東方存在録   作:大神 龍

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 前回に引き続き、『十六夜やと』様の『東方神殺伝』より、『夜刀神 紫苑』君です!

 想像以上に時間がかかってしまいました…お待たせしてすいません!
 ということで、前回より続き、戦闘編です。

では、どうぞ!


第十七話 コラボ 1‐2‐2

「で、ルールは?」

「ん~…特になし。結界を破らないってのがあるけど、そう簡単に破れないと自負してる」

「ふむ…まぁ、大丈夫か」

 

 少し距離を取り、軽く準備運動をする。

 現在は庭にいて、結構下らない理由から始まった戦いの準備中。

 

「スタートはどうする?」

「いつでもどうぞ?」

 

 すでに結界は張り終わっており、いつでも開始できる。

 気付いていなかったが、紫苑は一本の刀を持っており、妖力を滲ませていた。

 なぜ気付かなかったのか少し疑問に思ったが、考えないことにしておく。

 

「じゃあ、行くぜ」

 

 返事はしなかった。

 

 迅真は瞬時にダーインスレイヴを取りだし、振るう。

 だが、軽くかわされ、且つ反撃の拳が飛んでくる。

 迅真は素早く地面を蹴り、鋭く尖らせた地面を生成。紫苑に向けて隆起させ、それとは別に闇の刃を振り下ろす。

 全方位攻撃だが、紫苑は瞬時に隆起した地面を薙ぎ倒し、闇の刃を回避。直後――――

 

 

 

 

――――太陽が顕現する。

 

 

 

 

 無言で振り下ろされる神の焔。

 

 迅真は特に構えることもなく正面からそれを受け止める。

 直撃。迅真は骨身も残さず燃え尽きる。

 

「――――なわけ無いじゃん?」

 

 燃え盛る神焔は、一点に収束していく。

 否、喰われていく。

 神焔を喰らった迅真は、多少炎のダメージはあるようだが、気にするほどのものでもなかった。

 

「ごちそうさまでした。いやぁ、案外喰えるもんだな。想像以上だ」

「滅竜魔導士かっての」

「いやいや。神様相手に戦うんだ。なら、こっちを使うだろ?」

 

 迅真はそう言って大きく息を吸い、

 

「『炎神の怒号』!!」

 

 息を吐き出すように黒い焔が紫苑へと向かう。

 しかし、紫苑はそれをかわし、素早く迅真に迫ると、刀を振るう。

 瞬間的に剣で防ぐが、不安定な体勢だったため、防ぎきれないと悟り、瞬時に受け流す。

 しかし、攻撃は止まらない。

 刀を流した直後で防ぐことも避けることもできない状態で、更に雷が襲いかかる。

 即座に体を変化。ダメージ覚悟で受け止める。

 

「ぐぅっ!」

 

 吹き飛ばされ、地面を二転三転して止まる。

 雷自体のダメージは無いと言っても良いが、当たったときの衝撃と受け身をとれずに地面を転がったダメージは大きかった。

 しかし、雷は終わらない。

 間髪いれず降り注ぐ雷。迅真はそれを視認しても、かわせず、受ける。

 だが、紫苑はそこに違和感を感じた。

 

「(ダメージが無い…?)」

 

 そう思った瞬間だった。

 

 叩きつけられた雷が食われる。

 

 紫苑はそれを認識すると同時に迅真に向かって走る。

 嫌な予感がしたのだ。

 

「『120mm黒雷砲』!!」

 

 放たれる黒い雷の魔力砲。

 紫苑は上空に逃げることで回避。黒雷砲をやり過ごす。

 しかし、攻撃は止まらない。

 

「穿て、『ブリューナク』!」

 

 穂が五つに別れている、必勝とされる槍。

 放たれると同時、それは五つの雷へと変化し、紫苑を襲う。

 だがしかし、その光は、目の前の力を前に、封殺される。

 

 

――――金色の剣の顕現。

 

 

 存在を食われそうな威圧感。そして、ブリューナクはその剣に当たると同時に消滅する。

 

「チッ…やっぱり知ってるよな…メジャーだもんな…」

 

 愚痴るが、既に次の一手は構えていた。

 

「『イヴァル』!』

 

 放たれるは槍。

 寸分の狂いもなく紫苑に向かう。

 しかし、その槍すらも、先程とは別の金色の剣に無力化される。

 

 すぐさま迅真が次の一手を用意しようとするが、それよりも早く紫苑が自身の間合いまでたどり着き、刀を振るう。

 咄嗟にダーインスレイヴで防ぐが、先程よりも高い威力の斬撃で、勢いよく吹き飛ばされる。

 

 地面を何度かバウンドし、体勢を立て直して着地する。

 それを追って紫苑は近付き――――

 

 

 大地が爆ぜる。

 

 

 その爆発に紫苑は飲まれるが、土煙を纏いながらも突撃してくる。

 その手には刀が無い。

 疑問に思った直後、ダーインスレイヴを蹴り飛ばされ、更に追撃の回し蹴りが振るわれる。

 反射的に伏せてかわし、突き上げるようにアッパーを放つ。

 だが、体を仰け反ることでそれをかわした紫苑は、すぐさま体を起こし、頭突きをしてくる。

 すぐに反応出来なかった迅真は、ガゴンッ! という鈍い音を発しながらよろめく。

 もちろん、紫苑がそんな大きな隙を逃すわけがなく、追撃で放たれた膝蹴りを鳩尾にくらい、続けた回し蹴りをモロに食らって吹き飛ぶ。

 

 うつ伏せで止まった迅真は、そのまま動かない。

 紫苑はその状況を不信に思い、すぐに刀を取りに行く。

 その時だった。

 

 

 ズパンッ! と音を立てて大地が割れる。

 

 

 崩れ、不安定になる足場。

 紫苑は咄嗟にその場から跳び、刀のそばに着地する。

 が、振り返ると、そこに迅真はいない。

 直後、真下の地面が深紅に染まる。

 反射的だった。

 

 ドバンッ! と音を立てて溶岩が噴き出す。

 

 寸での所でそれをかわす紫苑。

 だが、追撃とばかりに、今度は雷が降り注ぐ。

 しかし、紫苑はその雷撃を紙一重でかわしつつ、迅真を探す。

 雷が止み、溶岩が収まる。そして、溶岩の中に、迅真はいた。

 見つけると共に恐ろしい速度で飛び出す紫苑。

 地面が爆ぜると同時に斬り伏せ、沼のようになると空を飛び、空気の弾丸をかわし、切り捨てて、迅真のもとへとたどり着き、袈裟斬りを放つ。

 超速で振るわれた斬撃を、迅真は寸でのところでかわし、地面を槍のように変化させ、紫苑へと放つ。

 紫苑は体を右に捻るだけでその攻撃をかわすと、不安定な体勢のまま刀を斬り上げる。

 それなりの威力と速度を持っている刀は、しかし、当然のごとくかわされる。しかし、紫苑が体勢を立て直すには十分な時間。

 

 迅真は距離を取ろうと炎の壁を作るが、それを斬り伏せて紫苑は人間とは思えない強力(ごうりき)を持って刀を振り下ろす。

 回避の出来ない迅真は、瞬時にダーインスレイヴを構え、その一撃を受け止める。

 激突。周囲に衝撃波が走り、全身が痺れるような感覚を受ける。

 地面は微かに沈み、その衝撃を物語るが、当の本人たちはその出来事を気にする暇もない。

 強力且つ高速の攻撃は、二撃、三撃と続き、周囲に被害をもたらしていく。

 しかも、その連撃の最中、時たま雷が迅真を襲い、集中を乱していく。

 辛うじてその攻撃に耐えてはいるが、これ以上は厳しい。そう思った瞬間。

 

 ふわりと体が浮く。

 

 足払い。単純で、且つ大きな隙を作る技。

 剣撃と上空からの雷に集中していたからこそのミス。

 打つ手を考える隙もなく地面に転がされ、迅真の首に向かって振るわれる凶刃。

 だが、振り下ろし、驚愕する。

 

 紙一重。何故か当たらない。

 

 油断したわけではない。不自然に当たらなかったのだ。

 紫苑は即座に距離を取り、刀を素振りして感覚を確かめる。

 不自然なことは何もない。

 一瞬限りの効果。そう判断する。

 

 『逸らす程度の能力』。この場において、その能力は凶悪だ。

 一瞬のミスで命取りになる攻防を、優勢にできる能力。

 使わなかったのは、発動させる事が出来るだけの速度の剣撃が無かったからだ。

 視界に入れる必要があるこの能力は、反射神経だけで戦う攻防戦では使うことが難しく、能力を使うよりも受ける方が優先される。

 先程の振り下ろす動作は、辛うじて視認することが出来たため、能力を発動できたということだ。

 

 なんとか迅真は立ち上がって体勢を立て直すと、ダーインスレイヴを持って詠唱する。

 

「――――『闇よりいでし魔なる剣よ。戦乱を呼びて我が敵に死を与えよ』」

 

 詠唱を聞くと同時に走り出す紫苑。全力を持って止めるつもりのようだった。

 

「『その肉を刃へと。その魂を力へと』」

 

 神速で向かい来る紫苑を風の刃や闇の刃で迎撃しようとするが、斬り伏せられる。

 無理だと判断すると同時に、無数の盾を顕現させる。

 竜の鱗のような盾を幾枚も重ねて出来たそれは、さながら竜の衣と呼んでも良いだろう。

 紫苑は即座に攻撃を変更。最初に防がれた太陽を顕現させる。

 

「『全てを喰らいて混沌へと還す美しき刃と化せ』ダーインスレイヴ第二封印、王の顎門(アギト)解放。捕食を許可する!」

 

 詠唱が完成。だが、それと同時に振り下ろされた神焔。全てを焼き尽くす焔は、竜の衣諸共食らい尽くし、焼き殺す。

 だが、やはりそれは、当然のように、不自然に、起こった。

 

 神焔が消滅する。

 

 輝ける太陽は、一閃。喰われたように真っ二つに抉られた。

 両断された神焔は、しかし速度はそのまま周囲を襲う。

 その中心に立つのは、やはりと言うべきだろう。

 真紅に輝くダーインスレイヴを手に持つ、迅真だ。

 

「危ねぇ危ねぇ。死ぬところだったぜ」

 

 言っている迅真は、服の所々を焦がしている。

 だが、本格的なダメージを受ける前に無力化したようで、皮膚が全体的に赤くなっているくらいだった。

 

 瞬間、迅真は紫苑の正面にテレポート。全力でダーインスレイヴを振るうが、紫苑はそれをひらりとかわし、回し蹴りを迅真の腹に叩き込む。

 激痛に苛まれながらもその場に留まりダーインスレイヴを斬り上げる。

 紫苑は紙一重で後ろに下がりかわすと、刀を振り下ろし、それを迅真は斬り上げた直後の不安定な体勢のままよろけるように右に避ける。

 だが、直後足を払われ、宙を舞う。

 今度は逃げられないように迅真の腹部を全力で踏みつけ――――

 

 

――――しかし、迅真の体は地面に消える。

 

 

「なっ!」

 

 思わず短く声を上げる紫苑。だが、次の瞬間には周囲を警戒する。

 どこから来るのか、それを考え――――嫌な予感と共にその場を離れる。

 

 音もなく落ちてくる真紅の剣。それは、大地すらも喰らい進む凶悪なる剣。かわせなければどうなっていたか、言うまでもないだろう。

 しかし、問題はそこではない。

 

 ()()()()()()()()()()

 

 その疑問の答えはすぐに出た。

 紫苑の周囲から飛び出す土で出来た槍。

 空を飛んでかわすと、紫苑がいた所の真下から迅真が飛び出し、何かに引っ張られたようにダーインスレイヴが跳ね上がり紫苑へと向かう。

 上から真っ直ぐ落ちてくるダーインスレイヴを軽々とかわし、紫苑は飛び出てきた迅真に突撃。決着を付けるつもりで向かう。

 だが、迅真はニヤリと笑い、右手を勢いよく後ろに振り――――

 

 銀のナイフと共に周囲に紅い霧が生まれる。

 

 この紅い霧は危険だと脳が警鐘を鳴らす。

 だが、彼はすでに霧の中にいる。

 彼が霧を払うよりも早く、無数の傷を体に刻む。

 全て浅い傷ではあるものの、疲弊させることはできる。

 そして、霧を払ったところにこの一撃を。

 

 背後からダーインスレイヴが迫り来る。

 

 紫苑はその気配に気付き、寸でのところでかわす。

 しかし、その剣は消えたと思った矢先に、迅真と共に帰ってくる。

 振り下ろされる斬撃は、紅い霧を喰らいながら振るわれる。

 咄嗟に後退するものの、紅い霧のせいで若干動きが鈍った紫苑は、腕がかすってしまう。

 腕を若干抉られた紫苑は、瞬時に地面へ降り立ち、刀を構える。

 直後、瞬く間に傷は癒えていき、無くなる。

 迅真は即座に紅い霧を再展開するが、当然のごとく吹き飛ばされる。

 だが、その一瞬の目眩ましで迅真は姿を消した。

 

 迅真が現れたのは背後。

 その気配に気付いた紫苑は、振り向き様に横薙ぎの一撃を振るう。

 だが、しゃがんでいた迅真には当たらず、その真上を斬撃が通りすぎる。

 生まれた隙に、立ち上がりながら捻りを加えた右拳を叩き込む。

 紫苑はその一撃を左手でなんとか掴み、受け止める。

 鬼の力を付与して今度は左拳を叩き込もうとした瞬間、視界が黒に染まる。

 頭蓋から軋む音がする。悲鳴のようなそれは、激痛を訴える。

 頭を掴まれている。そう理解するのに、時間はいらなかった。

 自分を掴んでいる腕を両手で持ち、持てる力を総動員してへし折ろうとする。

 だが、力を込めれば込めただけ相手の威力が上がっていく。

 そろそろ頭蓋に限界が来る。そんな予感がした瞬間、抗わず、冷静に、転移した。

 

 だが、一つだけ想定外――――いや、想定してたが無意識に省いていた事が起きた。

 

「ガッ…!?」

 

 腹部に突き刺さる刀。

 転移地点を予測された。

 

「流石に同じ事を繰り返されたら気付くだろ」

「ゲフッ…まぁ…そうだよなぁ…ハハハ…!」

 

 楽しくなってきたとばかりに笑う迅真。それは異質で、異様で、不気味で、背筋が凍るような笑い声。

 紫苑はすぐさま迅真にトドメを刺そうと刀をそのまま振り下ろし――――迅真は消滅する。

 

 何処に行った。そう思うよりも早く、背後へと刀を振るう。

 しかし、ただ空を裂くだけで、斬りたかった者は切り裂けない。

 奴は少し離れたところにいた。

 

 その手にダーインスレイヴは無い。

 手の中にあるのは漆黒の刀。ダーインスレイヴとは違う、煌めく様な黒。

 居合の型で固まっているその様子は、隙が無いように見えた。

 鋭利な空気が、刃の様に肌を刺す。

 

 だが…悪い気分ではない。

 

 紫苑は雷を飛ばしながら全力で近づく。

 放たれた雷撃は突如出現した盾が弾き飛ばす。

 しかし、何度も撃たれているとさすがに捌き切れないのか、たまにすり抜けて迅真に当たる。

 その度に少し顔をしかめるが、それでも構えは解かない。

 そして、ついに紫苑は射程範囲に入る――――

 

 

 

 

 

――――寸前で、大地を蹴り飛ばし石礫(いしつぶて)を放つ。

 

 超速で迫る無数の弾丸は、盾で防ぎ切れるようなものではなく、回避せざるを得ない。

 が、迅真はその弾丸を全て斬り伏せる。けれど、その速度は異常そのもので、刃すら見えず、刀はいつの間にか鞘に納められていた。

 しかし、紫苑にとってその隙で十分だった。

 

 すでに背後に回っている紫苑は、刀を全力で振り抜く。

 だが、迅真もそこまで甘くは無い。

 反転。即座に振り下ろされる刀を、鞘から抜かないままの状態で防ぐ。

 ギリギリと音を立てながらしばらく膠着状態のままでいたが、迅真が紫苑を蹴り上げたため、紫苑は避けるために後ろへ下がる。

 直後、迅真は全力で紫苑に近付き、射程圏内に入れると同時に居合いの構えをし、一撃を放つ。

 

「『黒爪砕牙』」

 

 ただ一撃の剣閃のはずだった。だが、訪れるのは三ヶ所への同時衝撃。

 寸でのところで斬撃を防いだ紫苑は、しかし、その威力に押されて吹き飛ばされる。

 刃は再び鞘に納められており、やはり見ることは叶わなかった。紫苑は刀身に何かあるのかと考えるが、とにかく今は一撃でも多く攻撃を当てることに集中する。

 

 迅真は、吹き飛ばしたからと言って、追撃しないわけではない。むしろ、嬉々として追撃するだろう。

 しかし、今回は違うようで、何かに堪えるように歯を食い縛りながら紫苑を見ていた。

 居合いの構えを再度取り、待ち構えるその姿は、むしろ焦っているように見える。

 その焦りは何に向けられているのか、それは本人にしかわかり得ないことなのだが、嫌な予感がしてならなかった。

 

 紫苑はその焦りを感じ、神速で迫ると、刀を振り下ろす。

 迅真はそれを居合い斬りによって弾き、続く蹴りを上体を反らすことにより回避。不安定な体勢のまま右足を軸に反転し回し蹴り。

 紫苑は風の力で前宙してそれをかわし、その勢いのまま足を伸ばして踵落とし。

 不安定な状態の迅真は、かわすことが出来ず、ギリギリのところで鞘を使い防御する。

 

 やっと見えた刀身。それは何よりも黒く、全てを飲み込むような恐ろしさと力強さを持っていた。

 

 しかし、それと同時に、迅真が苦悶の表情を浮かべる。

 迅真の握る刀の柄から黒い雷が走る。その光は禍々しく、危険だと思わせた。

 だが、迅真はそれを受け止めるようにしっかりと柄を握り、刀を振り上げる。

 

 先程とは比べ物になら無い速度。

 ギリギリで回避するが、その刀は威力も上がっているようだった。

 続く斬撃を何とか受け流していくが、それすら危うい。

 当たらぬように細心の注意を払い、且つ反撃をする。

 五、六度の打ち合いの末、ゆっくりとだが迅真が押され始める。

 

 頬に浅い傷を作りつつ、だがそれでも諦めずに全力で刀を振るう。

 経験の差だろうか、見た目の差は小さく、だが両者の間に圧倒的な差を生んでいく。

 歯を食い縛り全力で振るっても、紫苑はそれを受け流していく。

 だから彼は、本来使うつもりのなかった能力を使う。

 

 其は勝者。絶対にして不変の事象。彼の者の前にあらゆる生はひれ伏し、勝利を祈る。

 彼の者が現れるあらゆる戦は、彼の者を何よりも早く崇めた者が勝つと言われる。

 故に、彼の者は絶対不変の勝者であり、あらゆる障害を排斥する最強の神である。其の名を、人々はただ叫ぶ。

 

「『ウルスラグナ』」

 

 瞬間、迅真の雰囲気が変わった。

 それに気付いた紫苑は、ほぼ無意識にトドメを刺しに行く。

 だがもう遅い。彼はすでに能力を発動させた。

 

 ()()()()()()()()()()

 

 その事実は、驚かせるには十分だった。

 続けざまの神速の斬撃。紫苑は受け止め、こちらからも仕掛けようと刀を強く握り直し、

 降り注いできた雷の群れを叩き落とす。

 驚いている暇はない。すぐに迅真へ迫り、横薙ぎに刀を振るう。

 しかし、その斬撃は迅真に当たることなく空を裂き、咄嗟に後ろに下がると同時に地面が槍のような形を取りながら隆起し、紫苑を襲う。

 紫苑はそれを切り払おうと刀を握り、突如軟化した地面に足を捕られ、不安定な体勢で刀を振るったため、中途半端に土槍を斬り、斬れなかった槍が体を掠めていく。

 

 風を使い空を飛んで沼のような地面から抜け出すと同時に、上空から強烈な風弾を受け、打ち落とされかける。

 しかし、どうにか空中で体勢を整えた紫苑は、すでに迅真が自身の上空にいる事に気付き、即座に神速で襲い掛かる――――

 

 

 パンッ!!

 

 

 軽快な音と共に()()が解ける。

 認識不能の呪い。それはすでに多大な被害をもたらしていた。

 

「ッ!!」

 

 吐血。その呪いは毒のよう。全身には無数の切り傷が存在し、その一つ一つが悲鳴のように激しい痛みを訴える。

 しかし、紫苑はその痛みを気合いで捩じ伏せ、勢いそのまま迅真に斬りかかる。

 まさかこれだけの傷を受けて、治癒もせずに突っ込んで来るとは考えていなかった迅真は、その一撃を回避しきれず、左脇腹を思いっきり斬られる。

 大ダメージ。即死ものかもしれない。けれど、それでやられないのは、やはり自称人間。不適の笑みを浮かべ、瞬時に傷を癒す。

 

 迅真は瞬時に地面へ降り立ち、目を閉じてゆっくりと深呼吸して、再び目を開けたとき、すでに完治した紫苑が正面に迫っていた。

 しかし、それでも彼は慌てない。

 冷静に、冷徹に、至極当然のような雰囲気を持って、振るわれていた刀を弾き返す。

 瞬時に蹴り上げ、それを認識した紫苑が後ろに下がり、再度横薙ぎに刀を振るう。

 それに対し迅真は、紫苑の上空に超重力球を生み出し軌道を反らし、その斬撃を潜り抜けて下から全力で斬り上げる。

 紫苑はそに斬撃を避けようと後ろに跳ぶ――――

 

 

 事は叶わず、いつの間にか出来ていたぬかるんだ地面に足を捕られ、後ろに倒れるように斬られる。

 

 噴き出す鮮血。

 それは周囲を紅く染め、大きな傷を思わせる。

 見るものが見れば、吐き出すか発狂するか。はたまた迅真を殺しにかかるような状況。

 その状況を理解しながらも、迅真は紫苑に近付き、確実にトドメを刺すために刀を振るい――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「油断は禁物。常識だ」

 

 

 

 一閃。迅真の首が吹き飛んだ。

 

 

 

 * * *

 

 

 夕暮れ時。茜色の光が大地を照らす。

 ルーミアがのんびりと煎餅を食べている横で、未だに悔しそうな表情を浮かべる迅真がいた。

 

「残念だったわね」

「後一撃だったのに…あぁもぅ、強くなってもこれかよ。まだまだ修行が足りないな…」

「いや、たまたまだって」

 

 迅真の言葉に対して声が上がる。

 もしかしなくとも、夜刀神紫苑その人である。

 結局、戦闘面では迅真の敗北だったのだが、神力の使いすぎで紫苑も倒れた。まぁ、結果は覆らないのだが。

 

「くそぉ…やっぱ英雄神には勝てないか…」

「同じようなことをしておいてよく言うよな。というか、俺もギリギリだったし、本当によく倒せたなって気分だよ」

「ん~…謙遜しすぎな気がするけどな…まぁいいか。よし! じゃあ、お楽しみの賞品タイムだ!」

「……あれ? そんな約束したっけ?」

「いつもの事よ。まぁ…損はしないと思うし、貰っておけば良いんじゃない?」

「そ、そうか…じゃあ貰うかな」

 

 そう言って紫苑は賞品を待つ。

 そして、迅真がいつものバッグから取り出したのは――――

 

「この、『伸縮自在型高機能テレビ』を進呈しよう!」

「……『伸縮自在型』ぁ?」

 

 そう言って取り出したのは何の変哲もなさそうなテレビ。

 それを見た紫苑から疑問の声が上がる。それもそうだろう。伸縮自在型とか、普通無い。意味も分からないし、そもそもどうやって伸縮させるというのか。

 すると、迅真は「ふっふっふ」と笑い、

 

「このテレビはね…霊・妖・魔・神力の何れかを込めながら念じると、伸縮するのだよ」

「何だその便利機能。何処にでも設置できるんじゃねぇの?」

「当然! そのための伸縮機能だ! しかも極限まで軽量化してるにも関わらず、その防御力は並みの刀程度じゃ傷一つ付けられない! 耐衝撃・耐爆・耐震・耐水・耐ジュース・耐お菓子! このテレビは小さな子どもの前に置いても何の問題もない! まぁ、電波がないとただのゲーム専用ディスプレイだがな」

「十分すぎるだろ…何よりも、持ち運びが便利で壊れにくいってのが良いな。ありがたく貰うぜ」

「転生前ではこれで一儲けした時期があったからな…本当は一台1000万近くしたんだが、無料プレゼントだぜ」

「破格じゃねぇか。それで良いのか?」

「原価ゼロだぞ?価格は人件費百パーだ」

「人件費おかしい…待て、買う人がいたのか?」

「俺の住んでた町は特殊だったし。まぁ、そんなに数は売れなかったからな。それでもすごい金額だけども。ちなみにこの金額の理由は、人件費以外に機密情報の漏洩防止を含んでるからな。仕方ないんだよ。そもそも自宅用だったし」

「あぁ…むしろ売ってくれってせがまれたのか…」

「うむ。そういうことだ。まぁ、そんなわけで、高性能テレビ。勝利報酬ということで受けとるが良い」

 

 そう言うと、迅真はテレビを手のひらに乗るサイズまで縮小させてから、紫苑に投げる。

 反射的に受け取るが、想像より重く、うっかり落としかける。

 

「そ、想像より重いな…」

「軽量化したとはいえ、テレビだからな。落ちないようにするだけの重量は必要だろ? まぁ、実はどこにでもくっつくから重量はそんな関係ないんだが…盗難防止とかに使えるからな。粘着性の方も普通に盗むのが難しいくらい強いけどな」

「この時代じゃなくても、十分オーパーツだよな、コレ」

「こんなのが普通に置いてあった俺の居た町。いや、俺らの関わってたところだけなんだけども。まぁ、これくらいの性能じゃないと備品買い替えが恐ろしい事になるからな。それを考えると安い物だった…」

「なんだその町…ちょっと楽しそうだな」

「いつか誰かを招待したいぜ」

 

 おそらく叶えられないであろう願いを言っているが、なぜだか冗談に聞こえず、いつか本当にやりそうな予感がした。

 

「さて、じゃあ、どうする? いつでも帰れるが…もう少しいるか?」

「ん~…いや、そろそろ帰るよ」

「そうか…じゃあ、来た時の魔法陣に立ってくれ」

「分かった」

 

 そう言って紫苑が魔法陣の上に立つと、魔法陣が光りだす。

 

「おぉ、光るのか」

「魔法陣は光らないとかっこよくないしな」

「えっ、かっこよさの為だけに光ってるの?」

 

 衝撃の事実。唖然とするような事を言われ、思考が固まる。

 

「そりゃそうだろ。行きも帰りもスキマで十分だし。むしろそっちの方が効率悪いし」

「マジかよ…何のための魔法陣だよ…」

「圧倒的ロマン」

「ですよね~…」

 

 そう言ったところで、魔法陣がより一層強く光る。

 

「おっと。時間的にここで終わりだ。じゃあまたいつかな」

「あぁ、またいつかな」

 

 その言葉が紡がれると同時、強い光を発して、光が消えると共に紫苑の姿も消えていた。

 

「よし。無事に帰れたな」

「それをどこで判断してるのかすごい気になるんだけど、まぁ良いわ。それよりも、さっき渡したやつ…本当に渡してよかったの?」

「ん? 全然平気だけど? だって、まだストックはあるし」

「……何台あるのよ」

「さぁ? 把握してないぜ。まぁ、俺達が使うことは無さそうだし、無くなっても良いけどな。必要なら作れば良いんだし」

「あぁ…なるほど」

「さてと。じゃあ、夕飯の仕込みでもしようかな」

「ん。頑張ってね。手伝うことがあったら言ってよ?」

「了解。まぁ、お茶でも飲みながら待っててくれ」

 

 そう言って、二人は家に入っていった。




 その高性能テレビ欲しい。

 今回も、本当にお待たせしてしまい、申し訳ございませんでした。たぶん、しばらくこのような状況が続くと思いますが、どうかお許しください。

ということで、『十六夜やと』様! コラボ参加、ありがとうございました!

 次回は未定です。現在、諸々の理由でコラボの再募集をしておりますので、参加してくださっている方々は、どうかご確認していただけるとありがたいです。

よろしくお願いいたしますm(__)m
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