【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話   作:しゅーがく

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第68話  呉司令支部編 黎明の空③

 作戦室は海の方に視線が集まっていました。

『不明艦隊』という存在が確認された今、海上を安全に航行できない状態にあります。それを警戒してか、これまでよりも航行速度がかなり落ちていたんです。

作戦全体の時間も圧していますが、そもそもそんな予定通りにことが運べる訳が無いんです。

ですから皆さん、今動いている作戦艦隊の状況が一番気になってしまっているんでしょう。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 予定航路は事前に作戦艦隊にも伝えられていますが、一直線っていうわけではないみたいです。

私は見ても分かりませんが、これが最善の進路だと新瑞さんは言っていました。

 そんな静寂の中、これまで輪形陣を取っていた作戦艦隊が陣形変更を行っています。

特殊な陣形ではありますが、その陣形に変えた意図が分かりません。

そしてドローンに映っていますが、空母の飛行甲板が慌ただしく動き出しました。どれが誰なのかは分かりませんが、6人居る中で4人の飛行甲板が慌ただしくなったんです。

 

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ーーー

 

 

 作戦序盤から接敵していた『所属不明の零戦ニ一型』の迎撃隊との戦闘に決着が付きそうです。

100機以上が迎撃に上がってきていましたが、今では半数程度まで数を減らしています。

 現行の戦闘機は継戦能力が低いですから、何度も往復を繰り返しての戦闘ではありますが、着実に迎撃隊を落としていっていました。こちらも少々被弾したりもするものの、撃墜されることは無く、時間を掛けつつジワジワと削り取っていっていました。

 

「倉橋島上空の戦況に変化がありましたね」

 

「はい。損傷を受けた迎撃隊の零戦がちょくちょく撤退を始めているように見えます」

 

 暇に耐えかねたのか、西川さんが口を開いたのです。

戦況の変化までは私は気付きませんでしたが、零戦が撤退を始めているところがあることには私も気づいていました。

 

「……空母機動部隊」

 

 私はそれの存在があることを考えます。

 これまでに大淀さんからの報告で分かっていることがあります。

1つ目は『これまでに艦隊戦を行ったのは2つの艦隊』。2つ目は『接敵して交戦を行った艦隊はどちらも6人の護衛・水上打撃を伴う空母機動部隊』。

ここから予想できるのは、迎撃隊はそのどちらの艦隊所属ではないということでした。となると、迎撃隊の母体となった母艦が居るということになります。つまり、まだ『不明艦隊』が存在しているということです。

 

「何かありそうですね」

 

 そう呟いたその時、オペレーターの対応が始まりました。

相手は大淀さんです。

 

『大淀です。偵察機が航空教導団と交戦していた零戦を追撃、その際に空母機動部隊を発見しました。規模は6。全員が空母です』

 

 想像はしていましたが、少し違いました。

ですけど100機以上を一度に出撃させることが出来るとなると、それくらい居て、これだけ継戦出来たと考えれば想像できたのかもしれませんね。

 

「こちらHQ。対応は?」

 

『作戦艦隊は手を出さないことになりました』

 

「了解」

 

 触らぬ神に祟りなしって言いますし、それが妥当でしょうね。

艦隊を確認した該当海域を伝えた後、大淀さんは通信を終わらせます。その該当海域にドローンを向かわせつつも、ようやく作戦が進み出します。

作戦艦隊が倉橋島に到着し、航空爆撃を開始したのです。2回に分けられる航空爆撃と艦砲射撃は、島の地形を変えてしまうほどの攻撃ですが、先に潜入した『血猟犬』の情報を元に、爆撃・射撃ポイントは絞ってあります。

 ドローンが次々と飛び立つ艦爆隊と護衛戦闘機隊が映り、その物量を物語っていました。上空を飛ぶのは約150機。空を埋め尽くしている艦載機たちは、倉橋島目掛けてぐんぐんと高度を上げていきました。

 

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ーーー

 

 

 これまでの戦闘で発生した被害が暫定ではありますが、作戦室に届けられました。

陸上部隊では死傷者約3125名。現在陸上部隊が展開している地域の後方10kmに、放棄された病院を利用した野戦病院で負傷者の手当を行っているとのこと。

戦死者の遺体はというと、ある程度纏めてビニールを被せてあるとか。後々回収する予定だということでした。

航空教導団での死傷者は0人。流石、深海棲艦ともタメで戦うだけはあります。というのも噂ではありますけどね。

 作戦艦隊が第一次、二次攻撃を行っている中、作戦室は残った陸上部隊の再編成を行いつつも、『血猟犬』から齎されている情報を元に攻略目標を定めていました。

 

「第一目標はここ、『海軍本部』司令部。元は地下坑道だったところです。深さもほとんどありませんので、外の敵を一層した後に制圧するのには、全く時間は掛からないでしょう」

 

 情報を精査していた兵が、新瑞さんなどと地図を広げた机を囲んで、目標を定める会議を行っていました。

 

「第二目標はここ」

 

 名前を言わずに指し棒で指した先には、ただの埠頭がありました。

何の変哲もない、建物もそこまで立っているところではないところです。

 

「……ここは何だね?」

 

「はっ。ここは恐らく『倉橋島泊地』だと思われます。小さいですが資源保管庫や入渠場があります」

 

 恐らくというよりも、それは十中八九そうでしょうね。しかも位置的に考えてみれば、第一目標との距離もかなり近いです。

倉橋島泊地で間違いないでしょう。

 

「第三目標は、現在の攻撃で撃ち漏らした兵舎等になります」

 

 こうやって話を聞いてみれば、存外に目標物は少ないんですね。

これまで大本営が追い込んできたという『海軍本部』の余力が伺えます。ですけどそれでも、陸上部隊を襲撃していた部隊の装備はあまり変わりありませんでした。

 

「作戦成功は『海軍本部』を指揮する幹部らの抹殺です。これは新瑞大将が定めたものでありますが、そもそも指揮官の人数が少ないと思われます」

 

「私も同意見だ。それに頭を潰さねば、また沸いて出てくるだろう」

 

「はい。ですので、その任務をスカウトに任せることを私は……」

 

「あぁ、それが良いだろう。この作戦に参加した部隊には尽く、そういった任務を出来る人間が居ない。私も君が言わなければ、私が言い出していたところだった」

 

 大筋は決まったみたいですね。

囲んでいた指揮官クラスの兵たちが散りました。

 

「『血猟犬』は横須賀鎮守府に敵対的な組織の構成員などの顔写真などを収集していました。ですので、彼らも覚えているでしょう」

 

「私もそう思います。それを知っていての指示ではないでしょうけど、たしかに現実的な選択ですね」

 

 私と西川さんは、そう言って話をした後に椅子に腰掛けました。

既に部隊への連絡は始まっており、『血猟犬』なんて既に行動を始めています。

オペレーターに連絡が入ってきていますからね。

 

『スカウトよりHQ。幹部一名を射殺』

 

「HQ了解。引き続き任務を続行せよ」

 

 『血猟犬』の指揮官である巡田さんは、きっと部隊を4つに分けています。

16人で構成されている『血猟犬』ですが、16人で固まって行動していると発見率が上がってしまします。ですから4人で1つの部隊とし、それぞれに巡田さんが命令を出しているんだと思います。報告も巡田さんが行っていますし。

 続々と入ってくる幹部射殺報告に、少しずつ作戦室の雰囲気も変わっていきました。

状況は優勢ではありましたが、部隊にかなり被害を受けていましたからね。そして艦娘の登場によって、予測はされていましたがかなり混乱に陥りました。

ですけど、ここまで来たんです。最終段階に入った今、皆平静にことをこなしていますが、心の中ではきっと別のことを考えているに違いありません。

そんな時、作戦室に一報が入ります。

 

『スカウトよりHQ! スカウトよりHQ! 巡田が頭部に被弾、戦死ッ!!』

 

 時間が一瞬止まります。そう言った報告は、作戦中にはありませんでした。

こういった報告というのは、作戦行動中にあるものと言えば指揮官クラスのものです。作戦続行や指揮系統に問題を生じさせるような人物の殉職時のみにはされるものらしいです。

 

「じ、状況報告せよ」

 

『現在第一目標から脱出した幹部と護衛を襲撃。その際、遠方からの狙撃により……』

 

 狙撃……。となると助かる見込みは無しの即死判定だったんですね。

 心が掻き乱されていきます。陸上部隊の戦死者でも私は感傷的にかなりなりましたが、今回はそれ以上です。面と向かって話したことのある人ですし、何よりお世話になった人であり上司ですからね。

 

「HQ了解。亡骸を隠し、作戦を続行せよ」

 

『スカウト了解。現場の指揮は次席指揮官に委譲する』

 

 通信の向こう側がどういった状況になっているのか、私には想像が付きません。

軍人ですから、隣の仲間が死ぬことに対して心の準備はしていたでしょう。

 ですけど、私には出来ていませんでした。隣に立つ人、目の前に居る人、この目に映る人が"死ぬ"なんてこと、ほとんどありませんでしたからね。

前の仕事(看護師)の関係では、患者さんが亡くなることはよくありました。それには心構えというものをする猶予があったんです。危篤であったりだとか、予兆があったりだとか……。ですが戦場に於いて危篤状態に陥ることや予兆が現れることなんて、ほとんどありません。私が気付かないだけかもしれませんが、何かしらの予兆があったとしたら、それが積み重なってこのようなことになったんでしょう。

 そのような状況に陥っても、私はどうしてか心が乱れるだけでした。

 




 新規の言葉が出てきていますが、数が少ないので把握の方をお願いします。

 この話が物語の物語の根幹を知る上で重要なイベントだと思って下さい。すぐにその理由がわかると思います。
積極的に物語の行く末を考察していらっしゃる方などで、作者に今後の展開の予想を聞いて欲しいなどあればメッセージのみ受け付けます(いないと思いますが念のため)

 ご意見ご感想お待ちしています。

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