やはり私と同中の彼との青春ラブコメはまちがっている。   作:巣羽流

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更新です。

今回は原作にだいぶ近いですが所々オリジナル要素入れてます。


30話

寒空の下、冷たい風が顔に当たるのを感じながら俺は駅に向かって自転車を漕いでいる。

 

『比企谷君。だめだったよ』

 

そう言う愛川の顔が、声が何度も頭をよぎる。

 

くそっ、俺は何やってたんだ。

一色への連絡だって俺がもっとしっかりしてればこんなことにはならなかった。確実にこの作戦は成功したはずだ。それに加勢に入るのも遅かった。ほぼ逃げられるのが確定してから加勢してたんじゃ間に合うわけないだろっ。

 

何やってんだよほんと。愛川は自分の事でも無いのに…俺なんかのために一生懸命やってたのに俺は…俺は!

 

『比企谷君。だめだったよ。』

 

「っ」

 

考え事をしていたせいかすぐに駅前のケンタについてしまった。さっさと予約をしてケンタから一番近い出口へ向かう。すると下りのエスカレーターに見知った顔を見つけた。すぐに人混みに混ざることができたなら良かったのだがすぐにその人物と目があってしまい、見なかったことには出来そうにはない。

 

「よお」

 

「…こんばんは」

 

黒髪のきびきびと歩く少女。雪ノ下と出会ってしまった。

 

雪ノ下も出るらしく同じ出口に向かって歩く。店を出てすぐの広場で雪ノ下は足を止めた。

 

「あー、買い物、か?」

 

よせば良いのに最近癖になった中身のない言葉が口から出てくる。

 

「ええ。…そういうあなたこそ、こんな時間にどうしたの?」

 

「俺もまぁいろいろな」

 

「そう…」

 

雪ノ下は少し間を開けてからゆっくりと語りかけてくる。

 

 

「…一色さんの手伝いをしてるんでしょ?」

 

「まぁ…成り行きでな」

 

「わざわざ嘘までつかなくても、よかったのに」

 

「別に嘘なんかついてねえよ」

 

「…そうね、確かに嘘はついないわ」

 

「その…黙ってたのは悪いとは思ってる」

 

「気にする事はないわ。あなたならきっと一人でも解決できるだろうし」

 

「そんなことはないだろ」

 

「これまでだってそうだったじゃない」

 

「別に解決なんしてねえよ」

 

本当にそうだ。うやむやにすることや問題の先伸ばしは出来ても解決はさせることが出来ない。それに二人でも…愛川の力を借りても解決が出来ない。それどころが足を引っ張ってさえいる。

 

「一人でやれるのはお前も同じだろ」

 

「私は…違うわ」

 

俯いて口を引き結びコートの袖を握りしめる。その緩んだマフラーから覗く白い喉がこくりと動いた。こんな雪ノ下は見たことがなかった。そんな雪ノ下は絞り出すように言葉を紡ぐ。

 

「いつも、できているつもりで、わかっているつもりでいただけだもの」

 

それは誰のことを言っているのだろうか。自分のことか…それとも俺のことか…。

 

どっちでも同じだ。彼女の言葉は俺に突き刺さる。だから、何か言わなければと、考えてもまとまっていないくせに口は開く。

 

「あのな、雪ノ下…」

 

どうした。いつものように言葉が出てこない。中身のない言葉でさえ。

 

「そうね、あなたには味方をしてくれる人が、一人いたわね」

 

「っ」

 

肩までかかった黒髪の少女の顔が頭にうかぶ。

 

彼女がいれば私たちの助けなんか要らない。そう言われてる気がした。

 

「それに一色さんとも私たちがいるよりやりとりしやすいだろうし」

 

「…お前」

 

「部活、しばらく休んだら?私たちに気を遣ってるなら、それは不必要よ」

 

俺の言葉は雪ノ下の、いつもの落ち着いた声で遮った。

 

「別に気を遣ってなんかねえよ」

 

「ずっと遣ってるわ…あのときからずっと」

 

消え入りそうな声を聞き逃さないように待っていたが続きの言葉は出てこないで、全く別のことを言った。

 

「けど、別にもう無理する必要なんて無いじゃない。それで壊れてしまうのなら、それまでのものでしかない。違う?」

 

その問いかけに俺は何も答えられない。

それはきっと俺が信じていて、信じきれなかったものだ。こど雪ノ下は信じていた。

 

うわべだけのものに意味を見いだせない。それは俺と彼女が共有していたであろう一つの信念。その信念を今も持っているだろうか。彼女から突き付けられた問いはきっと最後通牒だ。

 

その問いかけに俺は…答えられないでいる。

 

何も言えないでいる俺を雪ノ下の寂しげな瞳が見つめる。

 

「もう無理して来なくていいわ」

 

俺の沈黙が問いへの答えなのだと理解すると口を開いた。

 

優しく穏やかに、そして…儚げに。

 

ーーーーーー

 

彼女が街へ姿を消してから俺は動けずにいた。どれくらいの時間がたっただろうか?

 

かなり時間が過ぎた気もするがそんなに経ってない気もする。

 

そんな中よしっと腰を上げ帰宅のために自転車に股がる。

 

愛川とのことに加えてまた自己嫌悪の材料が増えた。

 

俺は変わってしまったのだろうか?こんなものくだらないと、今まで上部だけの会話をしていたやつらをバカにしてきた。だけどその上部だけ会話をしてまで壊したくない関係を持ってしまった。

 

「はぁ」

 

ダメだな…ほんと。

 

車のあまり通らない公園前の道路を走ってると向かいから来た何やらすごそうなスポーツカーがクラクションを鳴らし、ゆっくりと俺の横に車をつけた。

 

え?もしかして俺?

 

俺…何かやらかしましたか?

 

「比企谷、こんなところでどうした?」

 

その車から降りてきたのは平塚先生だった。

 

「はぁ、いま帰るとこなんすけど。先生こそどうしたんですか?」

 

「イベントまで一週間だろ?様子を見に行ったら今日はもう終わっててな。私も帰ろうとしていたところで君を見つけたんだ」

 

「なるほど」

 

「ふむ、ちょうど良い。現状を聞きたいし少し付き合いたまえ」

 

「はぁ…少しなら」

 

「よし」

 

そう言うと先生は目の前の自販機でコーヒを買ってほらっと投げてきた。暗いせいで危うく落としかけたがなんとか受けとる。

 

平塚先生は車に寄りかかり、煙草をふかしながら片手でコーヒーを開けた。

 

「なんか、かっこいいっすね」

 

「かっこつけてるからな」

 

先生はニヤリとどや顔で答えてくる。

 

本当にその姿ははまってて格好いい。そんな先生を見てるのが気恥ずかしくなって暗い公園を見た。

 

犬の散歩をしてる男性やスーツ姿の女性が公園を歩いていた。

 

「どうかね、調子は」

 

どうやら本題に入ったようだ。その問いは何に対するものなのだろうか。まあさっきの会話からクリスマスイベントのことだろう。

 

「結構やばそうです」

 

「ふむ…」

 

ふーっと煙草を一吐きしてから俺に顔を向けた。

 

「何がやばい」

 

「何がって…一概には」

 

「まぁ話してみたまえ」

 

「はぁ…それじゃあ…」

 

 

ーーーーーー

 

「まぁこんな感じですかね」

 

あらかた俺の考えを述べた。上手く言葉にできたかは分からないが平塚先生はふむと頷いた。

 

「…よく見ている。君は人の心理を読み取るのには長けているな」

 

そんなことはない。もしそうならもっと上手くやれるはずだ。そう返そうとすると平塚先生は指をたててそれを制す。

 

「けれど、感情は理解はしてない」

 

息が詰まった。こんなにも俺の核心をついたことば無いだろう。

 

「心理と感情は常にイコールな訳ではない。ときにまったく不合理に見える結論をだすのはそのせいだ。…だから君たちは間違えた答えをだす」

 

その通りだ。俺は人の気持ちを考えたつもりでいたが

表層的なところしか見えていない。推測を事実として行動してきた。それは自己満足と何が違うだろう。だけど…

 

「その通りですけど…それは考えても分かるもんじゃないじゃないですか」

 

欲望や保身など負の感情は表情や状況から想像しやすい。しかし損得を抜きにした、時にまったく不合理だと思われる行動は分かりにくいものだ。いままでそれだと思ってきたものは勘違いであったことがほとんどだった。

 

今まで間違い続けてきたんだ。

 

「わからないか…今まさに君の近くには不合理だが行動を起こしている者が居るんじゃないか?」

 

「俺の近くに…」

 

「愛川…彼女は自分のやりたいことのために突っ走るまっすぐな娘だよ」

 

「やりたいこと?今回は俺が頼んでやってもらってるんですよ?」

 

彼女は前向きにクリスマスイベントを手伝いたいなんて思う人間ではないはずだ。

 

「そこだよ。そう言うところをもっと考えてみるんだ」

 

煙草を吸うのを止め目をしっかりと見て俺に語りかけてくる。

 

「わからないなら考えるんだ。今までよりももっとだ。計算しか出来ないなら計算し尽くせ。全部の答えを出して消去法で1つに絞るんだ。残ったもの、きっとそれが君の答えだ」

 

熱い眼差しだ。だけど言ってることはめちゃくちゃ。

 

計算しつくせ…か…。

 

それはきっと効率が恐ろしく悪い方法なんだろう。しかも答えが出るかも分からない。

 

驚きと呆れで言葉が出てこない。

 

「…それでも分かるとは限らないんじゃないですかね」

 

「なら答えが間違ってるか、計算のやり残しがあるかだ。そうしたら一から計算のやり直しだな」

 

先生はすこしおどけてしれっと口にした。あまりに無茶苦茶な事をあまりに当たり前のように言うもんだからついつい笑いが出てしまった。

 

「無茶苦茶すぎですよ」

 

「バカ者。人の心が計算で導き出せるなら人類はもっと高度な人工知能を作り出してるさ」

 

熱く語っていたが声は優しく感じた。

 

答えが出るかも分からない計算を答えが出るまでやるのか…寒気がするほどおそろしいんだろうな。

 

そんな事をさとった俺の様子を見るとくすりと先生はわらった。

 

「まぁ私も計算の失敗ばかりしてるから結婚できないんだろうがな。この前も友人の結婚式で…」

 

心なしか涙目になってる先生は自虐的な笑みを浮かべる。

 

いつもなら茶化して終わりなんだが今はそんな気分じゃない。

 

「そりゃ相手に見る目がないんですよ」

 

「へ?な、なんだいきなり」

 

こんなにもかっこよくて他人を思いやれる人がもてないなんて俺には考えられない。冗談じゃなくあと十年はやく生まれていたらたぶん心底惚れていただろう。

 

「ま、まぁいい。礼といってはなんだがヒントをやろう」

 

咳払いをして再びピリッとした空気に戻る。

 

「考えるときは考えるポイントを間違えるな」

 

「はぁ…」

 

「傷つけないためにはどうすればいいか?を考えるんではない。なぜ傷つけたくないかを考えるんだ」

 

「なぜ…傷つけたくないか…」

 

「その答えは簡単だ。大切だからだ」

 

大切だから…か…。それは選挙の時に少しは自覚してたつもりだったんだが…

 

「でもね、傷つけないでいるなんて無理なんだ。少しでも関わりをもったら、自分が存在することで無自覚に傷つけてしまう。どうでも良い相手なら傷ついたことにも気付かない。必要なのは自覚だ。大切だからこそ傷つけてしまったと感じる」

 

言い終わると煙草に火をつけふーっと一息つく。そしてもう一度俺を見つめてきた。その表情はとても優しく穏やかなものだった。

 

「誰かを大切にすることは、その人を傷つける覚悟をすることだよ」

 

そう言うと先生はコーヒーをぐいっと飲み干しにっこりと微笑んだ。

 

「ヒントはここまで」

 

先生の言ってることは今までの俺の人生には無かったものだ。だけど俺が求めていたものは…それかもしれない。

 

「お互いが思いあってるからこそ手に入らないこともあら。だがそれは悲しむべき事ではなく喜ぶべきことだ」

「…それってきつくないですか」

 

「きついな」

 

言うと先生は俺に一歩近づき力強く語りかけてくる。

 

「でも、君ならできる。私がそうだったからな」

 

勝ち気な表情な先生を見ると、昔色々あったんだろうと想像できた。何があったかは分からないし聞いて良いかも分からない。でもいつかそれを教えてくれる日が来るのを楽しみにしている自分に気づき、気恥ずかしくなってつい憎まれ口が出てしまう。

 

「自分にできたからって俺ができるはずっていうのは傲慢ですよ」

 

「…かわいくないやつめ」

 

がしがしと頭を引っ掻き回してくる。

 

「…そうだな、正直に言うとたぶん君でなくても本当はいいんだ。この先雪ノ下自身が変わるかもしれないし、彼女に近づき理解してくれる人が現れるかもしれない。それは由比ヶ浜にも言えることだ」

 

「いつか、ですか」

 

「ああ。今がすべてと君たちは感じるかもしれないがそんなことはない。この先の人生は長いんだ」

 

確かにそうかもしれない。いや、きっとそうなのだろう。俺は雪ノ下や、由比ヶ浜の長い人生の欠片に関わってるだけなのだから。

 

「…でも私はそれが君であってほしいと思ってる」

 

「いや…そういわれてもちょっと」

 

言いかけた途端肩を優しく掴まれた。

 

「この時間がすべてではない。だけど今しか出来ないこともある。…比企谷。今だ…今なんだよ」

 

濡れた瞳から目が離せない。いつのまにか強く握られていた肩も動かすことが出来ない。

 

「考えてもがき苦しみ、あがいて悩め。例えみっともなくてもな。じゃなきゃ本物じゃない」

 

そう言い終わると肩を離し、また俺から距離をとった。

 

俺の胸のなかには今の平塚先生の話で溜まった言葉がたくさん蠢いている。けどこれは今吐き出すばべき言葉じゃない。だから今は別のことを言おう。

 

「…苦しんだからって本物とは限らないでしょ」

 

「本当にかわいくないやつだな」

 

かるく俺を小突くと、ははっと楽しそうに笑った。

 

「…さて、帰るとするかな。君も気を付けて帰るんだぞ?」

 

「うす」

 

そう言うと先生の車は夜の街へと消えていった。

 

ーーーーーー

 

俺はリビングのソファにもたれかかりながら考え事をした。そして俺の動いていた理由を《欲しいものがあったから》と結論付けた。

 

俺が求めていたものが彼女たちを通して見えた気がした、触れた気がしたから。だから、俺はまちがえた。なら次は手段を考えよう。

 

しかしどうしたらいいかわからない…いくら考えても手段も作戦も何一つ思い付かない。

 

だからきっとこれが俺の答えなんだろう。

 

そう思った時に俺は携帯を手に取った。

 

俺が特別に感じた人の一人、愛川に今度は俺の番だとメールを送る。

 

メールを打ってるときに愛川の事を考えていたが1つ違和感を感じた。

 

雪ノ下や、由比ヶ浜と同じく俺は愛川にも俺が求めていたものを感じたが奉仕部の二人とはすこし違う。

 

何か特別というか…違うものを感じていた。

 

それは彼女に対しては別のものを欲しがっているんだろうか。

 

それとも根本的に別の問題なんだろうか。

 

俺が彼女を通して見たものは特別違うだけなのか。それとも奉仕部の二人が特別なのか。

 

戸塚と…なんか悔しいが材木座に対しても俺の求めていたものを感じるがそれは奉仕部の二人に近い感覚だ。この二人も愛川とは違う。

 

愛川は何が違うのか。その疑問を次は考えていかなくちゃな…。どうせ明日は休みだし時間はたくさんあるさ。いろんな事をじっくりと考えていこう。

 

そうして俺は眠れない夜を過ごして行った。

 

 

 




今回は更新早かったんじゃないかと思ってます。

これからもペース上げられるように頑張っていきます!

それとほとんど原作通りじゃねえかって意見はごもっともですがこの辺りの下り必要な気がしたんでちょくちょくオリジナル要素を入れて書きました。

なので勘弁を。

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