あと流石にファイナルとは言えませんでした。
弁慶『──…っはぁ…はぁ…はぁ……』
竜馬『……』
隼人『……ふっ』
武蔵『……』
弁慶『はぁ…はぁ…っ。待っ、待ってくれ…!竜馬、隼人……先輩ッ!!』
竜馬『あばよ──!』
弁慶『待ってくれ…!俺を、置いて行かないでくれぇーーーッ!!──』
──。
弁慶「──…っ!! 今のは……夢、か。随分と、情けねぇ夢を見ちまったもんだ」
弁慶「ここは……医務室か。俺ァ、そうか司令室で倒れて……ん?」
友紀「Zzz…」 グ- グ-
弁慶「…ったく。嫁入り前の体を、あんまり冷やすもんじゃねぇぞ」
そう言って、自分に掛けられていた布団を掛ける。
友紀「ウ-ン…パパ、ママァ……お兄ちゃん…。ドコ…?」
弁慶「っ。……」
友紀「親父ぃ…」 Zzz…
弁慶「…友紀」
弁慶(昔、竜馬達に1人置いていかれた時は、自分の不甲斐なさを悔やんだもんだが…。結局地球に俺1人残ったのは、良かったのかも知れねぇな…)
弁慶「友紀…。美世と、茄子もだ。お前達は何があっても、必ず俺が守ってやるからな。この身に代えても──!」
友紀「おや、じ…?」 ムニャムニャ…
友紀「私だって、親父のこと…」
──。
莉嘉「ゲッタートマホーック!!」
早乙女研究所から少し離れた浅間山の山間部で、戦線が展開している。
莉嘉「ダブルッ!ラビリント~ス!!」
柄尻同士を突き合わせたツイントマホークを振るい、殺到するインセクター達を宙へと巻き上げ、体勢が崩れたところを今度はダブルトマホークで切り刻む。
かな子「アトランティス流国も、大分本格的に攻めてくるようになってきましたね…」
美波「えぇ。このまま防戦を続けるだけじゃ、何時か押し切られるかも…」
莉嘉「だから、相手の本拠地を攻める為に皆準備してるんでしょ?先ずは経験値を稼いで、レベルアップだ~!」
両手のトマホークをブーメランにして一度手放し、腕部のバトルショットカッターを展開。肉薄するインセクターを切り伏せ、戻ってきたトマホークをキャッチ。そのまま背後へと振り向き、背後から迫ろうとしたインセクターを、バッサリだ。
かな子「…そんな、ゲームじゃないんですから」
美波「……」
美波(確かにゲームじゃないけど、ここの所莉嘉ちゃんの戦闘効率は格段に上がってきてる…。莉嘉ちゃんの柔軟性と、順応力と言えばそれまでだけど…けど)
莉嘉「これでどうだ!──ゲッタービームッ!!」
ズ オ ァ ッ
莉嘉「へへ~ん☆あらかた雑魚はやっつけたって感じ?」
かな子「まだです!ここから7時方向、新ゲッターが囲まれてます!」
莉嘉「え!?」
かな子「今、號くん達が支援に向かってますけど、私達も行きましょう!」
莉嘉「分かった!」
ウヅキ「くっ…!」
リン「ウヅキ、敵に飛び込みすぎだ!一度後退して……うっ…!」
ウヅキ「やぁあああああッ!!」
水平にトマホークを大きく振るい、インセクターを真っ二つに両断する。
ウヅキ「…ダブルトマホーク──!」
右の肩から、もう1つのトマホークを抜いて左手に構え、
ウヅキ「ブーメランッ!!」
両のトマホークをブーメランとして投じる。
インセクター《!!》
弁慶「うぐっ…!?」
手に槍を構えたインセクターの突きが、新ゲッター1を襲う。
ウヅキ「ぐぅ…!このォ!!」
手元に帰ってきたトマホークを構え直し反撃。インセクターを一刀の元、切り捨てる。
インセクター1《!!》
インセクター2《!!》
インセクター3《!!》
新ゲッター1を包囲しつつあるインセクターの軍勢が、一斉に頭頂部からビームを放ち、新ゲッター1に直撃させる。
リン「あぁ…っ!」
ウヅキ「う……ぐぅ…!こんなもの…!」
トマホークを新ゲッター1の正面に翳し、放たれ続けるビームを、防ぐための盾とする。
ウヅキ「こんな……もので!!」
トマホークの刃に、受け止めたビームが集束していく。
ウヅキ「負けてたまるかァ!!」
ビームを帯びたトマホークを一振るい。新ゲッター1に放たれたビームを、まとめて元のインセクターへと返し、次々に破壊した。
ウヅキ「はぁ…はぁ…はぁ…!」
リン「ウヅキ、まだ敵が来る!」
ウヅキ「っ!?」
インセクターが爆発した爆煙の少し下方向から、槍や差す叉を構えたインセクターが突撃してきている。
渓 「ブレストボンバー!!」
ウヅキ「…!」
弁慶「號達か!」
新ゲッター1に迫っていたインセクターを、ゲッター2号のミサイルが制する。
剴 「よし、敵が動きを止めた!」
號 「一気にやっちまえ、渓ッ!!」
渓 「うん…!ゲッタードリル、フルスロットル!!」
臨界まで回転したドリルを突き立て、捕捉したインセクターへ迫る。
渓 「トルネェェード・アターーック!!」
高速回転するドリルに、加速の勢いを乗せ、インセクターを次々に貫き、粉砕した。
渓 「やった…!」
剴 「油断するな。全てが台無しだぞ」
渓 「もう、ちょっとくらい良いじゃん」
剴 「……まぁ、もう油断しても問題なさそうだな」
號 「大分ゲッターに慣れてきたんじゃねぇのか?」
渓 「えへへ…。訓練の成果、出せたかな?」
號 「このくれぇ、まだ基礎の基礎が終わったってトコよ」
渓 「え~?」
剴 「ふっ、誰が言っているんだか」
號 「良いじゃねぇか。俺達は形になりつつある」
剴 「俺達は、な。問題は…」
ウヅキ「……」
──。
~~~ ??? ~~~
武官「失態だな晴明!威力偵察とは言え、決して少なくない犠牲を払うことになったぞ?」
晴明「……」
武官「若き勇傑達がその命を散らしたのだ。皆、使命の為なら命を捨てることすら厭わない、誇り高き戦士達であった。その代価、何として払う?!」
晴明「…若人とは、何時の世も勇み、逸るものです。使命に殉ずることを厭わぬと言うのであれば尚の事、その時期が少し早まっただけと、そうは思えませぬか?」
武官「詭弁を…!」
晴明「それに、良いではありませんか。これで残るは、我々戦を知る者同士、慎重な軍議が執り行えると言うもの」
武官「貴様、まさか最初から…!」
孔明「もう良い。軍議が進まん」
武官「しかし…!」
孔明「確かに犠牲があったとは言え、晴明の威力偵察のお陰で、連中が隠していた新たなゲッターロボを引き摺り出すことが出来たのだ。それも十分な収穫と言えよう」
武官「……」
孔明「晴明。此度の戦の責は、最早問うまい。しかし、状況は苦しいぞ?只でさえゲッターアークに苦しめられておると言うのに、更なるゲッターなど…」
仕官「やはり、ここは総攻撃あるのみでは?」
晴明「その必要はありますまい」
仕官「何!?」
晴明「我らにとってゲッターは倒すべき敵…。しかしそれは奴等とて同じ事。であれば、然る後に向こうから来てくれるでしょう」
孔明「…この黒平安京を、決戦の舞台とするか」
晴明「追い詰められた窮鼠は恐ろしいもの…。しかし、わざわざ飛び込んでくるのは正しく袋の鼠。その為にも、ここは新たなゲッターのデータを集めるのが肝要かと」
孔明「ふむ…。しかし、こちらとてこれ以上無用な犠牲を生むわけにも行かぬ。ある程度、手勢は出させてもらうぞ」
晴明「……御随意に」
── 軍議終了後。
晴明「…して、私1人を残して、何用でしょうか、孔明様?」
孔明「はぐらかすつもりか?分かっておるだろう。真ゲッターロボの事だ」
晴明「真ゲッターロボ…」
孔明「マクドナルと共に貴様に預け、調査は進んでおるのであろう?使えるようになるのか?」
晴明「孔明様は、ゲッター共の始末に真ゲッターをお使いになるつもりで?」
孔明「毒を制するには、同じ毒を以てしてだ。真ゲッターならば、異界から訪れしゲッターアークにも対抗出来よう」
晴明「確かに…。しかし、やはりゲッターとでも言うべきでしょうか。マクドナルがもたらした人造の兵も、我が術式による制御も、一切受け付けてはおりません」
孔明「…つまりは、使えぬと?」
晴明「戦力としては。しかし、利用価値はあります」
孔明「ほぅ…?」
晴明「人間共との決戦の折りには、成果をご覧にいれましょう。今はまだ、ごゆるりとお待ち下さい」
孔明「分かった、期待している。それと…」
晴明「は…」
孔明「この朽ち果てた黒平安京で、半ば死を待つだけであった貴様に第2の命を授け、ゲッター打倒の機会を与えた事、ゆめゆめ忘れるでないぞ」
晴明「……承知しております。晴明のこの命、全ては孔明様と、孔明様が仕えるアトランティス流国の為に」
孔明「分かっておれば良い。必ずやゲッターの首級を…。ではな」
ツカツカツカ──
晴明「……ふん」
───。
~~~ 早乙女研究所 食堂 ~~~
莉嘉「ふぃ~…!食べた食べた!ご馳走さま~☆」
美波「出撃があったから仕方ないけど、ちょっと遅い昼食になっちゃったね」
かな子「それならいっそ、このままティータイムでもしちゃいます?おやつならありますよ?」
莉嘉「わーい、やった☆」
美波「食料資源だって貴重なんだから。新ゲッター無駄遣いしてると、また怒られちゃうよ?」
かな子「う…」
バンッ
かな子「きゃっ!?」
號 「──都合の悪いところはシカトか?あ゛ぁん!?」
莉嘉「ま~た號が誰かに喧嘩吹っ掛けてるの?」
美波「そんな、號くんをチンピラみたいに…」
かな子「號くんが噛み付いてるの、ウヅキ……さん?」
ウヅキ「……」
渓 「號、私達にも何かあったって訳じゃないんだからさ。もうその辺で…」
號 「へっ、相変わらずお人好しだな、渓はよ。だが、俺は我慢出来ねぇ質なんでな。ビビりのトーシローの世話なんざ、真っ平御免だぜ」
渓 「え?ビビりのトーシローって…」
剴 「流石に號も気付いていたか…」
渓 「どう言うこと?」
號 「へっ、何を怖がってンだか知らねぇが、腰が引くついてんのは戦い方を見りゃ分かるぜ」
剴 「わざわざ敵陣に飛び込んでいったりな。そういう作戦があるのならばともかく、あれではただの投身自殺だ」
渓 「…へぇ」
ウヅキ「……」
號 「おい、ちったぁ何とか言ったらどうなんだ?それとも、この俺にもビビってんのか?」
ウヅキ「……」
剴 「そう絡むな、號。ブランクは本人も自覚している。今は多めに見ておこうじゃないか」
號 「だがよぉ…」
剴 「真ゲッターでの戦闘経験があるのも事実なんだ。司令官も、期待していることだしな」
號 「司令……姐さんが?」
剴 「あぁ。でなければ、新型のゲッターロボを、10年も収監されていた人に任せないだろう」
號 「あ~……そりゃそうだ。なんせ、俺達がいるんだからな」
渓 「流石にそれは自惚れが過ぎるんじゃ…」
剴 「司令は貴女に期待しているんだ。貴女なら、第2の流竜馬になれると。だから今日のような戦い方は、俺達だけじゃない、司令だって失望させることになる。それだけは、覚えていてもらいたいですね」
ウヅキ「……」
渓 「あ~…」
號 「くくっ…!俺なんかより、よっぽど嫌味ったらしいぜ…」
ウヅキ「……mせんから」
號 「あン?」
ウヅキ「別に協力も助けてくれとも、頼んでませんから」
號 「テメェ…!!」
弁慶「號!テメェ、こんなところでも喧嘩かァ!?」
號 「チッ…!車さんか。耳が早ぇ…!」
弁慶「ったく…。喧嘩なんぞしてる暇があンなら、とっとと飯喰って訓練にでも行け!」
號「…車さんは良いのかよ?」
弁慶「あン?」
號 「俺が言えた義理じゃねぇかも知れねぇけどよ。アイツは危険だぜ」
弁慶「…確かにな。だが持ってるもんは一級品だ。戻ってきた覚悟もあるしな。アイツが1号機で戦うことに、文句はねぇよ」
號 「しかし!」
弁慶「テメェも、アイツの覚悟は効いたんだろうが。だったら今さらグダグダ抜かすんじゃねぇ」
號 「覚悟は認めるが、及び腰じゃ話になんねぇぜ」
弁慶「及び腰、か…」
號 「アイツは何にビビってるんだ?今更敵になんて、訳ねぇよな?」
弁慶「10年前の悲劇で心に傷を作ったのは、テメェらだけじゃねぇってことだ」
號 「…どう言うことだ?」
剴 「……」
友紀「あーっ、いたー!!」
弁慶「友紀か。何か用か?」
友紀「何か用、じゃないよ!また出撃したんだって?もう、無理はしないでって言ってるのに!」
弁慶「無理なんざ1つもしてねぇよ。お前さんが心配しすぎなだけだ」
バシィンッ
弁慶「痛゛~……っ。テメェ…!」
友紀「こんなか弱い乙女に叩かれてそれじゃあ、無理してない何て言う方が無理だって」
弁慶「ぐっ…。友紀でか弱いんなら、ゴリラだって非力だろうよ」
友紀「どういう意味!?」
弁慶「言葉通りだ、怪力娘。俺の心配なんざ要らねぇから、自分の貰い手の心配でもしてやがれ」
友紀「それこそ余計なお世話!親父が乗るくらいなら、アタシに乗せてよ!」
弁慶「友紀には無理だって言ってんだろうが!」
友紀「そんなの、やってみなきゃ分かんないじゃん!」
弁慶「やったところで、調子乗って撃墜されたじゃねぇか」
友紀「あれは…!ちょっと油断しちゃって…」
弁慶「実戦で油断する奴に、ゲッターは乗りこなせねぇ!抜かしてる暇あったら、テメェの持ち場に戻れ」
友紀「~~~…っ」
弁慶「休憩時間もそろそろ終いだ。皆、食うもんだけはしっかり食っとけよ」 スタスタスタ…
友紀「……」
弁慶「グッ…」
ドサッ
友紀「親父!」
剴 「隊長!?」
弁慶「……」
友紀「親父、しっかりしてよ!親父ぃ!!」
號 「おいおい、ホントに友紀姉のパンチが効いたってのか?」
渓 「ど、どうしよう…。医務室…」
美波「落ち着いて。兎に角、医務室から先生を連れてきて。それと、弁慶さんを運ぶなら、もっと男の人の手もいるかも…。かな子ちゃん、お願い」
渓 「う、うん…!」
かな子「分かりました!」
美波「號くん、剴くん、手を貸して。先ずは仰向けに…」
號 「お、おう…!」
剴 「了解です」
友紀「親父…」
~~~ 医務室 ~~~
友紀「──先生、親父は…」
医師「鎮痛剤を投与しました。容態は安定していますし、直に目を覚ますでしょう」
友紀「良かったぁ…」 ホッ
號 「何他人事みてぇにホッとしてんだよ。半分は義姉ちゃんのせいじゃねぇか」
剴 「バカ。戦隊長ともあろう弁慶さんが、友紀さんに叩かれたくらいで気絶するわけはないだろう」
號 「じゃあ、何でだよ?」
剴 「恐らくは、ゲッターを操縦した負担が掛かっているんだろうが…」
渓 「車隊長もゲッターのパイロットだったんだよね?そりゃ、現役でパイロットやるにはちょっと歳いってるかもしれないけど…」
友紀「うぅん。號の言う通りだよ。親父がこんな体になったのは、アタシのせいなんだ。アタシが言うことを聞かなかったから…」
美波「え?」
友紀「10年前だよ、あの災害の時」
號 「災害?んな昔話になるのかよ?」
友紀「うん。あの時は、親父もゲットマシンに乗って生き残りがいないか、日本中を飛び回ってて。私は、生まれ育った宮崎にいて…──」
──10年前。
友紀(幼)『パパ!ママ!お兄ちゃん!!』
弁慶(若)『おーい、誰かいないのかァ!!?』
友紀『!? だ、誰…?』
弁慶『!! 誰かいるのか?返事をしてくれ!!』
友紀『ここ!ここにいるよ!!』
弁慶『子供…?1人か!?』
友紀『ううんっ!パパとママと、お兄ちゃんもいるの!助けて!!』
弁慶『何…!?って……コイツは…』
友紀『おじちゃんなら、パパとママを助けられるよね?お願い!』
弁慶『……』 フルフル…
友紀『え…?!』
弁慶『火がそこまで迫ってる。車のガソリンに引火しちまったら大変だ。さ、早くこっちに』
友紀『……いや!』
弁慶『何だって…?』
友紀『アタシ、みんなと一緒にいる!』
弁慶『だ、ダメだ…!お嬢ちゃんの家族は…!』
友紀『違うもん!だって約束したもん!今度のお休みに皆でドームに行こうねって。パパもお兄ちゃんも、約束破らないもん!だから、ずっと一緒にいるんだもん!』
弁慶『聞き分けのないこと言わないでくれ…!きっとお嬢ちゃんの命は、お嬢ちゃんの家族が生きてくれって守ってくれたものなんだ!だから、それを粗末にしちゃいけねぇ!!』
友紀『パパ…!ママァ…!』
少女が家族の亡骸に寄り添う向こう側で、大破した車両に火が点く。
弁慶『不味い…!おい、早く!早くこっちへ来るんだッ!!』
友紀『ヤダ!!パパもママもお兄ちゃんも、皆一緒じゃなきゃ、絶対ここから動かない!!』
周囲に火の手が拡がり、爆発の兆候が強くなる。そして、
弁慶『ちっ…!伏せろォ!!』
友紀『え…?』
周囲を覆った炎が車両のガソリンに引火し、爆発。辺り一帯は爆煙に包まれ、衝撃波が襲う。
友紀『きゃあーーーっ!!』
弁慶『ぐぅ…!』
衝撃波が収まり、爆煙が晴れる。
友紀『ぁ……』
弁慶『はぁ…はぁ…はぁ……。怪我はないかい?お嬢ちゃん』
友紀『う、うん…』
弁慶『へっ…。そいつぁ良かった。お嬢ちゃんの体を傷物にしちまったら、命がけで嬢ちゃんを守った親御さんに、顔向け出来ねぇからな』
友紀『おじちゃんは……っ!』
少女が目を見開いた先、弁慶の大きな背中には、爆発で飛んできたと思われるコンクリートや金属の破片が突き刺さっていた。
弁慶『へへっ…!俺ァ、昔っから頑丈なだけが取り柄でな…。このくらいっ、掠り傷みてぇなもんだ』
ヨイショ、と無理矢理にでも体を起こして見せる。
友紀『だ、ダメだよ…!お医者さんに…』
弁慶『もうこんなところまで、医者は来ねぇよ』
友紀『うぅ…』
弁慶『それじゃ、何だ。おじさんを助けると思って、ここは一緒に来てくれねぇか?』
友紀『う…うん……──』
──。
かな子「それじゃあ、弁慶さんは、10年もずっと、背中の傷を放置したままなんですか?!」
友紀「流石に、そのまま放置って訳じゃないよ?ずっと応急処置で、誤魔化してて」
剴 「そうなんですか?」
医師「…はい。私としても、一刻も早い手術を、と呼び掛けてはいるんですが…。まだ自分が前線を離れるわけにはいかないと、頑なに断られてしまいまして…」
號 「それでも、首に輪を掛けてでも患者の体のことを考えてやるのが、医者ってもんなんじゃねぇのか?!」
医師「それは…」
剴 「やめろ、號」
號 「けどよ…」
剴 「医師の方が、俺達なんかよりもずっと事の重大さを理解している筈だ」
医師「……」
美波「10年前の責任を負って、リンさんが司令を務めるとしても、現場で指揮を執る人間も必要になる。そしてそれは、誰がやっても構わない、と言うほど、簡単な役割じゃない」
渓 「確かに、戦闘経験もあって、貫禄もある。面倒見も良いし、隊長がいたからあたし達もここまで体制を整えることが出来たんだよね…」
弁慶「ま、そう言うこった」
友紀「親父!」
弁慶「心配掛けたな。もう大丈夫だ」
かな子「…本当に、大丈夫なんですか?」
弁慶「へっ、若ぇ奴らに心配されるほど、耄碌した覚えはねぇ」
號 「ロートルが気張るのは勝手だが、歳は考えなよ」
弁慶「何だと?」
剴 「アトランティス流国との戦いが終わったら、手術を受けて下さい。必ず」
美波「弁慶さんが友紀さんや號くん達を大切に思ってるように、友紀さん達にとっても、弁慶さんは大切な人なんですよ」
弁慶「…考えとくよ」
渓 「絶対だよ?約束だかんね?」
弁慶「おうおう。アトランティス流国との戦いを終えるために、こんなトコで油売ってて良い分けねぇだろ。とっとと持ち場に戻れ!!」
ウゥゥゥゥゥンッ……ウゥゥゥゥゥンッ……
號 「!?」
友紀「敵襲!?」
美波「まさか、1日に2度も襲撃を仕掛けてくるなんて…!」
剴 「アトランティス流国も、いよいよ本腰を入れてきたと言うことか!」
弁慶「詮索は後だ。テメェら、さっさと出撃、準備だ」 ヨッコイショ
友紀「親父!まさか出撃するつもり!?」
弁慶「ったり前ぇだ。ゲッターのパイロットに、休んでる暇はねぇよ」
友紀「止めてよ!さっき倒れたばっかなんだよ?」
医師「友紀さんの言う通りです。今のままでは、古傷が開いてしまう可能性もあります」
友紀「ほら、お医者さんもこう言ってるし、大人しく休んでなよ」
弁慶「へっ、敵さんが来てるって時に大人しく寝てられるかよ!號、美波ちゃん行くぜ」
號 「……」
美波「わ、分かりますけど…」
友紀「……」 ズズズズズ…
渓 「え?ゆ、友紀さん?その手に持ってるのは…」
友紀「大人しく寝てろって……言ってんだァ!!」
ドゴシャァアッ
弁慶「う゛っ…!」 ドサッ
かな子「きゃあっ!?友紀さん…!」
號 「バットで車さんを殴り倒しやがった…!」
剴 「大丈夫ですか!?隊長!」
友紀「へんっ、親父がそう簡単にくたばるもんか!」
號 「バットは人を殴るもんじゃねぇんじゃないのかよ?」
友紀「それは、時と場合による」
號 「何だよ、そりゃ?」
友紀「兎に角、出撃だ!みんな行くよ!」
かな子「え?それじゃあ、まさか」
友紀「ゲッターにはアタシが乗る!先生、親父を任せたよ!」
医師「あ……はぁ…。えぇ…」
── 格納庫。
莉嘉「美波、かな子!遅~い!!」
かな子「え、莉嘉ちゃん?何時の間に…」
美波「そう言えば、何時の間にか見えてなかったけど、今までドコに?」
莉嘉「えっへへ~、ちょっとね。ウヅキ~、戦闘頑張ろうね~☆」
かな子「え?」
ウヅキ「……」
かな子「まさか、ウヅキ…さんと一緒にいたんですか?」
莉嘉「まぁまぁ。敵はすぐそこまで来てるんだよ。早く出撃準備!」
美波「え、えぇ…」
タッタッタッ──
リン「ウヅキ!用意が良いね」
ウヅキ「3号機のパイロットはまだですか?」
リン「そう言えば……弁慶さんは…」
友紀「はいは~い!おっ待たせ~!!」
リン「ん?」
友紀「選手交代!キャッチャー車選手に代わり、4番、ピッチャー姫川~!」
リン「交代…?どう言うこと?」
號 「そのまんまだよ、姐さん。車さんは怪我で欠場だ」
リン「怪我……成る程ね。こっちは事情分かったけど、ウヅキは?」
ウヅキ「誰でも構いませんよ。…足を引っ張りさえしなければ」
友紀「へへっ、じゃあ決まり!」
號 「調子に乗ってハジかくんじゃねぇぞ!」
友紀「分かってるって!それじゃ、4番姫川、入場~!」
勢い良く3号機のシートに乗り込む。
リン「いい?非常時だから任せるけど、3号機はゲットマシンの中でも重量がある分コントロールも難しい。この間1号機を飛ばせたからって、油断しないこと」
友紀「分かってるつもりだよ。あたしだって、遊びや冗談半分で乗るって言ってるんじゃない」
リン「そりゃぁね。ゲッターの操縦はチームプレーだ。1人だけ浮かれてもらったら困るよ」
友紀「あのさ」
リン「何?」
友紀「今回の出撃で、ちゃんと結果を出せたら、親父じゃなくてあたしを、正規のパイロットにしてもらっていい?」
リン「……考えておくよ」
友紀「…よし!」
ウヅキ「みんな出ました。私達も出撃しますよ」
リン「こっちは何時でも」
友紀「応ッ!!」
ウヅキ「新ゲットマシン、出撃!!」
──。
號 「さぁて、次はどんな敵さんが…」
渓 「レーダーでは捕捉してるよ。数は……1?」
號 「あン?んだよ、畳み掛けてきた割りにゃぁ大したことねぇじゃねぇか」
剴 「油断するな。それだけ、強力な力を持った敵の可能性もある」
かな子「フォーメーションはどうしますか?」
美波「そうね…。新ゲッターチームが遅れてる?先ずは私達で様子見をした方がいいのかも」
莉嘉「なら、アタシが先行する!」
剴 「では、自分達が3号機で後方から支援を。號!」
號 「あいよ!」
アークチームが1号機を、ゲッター號チームが3号機を先頭にし、それぞれフォーメーションを組む。
莉嘉「チェンジ!ゲッターアーック!!」
剴 「チェンジゲッター、剴!!」
空中での合体後、ゲッター3号は着地。その間に、ゲッターアークは目標に肉薄する。
莉嘉「何か地味な相手だね」
かな子「一体どんな能力を…?」
莉嘉「能力を見せる前に倒すよ。動きも鈍そうだ!」
???《……?》
莉嘉「バトルショットカッター!!」
敵の首筋目掛けバトルショットカッターを振り下ろす。が、
ガギィンッ
莉嘉「…!?!」
バトルショットカッターは、その首を刈り取ることはなく、表装に受け止められる。
美波「意外と堅いみたいね」
莉嘉「この…っ」
剴 「下がってくれ、ゲッターアーク!」
莉嘉「!!」
剴 「インパクトキャノン!」
剴の掛け声に合わせ、ゲッターアークを上空に飛翔。その空間にインパクトキャノンの弾丸が飛び、敵に直撃。
莉嘉「ゲッタートマホークッ!!」
間髪を置かず、トマホークを引き抜いたゲッターアークが、落下しながら黒煙の中にトマホークを振り下ろす。
莉嘉「どう?」
美波「待って……これは…?」
莉嘉「どうしたの?」
美波「敵の内部から、高エネルギー反応が出てる!」
莉嘉「だから何?爆発でもするの?!」
美波「ううん。爆発って言うより……これは」
かな子「見て下さい!あれは…」
黒煙が晴れ、姿を現したのは、
莉嘉「何……コイツ…?」
渓 「光の、獣?」
莉嘉「さっきまでの奴と違う?どう言うこと!?」
剴 「不味い…!早くそこから離れるんだ!!」
莉嘉「え?」
???《──!!》
光波獣ピクドロン《キシャァァァァァッ!!》
バリバリバリバリバリバリィッ
莉嘉「きゃぁああッ!!」
ピクドロンの咆哮と共に放たれた青いプラズマの放電攻撃に、ゲッターアークが吹き飛ぶ。
號 「おい、生きてるか!?莉嘉!」
莉嘉「だ、大丈夫…。だけど…」
かな子「ゲッターアークの装甲を貫通してくる程の電力なんて…。まだピリピリする…」
美波「…どうやらあれが、向こうの本気の姿みたいね」
ピクドロン《……》
號 「へっ、こっから本番ってかよ?面白ぇ!」
剴 「しかし、何故いきなり姿形を変えた…?あれが真の姿だと言うのなら、最初からそうしていれば良かったものを…」
ピクドロン《──!》
號 「来るぜ、剴!」
剴 「!?」
接近するピクドロンに反応するが、
剴 「っ…!?速い…!」
先程とは打って変わって俊敏な動きを見せるピクドロンに、零距離まで肉薄される。
ピクドロン《……!》
渓 「何…?」
ピクドロンの腕が触手のようにうねり、ゲッター3号に巻き付き、そして、
バリバリバリバリバリィッ
剴・號・渓「「「うわぁあああああ~~~ッ!!」」」
ゲッターアークを吹き飛ばした電流を、直に浴びせられる。
莉嘉「くっ…!剴達を離せぇ!!」
電流攻撃を放つピクドロンの脇腹目掛け蹴りを放つ。
莉嘉「っ…!効いてない!?」
美波「何か……バリアのようなもので弾かれてるみたい」
剴 「ぐぉあぁぁぁ…ッ!」
かな子「このままじゃ、剴さん達が…!」
ピクドロン《……?》
剴 「ぅぁ…」
ピクドロンが、ゲッターから手を離して距離を取る。その間を、一筋のビームが薙ぎ払った。
莉嘉「今のは…」
ウヅキ「……」
渓 「新ゲッターロボ!」
號 「へっ…。来るのが遅ぇんだよ…」
リン「大丈夫?」
剴 「こちらは、何とか…。これは…!」
渓 「剴、何か分かったの?」
剴 「あ、あぁ…」
友紀「にしても、何あの敵…。気持ち悪~!」
リン「見たことのないタイプだ。動きも速そう。ゲッター2に変わる?」
ウヅキ「……いえ、一先ずはこのまま…!」
トマホークを携え、ピクドロンに肉薄。
ウヅキ「はっ!」
ピクドロン《!!》
袈裟懸けに振るったトマホークを躱し、腕を鞭のようにしならせ、反撃。
ウヅキ「っ!」
ピクドロン《!?》
ウヅキ「っ…!」
ピクドロンの攻撃を上体を反らせて躱し、トマホークの柄でピクドロンの脇腹を1突き。ピクドロンを怯ませる。
ウヅキ「やっ!」
脇腹を抱えて俯くピクドロンの横っ面を、トマホークで打った。
ピクドロン《……?!》
ウヅキ「…頑丈な相手ですね」
美波「何だか、動きが良くなってる?」
莉嘉「へへっ。何処の世界でもウヅキはウヅキって事だよね」
かな子「どう言うことですか?」
莉嘉「こっちの話☆さ、眺めてないで加勢しに行くよ!」
剴 「待って下さい。奴に無計画に攻撃を加えるのは、危険かもしれません」
莉嘉「え?」
剴 「奴がこの戦闘で、姿を変えた理由が分かったんです」
ピクドロン《!!!》
ウヅキ「っ…!この…!」
先程の一撃で激昂したらしい、ピクドロンの猛攻を躱しながら、柄の長いトマホークを器用に振るい、攻撃を捌いていく新ゲッター1。
ウヅキ「このままチマチマ攻撃していても埒が明かないですね…」
友紀「おぉ~、思いっきりやっちゃえ~!」
ウヅキ「……っ!」
友紀「え…?」
リン「ウヅキ、しっかりして!」
ウヅキ「げ、ゲッター…ビーム…!」
意を決するように、至近距離でゲッタービームを放ち、ピクドロンを一度引き離す。
ウヅキ「……?」
リン「これは…」
友紀「どしたの?もしかして、ゲッタービームが効いてない?」
リン「そのまさか」
友紀「え、マジぃ?」
リン「それだけじゃない…!」
ゲッタービームを受けたピクドロンが、巨大化していく。
剴 「やはり…!」
リン「こちらのエネルギーを吸収してる?」
剴 「そうです。あのエネルギーのヴェールに見える奴の表面は、こちらの攻撃を防ぐバリアの機能を兼ねると同時、エネルギーを吸収する能力があるようです」
美波「それで、最初は鈍く動いて見せて…」
剴 「我々の攻撃を誘ったんでしょう。察するに、単純なエネルギーだけでなく、ミサイルの爆発エネルギーや、トマホークを打った時の衝撃エネルギーなども吸収出来るのでは?」
莉嘉「何それ?攻撃するだけ無駄ってこと?そんなのズルじゃん!」
ウヅキ「……!敵が…」
ピクドロン《キシャァァァアアッ!!》
莉嘉「!?」
剴 「くぅ…っ!」
ウヅキ「っ…!」
咆哮と共に周囲一帯に高圧電流を放出し、ゲッター各機の回避行動も虚しく、電流に打ち付けられる。
ウヅキ「ぐっ…!」
剴 「向こうの攻撃も強力になっている…!」
リン「状況は圧倒的に不利か…!」
莉嘉「あんなの一体どうやって倒せって言うの!?」
美波「……それぞれがバラバラに攻撃するんじゃなくて、攻撃を一点に集中させれば、もしかしたら」
リン「成る程ね。可能な限り出力の高い攻撃を一点に集めて、奴に吸収する間を与えなければ、倒せるかもしれない」
友紀「けど、あの光の皮みたいなのがバリアになってるんでしょ?先ずはそれを何とかしなきゃ!」
莉嘉「何かこう、ふぅ~って強い風でもぶつけたら、引っ剥がせたりしないかな?」
かな子「そ、そんな簡単にはいかないんじゃ…」
ウヅキ「…でも、やってみる価値はありそうですね」
かな子「え?」
トマホークを構えた新ゲッター1がピクドロンに接近する。
ウヅキ「はっ!」
付き出した腕。手元にトマホークを、新ゲッター1に対して水平になるように構え、
ウヅキ「やぁあああああッ!!」
トマホークを高速回転。その回転で竜巻のような旋風を生み出し、ピクドロンに浴びせた。
ピクドロン《……!?》
豪風にたじろぐピクドロン。風に煽られる光のヴェールが、微かに揺らぎを見せた。
剴 「おぉ…!」
號 「これはホントに、引き剥がせるんじゃねぇか?!」
ピクドロン《……!!》
ピクドロンも黙ってはおらず、腕を鞭のようにしならせ鞭打。豪風を発生させる新ゲッター1を叩き落とす。
ウヅキ「きゃあっ!!」
地面に叩き付けられた新ゲッター1に、ピクドロンが迫る。
かな子「ウヅキさん達が…!」
莉嘉「っ!」
ゲッターアークがトマホークを構える。
莉嘉「トマホーク、ブゥーメランッ!!」
新ゲッター1から気を逸らすため、トマホークを投じた。
莉嘉「!?」
かな子「ゲッタートマホークが、呑まれちゃった!?」
美波「もしかして、トマホークそのものをエネルギーとして吸収したって言うの?!」
ピクドロン《……》
莉嘉「っ…!」
ピクドロン《──!!!》
カッ
ピクドロンの頭部、口腔と思われる位置から放たれた青白い光線。高圧を越える、超高圧のプラズマ光線が、ゲッターアークを強かに撃ち抜いた。
莉嘉・美波・かな子「「「きゃあああああッ!!?」」」
プラズマに包まれ、電流がパイロットを襲う。
剴 「ゲッターアークッ!!」
リン「…不味いね。ウヅキ、体勢を立て直すんだ」
ウヅキ「はい…!奴の化けの皮を剥がすまで、何度でも…!」
友紀「待って!」
リン「どうしたの、友紀?」
友紀「要は、アイツの光の皮を引っ剥がせばいいんでしょ?なら、あたしに任せてよ」
リン「友紀に?でもどうやって……まさか」
友紀「へへっ、トマホークの竜巻なんかより、もっと大きい、嵐を起こせるかもよ?」
リン「…出来るの?」
友紀「論より証拠!為せば成る!!」
リン「…分かった。ウヅキ」
ウヅキ「仕方ありませんね。…オープンゲット!」
新ゲッター1、分離。
莉嘉「うぅ……何…?」
渓 「新ゲッター……何をする気なの?」
友紀「うぅ~…!いよいよ初投番だ…。気合い入れろ、あたし!」
リン「タイミングは任せるよ」
友紀「ば、バッチコーイ…!」
友紀(緊張に負けるな、恐怖に負けるな…!頑張れ、あたし!!)
友紀「チェーンジゲッタァァーー3ィッ!!」
地上すれすれ、低空で合体した新ジャガー号と新イーグル号に、新ベアー号が突き立ち、まるで山のような巨体を持つ、新ゲッター3が姿を現す。
剴 「ゲッター3だと!?」
友紀「さぁ、あたし達の力を見せてやろうぜ、ゲッター3ッ!!」
そう言って、蛇腹になったアームを勢い良く伸ばし、ピクドロンに絡み付かせる。
ピクドロン《!!?》
バリバリバリバリバリィッ
ウヅキ「っ…!」
リン「ぐっ…!?」
友紀「ぐぉおおおっ!!」
ピクドロンに絡み付いたアームを伝い、高圧電流が新ゲッター3を襲う。
號 「おいおい、何考えてんだ!?死ぬぞ、離せっ!!」
友紀「へっへっへっ…!こんなの、親父のしごきに比べたら…。そっちの2人も、まさか気絶してたりしないよね?」
ウヅキ「ッッ……まさか…!」
リン「はっ、義手を修理してもらうことだけが気掛かりでね。アキハが直すついでに、要らない機能を付け足さないかと。電流なんて気にならない!」
友紀「流っ石!なら後は、コイツとゲッターの、我慢比べだぁ!!」
ズルリ、と抵抗するピクドロンを強引に引き摺り倒し、そのまま、引き摺り続ける。
かな子「あれは……まさか!?」
新ゲッター3のキャタピラを左右、前後逆に運動させて体を回転。その勢いは次第に増していき、最初は引き摺っていたピクドロンを、宙へ持ち上げる。
友紀(親父にしごかれる度、説教喰らう度、受けてきたんだ。要領は嫌でも、体で覚えてる…!)
友紀「うわぁあああああ──ッ!!」
新ゲッター3を中心に高速回転が竜巻を生み、その中に圧力を、衝撃を生み、ピクドロンのヴェールを揺らがせる。
友紀「直伝!……ではないかもしれないけど…」
やがて新ゲッター3の腕に組み敷かれたピクドロンは宙高く舞い上がる。
友紀「大雪山おろしッ!!」
凄まじい遠心力で宙へと弾き飛ばされたピクドロン。その全身を厚く包み込んでいた光のヴェールは、大川山おろしの嵐で霧散した。
ピクドロン《……!!》
ズシャンッ、と受け身も取れず地に叩き付けられるピクドロン。
友紀「今の内だよ!莉嘉、剴!」
莉嘉「えっ?」
剴 「そうだ…!今の奴は完全に無防備…!」
美波「そこに私達の攻撃を合わせれば……莉嘉ちゃん!」
莉嘉「ゲッタァァアービィィーームッ!!」
剴 「ブレストビィィイーームッ!!」
ゲッターアークのビームに、ゲッター3号がブレストビームを合わせ、ピクドロンの一点に、攻撃を集中させる。
剴 「ゲッターのエネルギー、全て出し切るつもりで行くぞ!!」
號 「応!後先なんて考えるこたぁねぇ!派手にやっちまえ!!」
渓 「ゲッターの回路が焼き切れない程度に、ね…?」
かな子「新ゲッターチームも…!」
ウヅキ「チェンジゲッター、1…!」
新ゲッター1に再度合体。
ウヅキ「……」
友紀「どうしたの?奴が皮を作り直しちゃう!早く攻撃を…!」
ウヅキ「っ……っ…!」 ガクッガクッ
リン「やっぱり、ビームは撃てない?」
ウヅキ「!」
リン「気付いてはいたよ。けど、ここは力を合わせなきゃ。撃って、ウヅキ!!」
ウヅキ「……」
莉嘉「怖がってちゃ、ゲッターは力を貸してくれないよ!」
美波「え…?」
莉嘉「ゲッターが力を貸すのは、未来を生きようとする人間だけ、だ!!」
ウヅキ「……っ!!」
ウヅキ「──ゲッター…!」
ウヅキ「ビームッ!!」
キュォオッ
新ゲッター1の腹部から放たれた一筋の閃光。先に放たれた2つのビームと交わり、ピクドロンを貫いた。
剴 「これが…!」
友紀「あたし達の…!」
莉嘉「トリプルダイナミック☆スペシャルだぁッ!!」
ピクドロンの体から火柱が噴き上げ、やがて轟音を伴って、爆ぜた。
友紀「やった…!」
號 「へっ、俺達だけ1号機じゃねぇってのが、気に入らねぇぜ」
剴 「仕方あるまい。このゲッターの中で、最も威力の高い武装が、このブレストビームなんだから」
莉嘉「へへっ。アタシ達、3体のゲッターが力を合わせれば、怖いモノなんて何にもないかもね☆」
かな子「流石に大袈裟ですよ」
渓 「けど、そうかも」
リン「それじゃあいよいよ、次は…」
ウヅキ「黒平安京……安倍晴明…。そこに、真ゲッターも…!」
──。
~~~ 早乙女研究所 談話室 ~~~
渓 「──…成る程~。それで、ウヅキさんは昔のこともあって、ゲッタービームを撃つことを躊躇ってたんだ?」
ウヅキ「……」 コクッ
リン「ストナーサンシャインでなくても、ゲッタービームでも、使うのは同じゲッター線。かつてのような暴走事故が起きてしまうかと、ウヅキの中で不安になって、抵抗があったんだ」
號 「んだよ、威勢良かった割りに、繊細だったんだな」
剴 「だが、今回の戦闘で、ウヅキさんはそれを克服した」
ウヅキ「莉嘉ちゃんの言葉…」
莉嘉「へ?」
ウヅキ「未来を生きる…。私が何処まで生きるのか、それは分からないですけど。でも、こんなところで終われない。そう思ったら、自然と手に、力が戻ってました」
莉嘉「へへっ。やっぱり、ウヅキは卯月だね☆」
號 「当たり前だろ。何言ってんだ、お前」
かな子「まぁまぁ。厳しい戦いだったんですし、取り敢えずブレイクしましょう?パンケーキを用意したんです。今日は特別だって、食堂の人がお砂糖たくさんくれたんですよ」
友紀「わぁい!食べる食べる~!!うわぁ、どれも美味しそう!」
かな子「あぁ…!そんながっつかなくても、一杯用意してますから…!」
號 「パンケーキごときで目を輝かせやがって…。ホント子供なんだよな、義姉ちゃん」
剴 「まぁ、初陣だったこともある。今日くらいはいいじゃないか」
渓 「ん?そう言えば何か忘れてるような…」
???「友~紀~…!」
美波「…あ」
友紀「……あ~」 タラァ~…
ガシッ
弁慶「俺に手を上げるたぁ、いい度胸してんじゃねぇか。あ゛?」
友紀「お、親父~……目、覚めたんだ?元気になった?」 ダラダラ…
弁慶「おう、お陰様でな。こうしてテメェを締め上げれる程度にゃ、良くなったよ」
ギリギリギリギリギリ……
友紀「ちょっ…!親父、マジ……絞まってる…!首絞まってるから…!死…ぬ…ッ」
弁慶「ホントに無茶ばっかしやがって…!テメェの本当の親父や家族が、今のお前を見たらなんて思う?頼むから、危ねぇことだけはやめてくれと、何度も…!」
リン「そのくらいにしといてよ、弁慶さん。大切な、私達のチームメイトなんだから」
弁慶「義理とは言え親子の話だ。司令は下がって……って」
ウヅキ「……」
弁慶「司令、今なんと…?」
友紀「(力が弱まった…?)今だ!!」
ゴイィ~ンッ
と、踵で弁慶の股間を強打。
弁慶「い゛っ…!」
怯んだ隙に、拘束から脱する。
弁慶「っ゛~~…っ!一度ならず二度までも…!テメェ、俺のこと何だと…!」
友紀「親父は親父だよ。あたしの大切な、親父だ」
弁慶「……なぁ?」
友紀「さっき親父は、本当の親父の話をしたけど、あたしの家族は、もういない。だから今目の前にいて生きてる親父が、世界にたった1人だけの、大切な親父なんだ」
弁慶「友紀…」
友紀「だから、あたしだって親父のこと守りたいんだ!昔の古傷を背負って、無茶してほしくないんだ!あたしだって、親父の力になることが出来るんだ!何時までも、子供扱いしないでよ!!」
弁慶「……」
リン「親代わり、はもう十分なんじゃない?」
弁慶「司令…」
リン「二十歳ともなれば、もう充分、一人立ちしたっていい歳だ。それに、今日の友紀の戦闘は、粗削りだったけど立派だったよ。弁慶さんに見せられないのが、残念なくらい」
弁慶「俺に?」
かな子「見事な大雪山おろしでしたよ」
弁慶「何?大雪山おろしって、お前…」
友紀「ずっと投げられてきたんだもん。体で覚えるよ」
弁慶「…へっ、それはお前が、やんちゃな悪ガキだったから、だろうがよ」
リン「司令官としての務めを放棄するんじゃないけど、私が前線に出る以上、後方で指揮を取る人間が必要だったんだ。弁慶さん、だから…」
弁慶「分かったよ…」
友紀「それじゃあ…!」
弁慶「もう好きにしろ。ここで反対して、何度もバットで打ちのめされるのは、勘弁だからな」
友紀「っ~…!やったぁ~!!」
リン「ウヅキも、それでいい?」
ウヅキ「私は誰でも構いません。足手まといにさえならなければ。…けど」
リン「けど?」
ウヅキ「頼りに出来るメンバーは、心強いですね」
リン「ふっ…。そうだね」
友紀「よーし、それじゃあこれから歓迎会やろうよ歓迎会!新生新ゲッターチームの発足と門出を祝して、パァっと派手にさ、パァーっと!」
號 「はぁ?そう言うの、祝われる側から提案することかよ?」
莉嘉「いいじゃんいいじゃん!何か面白そう!!」
友紀「ね、今日は特別に、ビール開けていいよね?あたしのお陰で戦闘でも勝ったんだし、ちょっとくらいご褒美があっても、ねぇ?」
リン「…程々にね」
友紀「やったー♪そうと決まれば、美世や茄子も呼んでこよっと!2人にもきちんと話さなきゃだしね。う~~!楽しくなるぞぉ~!!」
かな子「すっかり舞い上がってますね…」 アハハハ…
渓 「ホント。結局酔い潰れた義姉さん達面倒見るのアタシらなんだから。ちょっとは加減してよね~?」
弁慶「……ふっ」
── 10年前。
友紀(幼)『……』
弁慶(若)『……』
兵士『あの子、すっかり心を閉ざしちゃってますね…。無理もないですけど』
弁慶『……』 ズカズカ
兵士『あっ、弁慶さん…!』
弁慶『よぉ、嬢ちゃん』
友紀『……』
弁慶『あ~……あのな、俺と、キャッチボールするか?』
友紀『……今はしたくない』
弁慶『うっ…』 ガクッ
友紀『……おじさん』
弁慶『な、何だ…?』
友紀『お怪我、大丈夫なの?』
弁慶『あ?あ~、あははっ。前にも言ったろ?俺ァ、頑丈なんだよ』
友紀『そう…』
弁慶『……。なぁ、嬢ちゃん』
友紀『何…?』
弁慶『嬢ちゃんは、野球好きかい?』
友紀『……うん』
弁慶『俺もだ。野球は国や、人を越えて分かり合える、そう言うもんだと思ってる。ほら、言葉のキャッチボールって言葉、あるだろ?』
友紀『……』
弁慶「分かんねぇか?そのーつまりだな……ボールに思いを込めて投げて、それを受け取る。思いの交換をするっつうか……う~ん…。つまりだな…」
友紀『ふふっ、可笑しなおじちゃん』
弁慶『あ…。すまねぇ、口下手でよ…』
友紀『うぅん。…ほら』
弁慶『ん?』
友紀『キャッチボール、するんでしょ?』
弁慶『あ……お、おう…』
弁慶(励ますつもりが、気を遣われるとは…。情けない…)
シュッ パシィ-ン シュッ パシィ-ン シュッ パシィ-ン…
友紀『っ…!』 シュッ
弁慶『ははっ、いい球投げるじゃねぇか!』
友紀『っ…!』
弁慶『なぁ嬢ちゃん。やっぱ、誰かとやる野球ってのは、楽しいよな?』
友紀『キャッチボールでしょ?』
弁慶『キャッチボールでもよ。1人で壁打ちなんてやってても、虚しいだけだろ?』
友紀『それは…』
弁慶『人が集まって、チームになって。お互いの頼りないところも補いながら、1つの目標に向かって協力する。野球ってのは、最高のスポーツだぜ』
友紀『……』
弁慶『一緒になって投げて、打って、競い合って。同じ時間を共有したなら、それはもう、家族みてぇなもんだ』
友紀『家族…?』
弁慶『そうだ!嬢ちゃんの辛いところも、痛いところも、全部カバーしてくれる。そんなチームみたいな家族が、必ずお前にも出来る!何なら、俺がその第1号になってやる!』
友紀『おじさんが…?』
弁慶『だから、何時までも下を向くんじゃねぇ!下ばっか見てたら、舞い上がった打球を見逃しちまうぞ?』
友紀『……』
弁慶『あー……だから、その……だな!俺は…!』
友紀『チームみたいな家族って、何か可笑しくない?』
弁慶『あ…?……そうかも知れねぇな』 アハハ…
ビュンッ
弁慶『ぅおっ!?』
友紀『あたし、姫川友紀!』
弁慶『あ?あ、嬢ちゃん……名前…』
友紀『おじちゃんみたいに、ホントに出来るかな?』
弁慶『何が…』
友紀『チームみたいな家族!皆とキャッチボールすれば、おじちゃん以外にも出来るかな?』
弁慶『!!……あぁ絶対だ!必ずだ!約束する!何時か友紀にも、チームみたいな家族が──』
── 現在。
友紀「ほら~號~?今日のMVPだぞ~?お酌しろ~!」
號 「あぁん?いい加減に調子に乗ってんじゃねぇぞ、酔っぱらい!!」
友紀「きゃー!暴力反対~っ!!」
美世「今のはアンタが悪いでしょ~?やっちゃえ、號」
かな子「ちょっと、皆さん、少し落ち着いて…」
ウヅキ「っ゛~……苦い。どうして大人は皆、こんなのを旨いって言って飲むんですか?」
リン「お酒は人生の味、だからさ」
莉嘉「あれ?リンももしかして酔ってる?」
弁慶「……いい家族を、持ったじゃねぇか」
友紀「え~それでは改めましてぇ~。新ゲッターチームの益々の精強と、打倒アトランティス流国を目指してぇ~……カンパーイッ!!」
茄子「カンパーイ!」
號 「って、テメェが仕切ってんじゃねぇ!!」
友紀「あはははっ!はははははっ!!」
つづく
予告
決戦の日が迫る。
にわかに高まる緊張と高揚。それぞれの思いを胸に、共通の敵を倒す為、莉嘉達は一路、黒平安京へと向かう。
晴明が待ち構える鬼の棲む都にて、最大の戦いが今、始まろうとしていた──。
次回、『黒い高楼』