【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話   作:しゅーがく

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第66話  呉司令支部編 黎明の空②

 

 目前に叩きつけられた、本来知っているものである筈のことを、私が飲み込むのには相当な時間が掛かります。

戦争や戦死者・負傷者の扱い……。日本に生きていると、絶対に感じることのないモノを、私は修正なしで目の当たりにしたんです。

他の国の人間だったなら、もしかしたら違っていたのかもしれません。

ですが、私は日本人です。日本国の国民です。あり得ません。

 そんな私を置いてきぼりにし、時間は進んでいきます。

私が"そのこと"を考えている間に、何度も陸上部隊は攻撃を受けては応戦していました。そして同じように負傷兵を置いていきます。戦死者も邪魔にならないようなところに置いて行かれます。

それを繰り返し、繰り返し、繰り返し続けてやっと、『海軍本部』の攻撃を行う地点に到着していました。

その頃には、陸上部隊の3割を失っていました。戦死・負傷で脱落した兵は約1000人です。十分な戦車と自走砲を用意していたそうですが、尽く破壊されてしまい、到着できたのは出撃直後の半数程度。

これでは面制圧はおろか支援砲撃もままならないでしょう。トラックも数を減らされ、到着する直前なんて半数が徒歩移動でしたからね。

 

『侵攻部隊よりHQ。予定地点に到着した』

 

「HQ了解。別命あるまで待機せよ」

 

『了解』

 

 一方、作戦艦隊の状況にも異常な状況が発生していました。

倉橋島への攻撃が既に開始されていても良い時刻だと言うのに、未だに作戦艦隊は倉橋島に到着していませんでした。

それには理由があります。

向かっている道中、所属不明の艦隊と遭遇し戦闘になったとのこと。詳しい情報が大淀さんから滞りなく伝わっていますが、その情報をどう処理するべきか分からない状況にあったのです。

 遭遇戦をした艦隊は、作戦艦隊と同様に艦娘の艦隊だったとのこと。

それと"無力化"して状況把握を行ったところ、どうやら違和感を持ったということでした。無線機の有無や所属等がそうです。

これに関して、作戦室から作戦艦隊への命令は何も出していません。現場の判断に任せている状況でした。

 

「……想定はしていたが、まさか本当に」

 

 そう新瑞さんは口にした後、オペレーターに指示を出しました。

 

「至急、先行して倉橋島に潜入している諜報部隊に繋いでくれ」

 

「了解しました」

 

 私たちが横須賀鎮守府を出発するよりも前に、出発していた『血猟犬』は既に倉橋島に潜入して隠密作戦を開始していました。

その『血猟犬』と連絡を取ろうと言うのです。

 

「HQよりスカウト」

 

 『スカウト』とは、作戦室で『血猟犬』を呼ぶ時のコールサインみたいなものです。

 

『こちらスカウト』

 

「新瑞だ。最優先で調べて欲しいことがある」

 

 返事は返ってきません。どうやら了承したみたいですね。

 

「『海軍本部』の施設のどれかに、鎮守府と同じ設備を持ったモノがないか調べて欲しい」

 

『……スカウト了解』

 

 理由は聞いてきませんでした。それもそうでしょうね。

ですが新瑞さんの言葉から考えれば、今何が起きているかは分かるでしょうね。『血猟犬』の皆さんなら。

 ドローンには『血猟犬』の位置は映されていませんが、一応、何処に居るのかは分かっています。

この通信を行う前に、『海軍本部』の施設に潜入していることを知らせていたからです。

 『血猟犬』との通信が終わるのを見計らっていた様に、作戦艦隊の方から通信が入りました。

 

『赤城より司令部。敵対的な艦隊の詳細を確認。敵は倉橋島泊地所属です』

 

「HQ了解。作戦遂行に支障をきたしているため、司令部で作戦の再構築中。指示を待て」

 

 『作戦の再構築中』というのはデマカセです。作戦艦隊の侵攻が遅れていることと、こちらで事実確認をしているので、全体が一度停止しているんです。

 

『そうしたいのは山々ですが、現在別働隊が動いているという情報を入手しました。作戦艦隊は一部の艦隊を残し、遊撃掃討戦に移行するべきだと思います』

 

 赤城さんの意見具申がありましたが、新瑞さんが首を横に振っています。

それにオペレーターにも、赤城さんの提案した作戦は余計なことだということが分かったみたいですね。

 

「それでは味方に甚大な被害が……」

 

 そうです。部隊を分散させると、各個撃破される可能性が出てくるんです。ですから、出来るだけ集団で行動するべきなんです。

 

『……新瑞さんを出して下さい。貴方じゃ話になりません』

 

「指揮官は現在対応に……」

 

 『血猟犬』が逐一報告した情報を纏めたモノを片手に、新瑞さんは今後起きるであろうことを考えています。それをオペレーターは言いましたが、赤城さんは怒鳴ったのです。

 

『良いから出しなさいッ!!』

 

 その声は騒々しかった作戦室を静かにさせます。

もとより私は口を開いていませんでしたが、報告をしていた他のオペレーターや作戦室外からの連絡で話していた兵たちが黙ったのです。

 そんな中、新瑞さんは赤城さんの応対をしていたオペレーターの方に近づいていった。

そしてオペレーターからヘッドセットを借り、応答を始めます。

 

「……新瑞だ。赤城、報告は受けている」

 

『はい。それと伝えたいことがあります』

 

 さっきの返答を欲しかったんでしょうけども、赤城さんが欲しい回答を得るために何か切るみたいですね。

 

『『不明艦隊』は低練度であり、装備も旧式。挙句の果てに通信設備が撤去されています』

 

「ふむ……」

 

 確かに赤城さんの提案する遊撃掃討戦に入るためには、有益な情報かもしれませんね。

相手が新米で装備が旧式なら、なおさらこちらの方が戦いやすいですから。

ですが、そんな言葉に新瑞さんは耳を傾けませんでした。

 

『そこで提案なんですが、どうやら私たちが接敵した艦隊以外にも『不明艦隊』が存在しているようなんです。ですから作戦艦隊を分断し、遊撃掃討戦に突入する許可を……』

 

 進行中の作戦の妨げになる行動と知っていての、赤城さんの再度の許可を求める声でした。ですが、それに対して新瑞さんは一刀両断しました。

 

「許可できない」

 

 そう即答したんです。

 

『……理由をお聞きしても?」

 

 あくまで赤城さんは平静を保ったまま、許可されない理由を聞いてきました。

理由なんてすぐに分かるものですよ。私にだって分かったことなんですから。

 

「はっきりとしない情報に一々反応することはない。だから、予定通りに倉橋島に向かってもらう。それともし、本当に別働隊が居たとしよう。それの対処のためにわざわざ部隊を二分することは愚行だ」

 

『もし本当にいたとして、背後から攻撃された場合は……』

 

「包囲される訳ではない。それに作戦艦隊は通常編成の8倍以上の大艦隊だ。艦砲射撃を行わないことになっている水雷戦隊にその対処を任せれば良いだろう。それに航空爆撃から帰還した第二、第五航空戦隊が航空戦を行うことだって出来るはずだ」

 

 全くもってその通りです。もし『不明艦隊』が出現したとしても、恐らく6人の通常編成。30人以上で編成された作戦艦隊で対応するのなら、それこそ嬲り殺しにだってできます。効率の良い対処だって、いくらか思いつきます。

ですから別に遊撃掃討なんて行わなくっても良いんですよ。

 流石に新瑞さんにここまで言われたら、赤城さんも言い返すことが出来ないみたいですね。

少し静かになったかと思えば、返事が返ってきました。

 

『……了解しました。これより作戦艦隊は倉橋島へ向かいます』

 

「そうしてくれ。こちらから大淀にも伝えておく」

 

 一息吐いた新瑞さんはオペレーターにヘッドセットを返し、大淀さんに伝えてもらうように言いました。

そしてこちらに戻ってきたのです。

 椅子に腰掛けた新瑞さんは、少し溜息を吐きました。こういう場ではそういうことをしないのが普通なんでしょうけど、恐らく作戦室にいる誰もが思ったことでしょう。

赤城さんが焦っていることを。

 

「赤城のあの癖はどうしても治らないんだな」

 

「作戦立案すると穴があるというやつですか?」

 

 私は真相を知っていましたので、それを口にします。恐らく新瑞さんも知っていますからね。

 

「そうだ。天色からも聞いていたが、実感するとこうなんだな……」

 

「そうみたいですね……」

 

 しかしながら、新瑞さんは赤城さんが焦っていることには気付いてないのでしょうか。

遊撃掃討戦。つまり部隊を二分して作戦を続行するということは、分断するのは水雷戦隊の方。倉橋島への艦砲射撃と航空爆撃は予定通りの物量で行うつもりだったんでしょう。

大型艦のみで作戦行動を行うのは、かなり危険です。それを承知で赤城さんが作戦立案したのかもしれませんが、あまりにハイリスクでした。

もし航空部隊の奇襲を受けていたら、対応なんて全くできなかったでしょうからね。

 私は黙ってドローンの移す映像に目線を向けました。

陸上と海上の戦況を把握するためです。既に陸上部隊は次の段階に移る準備を整えています。海上では、今さっき艦隊が動き始めたところです。

この先、どうこの作戦が転んでいくのか……。私には想像も付きません。

 





 最近の投稿文字数が減ってきていますが、気にしないで下さい。キリの良いところで切っているだけですから(汗)

 ということで、作戦艦隊編と呉司令支部編とでは時間軸が同じようになっています。視点は違いますけどね。
一応、確認しながら書いていますが、内容や事象が違っていたりするかもしれません。ご注意下さい。

 ご意見ご感想お待ちしています。

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