【完結】艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話 作:しゅーがく
私たちが帰るなり、鎮守府内は慌ただしくなりました。現在任務中の各部隊への伝令や事務棟への連絡から始まり、赤城さんと金剛さんを呼び出して全艦娘への通達。酒保などへの連絡等々……。
そんな鎮守府ではありましたけど、重要なことを忘れていました。
本当に紅くんは帰ってくるのでしょうか。
私がそのことを口にした時、近くに居たのは赤城さんだけでした。
そのことは赤城さんも気になっていたようで、すぐに連絡を取ろうと言い出します。
「今から電話のあるところに行きましょう」
「そうですね。私たちが帰ってきてから4日ほど経っていますから、新瑞さんに電話しても多分大丈夫でしょう」
忙しかったので忘れていましたが、呉から帰ってきて4日ほど経っています。
連絡を終えた私たちは、それぞれの部署に連絡を出して会議を繰り返していました。それはもう休憩という休憩が無かったように忙しかったです。ですから気付けば4日も経っていました。
そして、休憩をあまりしていなかったからか、疲労で酒保の人がその場で寝てしまったことから始まり、今は全体に休憩をするように言ってあります。
私はというと、私も忙しかったですがそこまでではありませんでしたし、ちゃんと休憩中にご飯を食べたり寝たりしているので、そこまで疲れては居ないんですよね。それは赤城さんも同じだったみたいでした。
赤城さんとはたまたま同じ会議に出席していて、そのまま休憩に入ったので一緒に外のベンチに座っていました。
ちなみに他の人たちは会議をしている部屋で、そのまま寝ています。なんていうか凄い光景でした。
「今電話があって人が居ないところってどこでしたっけ?」
「確か……地下司令部だけだったような。あそこでは会議は出来ませんし、会議室や事務の出来る部屋以外で電話の通っているのはあそこだけです」
「今すぐ行きましょうか」
「そうですね」
私たちはベンチから立ち上がり、地下司令部を目指します。今回の休憩に与えられた時間は3時間です。それまでにはかなりの時間があるので、ゆっくり行きましょう。
ちなみに、こんなに忙しく何の会議をしているのかというと、『どうやって紅くんを出迎えるか』『帰還式をどうやって行うか』『帰還式の来賓に誰を呼ぶのか、それとも誰も呼ばないのか』等々。正直必要なのか、という会議もあったりする。それは『私(ましろ)のことをどうやって説明するのか』だ。正直に言ってしまえば良いような気もしますけどね……。
それはともかくとして、地下司令部に着きました。
初めて入る訳ではありませんが、私は赤城さんの後に続いて入っていきます。
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地下司令部は地上施設よりも静かでした。というよりも、管理の妖精さんしか居ません。そんな地下司令部を新鮮に感じつつ、電話の前までやってきます。
受話器を取り赤城さんはボタンをプッシュします。
そしてコール音が受話器から聞こえてきました。
『海軍部 新瑞だ』
「横須賀鎮守府の赤城です。本日は少し聞きたいことがありまして」
そう切り出したが、どうやら新瑞さんは分かっていたみたいですね。
『天色 紅提督のことだな? あと3日後に横須賀鎮守府に到着予定だが?』
「あ、ありがとうございますっ!!」
『用件はそれだけなのだろう? 私も電話をする予定だったから丁度いい。こちらの用件も伝えておく。実は』
受話器越しでも、私には新瑞さんの声は聞こえてきます。そして新瑞さんの伝えたかった用件というのは……。
『実は天色 紅提督の帰還に伴い、私と総督もそちらに向かうつもりだ。そちらは受け入れの用意などは要らないから、何かするのなら席でも用意しておいて欲しい』
「分かりました。……では3日後に」
『あぁ。よろしく頼む』
それだけで電話は終わったそうです。
事前に知らせたいこととは、自分たちも行くからということだったんですか。確かに知らせておく必要のある内容でしたね。私たちの方の準備は、完全に紅くんを迎えるだけの準備をしているだけに過ぎませんでしたから。
受話器を置いた赤城さんは、そのまま何かを考え始めたみたいです。多分、新瑞さんと総督をどうするか、についででしょうね。
私としては、別に私たちや『柴壁』と一緒に立って貰えれば良いような気もしますけどね。
「……まぁ、特別何かする訳でもありませんし、それとなく多方面に伝えておけば良さそうですね」
赤城さんも同じことを考えたみたいですね。私に言ったのか、独り言なのか分かりませんが、そう言いました。
これで地下司令部の用は無くなりました。まだ休憩時間は残っていますので、どうしましょうかね。
そんなことを話しながら、私と赤城さんは地下司令部を後にします。
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紅くんが帰ってくるまでの3日間は、本当に忙しかったです。それまでの会議漬けの方がまだマシなように思えるほどに忙しかったんですから。
最初に横須賀鎮守府全域の清掃活動に、出迎えのアーチ的なやつの練習。紅くんが居なかった約2年 (初期の頃)で売り飛ばしてしまった資源の再回収、鎮守府近海の掃討作戦。これは艦娘の皆さんの仕事でした。私たち『柴壁』や酒保の人たちの仕事は主に、物資の運び込みや買い付けなどでした。そして到着2日前に突然新瑞さんから届いた『海軍音楽隊が演奏するらしいから、それの準備も頼んだ』という言葉に踊らされ、大慌てで舞台と設備、席の設置を行った。ちなみに本来の物資の運び込みや買い付けだけだったら、ここまで忙しくなることは無かったんです。
皆、口々に『することありがたいけど、直前に言わないでくれ……』と愚痴をこぼしながら作業していたのを覚えています。
そして紅くんが帰ってくる当日。
皆、やっと逢えるという喜びや嬉しさ、帰ってくるからと言ってずっと掃除をしていたり、準備をしなくてはと早朝から起きてきていたました。
それは私も変わりません。皆さんは2年逢えなかったんですが、私はそれよりも長い時間遭ってませんからね。
今日という日をどれだけ待ち望んでいたか……。
今日という日をどれだけ夢見てきたか……。
私はそんなことを心に秘めて、予定時刻まで作業をし続けます。
――――――そして、その時は来ました
今日の天気は晴天。雲ひとつない青空の下、季節は春を迎えて、正門から伸びる長い道の両脇に植えられている桜の木々が花をめいいっぱい広げています。
鼻孔をくすぐる花とお陽様の香りに包まれながら、私や100名以上の艦娘、1500名以上の『柴壁』と酒保従業員は今か今かと待ち構えています。
これまでの長くはありませんでしたが、紅くんを取り戻すために戦った日々。そしてこの中で唯一、生きたまま遭うこと叶わなかった巡田さん。
全てはこの日この時のために費やしたことでした。
私がこの世界に来た時、横須賀鎮守府というよりもこの国自体に生気は感じられませんでした。まさしく"死んでいるかのような"様子だったんです。
そんな中で、私たちは紅くんが生きていることを知り、紅くんのために働きました。そしてそれが今! ここに報われようとしているんです。
皆は、長い時逢えなかった紅くんのために
私は、行方不明になった実の弟を探しに
鎮守府の前の道を通り過ぎる自動車の音に、一々反応をしては深呼吸します。
落ち着こう、落ち着こう。やっと逢えるのだから……。そんな声が聞こえてくるようでした。
風に靡く桜の枝にふと目を向け、舞い散る花びらに目を奪われます。ひらりひらりとゆっくり地面に落ちていく様は、まるで私が感じているこの時間を表しているようでした。
ゆっくりゆっくりと時間が過ぎていき、そしてその時が来たんです。
正門が開き、自動車が3台だけ入ってきました。その前後を固めていた装甲車は門の外に止まります。
自動車の2台目だけが、私たちで出来たアーチの前に止まります。
――――――ガチャ……
少し離れたところに止まった車から、人が降りてきます
――――――コツ……コツ……
その、降りてきた人は……
――――――みんな
――――――ただいま
――――――おかえりなさいっ!!
私が探しに来た紅くん〈提督〉だったんですから――――――
「おかえりなさいっ!! 紅くんっ!!
これにて『艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話』の完結とさせて頂きます。
これにふまえて、少々お知らせをしておこうと思います。
本作は3つのエンディングをする予定でしたが、作者が設定したトゥルーエンドは1本2本投稿すると終わってしまう内容であったため、外伝としてこのエンディングの後に投稿することとなりました。以上となります。
とりあえずはこの辺で話を切り替えましょう。
完結ではありますが、After Storyは用意する予定です。前作のような1本で終わるかもしれませんし、本作のバッドエンドのAfter Storyみたいに長くなるかもしれません。
それまではお付き合い下さい。
これまで本当にありがとうございました。本作『艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話』と前作『艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話』をお読みいただき、ありがとうございました!!
では皆さん、またどこかでお逢いしましょう!!