やはり私と同中の彼との青春ラブコメはまちがっている。   作:巣羽流

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遅くなりました。

26話です。


26話

 

 

 

 

 

 

比企谷君

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件名(無題)

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今日の部活が終わったらいつもの場所で待ってる

 

 

 

 

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「おっ、来たか愛川」

 

「比企谷君」

 

私が比企谷君に確固たる決意で彼の日常を守ると誓った日から数日後。私は彼にメールで呼び出されていた。

 

「じゃあ帰ろうぜ」

 

「うん」

 

季節はもう冬。時間はまだ6時にもなっていないがすでに太陽の半分は沈み辺りは暗くなってきた。冷たい風が吹き抜けるなか二人並んでペダルを漕ぐ。

 

な、なんの用だろ・・・私がやること気に入らないとか?文句言うために呼びつけた?

うぅ・・・なんかそんな風に言われるのは嫌だな。

 

「なぁ」

 

「は、はい!」

 

「お前、雪ノ下たちを倒すために選挙に出るんだったよな」

 

「う、うん。正確にはあの二人を会長にしないためだけどね」

 

「それな・・・雪ノ下も由比ヶ浜も生徒会長に立候補するのをやめるそうだ」

 

「・・・えっ?」

 

「つまりお前も立候補する必要は無くなったわけだ」

 

ちょっと何言ってるか分からない。どういうこと?私がバカなの?

 

「ちょっと待ってよ・・・ちゃんと説明してよ!何のことだか分かんないよ!」

 

「あー・・・そだったな。簡単に言うと今回の依頼は取り消しになったんだ」

 

「取り消し?」

 

「ああ。依頼に来たやつが会長をやる気になったらしい」

 

取り消し・・・会長をやる気に・・・

 

「・・・っ!」

 

なるほど。何となくわかった。

 

「・・・比企谷君がやったの?」

 

「・・・さあな」

 

「やっぱりそうなんだ」

 

比企谷君がまた動いたんだ。自分の力で何とか解決させたんだ。

あんなに腐ってたのにまったくどうしたんだろ・・・

 

「・・・とにかく、お前も立候補する必要は無いぞ」

 

どくんっ。

 

胸がいたい。お前なんかが俺のために出来ることなんてない。自分のことなんて自分だけでやれる。お前は俺には必要ない。そう言われた気がした。

 

比企谷君をちらっと見ると前を見ながら自転車をこいでる。その前を見つめる目はもう以前ほど腐ってなんかない。まだ腐ってはいるけどね。

 

比企谷君がそんなこと考えてないのは分かってる。そういう事を思う人ではないし、それを隠すことが出来るほど器用でもないだろう。

 

「そっか・・・」

 

「ああ。そうだ」

 

「はぁぁぁぁぁ・・・」

 

「あ、愛川?」

 

「ねえ比企谷君」

 

「ん?」

 

「なんで自分で行動したの?」

 

「・・・」

 

「私に任せていても奉仕部は守れたのに・・・どうして?」

 

「まぁあれだ。お前の策は正確性に欠けるからな。」

 

「そっか・・・」

 

本当に余計なお世話だったんだ。

 

「愛川?」

 

「そだよね!雪乃ちゃんとか由比ヶ浜さんに勝てる見込みなんて薄いもんねー」

 

私は比企谷君に信じてもらえるだけの力がない。頼りないってこと・・・

 

「私が何もしなくても・・・比企谷君は自分でやれたんだ」

 

比企谷君には奉仕部は守れないだろうと、私が何とかしようと、私なら守れるって、勝手に決めつけてた。私は無力なのに力を持ってるって錯覚してた。とんだ道化だよ。

 

恥ずかしい。悔しい。虚しい。悲しい。

 

色々な感情が私を飲み込んでくる。私の心の中は何も見えないくらい真っ暗。

「なんか私がやったことお節介だったなぁ・・・余計な事してごめんね!」

 

この嫌な感情を表情に出さないように笑顔で謝った。明るい声で、明るい顔でやったつもり。だけど比企谷君は私を見ると自転車を漕ぐのを止め、立ち止まってしまっていた。

 

「愛川・・・」

 

「比企谷君?どうかしたの?」

 

比企谷君は考えるようた俯いていたが、何かを決心したように口を開いた。

 

「今の俺のやり方じゃ本当に守りたいものを守ることができない。以前そう言われたんだ」

 

「え?」

 

「今回やり方を少し変えてみたが成功したかは分からない。でも・・・今回俺は確かに変われたと思う」

 

良い方に正しく変われたかは分からないがなっと言い加え、頬を掻きながら自嘲気味に笑う。

 

「お前も知ってると思うが俺はこんな性格だからな。変わる必要なんてないって思ってた。俺はこのままでも良いって。でも俺は変わろうと思った。守りたいものをしっかりと自覚したからだ」

 

比企谷君・・・

 

「自覚することが出来たのは他のだれでもない愛川、お前に教えてもらえたからなんだ」

 

「つまりあれだ・・・今回俺が行動を起こせたのはお前のお陰って事だ」

 

「っ」

 

私を肯定してくれる言葉。その一つ一つの言葉が私の心の中の暗闇を明るく照らしてくれる。真っ黒な感情を溶かしてくれる。

 

「その・・・なんだ。ありがとな」

 

顔を少し赤くしてそっぽを向きながら頭を掻く。出会って間もない頃、彼がよく見せてくれた仕草。その仕草をみてるだけで心が温まる。安心する。

 

「・・・っ!・・・」

 

気が付くと私の瞳から幾つもの滴がこぼれ落ちてくる。唇が、肩が震える。呼吸が荒れてくる。

 

「あ、愛川?」

 

ごめんね比企谷君。いきなり泣かれたら困るよね。でも止まらないんだ。

 

今回私が起こしたお節介は無駄じゃなかっただけじゃない。修学旅行から数ヶ月。久しぶりに比企谷君を見て、心がぽかぽかと温まった。その事で感じる圧倒的な安心感。

 

「っ・・・ケホッ」

 

こんなに泣いちゃって・・・迷惑かけてごめんね。

 

勝手に色んな事してごめんね。

 

ううん。きっと彼はこんなこと言って欲しいんじゃない。

 

「比企谷君・・・どういたしまして!」

 

夕日を背にし、飛びっきりの笑顔で私はそう返事をする。さっきみたいに無理矢理作った笑顔じゃない。まだ泣いているのに自然と出てきた

私の本当の笑顔。そして彼が求めたであろう言葉。

 

「おう」

 

私の返事に返事をする彼の顔は困惑の色を残していたが優しい表情をしていた。

 

 

ーーーーーーー

 

泣いている私を比企谷君は近くの公園のベンチで連れてきて休ませてくれていた。

 

「落ち着いたか?」

 

「・・・うん」

 

あれからどれだけ時間が経っただろうか。辺りは暗くなってしまっている。

 

「ほら、あったかーいマッカンだ。温まるぞ」

 

「ありがとう」

 

カシュッと開けて一口含む。

 

あぁ~美味しいよぉ・・・

 

冷えた体に染み渡るこの練乳の甘さたまんないよ。

 

何よりも久しぶりに比企谷君と二人でマッカンを飲んでる。この時間は以前と変わらず・・・いや、以前よりもっと幸せに感じる。

 

「比企谷君」

 

「どした」

 

「ありがと」

 

「は?なんでお前がお礼言うんだよ」

 

「えへへ・・・なんでだろうね。なんかそういう気分なんだよ」

 

「なんだそりゃ」

 

街灯のみで照らされた公園に冷たい冬の風が吹き込む。両手で包み込んだ缶コーヒーが温かい。隣に居るのは呆れたように笑う私の想い人。

 

この空間・・・この雰囲気だ・・・

「そだ!比企谷君!また本貸してよ!」

 

「そういや最近は貸してなかったな・・・」

 

「うんうん。まぁ最近は色々忙しかったからゆっくり読書する時間も無かったけど・・・ね」

ゆっくり読書・・・ゆっくり読書かぁ。

 

「どうかしたか?」

 

「今度のお休みの日にさ、一緒に図書館に行こうよ」

 

図書館デート!図書館デートってなんか良いよね!恋愛映画とかでも時々見るし憧れる!

 

比企谷君も本好きだし私も楽しいしナイスアイデアでしょ!

 

「えぇ・・・」

 

そう思ったのもつかの間。比企谷君の嫌そうな顔が表に出てきてる。

 

「ちょ!なんで嫌そうにしてるの!?」

 

「休む日って書いて休日だぜ?なんで休日に外に出なきゃいけないんだよ」

 

ぐぬぬぬ・・・なんだよそれぇ・・・相変わらず平常運転かよ。

 

最近学校で人気の女の子と図書館デートできるだよ?なんで断るんだかまったくもう・・・

 

「良いから!行くの!」

 

「え?なに?まじで?」

 

「まじ!決定ね!」

 

「えぇ・・・」

 

いくら不服そうな顔してもだめだからね。最近スッキリした気持ちで遊べてないんだからここで発散しなきゃ!

 

「結構遅くなったな。そろそろ帰るか」

 

「そだね」

 

残ったマッカンを飲み干し帰り道に戻る。

 

この時まだ私は、彼の守りたかった奉仕部の時間は取り戻せてない事などまったく知るよしもなく、以前の用な幸せな日常を取り戻したと、うきうき気分で彼の隣を歩いていた。

 

 

 

 

 




これで選挙編はおわりです!

今回は若干短めですね。

最近、筆が完全に止まってしまってなかなか書き終えられない・・・

さらにシリアスな展開が多かったので大変でした・・・

今回もお付き合いいただき、ありがとうございました!


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