スタッと地面に降り立つ迅真達は、空に浮かぶ月を見上げる。
「とりあえず帰って来たぞ。紫、お前はやる事あるんじゃねぇのか?」
「知りませんよ。逃げ出した奴らなんて」
「おいおい。ダメだろ。ちゃんと総指揮官として言う事は言え。敗走だとしてもだ」
「ブーブー。ルーミアさんのおかげでうまくすれば勝てたはずですのに」
「ルーミアに頼るな。自力で頑張れっての」
「むぅ…私じゃあの二人には勝てないので負けですね…仕方ないです。行ってきます」
「おぅ。行ってら」
紫は名残惜しそうにこちらを見るが、最終的に諦めてスキマへ入って行った。
「はぁ……全く、久しぶりの外だよ。何年あの真っ白な世界に閉じ込められていた事か…」
「迅真…?」
迅真が独り言を呟いていると、ルーミアが妙に怖い目で見つめてくる。
「な、何だよ……俺、何かやった…?」
「数十年も私を置き去りにして、真っ白な空間とか言って……挙句に何かしたっけ?とか言って……迅真は、自分が何をやったのか全く自覚が無いんだね…?」
「え、あ、その……」
迅真を抱きしめる力がどんどん強くなっていく。
「もう、逃がさないからね…?」
「…!!」
ルーミアは軽く跳ねて、迅真の唇を奪い、そのまま倒れ込む。
「うふふふふふ。もう私の手の届かない所に行かせはしない。絶対私の傍にいてもらうわ。最低でも、目に見える範囲にいさせるから…覚悟してね…?」
「は、ハハハ……お手柔らかに。後、ここだと色々と不味いと思うんだぜ…!?」
月光照らす大地の上で、迅真の声なき悲鳴が響いたのだった。
* * *
目を覚ますと、すでに太陽が昇っていた。
「…………幸せなのに幸せじゃない…殺されるかと思った」
「何言ってるのよ。迅真」
仰向けで、無気力になってる迅真の頬を突くルーミア。
「血が…足りねぇ……」
「無茶して私に食べさせるのが悪いわ。いくら叩いてもやめようとしないし」
「ぐぬぬ……お前のそのつやっつやな顔見てたら楽になって来たわ…つか、能力使えばいいんじゃん」
「…………能力?」
「んあ?なんだ?今更な質問を」
能力を行使しようとしたところに質問され、行動を止める迅真。
「ねぇ、能力って桜に殺されなかったっけ?」
「……嫌な事を思い出させるなよ…まぁ、確かに能力は死んでたぜ」
「じゃあ、なんで今あるの?」
死んでいたはずなのに、なぜ今使えているのか。そこが不思議なところである。
「死んだのは表面上の能力だったんだよ…今使ってるのが俺本来の能力…らしい」
「らしいって…なにそれ」
「んな事言われてもな…言われただけだし…消えてた記憶が戻ったらそう言ってたし…そもそもなんで俺の記憶が消えてたのかが不思議なんだけどな」
「ふ~ん?じゃあ、とりあえず、今持ってるその能力が迅真の本来の能力って事ね?」
「そゆこと。使い勝手は前と同じだし、むしろ前よりリバウンドが少なくなった分使いやすいぜ」
「なんて名前の能力?」
ルーミアの疑問に、一拍置いてから答える。
「『存在を司る程度の能力』」
「……うっわぁ…存在を司るって何よそれ」
「色々出来て便利でさぁ…もう動かなくても何とかなる気がしてくるんだよな」
「人をダメにする能力!!」
「それは言っちゃいけない」
しー。と言いたげに人差し指でルーミアの唇を抑える。
「むぐぐ…でも、一体どんなことができるのよ」
「ん~…そうだな。例えば、こういうの。『空飛ぶ絨毯の存在を生成』」
瞬間、二人が寝ていた地面が絨毯に変わり、それはフワフワと宙を舞う。
「うわわっ、じ、自分で飛んでる訳じゃないから不思議な感じ…」
「まぁ、とりあえずこういうのも出来る。んで、こういうのも出来る『空飛ぶ絨毯の存在を消去』」
言い終わると同時に、乗っかっていた絨毯が消滅し、二人はそのまま自由落下する。
「『浮遊の存在を付与』」
一瞬にして落下は停止し、その場に滞空する。まるで飛んでいるかのように。
「こんな感じで能力も若干付与できる。まぁ、操作できるのは俺だけなんだが、使い方を工夫すれば俺の能力が続いてる限り使用可能っていう事も出来る。使い道はある意味無限大だな」
「能力の無限生成って事?」
「そう捉えても間違ってないぜ。立てるか?」
「ん。大丈夫」
フワフワと浮いている状態でうまく体勢を整えてその場に立つと同時、スタッとそのまま落ちる。
「それにしても、随分元と変わってる気がするんだけど?」
「そう思うだろ?でもな、こういう使い方をすれば前と変わらないんだよ。例えば…そうだな。『紫の存在を俺に付与』」
言葉と同時、迅真の姿が紫へと変化する。
「お~…でも、前より変化速度が早くない?前は1分くらいかかってたと思うけど」
「この能力を意識し始めたらなんか速度上がった。上位互換みたいなものだからかなって俺は思ってるが」
ルーミアの疑問に答えつつ、元の姿に戻る迅真。
「ふ~ん?で、今回は重ね掛けできるの?」
「あぁ、出来る。ただ、ほとんどキメラ化して人間どころかまともな生物に見えなくなるがな。だからいつも通り能力だけの付与だ。かけ方は『紫の能力の存在を俺に付与』ってなるけどな」
「そう…でも、やっぱり時間で変化するのは残ってるんでしょ?」
「一応は。でも、5時間くらい続けてたら完全変化する。前と比べたら全然変身しないのと同じだけどな」
「そもそも変身なんてほとんどしてなかったじゃない」
「そんなに時間かかる相手がいなかっただけだ。むしろそうならない様に重ね掛けして短期決戦だったんだよ」
「なるほどね。でももう長期戦でも怖くないんじゃない?」
「だけど俺は短期戦だな。それに慣れてる。手こずったら長期戦になるかもしれねぇが、そんな事になるような相手はこれから先、あんまりいないはずだ。月の民でアレだったからな」
「あ。そうだ。なんで迅真はあの二人の姫を知ってるのよ。誰にも聞いてないはずでしょ?」
「あ~…ん~……えっとだなぁ………そうだ。こうしたんだよ。例えばあの木があるだろ?で、それを対象にこうする。『対象の存在の情報を読み取る』」
瞬間、膨大な記憶が流れ込んでくる。
「ッ!!……っと、まぁ、こんな感じで情報を読み取って見たわけだ」
「そう……迅真?言いたくないならそう言って良いからね?意地でも知ってあげるから」
「ナニソレ怖い。でも、まぁそれくらいが一番かな。じゃあ、自力で答えを導き出してくれ」
「うん」
迅真はそう言ってルーミアの頭を撫で、笑顔でそれを受け入れるルーミア。
「さってと、数十年ぶりにまた歩き回ろうか」
「また楽しい旅に連れて行ってね」
迅真は封印のリボンでルーミアの髪を結び、ルーミアが封印されて小さくなったのを確認してから歩き出し、ルーミアはその後ろをついて行くのだった。