月の者よ。その力に怯えるが良い。
「貴方は?」
「薙浪迅真。よろしくさよなら綿月依姫」
迅真は言い終わると同時に近くに落ちていたダーインスレイヴを引き抜き瞬時に振るう。
「ッ!!」
一瞬遅れて依姫は回避し、ギリギリ回避できた。
否、
「(回避させられた…!?)」
あえて振るう速度を落としている。依姫は瞬時のそう察し、
「舐め…るなぁ!!」
光の速度に等しい斬撃は――――
ピシッ。
人差し指と親指に掴まれる。
「え…?」
「驚く暇なんてないぞ?」
瞬間、投げ飛ばされる依姫。
一回、二回とバウンドし、空中で体勢を立て直すと、
「『祇園様』!!」
地面から刀が生え――――
「『帰れ』」
生成されきる前に消滅する。
「祇園様を感じられない…!?何をした!?」
「帰した。正確に言うのなら、『祇園様の存在を依姫の中から消した』」
「帰した…?そんな…バカな事が…!!」
「出来るんだよ。お前からしたら悲しい事に、いともたやすくな」
「そんな…な、なら、『愛宕様の火』!!」
瞬間的に出現する炎は、迅真に向かい――――
「『燃え尽きな』」
その炎より明るい炎が飲み込み、その炎は消えてしまう。
「『存在を燃やした』。んじゃ、次はこっちだ。しっかりと避けろよ…?」
迅真がゆっくりと手を上げ、それに呼応するように無数の剣が生成されていく。
「『剣の存在を生成』『剣に追尾の存在を付与』『以上の二つの条件を満たす存在を複製』」
――――煌々と輝く剣はひたすらに生成され――――
「『一斉射出』」
ドゥッ!!!と、空気を押しつぶすような勢いで同時に放たれる剣の群れ。
「い、『
瞬間、何かが舞い降り、鏡を持ち――――
その鏡を避けて依姫に襲い掛かる。
「追尾。確かに俺はそう言ったが、言っただけが全てだと言った覚えはないぜ?」
「くぅっ!!」
依姫は悔しげに声を漏らしつつも必死で剣を打ち砕き続け――――
「あぐぅっ!!」
一本だけ通してしまい、脇腹に突き刺さり、その痛みに依姫は膝を着く。
「さて…これでやっと痛み分けとしようか。ルーミア。動くなよ?」
「え?あ、うん」
迅真はルーミアの後ろに回ると、しゃがんで傷を指先でスゥッとなぞる。
すると、傷はきれいに消え、出ていた血も無くなる。
「ついでに服も直しとくか」
もう一度傷の部分を、今度は手のひらを使ってなぞると、服が元通りになる。
「痛みは引いたか?」
「うん…でも、なんか違和感あるわ」
「それはちょっとだけ我慢してくれ。さすがに違和感まではどうしようもないんだ」
ルーミアの頭を撫で、迅真は立ち上がり、
「んで?まだやるのか?俺はさっさとルーミア愛でたいんだけど」
「堂々と言うわね。嬉しいけど」
「あら、お熱いですわね」
いつの間にか紫が隣にいた。
「お前、向こうで戦ってたんじゃないのか?」
「迅真さんがいるのになんで戦うんですか。もう撤退しますよ。ほとんどやられてしまいましたし、私一人で戦うにはかなり強いですし」
ため息を吐き、迅真に寄り掛かる紫。
「ちょっと、何寄り掛かってるのよ。そこは私の場所よ。退きなさい」
「おぅ。いつからルーミアってこんなに積極的になったんだ?」
紫を追い払う様に迅真に抱き着くルーミアを抱きしめ返しながら迅真はそんな事を呟く。
「さて…何か増えてるが、どうするんだ?帰らせてくれるのか?」
迅真が視線を依姫に向けると、近くにいつの間にかもう一人の少女が居た。
腰ほどもある金髪に、同色の瞳。その少女は、明らかな敵意の視線を向けている。
「貴方が依姫を…?」
「まぁ、そうだな。そういう事になる」
「許せない…!!」
少女はそう言うと同時に持っていた扇子を広げ、勢いよく仰ぐ。
「浄化されなさい!」
「超お断り」
右手の人差し指をクイッ!と上げると同時に生み出された風が消滅する。
「森を素粒子レベルで浄化させる風…だったか?そんなもんを向けんな。死んだらどうすんだっての」
「最初からそのつもりよ!!」
「ったく…そんなに頭に血が上ってたら大切な物全部失うぞ?」
迅真はそう言うと、ルーミアと紫に退いてもらい、ゆっくりと少女に近づいて行く。
「く、来るなぁ!!」
扇子を仰ぎ、
「だから、危ないって言ってるだろ」
瞬間的に消される。
「まずお前がしなくちゃいけないのは、撤退だ。そいつが大切なんだろ?」
いくら風を放っても、まるで効いている様子が無い。
「ならさ、俺たちは帰ろうとしてるんだ。そのまま帰らせればいいだろ?」
「それでも私は貴方を許せない!!」
「なら、これでいいか?」
一瞬にして少女の目の前にたどり着くと、座ったまま動けない依姫の傷口に触り、
「『傷と汚れの存在を消す』」
言葉と共に傷は消え、それと同時に服に染みついた血まで消えて行く。
「…まだ、やるか?」
もう、何も言う事は無かった。少女はその場に崩れ落ちる。
「名前は…豊姫だったか。お前は、優しいんだから、常に冷静に居るように努めな。そうすりゃ、守れる奴も増えるだろうよ」
少女――――豊姫の頭を撫で、迅真は瞬時にルーミア達の元へ戻る。
「んじゃ、またいつか会おうぜ。月の姫様」
そう言い残し、三人はその場から消えるのだった。