IS 箒のセカンド幼馴染は…   作:TARO

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長い間更新できずにすみませんでした…。
相変わらずの不定期+亀更新な駄作者ですが、これからもよろしくお願いします。


第10話

 

 

時は過ぎ5月。

遂に迎えたクラス対抗戦当日。

ここ第2アリーナではクラス対抗戦第1試合が始まろうとしていた。

 

 

(何故…こんなことになってしまったんだろう…)

 

 

自身の専用IS白式を纏った一夏は、視線の先にいる対戦相手、凰鈴音を見て軽く溜息を吐いた。

 

あの日、一夏が鈴の機嫌を損ねた日から数週間がたっていたが、未だ鈴の機嫌は戻らない。いや、寧ろ悪化したと言って良いだろう。

先日、一夏と鈴が偶々(アリーナで一夏がISの特訓を行っていると箒から鈴へ情報が提供されたことは2人の秘密である)出くわしたところ、どうしても一夏に非を認めさせたい鈴と、以外にも頑固で非を認めない一夏が口論となってしまう。そしてその場の勢いで「勝った方が負けた方になんでも一つ言うことを聞かせられる」なんて取り決めをしてしまったのだ。

自分が勝てば何故鈴が怒っているのか説明してもらうのだが、負けてしまった場合鈴から何を言われるのか分かったものではない。と、一夏は戦々恐々とする。

 

 

『それでは両者、規定の位置まで移動して下さい』

 

 

アナウンスの声に促された一夏と鈴は移動し、空中で向かい合う。その距離約5メートル。

そこで一夏は対峙する鈴が纏っているISを注視する。

その名を『甲龍(シェンロン)』。

中国の第3世代型IS。肩の非固定浮遊部位 (アンロックユニット)についた、特徴的な棘付き装甲 (スパイク・アーマー)が非常に攻撃的な印象を与える機体である。

 

 

「さて一夏、今謝るならちょっと痛めつけるぐらいで許してあげるけど、どうする?」

 

 

鈴がその手に持った、両端に刃を備えた翼形の青龍刀『双天牙月(そうてんがげつ)』の切っ先を一夏に突きつけて告げる。しかし彼女は一夏がそれに応じるとは思っていなかった。一夏のことは誰よりも知っていると思っている。だから彼が意外と頑固で、負けず嫌いであるということも彼女は知っていた。

 

 

「却下だ。そんなもん必要ねえよ。全力で来い」

 

 

予想通りの一夏の答えに鈴は思わず笑みが漏れる。

 

 

「そうよね」

 

 

彼女の笑みはやがてその口から犬歯を覗かせた獰猛な物へと変わっていく。

 

 

「やっぱり、そうこなくっちゃね!!」

 

 

彼女の咆哮と同時に模擬線開始のブザーが鳴り響く。

動いたのは二人同時。お互いに己の獲物を振り被り相手へと突進していく。

 

 

「オォオオォォォォオ!!!」

 

「ハァァァァァァァッ!!!」

 

 

そして衝突。互いの獲物から火花が散り、無骨な鉄の舞に華を添える。

1合、2合、3合と剣戟を繰り返す。

力で勝るのは一夏。力強く振るわれる雪片弐型はその一太刀一太刀が正に必殺。剛の剣。

対する鈴は、一夏の剣を正面から受けること無く華麗に受け流す。異形の青龍刀、双天牙月をくるくるとバトンのように回し、そこから繰り出される変幻自在の斬撃。柔の剣。

 

剣戟は苛烈を極め、その数が20に届こうとしていた。

近接格闘は互角。ISに乗って数ヶ月の一夏が代表候補生の鈴にここまで喰らいつけたのは、彼が剣道を修めていたことと、彼が持つそのセンスのお陰である。

一夏は姉の千冬の影響か、こと近接格闘に関しては類稀なるセンスを持っていた。

しかし、それ以外のこととなると勝手が違ってくる。彼の専用機が射撃武装のない格闘戦一択の機体であるのも関係してくるが、良くも悪くも彼は近接格闘に特化し過ぎてしまっていた。

故に現在こうして代表候補生の鈴に格闘戦で喰らいつけているのだが、

 

鈴がその手に持つ双天牙月で、遠心力をたっぷり加えた強烈な一撃を繰り出す。

それを防いだ一夏だが力に押され、鈴との間に彼の唯一の武器(雪片弐型)が届かないほどの距離が開いてしまった。

 

 

「っ!しまっ――――」

 

「遅い!」

 

 

ガコン、と。甲龍の右肩の非固定浮遊部位がスライドして開く。そしてその中心部が光った瞬間。

 

 

「ッガ!?」

 

 

見えない何かが一夏を吹き飛ばした。

襲い来る痛みに耐え、何とか機体を制御した一夏だがその衝撃に吹き飛ばされ、鈴との距離は彼にとって絶望的なまでに離れてしまっていた。

こうなると射撃武器を持たない一夏はどうすることも出来なくなる。

経験の浅い一夏では、こういった状況での対応、打開策を見出すことはやはり困難であった。

 

 

一夏が警戒しながら鈴を見るが、彼女は動かない。

それは余裕の表れか、彼女は不敵な笑みを浮かべ一夏を見下す。

 

 

「もう一度聞くわよ、一夏。降参するならちょっと痛めつけるぐらいで許してあげるけど?」

 

 

そう口にする鈴は先程一夏に向けて放った武装『龍咆(りゅうほう)』を、その存在を示すように拳で小突く。

その意味は一夏にも正しく伝わった。

『近接格闘が出来ないこの距離で、この武装がある私に、勝つ方法があるの?』

そう、鈴は言っているのだ。だが一夏は

 

 

「こっちももう一度言う。却下だ」

 

 

言い放ち、剣を構える。

その瞳には諦めは見えない、衰えない闘志が宿っていた。

 

 

「そう。残念だわ」

 

 

そう言う鈴の表情には全く残念そうな色は無い。今まで浮かんでいたその笑みがより深くなる。

ガコン、と音をたて甲龍の左肩の非固定浮遊部位が、右肩のソレと同じように開かれる。

 

 

「怪我しても文句言うんじゃあないわよ!」

 

 

鈴の言葉と共に、両肩の龍咆が光を放ち一夏に襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ、あの武装は…?」

 

 

そう呟いたのはモニターを見つめる箒。

第2アリーナのAピット。そこでは1年1組の担任である千冬と副担任である真耶。そして一夏の友人として明人、箒、セシリアの3人がモニターで試合を観戦していた。

モニターの中では一夏が鈴の放つ見えない何かから懸命に逃げ回っている。

 

 

「あれは『衝撃砲』。空間自体に圧力をかけて砲身を生成、余剰で生じる衝撃それ自体を砲弾化して撃ち出す第3代型兵器ですわ。その特徴は」

 

 

箒の問いに答えたのは同じくモニターを見つめるセシリア。

 

 

「砲弾だけではなく、砲身すら目に見えないこと。さらに砲身の稼動限界角度が無く、360度どの方向にも撃つことが出来る」

 

 

厄介な武装ですわ。とモニターから目を離さずに彼女は続けた。

現にその武装を向けられている一夏は、やはり苦戦していた。砲身も砲弾も見えないその武装から何とか逃れようと、必死に機体を動かすが被弾は免れない。今も龍砲の一撃を受け、吹き飛ばされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何度目かの龍咆の直撃を受け、遂に白式のエネルギーは半分を切った。しかし一夏は未だその攻略法を見出せないでいた。

打ち出される不可視の弾丸の射線はあくまで直線状。武装のエネルギー変動を感知すれば発射タイミングは読むことが出来る。これだけ聞けば回避は難しく無いように聞こえるかもしれない。しかしそこは流石代表候補生といったところか、鈴は一夏の回避行動を読み、回避した先で着弾するよう巧みに射線をずらして龍咆を放っている。

一夏もそのことに気付いており、何とか鈴の裏をかこうとするが戦況は未だ好転しないでいた。

 

 

(くそっ!このままじゃジリ貧だ。何とかして流れを変えないと…)

 

 

そう思い、何とかこの状況を打破する方法を模索する。その時一夏は、ISの特訓をしているときに明人に言われたことを思い出した。

 

 

 

 

 

『相手の裏をかけ、意表を点け。相手に読まれないような行動をとれ』

 

それは一夏がセシリアとの模擬戦を振り返り、質問をしたアキトから返ってきた答え。

その質問の内容は、「どうやって遠距離から一方的に射撃をしてくる敵に接敵するか」というものである。

武装が格闘武器(雪片弐型)しかない一夏にとって先ず敵に近付かないと話にならない。そのため試合では相手が一夏を近づけさせまいとしてくることは容易に予想が出来る。よって一夏は自分と同じ格闘戦主体であり、自分よりも経験が豊富な明人にその打開策を聞いておくことにしたのだ。

 

『えーっと…。それは相手の考えを読めってことか?そんな高度なことを俺に要求されても…』

 

不安そうに呟く一夏に、明人は首を横に振る。

 

『そうじゃない。相手が思いつかないような、突飛なことをすればいい。それならば―――』

 

得意だろう?と明人は口の端を上げ、ニヤリと笑った。

 

 

 

 

(相手の裏…意表を点く、相手が思いつかないような行動…)

 

 

鈴は今、一夏どうにかして龍咆の不可視の弾丸を避けようと必死になっているのだと思っている。だから鈴はそんな一夏をさらに追い込もうと一夏の回避する先を読み、龍咆の弾丸を放っているのだ。

そんな鈴の意表を点くには…

 

不意に、一夏は回避行動を止めその場でピタリと機体を停止させた。

一夏のその行動に、鈴は意表を点かれた(・・・・・・・)。思わず龍咆を放つのを止め、怪訝な顔で一夏を注視する。

 

 

「何?遂に諦めて降参する気になったの?」

 

 

そう言う鈴だが、一夏の表情を見れば降参する気など無いことは分かる。なら何かあるはずだと気を抜かずに一夏の行動に注意する。

対する一夏は自分の思惑がとりあえず成功したことに内心安堵する。鈴が龍咆を放つのを止めてくれるかどうかは一夏にとって賭けであった。もし自分が止まってもなお鈴が龍咆を放つのを止めなかったら勝負はそのまま決していただろう。勿論、彼の敗北と言う形でだ。

 

 

(ここまではとりあえず成功、か。ここからも賭けの要素が強いけど…やるしかない)

 

 

そう心を決め、一夏はゆっくりと雪片弐型を肩に担ぐように構える。

 

 

「鈴、本気でいくからな」

 

 

言いながら、勿論ブラフだけど。と一夏は心の中だけで思う。さっきから本気も本気だ。じゃないとあっという間に撃墜されていたことだろう。

その一夏の言葉を受けた鈴はその顔に不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「面白いじゃない。何をする気か知らないけど受けて立つわよ」

 

 

その鈴の言葉が終るか終らないかの刹那。一夏は機体を鈴に向けて急発進させる。卑怯と言われ様が構わない、闘いの最中に気を抜く方が悪いのである。そう思い突撃する一夏に、しかし鈴は冷静に対処をする。機体を後方に下げながら龍咆を放ち一夏を迎撃する。

不可視の弾丸が一夏に迫る。

 

 

(横に逃げれば先読みされて撃たれる)

 

 

弾が見えず何処に飛んでくるか分からない。それは想像するよりも遥かに回避するのが難しかった。

 

一夏は速度を緩めず一直線に鈴へと向けて機体を疾らせる。

 

 

(だけど、相手に向かって進んでいれば)

 

 

射線は直線状。発射のタイミングはエネルギー変動を感知すれば分かる。弾速もあれだけ喰らえばどれくらいかは大体予想がつく。

 

肩に担いだ雪片弐型を強く握り直し、そして―――

 

 

(弾は正面からしか飛んでこない!)

 

 

不可視の弾丸に向けて思い切り振り下ろした。

 

 

「なっ!?」

 

 

驚愕の声を上げたのは鈴。一夏の行動はそれほどまでに鈴の意表を点いたのだ。

 

彼は龍咆の不可視の弾丸を切り払ったのだ(・・・・・・・)

 

一瞬、鈴の動きが止まる。その隙を一夏は見逃さなかった。ここで彼は己が持つ切り札を切った。

瞬時加速(イグニッション・ブースト)。ISの後部スラスター翼からエネルギーを放出し、その内部に一度取り込み、圧縮して放出する。その際に得られる慣性エネルギーをして爆発的に加速する技能。

彼はこれをこの試合のここぞというところで使うと決めていた。そしてその使いどころが今だ。

 

爆発的な加速を得た白式は、甲龍との距離を一気に詰め、その背後へと抜けた。

 

 

「!? しまっ―――」

 

「オォォオォッ!」

 

 

一瞬にして鈴の背後を獲った一夏はその勢いのまま雪片弐型を上段から振り下す。

 

 

 

刹那。空から飛来した極光と轟音が辺りを支配した。

 

 

 

突然事態に一夏は今正に振り下ろさんとしていた雪片弐型を止める。

一夏はハイパーセンサーを使い辺りの状況を確認すると、空から飛来した何かはアリーナの遮断シールドを貫通して入ってきたようだった。常に隙間無くアリーナの上空を覆っているシールドに今はぽっかりと穴が開いている。そして自然には大きな穴が開き、そこからはもくもくと煙が上がっている。

彼の隣の鈴も同じように辺りを探っている。状況を確認しようと一夏が鈴に声を掛けようとしたとき

 

 

――――上空より熱源反応あり。

 

 

ハイパーセンサーからのメッセージに一夏は弾かれたように上空を見ると、そこには

 

 

「何だ…アレは……」

 

 

全身が深い灰色の装甲で覆われた。手が長く気味の悪い姿をしている異形のISが空から此方を見下ろしていた。

 

 


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