IS 箒のセカンド幼馴染は…   作:TARO

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鈴登場。


第9話

 

一夏の代表就任が決定してから暫くがたち、遂に一夏のクラス代表としての初戦、クラス対抗戦が開催される日が近付いてきた。

そんな日の朝、1年1組の教室内、一夏の席の周りには相変わらず女子たちが殺到している。ただ、隣に明人の席があるのでその周りは避けるようにではあるが。

 

 

「もう直ぐクラス対抗戦だね」

 

「そうそう知ってる?2組のクラス代表が変更になったみたいだよ。中国からの転入生だって」

 

 

一夏の席に集まる女生徒の内の一人が近付いてきたクラス対抗戦のことを話題に上げると、直ぐに他の女生徒新たな話題を提供する。何時の時代も女子の噂好きは変わらず、話題には困らないようだ。

 

 

「転校生?こんな時期に?」

 

 

入学式からまだ然程経っていないこの時期に転入生なんて何か特別な事情でもあるのだろうか。

そう思った一夏がその疑問を口にすると、それに答えたのが

 

 

「フフン。私の存在を今更ながらに危ぶんでの転入かしら?」

 

 

イギリス代表候補生のセシリア・オルコットであった。

先日の一夏とのクラス代表を賭けた模擬戦以降、態度がいくらか軟らかくなった彼女であるが、こういうところは相変わらずであった。

そんなセシリアに一夏は苦笑する。

 

 

「でも、もうクラス対抗戦か…。大丈夫かな、俺?」

 

 

まだISに触れてから僅かな時間しか経っていない自分が何処までできるのか一夏は少なからず不安であった。

最近は放課後にクラスの副担任、山田真耶先生とISの操縦について教えてもらっているため最初に比べると少しは上手くなっているはずだ…と一夏は思う。

 

 

「大丈夫だよ。今のところ専用機持ちがクラス代表なのは1組と4組だけだから余裕だよ」

 

 

そんな一夏を安心させるようにクラスの女子の一人が言う。

専用機を持っていないからといって安心は出来ないのだが、その事実に一夏はとりあえず安堵したところに、

 

 

「その情報古いよ」

 

 

教室入り口から、彼にとっては懐かしい声が、聞こえてきた。

 

 

「2組も専用機持ちがクラス代表になったの。簡単には優勝させないから」

 

 

声の主は教室入り口に立つ、背の低い少女であった。

長い栗色の髪を黄色いリボンで頭の両側で結い、その身を包むのはIS学園の制服だが、彼女が着ている物は肩口が大きく開き、本来の物よりもスカートが短く改造されている。

 

見慣れぬ少女の登場にクラスの女子たちは騒然となるが、そんな中一夏は席を立ち

 

 

「…鈴?お前鈴か!?」

 

 

懐かしい、幼馴染の名を口にした。

 

 

「そうよ!中国代表候補生、鳳鈴音!今日は宣戦布告に来たってわけ!」

 

 

鈴は不敵に微笑むと、ズビシッと音がしそうなほど勢いよくその指先を一夏に突きつけた。

鈴の言動に教室内は再び騒然となる。

2組に転入してきて、クラス代表へとなった少女。それが代表候補生だったという事実はクラスの少女達を驚かせるには充分な内容だった。

しかし、たった今宣戦布告された一夏本人はと言うと、

 

 

「プ…っ、なに格好つけてるんだよ、鈴。全っ然似合わないぞ」

 

 

空気を読まずにマイペースな発言をする。

 

 

「なっ、なんてこと言うのよ!アンタはーっ!」

 

 

対する鈴は一夏の言葉に折角決まっていた(と、彼女は思っている)登場を台無しにされ、思わず素が出てしまった。

一度崩れた仮面は元には戻らず、彼女はギャーギャーと一夏に対して文句を言っている。

そんな彼女を横目で伺う少年が一人。

彼―――明人はバイザーで隠されたその双眸で様子を伺う。

 

鳳鈴音。

中国代表候補生であり、専用IS甲龍(シェンロン)を扱う。

織斑一夏とは小学5年生時に知り合い、以来親しくしている。

親の離婚が原因で中学2年時に中国へ帰国。その後、わずか1年弱で国の候補生まで登りつめた才能の持ち主。

何故今の時期になってIS学園に転入したかは不明。護衛対象とは親しい間柄なため、危害を加える可能性は低いと思われるが、警戒は怠ら無いよう注意する。

 

 

「あの子は大丈夫だと思うよ、あっきー」

 

 

明人が鈴に対しての情報を整理している時、ふと聞こえてきた声に意識を引き戻される。

見ると、そこには何時かと同じように机に顎をちょこんとのせた布仏本音が此方を見て、ほにゃりと微笑んでいた。

 

 

「…何故だ?」

 

 

彼女を大丈夫だという理由が分からず、明人は本音に尋ねる。

確かに鳳鈴音が一夏の幼馴染であるという点では他の者よりは信頼できるかもしれない。

しかし彼女は代表候補生なのだ。つまり彼女の背後には国がいる。その国の政府や研究者から何か指示を受けている可能性もあるのだ。

それらを踏まえて、それでも鳳鈴音が安全であるといえる理由はなんだというのか。

明人が考える中、しかし本音の口から語られた理由とは、

 

 

「だってあの娘、きっとおりむーに恋してるからー」

 

「………は?」

 

 

明人の予想の斜め上をいくものだった。

思わず彼が間の抜けた反応をしてしまうほどに。

 

 

「…その根拠は?」

 

「ん~…乙女の勘なのだよ~」

 

「…………」

 

 

念の為聞いてみた明人だが返ってきた本音の答えを聞いて遂に口を閉ざす。

本音の言葉を完全に信じるわけではないが、とりあえず程々に警戒しておこうと思う明人であった。

そして、そんな明人と本音を横目で伺う少女が一人。

彼女―――篠ノ之箒はちらちらと落ち着きのない様子で2人の様子を伺っている。

そんな彼女が胸中はというと…

 

 

(な…、なんだあの女は…!なんであんなに明人に馴れなれしいんだ!?)

 

 

突然現れた不穏分子に対して考えをめぐらせていた。

 

 

(確か名は布仏本音と言ったか…。そういえば以前私と一夏が廊下で話をしていた日もあのように明人と話をしていたな…。あの時は明人に冷たくあしらわれていたため放っておいたが…。くっ、まさかこんなことになろうとは…!なっ…ち、近付きすぎだろう、あれは!っええぃ!此方の気も知らずのほほんと笑いおって!明人が困っているだろうが!…なぁっ!て、手を握って!?わ、私だって再会してから明人の手を握っていないのに…!くっ!布仏本音…!恐ろしい女…!だが!私だって負けんぞ!私だって明人のことが…!明人の…ことが…)

 

 

正にそれは一人百面相とでも言うべきか。

僅かの間に箒はその表情を不快に歪めたかと思えば驚きに変わり、焦ったかと思えばまた驚き、何やら真剣な表情になったかと思えば急に顔を赤らめ俯いてしまった。

それを一部始終見ていたクラスメイトが彼女を心配して声を掛けようか迷っていたが、その異常な雰囲気に結局声を掛けられなかったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本日の授業も全て終わり生徒たちがそれぞれの自室で思い思いの時間を過ごしている中、2人の少女―――篠ノ之箒と鳳鈴音は寮内のとある一室へと向かっていた。

そんな2人はタイミングが良いのか悪いのか、目的の部屋の前でばったりと出くわしてしまう。

 

 

「む?」

 

「ん?」

 

 

お互いに予期していない出会いに思わず声を上げてしまう。

 

 

「鳳か…、こんなところで何をしている?」

 

「あんたこそ、此処はあんたの部屋じゃないはずだけど?」

 

 

箒も鈴も、相手が何故こんな所に居るのかと怪訝な顔をして問いかける。

因みに、2人は本日の昼休みに既に顔合わせは済んでおり、自己紹介も済んでいる。その場に居合わせたのは、一夏、箒、鈴、セシリア、そして明人だ。そこで箒は一夏のファースト幼馴染、鈴はセカンド幼馴染として紹介されていた。その際に一夏につれてこられた明人は彼の友人として、そして何故かその場に居たセシリアも自ら一夏の友人であると力説していた。

 

 

「わ、私は…その、明人に用があってだな…」

 

「明人?あぁ、一夏の友達だって言う、あの…」

 

 

箒の言葉に鈴は呟き、件の人物を思い出す。

 

天河明人。

一夏に次いで世界で2番目にISを動かしたという男。

共に昼食をとったが積極的に話す事は無く、話を振られても必要最低限の受け答えしかしていなかった。

なので始めて会っての彼への印象は『根暗なやつ』といったものとなっている。

しかしクラスメートから聞いた話では先日彼はイギリス代表候補生との模擬戦を行い、相手を圧倒したという。

自分も中国の代表候補生だから分かるが、いくら候補生と言っても将来国を背負って立つかもしれない者たちなのだ、生半可な実力でなれるものではない。

その相手を圧倒した実力。それほどの実力を何処で、どうやって身につけたのか…。それに彼の出す雰囲気、上手く言えないが普通の人とは何かが違う。だから、彼にはきっと何か秘密がある。そう、彼女の勘が告げていた。

そのため、鈴の中で明人は『根暗なやつ、だけど油断ならないやつ』という位置付けとなっていた。

 

 

「そ、そう言うお前こそ、こんな所で何をしている!?」

 

 

考えに耽っていた鈴に箒の言葉が掛かる。

突然現実に引き戻された鈴は若干どもりながらそれに答える。

 

 

「わ、私は…一夏に用があるのよ!」

 

 

まぁ、早い話が2人の目的は、気になる異性の自室へと遊びに行き、少しでもその仲を少しでも深めようというものだった。

となれば、2人が言い争っている此処が何処なのかというと。

 

 

その時、ガチャリ、と2人の前にある扉が開いた。

その扉から顔を覗かせたのは織斑一夏。

 

 

「……人の部屋の前で何騒いでるんだ…、2人とも?」

 

 

当然、彼等の自室の前ということになるわけで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず廊下で話をするわけにもいかないので、一夏は箒と鈴の2人を自室に招き入れた。

当然、その室内には彼のルームメイトである天河明人もいる。

明人は突然の少女2人の登場にも拘らず、いつも通り表情を変えず自分のベットに腰掛けている。

一夏も少女2人を部屋に入れ扉を閉めると部屋に備え付けてある椅子に腰掛ける。

一夏も明人も部屋に異性が遊びに来たというのに、いつもと変わらない様子で寛いでいた。

その様子を一夏の親友である五反田(ごたんだ)(だん)が見れば彼のことを張倒していることだろう。

対する少女2人はと言うと、この状況は彼女たちが望んだものだというのに突然心の準備も出来ていないまま放り込まれたものだから、非常に落ち着かない様子である。

 

 

「2人ともそんなところに突っ立ってないで座ったらどうだ?」

 

「う、うむ」

 

「そ、そうね」

 

 

そんな少女2人の様子に気付く事も無く、一夏は2人に座るよう促す。

2人はそれに頷き、箒は一夏のベットに、鈴は空いているもう1つの椅子へと腰を下ろす。

 

 

「で、2人してどうしたんだ?と言うか2人とも何時の間に仲良くなったんだ?」

 

「え、え~っと、そう!()とはさっき偶然廊下でばったり会ってね。そこでちょっと話したら意気投合しちゃってさ~」

 

「う、うむ!それで折角だから2人で明人と一夏のところに遊びに行こうということになってな。そ、そうだよな?()?」

 

「え、えぇ!」

 

 

一夏の問いかけに2人はさっと目配せをする。その瞬間、2人の少女は視線を交差させそれだけで会話をするという離れ業を行っていた。

 

 

(この際包み隠さず言うわ。私は一夏を狙ってる。あんたは天河を狙ってるんでしょ?だったら…)

 

(うむ。ここはお互いの目的のために共闘といこうではないか。よろしく頼むぞ、鈴!)

 

(こっちこそよろしく、箒!)

 

 

今ここに箒・鈴音同盟が爆誕した。

 

それからの行動は速かった。

鈴が一夏に話しかけ、2人だけで会話を始める。

そして箒は明人と向き合い彼に話しかけようとしたのだが。

 

 

(…い、一体何を話せばいいんだ…!?)

 

 

いざ明人と2人で話が出来ると思いきや、余り人と話すことが得意ではない箒はこんなとき何を話せばいいのかが分からなかった。

必死に話題を探す箒はふと、先日のクラス代表を決める模擬戦のことを思い出した。

 

 

「せ、先日の模擬戦は凄かったな!明人は何時の間にあれ程のIS操縦技術を身につけたんだ?」

 

「この学園に来る前に所属していたIS研究機関で試作機のテストパイロットをしていた。今俺が使っているブラックサレナがその試作機を改良した物になる」

 

 

箒の質問に明人はまるで予めその質問に対しての答えを用意していたかのようにスラスラと答える。

それは彼と楯無とである程度予測できる明人への質問に対しての回答を予め用意していたからであった。実際に今の質問は一夏や真耶からもされており、彼はその時も今と同じように答えている。

 

 

「それでも、代表候補生相手に勝つなんて明人は凄いな…。そういえば…明人は昔から何でも出来たよな…」

 

 

箒は呟いて昔の明人を思い出す。彼女の記憶の中の彼は運動が出来て、料理が出来て、勉強はちょっと苦手だったけどそんな彼に彼女は憧れたのだった。

 

 

「それに引き換え…私は…」

 

 

そんな彼に憧れてしまったからこそ、どうしてもそんな彼と自分とを比べてしまう。

 

 

「私は…『あの人』の妹だっていうのに…何にも……」

 

 

彼と比べて…そして、()と比べて如何に自分が不甲斐ないかを思わさせられてしまう。

俯き、呟くように言う箒。その声は微かに震えていた。

 

 

「箒ちゃんは…」

 

「…え?」

 

 

そんな彼女に、明人は声を掛ける。その声はいつもの冷たいものではない。

その、まるで昔の彼を思わせるような声音に箒は思わず顔をあげる。

 

 

「箒ちゃんは、箒ちゃんだ。誰の妹とかは、そんなの関係ない」

 

 

箒が顔をあげて見えた明人の顔はいつもの無表情なものではなくて、そのバイザーに隠された彼の瞳は、彼女の瞳を真っ直ぐに見つめていた。

箒もそのことを感じ取ったのか、明人の顔を見つめていた彼女は徐々にその頬を紅く染めていき、

 

 

「うん…。あ、ありがとぅ……」

 

 

呟くようにそう言って、俯いてしまった。

 

そのまま暫く無言の時間が続いたが、それは決して嫌な時間ではなかった。

寧ろなんだか甘酸っぱいような、そんな心地よささえも箒は感じていた。

そして、ふと彼女は気付いた。

 

 

(あれ?これはなんだか凄くいい雰囲気なのではないか?)

 

 

と。

そして今ならば、今この雰囲気なら自分の気持ちを伝えられるのではないかと。

 

 

(よ、よし!い、言うぞ…!今ここで…明人に私の気持ちを…!!)

 

 

心を決め、箒がさあいざ!と口を開こうとした時

 

 

バシーン!!

 

 

「最っ低!女の子との約束をちゃんと覚えてないなんて!男の風上にも置けない奴!犬に噛まれて死んじゃえ!!」

 

 

乾いた音と共に聞こえた鈴の怒鳴り声によってその機会を失してしまった。

そちらを向いてみると左頬を紅くし、横を向いて訳が分からないという顔をしている一夏。そして肩を怒らせ部屋を出て行く鈴が見えた。

その光景を見て、一体何があったのか理解できていない箒と明人であったが、きっと一夏が何かやらかしたのだろうと当たりをつけた。

 

 

「それならば馬に蹴られて…だろう」

 

「…そうだな」

 

 

そして以外にも突っ込みを入れた明人に、自分の決心を無駄にされた箒は不機嫌に応えるのであった。

 

 

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