【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話   作:しゅーがく

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第63話  作戦艦隊編 黎明の空③

 新瑞さんの言葉通りに、作戦艦隊は倉敷島へと近づいていきます。こちらに接近中である艦隊とは、既に航空戦を開始。

第五航空戦隊が航空戦を展開中です。

 

『瑞鶴より作戦艦隊全艦へ。接近中の艦隊、撃破を確認』

 

 "撃破"。つまり、轟沈させたということでしょうか?

こんな時ばかり、日本語の難しさに苛つきを覚えます。

 瑞鶴さんもきっと、撃破することは望んでないはずです。何せ、敵は同じ艦娘ですからね。

しかも、自分たちよりも低練度で未熟な艦娘。そんな艦娘に一方的な攻撃を加えることですら、かなりの抵抗があるというのに、撃破をするなんてことは考えられません。

艦娘として生を受け、数日か数ヶ月もしないうちに轟沈してしまう。そんなこと、悲しすぎます。

ですがその一方で、その死は当然なのかもしれません。己の提督の命令に従い、己を突き通して沈んでいったのなら。

 

「……赤城さん?」

 

 近くにいた妖精さんに声を掛けられます。

 

「はい」

 

 その妖精さんは航海長です。私の大まかな指示で、細かい方位を決めて伝達している妖精さんです。沢山艦橋にいる妖精さんたちの中から、その妖精さんだけが私の前に来たんです。全員がこちら向いている中で、たった1人だけ。

その妖精さんが、わざわざ私の立っているところの近くにある機材の上に登り、私と目線を合わせました。

 

「赤城さん」

 

「はい」

 

 小さくて可愛い見た目をしている妖精さんですが、話し方は私たちと変わりません。

ですので今の声は、私には凄んだ声、真剣に話をしようとしている声に聞こえました。

 

「この艦の、この艦隊の長である貴女がそのような様子では、私たちも不安になります」

 

「……え?」

 

 そう言ってきたのです。

口には出していませんが、不安に思っている節はありました。ですが、それを言われるとは思いもしていなかったのです。

 

「この戦いは貴女が、貴女たちが望んだものですよね? 危機的現状を打破するために、紅提督が安心して戻ってこられるようにするために……ッ!!」

 

 小さいその腕を伸ばし、航海長の妖精さんは私の頬を叩きました。

 

「作戦開始から『不明艦隊』との遭遇までは、いつもの赤城さんでしたが、今は全然違います。敵が同じ艦娘だから、判断も躊躇して、航空教導団に支援要請もして、最後には部隊を二分するとまでおっしゃいました。相手は顔の知っている艦娘だから、最後まで自分の手を仲間の血で染めることを避けていたんですよね?」

 

 心がキューッとし始めます。

紅提督に怒られている時とは、全く違う感覚です。今までに経験したことのない感覚。

 

「航空教導団に支援要請したのもそのため。部隊を二分しようとしたのも、ウチの航空隊は倉敷島へ絶対向かうから。戦闘機隊が機銃掃射をしなくて済むから……そうですよね?」

 

 航海長の妖精さんの言う通りなのかもしれません。

 

「……私たちも嫌ですよ。艦娘に実弾を撃つのは。それはこの作戦艦隊で来ている皆さんも同じです。それに、相手だって分かっていて攻撃してきているんです」

 

 確かに、他の皆さんも同じことを思っているはずです。

 

「赤城さん」

 

「……はい」

 

「覚悟を決めて下さい。敵は何であれ、私たちは命を賭けているんです」

 

 航海長の妖精さんに言われて、私は気付かされたんです。この作戦が始まり、『不明艦隊』が出てきてからの私の言動がどういうものだったのかを。

そして、それに対する私の対応の意味を。

 叩かれた頬は少し痛いですが、これは私の目を覚まさせてくれたものです。

 

「……ッ!!」

 

 息を大きく吸い込みます。

 

「これより作戦艦隊の陣形を変更しますッ!! 全艦に通達ッ!!」

 

 声に張りを出させ、自らに気合を入れるのと同時に、もう迷っていないことを皆に伝えます。

 

「全水雷戦隊は艦隊後方に移動、第一から第三戦隊は艦隊右翼に単縦陣で展開し、右砲戦準備!! 第二、第五航空戦隊は至急、艦爆隊に対地攻撃用に爆装させて下さいッ!!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 通信妖精さんは3人居ます。いつもは1人で事足りてますが、全員に指示を出しました。

一気に艦橋が騒がしくなり、周囲に展開している作戦艦隊も陣形を整え始めます。

 

「ここまで想定外のことが立て続けに起きましたが、もうやらせません!! 作戦艦隊はこのまま作戦通りにことを進めます!!」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 状況を整理します。

陸上部隊と航空教導団の今の状況が、大淀さんに逐一報告が入っていたみたいです。その報告を私は大淀さんから受け、自分なりに整理をしてみることにしました。

 現在、航空教導団は『所属不明の零戦ニ一型』と依然として交戦中。そして陸上部隊は襲撃に遭い、損害を受けながらも予定していたところまでの進軍が出来たとのことでした。

今は私たち作戦艦隊が第四段階の成功報告を待っているとのことでした。

作戦変更を行い、予定では作戦艦隊をいくつも分断して攻撃を行う予定ではありましたが、作戦艦隊はそのまま分断せずに倉橋島に侵攻することとなっています。攻撃を行う艦隊と部隊はそのまま作戦通りにことを進めるため、先ほど陣形を変更しました。既にその陣も整い、着々と倉橋島に接近しています。

 

「……偵察に出ている艦戦隊からの報告はありますか?」

 

 私は通信妖精に訊きます。

異常があれば知らせてきますが、警戒するに越したことはありませんからね。

 

「異常なしとの報告があります。それと大淀さんからですが、『不明の迎撃隊』が撤退したそうです。その際に追撃し、空母機動部隊を発見。空母6です」

 

「ふむ。……ありがとうございます」

 

 そうなると、その空母機動部隊には手を出さない方針の方が良いでしょう。艦隊戦を挑むなどとは考えられませんし、航空戦を仕掛けられたのなら、こちらの護衛戦闘機隊だけで十分太刀打ち出来ます。その上、水雷戦隊が居ますから対空射撃も問題なしです。時と場合によれば、航空教導団の増援もありますからね。やはり、現行の戦闘機とこちらの艦載機とは戦闘が可能でした。

 もう十数分すると第四段階に入ります。先ほど、接近中だった『不明艦隊』を航空戦で殲滅した第五航空戦隊は待機のまま、第二航空戦隊から航空爆撃をしてもらいます。

そのことは既に伝達済みですので、既に艦爆隊と護衛戦闘機隊は発艦を始めているのが見えます。

 右舷に展開している戦隊の戦列も動きがありました。砲塔旋回を始め、艦砲射撃の準備を始めているんです。

現在航行しているところは、倉橋島東です。方位は181で艦隊運動速度はおよそ14ノット。海岸線を右手に航行中なんです。

 

「そろそろ……第一波が攻撃を始めることでしょうか」

 

 そう呟くと、呼応するかのように爆音が響き渡りました。

どうやら倉敷島への爆撃が開始されたみたいです。第二航空戦隊の艦爆隊はおよそ70~80機。搭載航空爆弾は800kgのものと、250kgが2つと60kgが4つのとで混成だった筈です。

それぞれに破壊目標が決められています。800kgの方は集団目標に、多数搭載している方は単独目標や建造物に攻撃をすることを伝えてあります。きっとそれ通りに働いてくれることでしょう。

それとおそらくですが、爆弾を投下した後も機銃掃射をしてから帰ってくるかもしれませんね。艦載機の扱い方などは、紅提督から聞いているはずですから。

 報告は入りませんが、爆撃音は10分か20分で完全に鳴り止みます。

これを節目に、次の行動に移るべきです。そう思い、私が通信妖精に長門さんに繋げるように言おうとしたその時、右舷がピカピカと光ります。そして白い煙が立ち上り、それが何が起きたのかを伝えてくれます。

第一、第三戦隊が艦砲射撃を開始したんです。

 

「……流石、長門さんです」

 

 タイミングはバッチリ。多分、第二航空戦隊の航空隊も上空に退避出来ていたでしょうし、艦爆隊も機銃ベルトに弾薬は残ってないでしょうからね。

 艦橋から右舷の島の方を見ます。

艦砲射撃は未だ継続中で、搭載弾薬が3割にまで減少した後に作戦を次の段階に移行します。

双眼鏡で確認していますが、打ち込まれているのは41cmや35.6cm、20.3cm砲弾だ。20.3cmはこの中では見劣りしますが、かなりの破壊力を持っています。榴弾を撃っているでしょうから、なおさらです。それ以上の戦艦クラスの砲弾となると、地形を変えかねません。それほどの威力があるのです。

 降り注ぐ砲弾を雨は、すぐに止みます。ほんの30分程度でした。

 

「大淀さんより通信です」

 

 砲撃が止んでからすぐのことでした。大淀さんから通信が入ります。

 

『大淀より赤城さん。呉司令支部より作戦を第五段階に移行すると、作戦参加中の各部隊に報告が入りました』

 

「赤城より大淀さん。了解しました。こちらも仕事をこなします」

 

 用件はそれだけでした。私はそのまま受話器を返さずに、通信妖精さんに言います。

 

「作戦艦隊全艦へ」

 

「はい」

 

 通信機を操作した通信妖精さんを確認し、話し始めます。

 

「赤城より作戦艦隊全艦へ。第二航空戦隊は艦載機の収容後、補給と整備を急がせて下さい。それと第五航空戦隊は艦載機隊を発艦、第二波をお願いします。第二戦隊は右砲戦準備」

 

 バラバラな返事が返ってきます。

 行動はすぐに開始されました。第五航空戦隊、瑞鶴さんたちの配置は私の艤装の後方ですが、どうやら機体の収容・補給・整備は完了しているみたいです。

随時発艦を開始しており、1時間以内には航空爆撃及び艦砲射撃を開始出来るような状況にありました。

 作戦艦隊全艦は停止をし、錨を落とします。そこまで停泊するつもりはありませんが、潮に流されないためです。それに艦隊がそこそこ密集していますから、艤装同士の接触を防ぐことも目的の1つです。

投錨し終わるころには、第五航空戦隊は全機発艦が完了していました。もう上空で編隊を組み、倉橋島へと飛んでいきます。

現在、作戦は第五段階に突入しています。航空爆撃及び艦砲射撃後には陸上部隊が倉橋島に侵入し、地上制圧を開始することになっていますが、抵抗が予想されていました。

ですので地上部隊が倉橋島に入る時には作戦は第六段階へ移行し、私たち第一航空戦隊から『降下猟犬』を送り出します。

 投錨してから40分ほど経った頃でした、島の方角で爆発音が鳴りました。どうやら航空爆撃が開始されたみたいです。

その爆撃も第一波の時同様に15分くらいで終わりました。そして艦砲射撃が始まったのです。

艦砲射撃を行うのは第二戦隊、扶桑さんの艦隊です。こちらは41cm連装砲を積んでいる人が居ないので火力不足かもしれませんが、既にこの攻撃を1度やっている時点でオーバーキルな状況です。地上施設は尽く破壊出来ているでしょうし、地下施設も地盤崩落などを起こしているに違いありません。

『血猟犬』からの情報も随時入ってきており、島がどのような状況にあるのかも報告で分かっています。この第二波攻撃は念には念を入れた攻撃なのです。

 

「そろそろですかね」

 

 その艦砲射撃も開始から5分ほどが経過した時、私は艦内に命令を出します。

 

「艦内放送、お願いします」

 

「はい」

 

 艦内放送は私の声で掛けられるのではなく、艦内放送を行う妖精さんが私の言った言葉を復唱します。

 

「飛行甲板にて待機中の流星隊及び護衛戦闘機隊は発艦を開始し、作戦第六段階に備えてください」

 

 サイレンにも似た音を鳴らした後、放送妖精さんが私の言った言葉を復唱します。

 

『飛行甲板にて待機中の流星隊及び護衛戦闘機隊は発艦を開始。作戦第六段階に備えよ』

 

 甲高い音と共に、放送がされました。

そして、飛行甲板は慌ただしく動き始めます。

『降下猟犬』の皆さんが流星隊のそれぞれの腹の下に入り込み、爆弾倉だったところに入り込みました。点検を行う整備妖精さんたちがあちこち点検を行い、機体から離れていきます。

そして発動機を唸らし、次々と艦載機が発艦していくのです。ぐんぐんと高度を上げていき、上空で編隊を組むと、旋回を始めます。まだ第六段階に入っていませんからね。島に向かっても仕方ないですし、艦砲射撃はまだ続いています。巻き込まれる可能性もありますから、止んでから向かうのでしょう。

 やがて艦砲射撃の音は数が少なくなり、開始から10分後には止みました。第二波の艦砲射撃も残弾3割辺りで打ち止めですからね。

そしてそれと同時に、上空を旋回していた『降下猟犬』を載せた流星隊と護衛戦闘機隊が倉橋島に向かって飛び去っていきます。『降下猟犬』を降下させた後は、倉橋島への上陸があるかないかということだけでしたので、私は一息吐きます。あとは司令部からの報告を待つだけですからね。

 

 

 




 ……コメントし辛いです。
ポロリとネタバレしてしまいそうで、デタラメに後書き書けないんですよね。

 艤装に居る妖精に諭される赤城も良いかな、と思いました。
違和感があるようでしたら、少し考えなければなりませんね(汗)

 ご意見ご感想お待ちしています。

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