【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話   作:しゅーがく

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第64話  作戦艦隊編 黎明の空④

 

 壁に持たれ掛かっていた時のことでした。既に『降下猟犬』の降下も終盤に入っており、先に降下させた流星隊が帰還し始めていた頃、通信妖精が大きな声を上げたのです。

 

「偵察機より入電ッ!! 艦隊012方向より、接近中の編隊を確認ッ!!」

 

 確認しておきながらも、攻撃しなかった『不明艦隊』の空母機動部隊からの攻撃です。

自分の采配ミスだと、心の中で叫びつつ、私は確認を取り始めます。

 

「第二、第五航空戦隊に連絡ッ!! 急いでッ!!」

 

 手の空いている通信妖精が私に受話器を渡してきました。

 

「赤城より第二、第五航空戦隊へ。現在、012方向より編隊が急速接近中!! 護衛戦闘機隊を発艦させて!」

 

『飛龍より赤城さん。こちらでも確認しています!! 既に発艦準備完了!!』

 

『蒼龍より赤城さん。同じく!!』

 

『瑞鶴より赤城さん。私も!!』

 

『翔鶴より赤城さん。こちらは収容してすぐですので、発艦出来ません!!』

 

 三個護衛戦闘機隊となると、数は60機以下になりますね。敵機編隊がどれくらいの数で来ているのかは分かりませんが、6隻の空母機動部隊となるとその6倍以上は居る覚悟をしなくては行けません。私のところの航空隊が特殊編成をしていてもどうにかなりますが、今は『降下猟犬』を下ろしている最中です。先鋒は戻ってきていますが、どんな状態かなんて分かりませんからね。

となると、私たち第一航空戦隊を交えないでの航空戦になります。

 

「続報!! 編隊は九九式艦爆、九七式艦攻で構成された攻撃隊及び護衛戦闘機隊!! 数は162!!」

 

 162機の編隊。……これは大問題ですね。

恐らく、今回のは第一波攻撃になります。全航空戦隊から一度は出撃がありましたし、手空きが少ないであろうタイミングを狙ってきたのは自明です。

 今回の作戦には不測の事態が起きすぎています。

私は対応策を考えつつも、敵空母機動部隊の詳細な編成を考えます。

やはり、攻撃隊として出てきたのは旧式の艦載機でした。そう考えると、護衛戦闘機隊も零戦ニ一型で統一されている筈です。そうすると、蒼龍、飛龍、瑞鶴航空隊の護衛戦闘機隊の敵ではないでしょう。ですがそれが何度も襲ってくるとなると、問題にはなります。

 

「……『降下猟犬』の状況は?」

 

 観測妖精さんに言い、状況確認をします。通信妖精さんに言って聞いても良かったですが、こっちの方が早そうでしたので。

 

「現在、流星隊はこちらに戻ってきています。『降下猟犬』の降下は終わったみたいですね」

 

「そうですか。ありがとうございます。……通信妖精さん。至急、流星隊に連絡を」

 

 航空隊への指示は、私が受話器から直接話しをする訳ではありません。通信妖精さんを挟んで伝えることになっています。

 

「内容は『着艦せず、艦隊に接近中の編隊への攻撃を支援せよ』」

 

「……赤城より流星隊。着艦せず、艦隊に接近中の編隊への攻撃を支援せよ」

 

 その命令を聞き入れてか、着艦しようとしていた流星が加速して飛び去っていきます。そのまま流星隊と護衛戦闘機隊は上昇していき、編隊のいる方向へと飛び去っていきました。

かなり高度を落としていたからか、加賀さんに着艦しようとしていた艦載機の方も同じように飛んでいくのが確認できます。

ぐんぐんと上昇していく180機が点になり始めた頃、またもや連絡が入りました。通信妖精さんから受話器を受け取り、状況を訊きます。

 

『蒼龍より赤城さん。現在、敵編隊と交戦に突入しました。それと同時に、更に後方に敵編隊を確認。数は同じくらいです』

 

「赤城より蒼龍さん。了解しました」

 

 やはり想像していた通り、第二波が来ました。

ここであることに気付きます。今第一波と交戦しているのは、先行させた部隊。今、第一航空戦隊の航空隊はそれの支援に向かっています。

それを第二波に当てれば、状況の早期収束に繋がります。

 私は通信妖精さんに言いました。

 

「進行中の私たちの航空隊に連絡を。内容は『艦隊より012方向に第二波の出現を確認。そちらの対応に当たれ』」

 

「了解。赤城より赤城、加賀航空隊へ。先の命令は棄却。艦隊より012方向に第二波の出現を確認。そちらの対応に当たれ」

 

 これで第二波の対応も可能でしょう。180対約160です。それに当たるのは私の航空隊。ひょっとしたら無傷で戻ってくるかもしれません。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 艦橋内が静寂に包まれました。敵編隊の接近による対応で騒がしくなった艦内ではありますが、もうその脅威は収まりつつあります。先ほどの報告で、第一波の殲滅を確認しました。

やはり旧式装備でした。護衛戦闘機隊も零戦ニ一型だったみたいです。それに遅れること30分後に、第二波の殲滅も確認されました。

こちらも装備内容は同じだったみたいです。

 この第一、ニ波攻撃を退けたことにより、少し状況を見る視点を変更せざるを得なくなりました。

現在、この作戦開始から現れた『不明艦隊』は3つ。そのうち2つは撃破していますが、残っている1つは、先ほどの敵機編隊を出した空母機動部隊。これだけの損害を出したのなら、撤退するのが定石です。というよりも、艦隊が1つ撃破された時点で、その戦闘は終了するべきでした。

何かが変だと思ったのです。

 最初に接敵した艦隊には、長門さんたちが乗艦して状況を確認していました。

その時の報告にあった『通信設備が無いこと』と『所属が倉橋島泊地』という、2つの情報から気付くべきだったんです。私たちが戦っていた艦娘たちが倉橋島からの艦隊であることを漠然と考えていただけでしたが、本当は違うのではないか、そう思い始めたのです。

私は考えました。この一連の攻撃は、私たちが普通に扱うような攻撃方法であったことに。そしてどの艦隊も"6隻編成"であったことに、私は早くに気付くべきだったんです。

『倉橋島泊地』など、存在しないのです。

そう。今まで戦ってきた艦娘による艦隊は全て、『海軍本部』によるモノだったんです。何もかも、全てが『海軍本部』によって引き起こされたことだった、ということです。

 

「……」

 

 私はそのことを考えても尚、独りで悪態をつくことはしませんでした。

 そしてある予感が過ります。

"6隻編成"であったことと、今まで出現した『不明艦隊』は3つであることを考えると、未確認の『不明艦隊』が1つあることになります。

そのことに気付いた時には、既に時は遅かったのです。船が揺れました。どうやら近くに着弾したみたいです。

 

「砲撃着弾を確認ッ!!」

 

 物に捕まることで、やっと立っていられる揺れが収まる頃には、何もかも状況が一変していました。

飛び交う状況確認の怒号と混乱が、冷静な精神状態であることに影響を及ぼしていきます。

 

「確認、確認しなければ……。観測妖精さん!! 状況!!」

 

「艦隊170方向に艦影を視認ッ!!」

 

 "6隻編成"であることと、未確認の『不明艦隊』が1つあることから考えれることは、『もう1つの艦隊が存在していること』でした。

それが今、このタイミングで出現したのです。しかも、衝撃から察するに戦艦級からの攻撃です。

状況確認が急がれます。

 

「偵察は?!」

 

 通信妖精さんのことを呼ばずに、私は偵察状況を確認しました。

 

「艦隊170方向に艦隊を確認。……水上打撃部隊ですッ!!」

 

 それは分かっています。私が訊きたいのは、どの型の船で構成されているかということだけです。

そして、私が知りたいことはすぐに知ることが出来ました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……編成は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大和型2以下、重巡4」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 騒々しい艦内が一瞬で静かになります。

大和型……。大和型戦艦のことを言っているんでしょう。それは分かります。ですがそれが、今ここに居ると……。そういうことでしょうか。

 

「世界最大最強の戦艦……」

 

 このことは作戦艦隊全体に既に伝えられているでしょう。

倉橋島への艦砲射撃後の第一、第二、第三戦隊は砲弾残量が3割しか残っていません。となると、水上打撃部隊同士の砲撃戦は無理です。艦砲射撃前にも砲撃戦をしていますから、早々に砲弾消費がありましたからね。3割というと、もう50発はあるかないかというところでしょうか。

 作戦が思いつきません。

刻一刻と接近してきている最後の『不明艦隊』に、私は怯えているのでしょうか。今まで、演習で大和型戦艦とは何度も当ったことはあります。ですけど、砲撃を受ける前に行動不能にしていましたから、こうやって直接砲撃を味わったことがなかったのです。

怖いんです。もし、あの砲撃が直撃してしまったときのことが。

 

「……手は、何か手はっ」

 

 考えます。考えて、考えて、考えて……。ですけど、出来ません。砲弾残量の少ない第一、第二、第三戦隊を主眼に置いた単縦陣の砲撃戦を想定しますが、危険すぎます。

残量の少なさから、被弾しても弾薬庫誘爆なんてことにはならないでしょうけども、それでも相手は大和型戦艦。

 

『赤城ッ!!』

 

 突然渡された受話器から、声が響きます。

その声の持ち主は金剛さんでした。

 

『赤城ッ!! 対応を早くするネ!! 早くしないと、攻撃に晒されてしまいマース!!』

 

「待って下さい」

 

『特殊な陣形をしている私たちは良い的デス!!』

 

「待って下さい……」

 

『今まで頑張ってきたことが、全て水疱に帰すか否かデスヨ!!」

 

「待って下さいッ!!!!」

 

 焦ります。金剛さんに言われなくても、そんなことは分かっているんです。

ですけど、損害が出ないようにするにはどうすれば良いのか、そんなことばかりを考えていました。

そんな私に、金剛さんは別の言葉を掛けてきました。

 

『あんなウスノロ、どうにでも出来マース!! どうせ今までみたいに経験不足なんデスカラ!!』

 

 そうです。大和型戦艦なんて、主砲が大きくてダメージコントロールを最新のものを使っているだけの、ただのウスノロなんです。それに練度だって低いはず。今までだってそうだったんですから。

私は切り替えて考え始めます。ですがその前にやっておくことがありました。

 

「通信妖精さん! 作戦艦隊全艦に!!」

 

 そして焦って早口になりながらも、指示を飛ばします。

 

「赤城より作戦艦隊全艦へ。抜錨し、前進一杯!! そのままこの海域から離れつつ、艦隊の陣形を変更します!!」

 

 考えます。

 

「空母機動部隊と大淀さんを中心に輪形陣を執り、艦隊回頭!! 反航戦になった時、全水雷戦隊は艦隊から離脱し、各個に攻撃開始。指揮はそれぞれの旗艦に任せます!!」

 

「水上打撃部隊は、水雷戦隊の攻撃を支援!! 砲弾を使い切っても構いません!!」

 

「空母機動部隊は着艦収容後、武器弾薬の放銃が完了し、飛べる艦載機から優先的に発艦!! 各個に支援!! どうせ相手に艦載機はありません!!」

 

 一気に考えながら吐き出しました。

 もうここまで来ると、最終決戦という感じがしてなりません。

こちらも、指示ではああいったものの、完全に突撃ですからね。しかも細かいことは考えずに、攻撃することだけを考えた作戦です。……作戦とは言えない気もしますけど。

それでも、この艦隊を退けなければどうにもなりません。倉橋島のことは陸上部隊がどうにかしてくれますから、これだけをどうにか出来れば作戦成功に繋がるんです。

 艤装が動き始めます。抜錨も完了し、艦隊が動き出します。時間を掛けて、着実に艦隊の陣形を整えていきます。艦隊から逃げながらではありますが、輪形陣を作ります。

そして回頭しました。

もう逃げることは出来ません。攻撃するだけです。攻撃して、私たちは生還するのです。

 

「司令部からの入電がありますが……」

 

「無視して下さい!! ここでアレを討ち滅ぼさなければ、ここまでやってきた甲斐がありませんッ!!」

 

 もう迷いません。

 

「水雷戦隊は艦隊を離脱し、攻撃開始ッ!!!!」

 

 輪形陣を取っていた水雷戦隊が艦隊から離脱。前方で砲撃している艦隊に突っ込んでいきます。

そして水上打撃部隊が支援砲撃を開始します。水上偵察機による弾着観測射撃を行っていますから、突っ込んでいった水雷戦隊にはそうそう当たらないでしょう。

 

「勝利を、この手にッ!! 私たちにッ!!!!」

 

 





 何だか後半になって、熱くなった気がしたのは作者だけではないはず……。
 ということで、突然ですけど予告。
このまま行くと、4月が終わるまでに完結します。恐らく。
それまでお付き合い下さい。

 ご意見ご感想お待ちしています。

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