紫は、百鬼夜行の脆さに歯噛みをしていた。
「くっ、だめ。ルーミアさんが居るからある程度は楽になってるけど、それ以上に月人の強さが想像以上…!しかも、奇襲するつもりで奇襲されたのが予想以上のダメージね…隊列はボロボロ。疲弊する速度も並みじゃないわ」
必死に命令するが、恐怖に駆られた妖怪たちは我先にと逃げようとする者もいれば、また、せめて一人でも道連れにと襲い掛かる者とで分かれていた。
紫は紫で必死に攻撃をするが、あまり効いている様子は無い。
だが、彼女自身は、昔鍛えられた回避能力で無傷のままでいた。
「全員散開!!個々の判断で戦いなさい!撤退も許すわ!」
その命令と同時に、弱小妖怪のほとんどが逃げ出す。
「やっぱり、もう駄目かもしれないわね…でも、私だけでも頑張るしか…!」
紫は、スキマから一本のナイフを取り出す。
「実戦で使ったのなんて、遠い昔だけど…練習はしてるから何とかなるかしら」
一か八か。そんな思いで彼女は攻撃を仕掛ける。
光線をスキマを使いながら避けつつ、月人の後ろに回ると、
「ハァッ!!」
背中から、骨と骨の間を通して胸部を突く。
が、そこで止まらず、すぐに刃を抜くと同時にうなじを裂き、蹴り飛ばす。
「次!」
再度、同じことをするが、背後に回った瞬間、
「ッ!!」
正面から放たれる光線。
咄嗟に回避が出来ず、直撃する――――
――――が、何時まで経っても衝撃も痛みも来ない。
「…?」
不思議に思い目を開けると、正面に暗闇が広がっていた。
「これ、ルーミアさんの…!!」
確か、彼女は指揮官のような人物と戦っていたはずだ。なのに、仲間の防御に意識を裂くほど余裕があるというのだろうか。
「負けていられないわよね…!」
紫はスキマに飛び込んで体勢を立て直すと、もう一度、今度は上空から飛び降りる様に襲い掛かる。
「フッ!」
短く息を吐き、紫は月人の脳天を一気に突くと、そのまま滑るように体重をかけて落ち、切り裂くと、その勢いに任せて近くの月人を更に斬る。
返り血で塗れた彼女は、にやりと笑って走り出す。
* * *
「てりゃぁ!!」
ガキィンッ!
何度も打ち付けられたその剣は、金色の火花が散り続け刃こぼれが心配になる。
しかし、ルーミアはそんな事などお構い無しにがむしゃらに振るい続ける。
「(がむしゃら…?いや、違う。コレは明らかに脆くなってる所を重点的に襲って来てる…!!)」
刹那の斬撃の群れは、正確に彼女の力が入らない場所を狙っていく。
「っく!『
瞬間、雨が降り出すと同時にルーミアを狙って轟雷が落ちて来る。
しかし、ルーミアはその雷を容易に断ち、切り返す刃で依姫に斬りかかる。
が、断たれた雷は地面に当たると同時に七つに別れ、それぞれが炎の龍になると、ルーミアに襲い掛かる。
「へぇ…!!なら、これでどう!?」
地面から吹き出した闇が炎の龍を喰らうが、その闇を突き抜けて襲い掛かる龍。
「なら…『闇よりいでし魔なる剣よ。戦乱を呼びて我が敵に死を与えよ。その肉を刃へと。その魂を力へと。全てを喰らいて混沌へと還す美しき刃と化せ』ダーインスレイヴ第二封印、王の
完全詠唱。瞬間、黒き刀身は真紅へと変貌する。まるで鞘から抜いたように。
直後、耳鳴りと若干の浮遊感。そして、呼吸が苦しくなる。
「さぁ、炎の龍よ。その身は我が血肉となりて死ぬがよい」
一振り。ただ無造作に横に振るったその一撃で、七体の炎の龍は一瞬にして掻き消える。
「嘘…一撃で屠るというの!?」
「本当はここまで使うと貴方に勝ち目がほとんどなくなるから使うつもりなかったけど…さすがに闇を突破されたら…ねぇ?」
「くっ…化け物め!!」
「褒め言葉よ?」
先ほどまでの様に振るわれる凶刃。だが、今回違うのは、触れたら、それが何であれ使えなくなるという事。
「最悪の敵…!!一瞬たりとも触れられないなんて…!!」
「ちなみに、この剣は封印を解くと同時に能力すら受け付けないから分解も変換も出来ないわよ!?」
「くぅっ!!なら、無理矢理にでも突破する!!」
ルーミアの剣閃を避け続け、一瞬の隙を狙う。秒間何十と振るわれる斬撃を躱し続け、時には落ちている石を使い視界を奪い躱し続け――――
「ここだ!!」
一瞬の銀光。それは確実にルーミアの首を狙い――――
「『魂の叫びよ。生ある者に怨嗟の慟哭を』【反射】」
ダーインスレイヴが青く光ると同時、キィンッ!!と甲高く響く音。瞬間、依姫の刀は砕け散る。
その後、刃は再び真紅に戻る。
「…ッ!?」
依姫は想定外の反撃に目を見開くが、すぐさま振るわれる凶刃を伏せて躱すと、
「『
瞬間、砕け散った刀は再構築され、前転で追撃を躱しながら背後に一撃斬りかかる。
「カハッ!!……対妖怪用の刀…?フフフ…中々いいのを持ってるじゃない…!!」
言い終わると同時に大きく振りかぶるルーミア。
依姫はその隙を逃さず――――
「『
全てを浄化する光は、ルーミアだけでなく、紫やその他の妖怪達も飲み込み――――
―――――パリンッ!
軽い破砕音と共に全てが元に戻る。
強烈な光に反射的にダーインスレイヴを取り落としてしまっていたルーミアは、何が起こったのか分からず、ただ、目の前に広がる光景に言葉を失っていた。
そこにいたのは、一人の青年。
「いやぁ、久しぶりの外だ。気分が良い」
黒髪に、黒いロングコート。ジーパンを穿いている。そう、彼の名は――――
「で、俺のルーミアに怪我させた奴は誰だ?」
薙浪迅真。宵闇の妖怪が愛した人間だった。