モチベが上がらず、なかなか書けませんでした。
受験に向けてより更新が遅れます。息抜きでチマチマ書いていくつもりです。
真由美が静かに倒れ伏す。それを見ながらも蒼依を除いてその場にいる者達が何もできずにいた。蒼依も溜息をつくことしかできず、摩利に決着を言うよう催促して鈴仙の勝利が確定した。
「先輩、判定をお願いします」
「あ、ああ。し、勝者、鈴仙 豊花…」
そんな光景をよそに鈴仙は静かに着地する。そしてそのまま真由美に近寄り…
おもむろに収束系統の魔法で空気中の水分を集め、その場で作った水を真由美の頭にぶっかけた。
「きゃぁぁぁあああ!!」
「おはようございます」
真由美が起きると同時に作り上げた水を空気中に拡散、空気中の水分量を元に戻す。真由美にかかった水は対象外にしたお陰で水も滴る良い女が出来上がる。
「ゲホッ…ゲホッ…豊花ちゃん…今のは何……?」
「別に、ただサイオンを圧縮して可視レベルと物理ダメージを与えるほどにまで圧縮したものを弾幕状にして放っただけです。これを食らえば当たった相手はサイオン酔い、酷ければサイオン中毒になります。今使ったのは殺傷力の低いものですが殺傷力を上げれば人を殺すことも可能です」
「あ、私は出来ないのであしからず」
「…それは…誰にでも出来るのか?」
「私が知っている一部の人達はできます」
鈴仙の言う一部の人達がどんな者達なのか、それを想像した彼等は規格外過ぎるのではないかと考え、思考を放棄した。
「そうか、それで俺だけに今の弾幕が飛んできたのは何故だ?」
「入試の結果如きで威張っている態度が気に食わなかったので」
服部の文句に淡々と返し、服部は黙った。
「では行うことは終わったので本来の目的に戻りましょう」
鈴仙の一言で全員が動き出す。途中あずさの暴走があったものの、それぞれは目的の場所に向かう。風紀委員の鈴仙と達也は風紀委員の部屋に案内されたのだが…
「ここが風紀委員室だちょっと散らかっているが我慢してくれ」
摩利はちょっとと言っているが、ちょっとどころではなく相当散らかっている。その光景を見た2人の意見は当然一致した。
「「まずはこの部屋を片付けさせていただきます」」
そこからの2人の動きは早く、紙の書類を系統別に、他のデータも扱い易いように端末へ整理、置かれていたCADは誰でも使えるように調整して何時でも使えるようにする。その他部屋自体の掃除も行い、散らかる前の部屋へと戻った。
「凄いな…」
「流石に散らかりすぎです」
「片付けはしていたのですか?」
「していたさ。だが片付かなかっただけだ」
「それは女性としてどうかと」
摩利の言い訳も一刀両断。流石の摩利も崩れ落ちる。
その後真由美が尋ねてきたが、摩利は弄られてばかりであった。
帰り道、蒼依と共に歩いていた鈴仙だが、突如鈴仙の携帯にメールが入る。内容は指定された場所へ来るようにという呼び出しであり、送り主の名前を見て僅かにだが、微笑を浮かべる。
「鈴仙どうしたの?あなたらしくもない笑み何て浮かべて」
「失礼ですね。私だって笑う時はありますよ」
「ふーん、で、誰からの呼び出し?豊姫様?依姫様?それともか・れ・し?」
「取り敢えずの最優先事項はあなたに制裁を加えることですね」
「ちょっ…揶揄っただけじゃない」
「…はぁ。依姫様が情報収集を命じた者からですよ。恐らくは集めた情報を渡すためでしょう」
「そう。じゃ、私は先に帰るわね」
こういう綿月姉妹が放ったエージェントとの対応は基本的に鈴仙の仕事だ。
指定された場所へ鈴仙が向かうと1人の青年が木にもたれかかって待っていた。
「お待たせしました。まさかあなたがこの任務を与えられているとは思ってもいませんでしたよ、鏡夜」
「いえ、こちらこそ情報の提出が遅れてしまい申し訳ありませんでした。それに貴女からその言葉を聞けるとは私も思っていませんでしたよ」
如月 鏡夜。鈴仙にとって綿月姉妹と月夜見の他に信頼できる月の民のひとりだ。
「それはお気になさらず。で、集めた情報というのは?」
「こちらです」
鏡夜は1枚のプレートを鈴仙に手渡す。一見すると縦10cm、横5cmのアクリルプレートだが、鈴仙がサイオンを軽く流し込むとプレートが光り、情報ファイルが空中に投射される。
「内容ですが、反国際魔法師団体の計画、及び大亜連合の動きと計画の詳細です」
「この一高への行動は事実で?」
「はい。実際に一高生徒の中にも手先になった者がいます」
「分かりました。この大亜連合の動きと計画は国防軍にも送るように」
「了解しました」
「それでは私はこれで。お疲れ様でした」
鈴仙はプレートをもってその場を後にしようとするが、青年に止められる。
「お待ち下さい」
「何か?」
「………やはり、戻って来てはいただけないでしょうか」
「それはできません。私は仲間を見捨て、臆病風に吹かれてこの穢れた地上に逃げた罪人です。戻ることはできませんし、戻る気もありません」
「ですが貴女と、貴女のその力と才能は、我々にとっても必要なものです。貴女の罪は今の私ならば無かったことにできます。それに…貴女が私に教える事は無いとしても、私が貴女から学べることはまだ沢山あります。私は…俺はまだ、貴女から学べるものを学びきれていない」
「………」
「お願いです
「同じ事を言わせないでください。戻る気は無いと。これ以上言うならば、いくら私より権力が高い
殺気の篭った鈴仙の、敬愛する師匠からの拒絶の言葉。こうなることはわかっていた。戻ることは無いと知っていながら、それが地雷になるのを分かっていたが、それでも言いたかった。言いたかった。そして言ってしまった。けれども一番伝えたかった言葉をまた伝えることができなかった。
鈴仙が何も言わずにその場を去り、青年はその背中を見つめるしか出来なかった。
心の中で自問自答する。
まだ駄目なのか、まだ権力が足りないのか、どうすれば戻ってきてくれるのか、どうすれば───
「俺は…貴女と…あんたと一緒に居たいんだ」
───貴女の隣に居られるのだろうか。
鈴仙が見えなくなってから絞り出した声は、誰にも聞かれぬまま風に乗って散っていった。
伝えられなかった胸中に燻るこの想いのせいなのか、風が少し冷たく感じた。
その場を去った鈴仙も、普段の柄になく月の都での生活を思い出していた。
月では玉兎は用途は様々だが、貴重だが取り替えの利く労働力であり、簡潔に言えば奴隷である。そして自分は綿月姉妹のペットでもあった。だがそれでも都を防衛をする為にも玉兎の存在が必要な存在である事もまた事実。
地上のありとあらゆる兵器や兵士を、たった1人で蟻を無意識に潰すが如く殲滅できる月の民の兵士といえど、生きているからには疲れも溜まるし限界もくる。地上の戦力が物量をもって挑んでくれば、質が非常に高くともいずれ押し潰される。何よりそんな貴重な戦闘力を失う訳にはいかない。
そこで登用されたのが戦闘に使える能力、或いは戦闘に関する才能を持った玉兎達。使い捨て同然の彼女達に量産型の兵器を与え、月の民が直接戦闘訓練をすることで物量をカバーする。時には諜報にも特化した者を諜報員として訓練を受けさせる。鈴仙もその1人だ。
量で劣る部分を質と量で補うのだが、当然訓練は厳しいもので、中には訓練をサボる者や、地上に逃げる者もいる。サボる者は訓練量の増加で済むが、地上に逃げれば良くて餓死か兎に化けたままうさぎ鍋、或いは人外の餌。最悪の場合は慰みものか実験台となる。その点鈴仙は幻想郷に逃げ込めたのだから幸運だろう。そこには別の要因もあるが。
波長を操り、仲間、或いは敵に何かしらの効果を与え、自らのステルス性にも長けるどころか戦闘の才能は過去最高。欠点は集団行動に支障をきたす人一倍の臆病な鈴仙は、その才能と訓練の苦しみと、辛さと傷の痛みに耐えながら砂漠の砂の如く吸収して身につけた技術を認められ、月の民の少年新兵の1人を育成する事を命じられた。
これまでの訓練の恨みを晴らそうと八つ当たり同然に厳しいものにしたのだがなかなかどうして、その新兵─鏡夜は鈴仙が訓練内容というスローボールを投げてもそれをこなして全力投球で投げ返してくる。
鈴仙と同様にありとあらゆる知識と技術を文句を言わずに砂漠の砂の如く吸収していくその姿に鈴仙は感心し、八つ当たりではなく、今すぐにでも使えるものから教えていこうと切り替えた。
気づけば鈴仙の課す訓練はより実戦的なものとなり、最終的には刃を研いだ本物の刀と実弾を使用した対人訓練にまでなり、互いに全力で行う程にまでなっていた。
鈴仙がこれ以上教えられることは無いと言っても後ろをついてきながら教えを乞う事を辞めなかった少年が今では実力も立場もある立派な青年になっていた。だが中身は今でも変わらず、まだ学べるものがあると言ってくる。変わっていないことを嬉しく思いつつも、自分のどこに学べるものがあるのか疑問だと鈴仙は思っていた。
『俺は貴女を追いかける。貴女の後ろにいるのは耐えられる。まだ貴女という目標がいるのですから。けれども貴女の先には行きたくない。俺が居たいのは貴女の隣です』
彼は確かにそう言っていたことがある。鏡夜にとって自分は何よりも替え難い存在だったのだろう。その言葉に尊敬とは違う感情が見え隠れしていたことを鈴仙は知らない。
最早戻ることは叶わないため、あの様に言って拒絶したものの、鈴仙本人も可能であれば戻りたいと思っていた。
痛くて、辛くて、苦しくて、けれども彼の成長を身近で感じて楽しいと感じていた日々。
けれども無理なのだ。できないのだ。友を、仲間を、弟子を見捨てて逃げてしまった自分は罪人だ。たとえあの命令が免罪符になろうと、犯してはならない罪を犯したことには変わりない。何より私は兎で彼は月の民だ。師弟以上になってはならない。
だが鏡夜の前ではそんな事を放棄させられそうになる。彼の立場なら、今彼が持つ権力を使えば月に戻れるだろう。だがそうすれば彼の権威は失墜し、危うい立場に追いやられるだろう。
何より地上に居過ぎたせいで多少なりとも穢れを持ってしまった。そんな存在を月の都は許さない。
何より怖かった。彼が伝えようとした言葉があるのはわかった。
………けれどもそれを聞いたら、言われてしまったら、これまでの決意が、抑えていた感情が、崩れ去って、その言葉に甘えてしまう気がした。だから言わせなかった。だから足早に立ち去った。
ふと鈴仙は立ち止まって考えてしまった。もし逃げなければ、彼は隣に居たのだろうか?彼は私を必要としてくれただろうか?
彼は───
「全く、しつこい男性は嫌われますよ」
───私を女として見てくれただろうか。
空を見上げ、苦笑しながら言う鈴仙の顔は、少し満更でもなく、1人の少女らしいものに見えた。
久しぶりすぎて鈴仙のキャラがブレてる気がする。