鈴仙は一瞬何を言われたのかわからなかったが、すぐに気を取り戻した。
「いきなりですね。まぁ、その程度の事なら別にいいでしょう」
「ありがとう。それじゃすぐに始めましょう。一応予約した時間までまだあるけれどそんなに無いしね」
そうして真由美は服部がいた場所に、鈴仙は達也がいた場所につく。そこで真由美がある事に気付いた。
「ねえ豊花さん、貴女、CADは?」
「試作プログラムをインストールしているためどのような事故が起こるかわからないので持ってきていません。なのでCAD無しで行きます」
「試作プログラム?どうしてそんなものを?」
「私はサテライトシリーズのテスターをしているので。今回のプログラムもその一つです。因みにテスターは私1人だけです。まあ私が扱える様にする為に作られたのですから仕方ありませんが」
この一言でその場にいる者達が蒼依を除いて言葉を失う。それはつまり、本来のサテライトシリーズは
「さて、そろそろ始めましょうか。今回は達也くんに面白い戦い方を見せてもらったので、少し変えましょう」
「そう。それじゃあこっちも、全力で行かせてもらうわ」
真由美の雰囲気がガラリと変わる。
「それでは、両者…始めッ!!」
摩利の合図で真っ先に真由美が行動を起こす。達也と似たような戦い方をするという鈴仙が戦い方を変えると言ってきたため、ありとあらゆる障壁を何重にも展開し、圧縮空気弾《エア・ブリッド》を放つ。これらを殆ど間髪入れずに行えるのは流石は七草 真由美と言える。そして鈴仙はエア・ブリッドを身体を傾かせるだけで回避する。それを見た真由美は殺傷性を低くした数百発のエア・ブリッドを放つが、鈴仙は脚を滑らせ、身体を傾け、宙に舞い、踊るように避ける。それでも真由美はエア・ブリッドを放ち続け、CADを操作して次の1手を用意する。踊るように避け続ける鈴仙を見ていた達也はある事に気付いた。
「……凄いな………」
「お兄様?」
「さっきからよけている豊花だが、恐らくは身体の中心が必ず
「お兄様それは…」
「ああ。普通はそんな事は不可能に近い」
自分の中心は鏡を使えば誰でもわかるだろう。たがそれを常に自分の正中線が通っていたのと同じ座標軸から動かさないのは不可能に近いだろう。
だがそれを行っている。それも寸分違わずに。その時点で鈴仙の力量がどれ程の物なのかが窺い知れる。だが彼等は知らない。それですら鈴仙の実力を構成する基礎中の基礎である事を。
そして突如鈴仙が軸から動いた。鈴仙のいた床の周囲に風が起こる。それは移動系の単一魔法。その効果を発揮した物を真由美の近くにまで移動させるという真由美が講じた次の一手だ。それは自分の攻撃が当たりやすくなると同時に相手も回避不能な距離で何かしらの手段を講じることもできるという事でもあるが、真由美はエア・ブリッドの威力を上げ、確実に自分が仕留められる前に仕留めるられるようにする。それが働いている間も真由美はエア・ブリッドを放ち続ける。空中で避け続ける鈴仙だが床から10センチ離れた
「それでは、次は私から行きますので、見とれることなく避けてくださいね?」
その直後、鈴仙の周囲にサイオンが集まり、物理的な質量を発生させる。サイオンは本来、波や事象干渉等を起こす事が可能な非物資粒子である。そしてそれは質量を持たないが、鈴仙の周囲に集まるサイオンはそれを無視している。そして何よりも鈴仙の周囲ではサイオンが通常よりも活性化しており、サイオンが非魔法師であろうと目視できるほどの光を放っている。それが集まり、収束し、光の塊を作る。それは幻想郷で少女達による種族の垣根を越えた決闘方法、『弾幕ごっこ』で鈴仙が使う通常弾幕だ。
鈴仙が右腕を横に振るい、弾幕が放たれる。
それはまるで花の様に
それはまるで芸術の様に
それはまるで天に跳ねる兎の様に
それはまるで過去に置いていかれた幻想の様に
「綺麗…」
それは誰が放った言葉だろうか。それすら誰も気に留める事なく、その光景に見とれていた。
それは真由美も例外ではなく、目の前の光景に釘付けにされていた。
思考が叫ぶ、それを避けろと。
思考が叫ぶ、避ける為の道を示して。
だが身体が動かない。それは諦めではなく、絶望でもなく、目の前の少女が起こす風景を前に真由美の瞳はそれを1秒でも長く刻み込もうとする。視界を埋め尽くす光を最後に、月の兎と相対した少女の意識は暗闇に落ちる。
挑戦者の倒れる音と幻想を作り出した少女の靴が床に足をつけた音が同時に響き、それを合図に勝者と敗者が確定した。
短いですが今回はここまでです。
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