳を固め、右手を挙げます。そして渾身の力を入れて、自分の右頬を叩きます。

甲高い音が艦橋に響きますが、私はそれよりも右頬の痛みと熱を覚えます。そして覚悟を決めたのです。

 

「赤城より、作戦艦隊全艦へっ……」

 

 覚悟を決めても尚、口に出すのには躊躇をしてしまいます。ですが、ここで歩みを止める訳にはいきません。

もしかしたら、この命令1つで艦娘を討つことになったとしても、もう決めてしまったことなのです。

作戦艦隊として連れてきた他の皆さんが何を思おうとも、振り返ることも立ち止まることももう出来ないのです。

 

「先行隊に攻撃中の艦隊を殲滅せよッ!!」

 

『くっ!! り、了解、したっ……。 第一戦隊ーッ!! 砲撃戦開始、"敵艦隊"を殲滅するッ!!!』

 

 そして始まってしまったのです。味方同士の殺し合いが……。

もう後には引けません。

 

 

 




 赤城は頭はキレる人だと思うんですよね(真顔)
 ということで、最終作戦『黎明の空』が発動しました。
作戦目標は倉敷島に拠点を構える『海軍本部』残党の殲滅です。
 余談ではありますが、赤城たちが今まで経験した中では割りとキツい作戦になる予定です。今後の話は、少しヘビーになる予定ですのでご注意下さい。

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