やはり私と同中の彼との青春ラブコメはまちがっている。 作:巣羽流
あのメールが来た翌日、私愛川花菜は2年F組の教室に向かっている。
その理由は昨晩、比企谷君から来た『次の会議は任せて欲しい』というメールについて聞きたいから。
何をどうするつもりなのか、どんな案なのか、昨日は気になって仕方なかった。そして比企谷君は本当に大丈夫なのか気になってしまう自分もいる。
以前別れたときの彼の顔は沈んでいた。
あんな状態の彼はいったい何を考えるのか、考えられた答えは私の大好きな彼の答えとして納得が出来るものなんだろうか。夏休みのボランティアや文化祭の時のような彼にしか思い付かないような奇策を思い付いたのだろうか。私をワクワクさせてくれるなにかを考えているのかな。
まぁ私が納得しようとしなかろうといい案ならなんの問題もないんだけどね。
とにかく私は今現在弱っている情けない状態の彼で大丈夫なのかと心配なのだ。
「あっ」
F組につくと扉の前には最近よく見かける亜麻色の髪の毛をしピンクのカーディガンを萌え袖にしている少女を発見した。
「こんにちは、一色さん」
「え…あ!愛川先輩!こんにちはです!」
ふぁ…相変わらずあざといなぁ…。私もこういう技術磨いた方がいいのかな?
「こんなとこに来てどうしたの?」
「先輩や愛川先輩に次の会合は明日の五時からっていう連絡をしに来たんですよー」
「そうなんだ…なんか次は来週にするみたいな事いってなかったけ?」
「本当はそうしたかったらしいんですけどー。うちの副会長がさすがにそれは不味いと、時間が全然無いからってあちら側に頑張って進言しまして…」
「なるほど…」
副会長頑張ったね…来週にするとか普通に考えたらあり得ないし。
一色さんはそうなんですよぉ…と言った後にムスッとした表情に変わり続けた。
「でも先輩もう教室に居ないんですよ?信じられないですよねー」
「ありゃま。今日は会合ないって知ってるしもしかしたら部室に行ったのかな…」
「あー…やっぱりそうですかね…」
「私が伝えておこうか?ちょうど比企谷君に聞きたいことあるから探すし」
「いえいえ。私も一緒にいきますよ」
「わかった。じゃあいこうか」
特別棟の人気の無い寒々しさがとても辛い。血流がおそくなり、体温が低下していくのを感じる。
強い風は窓を打ち付け、運動部の声はここまでしっかり届くほどよく出ていた。
一色さんと寒いねぇなんて話をしながら歩いているとあの教室が見えてきた。
「やっと着きましたねぇ。ここちょっと遠いですよ」
むーっと頬を膨らませてそう漏らす一色さん。
私はそれをよそにノックをしようと拳をドアの前に持ってきた。
『一色の言ってたクリスマスイベントなんだが、あれが想像以上にやばくて、手伝ってもらいたいんだが…』
…比企谷君の声?
ノックしようとして握った拳がドアの前で固まる。
「愛川先輩…この声って」
「うん。たぶん比企谷君だよね」
「なんか話してますね」
「だね。タイミングを見て私たちも入ろうか」
「そうですね」
どうやら奉仕部に助けを求めるらしい。
…これが比企谷君の解決案?
「…」
きっと二人が参加することで状況がよくなる方法があるんだよね。なら私も手伝わなきゃ。
『あなた一人の責任でそうなっているなら、あなた一人で解決すべき問題でしょう』
『…だな。悪い。忘れてくれ』
おやおや…説得出来そうにない?旗色悪いですなぁ。ここは私がいって援護した方が良いかな?
一色さんの顔をちらっと見ると彼女もこちらを見て無言で頷いた。じゃあいきますか。
『待って』
その一言でノックしようとしていた拳はまたピタリと止まった。
『そうじゃないよ。なんで、なんでそういうことになるの?おかしいよ』
由比ヶ浜結衣。三人目の奉仕部にして他の二人とは決定的に違う存在。
彼女の紡ぐ言葉はとても拙く、抽象的な言葉が多い。でもその言葉には今までの思いが乗せられていた。一つ一つの言葉は第三者であるはずの私の心にまで届いている。
『ゆきのんの言ってること、ちょっとずるいと思う』
『今、それを言うのね。…あなたも、卑怯だわ』
雪乃ちゃんも黙っておらず今まで言いたかったことであろう言葉を話始めた。自分の思っていたことを。
雪乃ちゃんのこの感じ。自分が正しいと思ってることを言う姿勢が懐かしい。最近の彼女は今あるものを壊さないように慎重に言葉を選び余計なことは言わないといった印象が多かった。
しかし彼女は…ほんの少しだけだけど戻ってきた。
『でも、言われてもわかんねぇことだってあるだろ』
二人の言葉に比企谷君も参加する。
比企谷の話す言葉は徐々に震えてきて弱々しくなっていく。自分の本心をさらけ出して言葉にしているんだろう。
彼の言葉を聞くと胸がギュッと苦しくなり視界は少しボヤけてる。
彼の言葉に意識が釘つけになる。なにか他の事を考える意識はとっくに消え失せ中の会話以外の音は一切感じなくなった。
『俺は…それでも、俺は…俺は、本物が欲しい』
震える声で、中々発することのできなかった言葉。
それは支離滅裂で理性の塊である彼の言葉とはとても思えないものだった。
その彼の言葉を聞いた私は扉の前から一歩も動けずに固まってしまっていた。
頭の中では何度も何度も彼の言葉が行き交っている。
『私には…わからないわ』
雪乃ちゃんはそう言うと扉を開けて出てきた。
「あっ…」
「っ!」
私と一瞬目が合うがそのまま上へ向かって走って行ってしまった。
雪乃ちゃん…泣いてた…。
『一人で歩けるからいい。行くぞ』
ガチャンと勢いよく扉が開けられるとそこには目が潤んだ彼が驚いた目で私を見た。潤んだ目の回りは赤くなっていて、なかで彼がどんな顔をしていたのかなんとなく分かった。
「比企谷君…」
「愛川さんといろはちゃん?ごめん、またあとでね」
由比ヶ浜さんがそう断りを入れると比企谷君もハッとなり駆け出そうとしている。
「せ、先輩!今日会合休みですから!それを言いに…。あ、あと!」
「ああ、わかった」
そう言ってこっちも向かずに行こうとするので腕をつかみ制止した。すると何事かと比企谷君が振り向く。
「雪乃ちゃんは上に行ったよ」
「悪い。たすかる」
私がそう助言すると比企谷君は由比ヶ浜さんと上へ向かって駆け出して行った。
その後ろ姿をボーッと眺めていると一色さんがちょんちょんと秘事をつついてくる。あざとくね。
「良いんですか?雪ノ下先輩の居場所教えて」
「良いに決まってるじゃん。あんな状態の雪乃ちゃん放っておけないよ」
「そうですか…」
そこから若干の沈黙が流れる。頭のなかがごちゃごちゃしちゃってまとまらない。
それはきっと一色さんもそうなんだろう。
「私…これからテニス部に行くよ」
「ですね…私もサッカー部行きます」
このままここにいても埒があかないと二人とも部活動に参加した。
テニスをしながらも“本物”について思考が止むことは無かった。
ーーーーーーー
「はぁ…なんか疲れたぁ」
部活終了後、冷たいサドルに股がり帰宅開始。いつもの何倍も疲労感を感じている。
原因ははっきりしている。アホ毛に死んだ目をした猫背の生徒の言葉だ。
まったく…また比企谷君の事で頭が一杯だよ。どんだけ大好きなのさ私は!
そう心のなかで冗談をいいながらも未だにあの言葉について思考は止まらない。
そんな中1つ目の角を曲がると黄色と茶色がプリントされている缶を片手にこちらを見つめる一人の男子生徒が居た。
「えっ?」
「…よう」
「な、なんで居るの!?」
あれ?一緒に帰る約束してたっけ!?
「なんでって…メール見てないのかよ…」
「メール?」
ケータイを確認すると確かに新着メールが一件来ていた。
内容を確認すると何時もの場所で終わったら待ってるとのことだ。
これは比企谷君からのお誘いメールか!?
このレアメールは取り合えず保護しておかなくては…。
いそいそとケータイを弄ってるとため息をはく音が聞こえてきた。
「寒いしはやくいこうぜ」
「う、うん。そうだね」
刺すような肌寒さを感じながら私たちは二人ならんで帰路を進む。
横を向くと昨日とは彼の顔つきが違う。
確かに疲労感があるがスッキリとしていて目に若干の輝きが見える気がする。
それは今まで過ごしたどの彼とも違う顔。
私を二人のおじさんから助けてくれた時とも違う顔。
夏休みのボランティアの時とも違う顔。
一緒にプールに行ったときとも違う顔。
文化祭の時とも違う顔。
修学旅行の時に悩んでいた時とも違う顔。
そして…
私が恋い焦がれた彼とは違う顔。
彼は変わった。
良い方か悪い方かは分からないけど彼は、はっきりと変わった。
そう思うと…。
この感覚は…どんな気持ちなんだろう…。
今の彼の顔を見ると温かく優しい気持ちになれる。でも今までとは何か少し違う感覚。今までドキドキしていた胸は落ち着いているがむず痒い。強ばり火照っていた頬は緩み口元も緩くなる。
私は分からない事だらけの現実に惑わされつつペダルを漕いで比企谷君の隣を走っていった。
ここまでです。
久しぶりすぎて忘れてる方しか居ないかもですけど投稿しました!
相変わらず文章を書くのって難しいですね。
今回もお付き合いいただきありがとうございました!