東方存在録   作:大神 龍

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月面戦争~断ち切る鎖~
第一話


 宵闇の妖怪は、美しく輝く月を見上げてにやりと笑う。

 

「さて、今日は大暴れするんだから」

 

 不敵に、紅い瞳を輝かせながら宵闇の妖怪は乗っていた木から飛び降り、境界の妖怪と、そこに集う有象無象の百鬼夜行の中に入って行く。

 

「紫。そろそろかしら?」

 

「えぇ、ルーミアさん。始めますよ」

 

 眼前に広がる湖の湖面には、天高く輝く満月が映し出されている。

 

「さぁ!集まった下級中級大妖怪の皆々様!今宵の宴を、月面戦争を始めましょう!!」

 

 境界の妖怪――――紫の宣言と共に、無数の妖怪は湖面の月に向かって飛び込む。

 

「さて、私達も行くわよ」

 

「えぇ、頑張って勝利を勝ち取りますよ」

 

 宵闇の妖怪――――ルーミアに続き、紫も飛びこみ、先ほどまでの異形の群れは誰一人としていなくなる。

 

 

 * * *

 

 

 月面では、突入と同時に奇襲は始まっていた。

 

 

 ただし、

 

 

 月人の奇襲だ。

 

 無数の光線が奇襲に動転した妖怪を容赦なく撃ち抜き、倒していく。

 

 想定外。そう言い表す事しかできないその現状に、紫は苦い顔をする。

 

 いつばれたのか。そう考えるが、しかし、今更引き返す事は出来ない。ならば突き進むのみ。幸いルーミアが居るのだ。怖いものなど彼女がいる限りほとんどない。

 

「全軍!!全力でぶつかれ!!陣形を崩すことを目標とする!!ルーミアさんは状況を見て対処!基本は殲滅優先で!!!」

 

 紫の指揮と共に妖怪の群れは一気に一本の槍のように研ぎ澄まされ、月人に向かっていく。

 

「アッハハハハハッ!!久しぶりに大暴れだ!!全力でやらさせてもらうね!!」

 

 ルーミアは素早く頭のリボンを解く。

 

 直後、地面から黒い何かが湧き出てきて、ルーミアを包み込む。

 

 それを好機と取ったのか、それとも阻止しなければいけないと思ったのか分からないが、一斉に月人の光線がルーミアに向かう。

 

「無駄よ!!その程度の光で私の闇が照らされることは無いわ!!」

 

 言葉の通り、パァンッ!!と中から弾けて解けた闇から飛び出たルーミアは傷一つなく、また光線は突き抜けることなく消滅していた。

 

 ルーミアは瞬時に背負っていた黒い剣を引き抜くと、一気に正面にいた月人の兵士を両断すると、その勢い止めることなく更に一人二人と切り伏せて行く。

 

「さぁさぁさぁさぁ!!私を退屈させないで!!数十年も耐え続けてもう限界なの!!今なら何もかもを壊せそう!!」

 

「なら、私が相手をしましょう」

 

 ガキィンッ!!と音を立てて止められる黒の凶刃。

 

「…貴方は?」

 

 薄紫の髪をポニーテイルでまとめ上げた少女に、ルーミアは聞く。

 

綿月依姫(わたつきのよりひめ)。貴方は?」

 

「宵闇の女王って言えば、記憶があるでしょ?」

 

 ルーミアが名乗ると同時に、依姫の目の色が変わる。

 

「……貴方は何があっても殺す!!」

 

 瞬間的に込められた力にルーミアは一瞬押され、揺らいだと同時に依姫は刀を掲げ、

 

「『天津甕星(あまつみかぼし)』!!」

 

 刹那、放たれた強大な光は――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「邪魔。見えないでしょ」

 

 

 

 

 

 

 軽く振るわれた腕と共に生み出された闇に飲み込まれて消滅する。

 

「ッ!!」

 

 驚きに目を見開く依姫は、振るわれる凶刃を刀で受け流し、左手をルーミアに向けると、

 

「『愛宕(あたご)様の火』!!」

 

 左手を飲み込みながら放たれた高温の火は――――

 

 

 

 

 

 

 

――――『喰らえ、ダーインスレイヴ』

 

 

 

 

 

 

 

 黒かったはずの、烈火の如き紅さで魅了する剣に喰らわれ、火が消えると同時に元の黒い剣に戻る。

 

 

「短文詠唱は単体にしか効果ないのよ。まぁ、十分だけどね!!」

 

 ガキィッ!!と音を立ててぶつかり合う刃は、金色の火花を散らし、衝突すると共に周囲へ衝撃波を飛ばしていく。

 

「アッハハハハハハ!!中々耐えるわね月人!!どんどん行くわよ!!」

 

 一瞬のうちに何度も打ち付けられる斬撃になんとかついて行っていた依姫も、己の限界を感じたのか、

 

「『天宇受売命(あめのうずめ)』!!」

 

 光を帯びると共に踊るような動きでルーミアの斬撃を避けて行く。

 

「ッ!!へぇ…?あの天岩戸の前で踊ってた神様を憑依させたの?だから舞う様に避けてるって訳ね…」

 

「まさか、見抜かれるとは。まぁ、これで終わりです。『天照大神』」

 

 瞬間、全てを照らし出す太陽の如き極光が周囲を飲み込み――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その程度の光で私を倒せるとでも?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その極光は、全てを喰らい尽くす貪欲な闇に喰い殺される。

 

「うそ……!!太陽神の光ですら照らしだせないの!?」

 

「どうせなら、星の最後の光くらいは用意しなさい。出来ないなら貴方の光で私は倒せないわ」

 

 地面からぼこぼこと泡と音を立ててゆらりゆらりと現れる底無き闇は、あらゆる生命を恐怖に陥れることなど容易だった。

 

「さて、次は、どんな技でもてなしてくれるのかしら?」

 

「ッ…!!」

 

 依姫はルーミアを睨むと、刀を地面に突き刺し、

 

「『祇園様の力』!!」

 

 地面から飛び出た剣の群れは、ルーミアを閉じ込める。

 

「…スサノオの剣ね…懐かしいわ。剣があっさり砕かれた時のあの絶望の顔。多少の暇つぶしにはなったけど、結局弱かったわね」

 

 ルーミアはそう言って剣を横薙ぎに振るい――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズガァッ!!と大地を抉りながら生えていた全ての剣を砕く。

 

「じゃ、次行くわよ」

 

 ルーミアはそう言って楽しそうに飛び出す。

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