【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話   作:しゅーがく

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第69話  呉司令支部編 黎明の空④

 

 巡田さんのことを考えていたら、作戦が進んでいました。

作戦艦隊が倉橋島に到着し、第一波・二波攻撃を開始した後、『降下猟犬』を乗せた赤城・加賀航空隊が発艦したとのこと。

 作戦艦隊・水上打撃艦隊と第二・第五航空戦隊の航空爆撃の効果は想像以上で、倉橋島地表に点在していた対空陣地や兵舎などなど、『海軍本部』の施設として断定されていたもの全ての破壊を行い、地面もクレーターでボコボコになっていました。

 作戦に前後や変更点などはありましたが、筋書き通りにことを運ぶことが出来ていたみたいです。残すは陸上部隊の突入で『海軍本部』の殲滅を行い、それで作戦は成功です。再起不能にまで追い込むことが出来れば、それで全てが終わるんです。

 

「『降下猟犬』、降下開始。倉橋島東にて敵の残存勢力と交戦を開始」「待機中の陸上部隊も呼応して倉橋島に侵攻を開始」

 

 オペレーターによって伝えられる情報。私は耳を傾けて、覚えている作戦の筋書きを思い出していきます。

先ほども考えていましたが、全て筋書き通りにことが進んでいました。予測していない事態も起きていましたが、迅速に対応出来ていたと思います。

 それに呼応するかのように、事態が動き出します。

作戦艦隊が発見した空母6人で構成された空母機動部隊より、攻撃隊と護衛戦闘機隊が発艦し、作戦艦隊に向かっているとのこと。状況から考えるに、攻撃目標が作戦艦隊なのは自明でした。

それに対する作戦艦隊の動きはというと、『降下猟犬』を降ろした赤城・加賀航空隊を対応に回すことでした。第二・第五航空戦隊の航空隊は、一度着艦してしまっているので、後で上がるようです。

 そんなことが海上で起きていても尚、作戦室では陸上部隊の動きが最優先でした。

侵攻を始めた陸上部隊は次々と倉橋島の要衝を踏破し、全域の安全確認などを行っていたんです。

 オペレーターのもとには続々と状況報告がなされていき、予定していた目標物の攻略なども着々と終わっていっているその時、一報が報じられます。

 

『こちら第二憲兵師団。倉橋島泊地の制圧に成功』

 

 そう。倉橋島泊地。この作戦に於いて、一番厄介だった相手です。

それの存在を事前に知ることは出来ませんでしたが、情報を精査し、迅速に正確な対処が出来ていたと思います。

 憲兵師団から、内部状況などが事細かに知らされていきます。

 

『艦娘を運営するだけの設備・資材の備蓄を確認。寮と思われる建造物からは、50名以上の艦娘を発見。目視では体の異常は感じられない』

 

「HQ了解。艦娘は保護し、引き続き制圧状況を知らせよ」

 

 艦娘が見つかった。それは想像通りのことでした。

海で対峙したというのなら、存在していなければなりませんからね。

ですがやはり、口頭での状況伝達というのはもどかしいところがありますね。ちゃんとした容態なども気になるところです。

『海軍本部』に使われていた艦娘たちですからね。

 そして他の隊からの制圧状況報告が着々と入っていき、全ての確認が終わりました。

これで倉橋島の制圧は完了です。残すは作戦艦隊が戦っている空母機動部隊だけです。

 ですがここで私は疑問に思いました。

私はこの世界の仕組みなどはほとんど分かっていません。紅くんが関わっていたことなども。

そんな私でさえも分かることがあるんです。"艦隊の運用可能上限"のことです。

何故これを今ここで取り上げたのかというと、理由は単純です。

倉橋島泊地が作戦艦隊の迎撃に出した艦隊の数は3つ。1つの泊地ないしは鎮守府が運用可能な艦隊数は、4つの艦隊にそれぞれ6人の艦娘です。

普通に考えれば、あと1つ、艦隊が残っていることになるんです。

 

「空母機動部隊も航空戦力を失えば、ただの浮いている的だな」

 

「えぇ。退艦するように赤城さんが呼びかけているみたいですが、全ての艦隊で退艦を行ったようですね」

 

 そんな話をしている新瑞さんと西川さん。私の考えていることと、ほとんど内容は噛み合っていませんが、お2人は私のようなことを考えているのか分かりません。

ですけど、お2人はこれで終わりだと思っているはずです。

 

「……まだ終わっていませんよ」

 

 私はそう言いました。

お2人はおろか、作戦室にいる皆さんが私の方を向きました。

 

「どういうことだ? 倉橋島は制圧し、今作戦艦隊が戦っている空母機動部隊を叩けば……」

 

「はい。ですから、それではまだ終わらないんです」

 

 私は確証を持ててはいませんが、その話をしました。

4つの艦隊が運用できることについて。

 

「1つの鎮守府ないし泊地は、4つの艦隊まで運用することが出来るんです」

 

 とは言っても、横須賀鎮守府は完全にそれを無視していますけどね。

それもあってか、お2人はそのことに気づかなかったんでしょう。というよりも、そのことを知っていたんでしょうか。そこからの話です。これは。

 

「横須賀鎮守府は特例みたいですが、他の鎮守府や泊地はそういった制限が掛かっているはずです。倉橋島泊地こそ特例中の特例ではありますが、艦娘の運用に関して素人同然の『海軍本部』が定められた運用方針外を執るとは思えません。……と考えると、あと1つ。あと1つ、艦隊が残っているはずです。私たちが気付かないだけで」

 

「な、にっ……?!」

 

 新瑞さんの顔がみるみるうちに険しくなっていきました。

西川さんも「あ、そういえば」みたいな表情をしています。

 

「絶対にまだ、海上での戦闘は続きます」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 作戦艦隊が空母機動部隊からの攻撃隊への対応が行われている最中、ドローンの1機が海上で艦隊を確認しました。

その映像は作戦室に送信され、私たちはその映像を見ることとなったのです。

 特に動きのない今、海上の映像だけに集中して見ている私たちは、目に飛び込んでくるその"大きな影"に押しつぶされそうになっていました。

 

「あ、あれはっ……」

 

「なんてことだ……」

 

「クソッ!!」

 

 6人編成の艦隊が、作戦艦隊に向けて急速接近中なんです。編成を確認するしないに限らず、その姿を見た誰もが正体が分かったんです。

作戦艦隊にも含まれていない上に、今の状況で作戦艦隊がその艦隊と交戦しても、勝機があるのかないのか分からないような相手……。そう、大和型戦艦が現れたのでした。

 

「大和型戦艦2、重巡4……」

 

 オペレーターが大和型以外のも確認したところ、戦艦ではなく重巡だったみたいですね。

形状から型が分かるんですが、そんなことはどうでも良いことなんです。問題はその大和型戦艦にありました。

 

「何かあるとは思っていたが、まさかこれとは……。作戦艦隊の現状は?」

 

「現在、空母機動部隊と交戦中にあり。初撃の航空戦は無理と判断ッ!!」「水上打撃部隊の残弾が3割ほどになっており、継続した水上砲撃戦は困難かと」

 

「効果的な打撃を加えられる大型艦が、まともな攻撃が出来ないだとっ?!」

 

 状況最悪です。今までにないくらいに絶望的でした。

いくら30人以上で編成されている大艦隊の作戦艦隊が、6人の通常編成艦隊と交戦したとしても、相手は世界最大最強の戦艦。大型艦の主砲残弾数も正面切って戦うほど残ってない今、数の差などほとんどないように見られました。

 

「……私たちには何も出来ることはないが、支援は出来るだろう」

 

 そう言った新瑞さんは、オペレーターに言って航空教導団の出撃可能な数を聞いた。

 

「航空教導団で出撃可能な機体は?」

 

「迎撃隊との交戦後の補給で後が詰まっています。それにパイロットの疲労のことを考えると……」

 

 航空教導団はジェット戦闘機では慣れることのない、レシプロ機相手の格闘戦をしていた訳ですからね。そりゃ疲労も貯まっているでしょう。

それに補給で後がつかえているということは、殆どの機体が戻ってきていることになりますね。倉橋島の制圧も完了しましたし、制空権を確保しておく理由もなくなった訳ではありませんが、現状、『海軍本部』の航空戦力は作戦艦隊が交戦していた空母機動部隊以外には残っていませんからね。

 

「出撃可能になった機体から上げれば良い。作戦艦隊と大和型の艦隊の交戦を支援せよ!」

 

 新瑞さんはそういう命令を下しました。

赤城さんたちは、恐らくですが支援を望んでいません。航空戦力が空母機動部隊に向かっている現状、新瑞さんがおっしゃった通り、作戦艦隊の空母機動部隊から航空隊が出るとは思えません。

となると、交戦に入る時には砲雷撃戦になります。近接戦になりますから、航空支援などうっとおしいだけかもしれません。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 大淀さんの『空母機動部隊の無力化に成功』から、細かく入っていた報告もピタリと止んでしまいます。

作戦艦隊にも大和型戦艦の艦隊が確認されたんでしょう。対応策を練っているのか、それとも混乱に陥っているのかは分かりません。

ですけど、状況はドローンから送信されてくる映像で分かります。

艦隊からの砲撃が作戦艦隊のところに夾叉で落下。それからというもの、数分間動くことはなかったんです。

一体、どうしたと言うのでしょうか。

 普通ならば回避運動を取り始めるべきタイミングです。ですけど、作戦艦隊は動かなかったのです。

 

「混乱しているんですね」

 

 私は状況を鑑みて、そういう結論に至りました。

ですが、その後すぐに作戦艦隊は動きだしたのです。全速力で艦隊が向かってくる方向とは反対側に艦首を向け、陣形を特殊な陣形から空母機動部隊を守るような陣形、輪形陣に変更したのです。

そして続々と戻ってくる艦載機を収容しながら、海域の離脱を図り始めました。

 一体、何をしているんでしょうか。

正面切っての砲雷撃戦をするのではなく、作戦艦隊は退避を選んだのです。私にはその選択の意図が全く分かりませんでした。

 

 





 こうやって2種類の視点を置いて同じ時間軸の話を書くのは結構難しいものです。
常に本文を2つ並べて書かなくてはいけませんからね……。

 ⑤の後書きで詳しく書きますが、今回のエンディングがどういうものかを発表しようと思います。
後書きまで読んでいらっしゃる読者の方がいれば良いんですけど、どうか次の話の後書きだけは読んでくださいね。

 ご意見ご感想お待ちしています。

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