【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話   作:しゅーがく

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第65話  作戦艦隊編 黎明の空⑤

 

 苛烈を極めた大和型戦艦との戦闘は、長い間続いています。

私たち作戦艦隊38名と『不明艦隊』6名の攻防戦は、一見私たちの方が圧倒的有利に見えましたが、そうではありませんでした。

数で圧倒しているとはいえ、敵は世界最大最強の戦艦。私たち大型艦の艦娘は、怯むことはありませんでした。何倍とかいう大きさの差はほとんどありませんからね。

ですけど水雷戦隊の方では、そうも行かなかったみたいです。

 

『怖いっ……あんなに大きな戦艦相手に吶喊なんて……ッ!!』

 

『被弾したら文字通り吹っ飛ぶじゃないッ!!』

 

『一番おっきい戦艦が居るなんて聞いてないよ~!!』

 

 そんな声が、状況を確認するために持ったままだった受話器から聞こえてきます。

声色からして駆逐艦の艦娘の子たちというのは分かります。それに怖がるのも無理はありません。

私たち大型艦と比べたら、差はあまりない大和型戦艦ですが、駆逐艦ら小型艦と比べたら、その差は猫とネズミです。

その巨大さ故に、足がすくむのも理解できます。一方的に狩られてしまうのではないか、と考えてしまうのも分かります。ですけど、水上打撃部隊が満足な砲撃が出来ない今では、十分に砲弾が残っている水雷戦隊で砲雷撃戦をした方が勝率が高いのは自明でした。

 高まりつつある駆逐艦の子たちの不満の声が、少しずつ艦隊に影響を及ぼし始めます。

巡洋艦の子たちも、少しずつ防戦的になりつつあったんです。水雷戦隊の旗艦である子たちも、です。

 

『このまま後退して海域外で撒けばっ……』

 

『横須賀に残している艦隊に救援を……っ』

 

 その刹那、消極的な声のみしか聞こえてこない受話器からハリのある大きな声が聞こえてきたんです。

 

『何をそんなにウジウジしているのッ!!』

 

 観測妖精さんから報告が入ります。

 

「夕立が吶喊中の艦隊から増速離脱中!! 進行方向上に大和がありますッ!!」

 

「なッ!?」

 

 単独孤立は砲撃が集中するので、避けるべき行動です。

夕立さんはそれを知っていて、そんなことをしているんでしょう。なぜなら夕立さんは勤勉です。横須賀鎮守府の資料室にある戦術指南書を読破し、艦隊戦術などを理解している節があるからです。

 

『この小さい身体はデカブツと対等に渡り合うためよ!! 速力で勝り、機動力もこっちが上!! それに私たちだって、あんなの吹き飛ばすくらいの代物を持ってるじゃない!!』

 

 受話器の向こう側からは、もう夕立さんの声しか聞こえません。

 

『砲撃なんてそうそう当たるもんじゃないし、全員で吶喊すればそれぞれに向く砲もバラバラになる!! 貴女たち、今まで何やってきたのよッ!!』

 

『それに貴女たちが怖がっている大和と武蔵だって、私たちに掛かれば勝てるわよ!! そんなことも分からないの!?』

 

『赤城さん!! 私に全水雷戦隊の指揮権をッ!!』

 

 きっと自分たちの旗艦が使い物にならないと判断したんでしょう。私としても夕立さんの考える勝算に関しては、恐らく同じことを考えているはずです。

 

「良いでしょう。……これより全水雷戦隊は夕立さんの指揮下に入って下さい。命令無視は重罪ですからね」

 

『ありがとうございますッ!! 各水雷戦隊は一時的に戦闘海域から離脱し、陣形を変えます!! 第一から第四水雷戦隊は単縦陣で並び、それと同時に左舷雷撃戦よーいッ!!』

 

 やはり考えていた通りでした。

夕立さんの立案した作戦は、史実で大和さんを撃沈に追い詰めた作戦です。雷撃を片舷に集中することで、優れたダメージコントロールよりも被ダメージを超えさせることでした。

そのダメージが超えた時、船体は傾き、転覆します。

両舷からの攻撃は混乱させるメリットがありますが、継戦させてしまうというデメリットもあるんです。そうしたならば、水上打撃部隊が満足に砲撃戦を出来ない現状、片舷に集中して攻撃を加えることが最善策だと、そういう結論に至ったということでしょう。

 艦隊から既に離脱している水雷戦隊は、そのまま増速して艦隊の陣形を変えました。そして回頭したかと思うと、そのまま同航戦に突入したのです。

いきなり指揮権を奪われてそれぞれの旗艦は何か思うところもあったんでしょうけど、練度などを加味すると夕立さんが水雷戦隊の中で一番高練度なんですよね。

ですけどそんな高練度があったとしても、夕立さんには大きな旗艦としてのアドバンテージがありました。それは戦術指南書を読破したこと。それだけなのです。今がどうなっているのか分かりませんが、夕立さんを旗艦に据えることに疑問を持つことが、そのことを知っている艦娘にありえることでしょうか。

 

「通信妖精さん。水上打撃部隊に」

 

 吶喊した水雷戦隊が艦隊を追い越し始めた時、私は通信妖精さんに声を掛けました。

 

「赤城より水上打撃部隊へ。離脱中の水雷戦隊に支援砲撃をお願いします」

 

『長門より赤城。了解した。斉射を行う』

 

 最後尾の駆逐艦が離脱したのを確認すると、空母機動部隊を囲んだままだった水上打撃部隊が一斉射を放ちます。

タイミングはほとんど同じでした。

 水雷戦隊が急速回頭を行い、反航戦へと突入しました。

同航戦から離脱する際、かなり砲撃を受けていたみたいです。直撃はしていないようですが、夾叉は数発あったみたいですね。その時は受話器を置いていたので、報告は聞いていません。

左舷雷撃戦に変わりはないようですが、今度は当てるのは難しいのかもしれませんね。先ほどの雷撃は、かなりの数が当っていたみたいですが、それでもまだ足りていない様子でした。

反航戦はすれ違いざまの攻撃ですので、同航戦よりも命中率は落ちます。その分、水雷戦隊も攻撃を受ける確率は落ちますがどっこいどっこいですね。

 支援砲撃の一斉射が行われ、それ以降は水雷戦隊の独壇場となりました。

片舷に集中して雷撃を行うことで、被雷するほど傾斜角度が増していきます。そしてその度に、水雷戦隊から続々と被弾艦が現れ始めていきました。夾叉により、船体に穴が開いたりだとか、飛んだ破片によって砲塔や魚雷発射管が故障したりなどなど。

それでも尚、水雷戦隊は果敢に片舷に集中した攻撃を続けたのでした。最初は弱音を吐いていた水雷戦隊の皆さんも、艦隊に飛び込んでいきます。

そして遂に、大和型戦艦を2隻とも戦闘不能にすることが出来たのです。傾斜のしすぎで、攻撃ができなくなったからでした。

 

『夕立より作戦艦隊全艦へ。艦隊の無力化を確認しました』

 

 その知らせが入った頃には、先ほどまで交戦中だった艦隊の大和型以外の随伴艦は"姿を消し"、今にも転覆しそうな2隻が浮いているだけでした。

私は全艦に輪形陣に戻るように伝えるのと共に、大井さんにあることを頼みました。

 

「赤城より大井さん」

 

『はい』

 

 個人的な頼みです。

 

「出来ればで構いません。あちらの艦娘に退艦するように……」

 

『ふふっ、もう言ってありますよ。皆さんがそれぞれで呼びかけていました』

 

「……そうですか」

 

 私たちが拾っても良いですけど、相手にとって私たちは敵です。ですが、ここで拾わないとどうなるか分かりませんね。

 

『あ、そうそう。夕立ちゃんが勝手に回収していましたけど、良いですか?』

 

「大和さんと武蔵さんですか? ……まぁ、大本営に引き渡しましょうか。恨みはこれっぽっちもありませんが、相容れない考え方をしていることに違いはありませんので」

 

『そういうと思っていましたよ』

 

 そう言った大井さんは通信を切りましたので、私も通信妖精さんに受話器を返します。

 これからどうしようかと、考えます。『降下猟犬』の降下も終わりましたし、私たちの仕事はこれで終わったも同然でした。ただ、気がかりなことは残っていました。

『不明艦隊』の空母機動部隊です。と言っても、空母だけで編成された艦隊ですけど。

これまで会敵した艦隊は尽く撃破してきましたが、空母機動部隊だけは残っていたのです。空母のみの編成ですから、艦隊戦を挑むことはしないと思いますけど、どうするんでしょうか。

無謀にもこちらに接近してくるか、それとも一時は身を潜めるのか……。

探しに向かっても、無用な交戦をすることになるかもしれませんので、大本営に報告するだけにしておきましょう。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 洋上で待機中、司令部から連絡が入ります。

通信妖精さんが私に受話器を渡しながら、そんなことを言ってきました。

 私たちだけでは、作戦全体の戦局の把握は出来ませんからね。倉橋島に偵察機を飛ばせば話は別ですけど。

そんなことを考えていられる程に、今は余裕が出てきたということです。戦闘も終結し、倉橋島東20kmのところで艦隊運動を停止していますが、観測妖精さんでも陸上がどうなっているのかも分からないみたいです。

結局のところ、偵察機を出せば良いものなんですけど、先と戦闘やこの連戦で搭乗員妖精さんたちの疲労が結構溜まったらしいんですよね。そういうのにもめっぽう強い私の航空隊も、無理な航空戦を何度もしたためか、機体にガタが来ているらしいんですよ。絶賛整備中だそうです。

飛ばせるのは水上打撃部隊の皆さんが弾着観測射撃のために飛ばしていた水偵だけですけど、それも今は倉橋島以外の方向の偵察に出てる現状です。

 受話器の向こう側では、陸上部隊間の交信の声が聞こえますけども、それがすぐに止みました。

 

『HQより作戦参加中の全部隊へ。作戦終了。繰り返す。作戦終了』

 

 これは作戦艦隊の皆さんも聞いている筈です。

ですけど、私たちの欲しい情報が入っていませんでした。その情報とは『作戦成功なのか否か』です。

この『黎明の空』作戦に於いて、私たち作戦艦隊の立ち位置とすると、作戦全体の成功率を上げるための支援部隊。作戦の成否を選ぶのは倉橋島の地に足をつけた人たちだけですからね。

 受話器の向こうでは誰も口を開くことはありませんが、きっと皆同じことを考えていることでしょう。

この作戦というよりも、私たちが関わった作戦の大本は『紅提督が帰ってこれるような環境にしておく』ためのものでしたからね。

 

『HQより作戦参加中の全部隊へ。陸上部隊の倉橋島の制圧を確認。事後処理の部隊に引き継ぎ、全部隊は撤退を開始せよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いま、なんと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

制圧を確認した?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『海軍本部』を?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 嬉しさにドキンと心臓が跳ね上がるのと同時に、カーっと身体が熱くなります。

そしてそれと同時に、目頭が熱くなってきました。

遂に、遂に終わったのです。否。正確に言えばまだですけど、これで大きな障害は排除することが出来たんです。

 艦橋内の妖精さんたちも飛び跳ねて喜んでおり、もう騒がしいことこの上ありません。ですけど、今日、今くらいは許してあげましょう。

私はそのまま壁にもたれ掛かりました。もう気張って立っている必要はありませんからね。

 





 遅くなりましたが、4月にも入り新生活がスタートした方もいらっしゃると思います。
入学・入社した皆様、頑張って下さい(当たり障りのない言葉)
ということで、今年度もよろしくお願いします。

 小説の話に戻しますが、不定期更新みたいなことを言っていた気がしますが、何だか最近定期更新になってますね。3日に1回って……。
それは置いておいてですね、作戦艦隊編はこれにて終わります。次回からは視点を赤城からましろに戻し、作戦開始からここまで追っかけます。
内容の重複が予想されますので、ご理解ください。

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