やはり私と同中の彼との青春ラブコメはまちがっている。   作:巣羽流

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今回はひっきー視点で若干やり直しです!



33話

本物がほしい。

 

学校で彼女たちに告げ、愛川と共に帰宅した俺はふらふらとソファに倒れ込んだ。

 

なんだか今日は疲れたな…。

 

こうしてじっとしていると今日の事が思い返される。

 

なぜ俺はあんな恥ずかしいことを言ってしまったんだ…。

 

うわぁぁぁぁ!死にたい!死にたいぃぃぃ!明日学校行きたくないよぉぉぉぁ!

 

ばっかじゃねーの!?ばっかじゃねーの!!?恥ずかしすぎるだろばかぁぁぁぁ!

 

心の中で悶えながらソファの上でゴロゴロしていたがゴトンと床に落ちてしまった。

 

あぁ…

 

「死にたい…」

 

小さなうなり声を上げながらボツりと呟くとなにやら後方から視線を感じた。

 

「…どうしたの、お兄ちゃん」

 

マイラブリーシスター小町ちゃんがあきれ半分、恐れ半分で問うてくる。

いまの俺はいかに小町が可愛かろうと相手をするきになれなかったのでぷいっと顔を背ける。

 

「放っておいてくれ。お兄ちゃん、今ちょっとアイデンティティクライシスだから」

 

俺がだらだらとした声で言うと小町は溜め息を吐くと目を半開きにし口をへの字に曲げる。そのおかしな表情でなんか言い出した。

 

「アイデンティティ?はぁ?往々にして個性個性言ってるやつに限って個性がないんだよ。だいたいちょっとやそっとで変わるもんが個性なわけねえよ」

 

「小町ちゃん、なにその言葉遣い。乱暴よ?あと顔が変だわ」

 

「…お兄ちゃんの真似だよ」

 

「似てねぇ」

 

え?俺ってそんなにムカつく感じなの?もっと知的でクールな感じだと思ってたんだけどなぁ…。

客観視して初めて知る真実に軽くショックを受けてると小町がよってきてソファに腰かけた。

 

「何があったか知らないけどさ、今さらそのひねくれた性格が直るわけないじゃん。ごみいちゃんはごみいちゃんなんだよ?ごみいちゃん」

 

ちょっとごみって言い過ぎてないですか?

うりうりと足で床に転がっている俺を突っついてくる。さながら本当にごみ扱いである。

 

だが、いきまさなりその足がピタリと止まり、クスリと優しく微笑みながら俺を見下ろしてきた。

 

「でも、小町はそういうお兄ちゃん、結構好きだよ。あっ!今の小町的に超ポイント高い!」

 

「…そいつはありがとよ。俺も結構好きだ。こういう俺。今の八幡的に超ポイント高い」

 

「なにそれ」

 

呆れるような顔をした小町をよそに俺はすくっと立ち上がる。

 

数多くの思い出(トラウマ)が小町が結構好きだと言ってくれる俺を形作っている。その思い出は傷などではなく俺のチャームポイントだ。チャームポイントが大量にある俺を、俺はきっと好きになれると思う。

 

奉仕部の二人の事は踏ん切りがついた。

 

さて、俺が考えなくちゃいけない人間がもう一人。

 

愛川花菜。

 

頑張り屋で、理系科目が得意で、背が少し小さくて、実はかなり強かな女性。

 

そういえばあいつも一色と一緒に部室の前に居た気がする。

聞いてたよな…絶対聞こえてたって。

 

あ…なんかまた死にたくなってきた…。俺のメンタルは木綿豆腐なんじゃないですか…。

 

俺は彼女に抱く感情はいったいなんなのか?

雪ノ下や由比ヶ浜に抱くものと近いがなにかが決定的に違う。

 

親愛?博愛?庇護欲の対象?尊敬?

 

どれもしっくり来ない。

そもそも家族愛以外をほぼ知らんからなんとも言えないのであてにはならないけどな…。

 

「お兄ちゃん?また目の濁りが増してきてるけど、どうしたの?」

 

「ああ…ちょっと難題に直面しててな…気にするな」

 

「ふーん…じゃあ小町は勉強に戻るから。さっさとお風呂入っちゃってねー」

 

「へいへい」

 

そういうと小町は退散していった。

 

難題…分からない事。

 

 

『わからないなら考えるんだ。今までよりももっとだ。計算しか出来ないなら計算し尽くせ。全部の答えを出して消去法で1つに絞るんだ。残ったもの、きっとそれが君の答え だ』

 

もっと考える…か…。

考えても分からない、答えがでない、なら1から解き直すしかない。

出会ったときの事から考えよう。

 

最初に出会ったのは中学一年の時。あの時はただ優しいやつだなって思ってたな。特別な感情はなかったはずだ。

 

色々あって疎遠になり高校2年の春。

夜に駅前の本屋でオッサン二人に絡まれてた時。

俺はその場を納められるよう間に割っては行った。

本当に下心はなく放っておけなくてやった。

 

あの時のお礼がしたいと奉仕部にまで追って来たのは流石に驚いた。あんなに強引で行動力のあるやつだなんて思わなかったからな。

 

結局お礼としてカフェで奢ってもらった気がする。

 

その時俺が大和撫子スタイルで3歩後ろを歩いていたのに横にならんで来たり、カフェで俺と長時間しゃべったりとすごかった。

 

素直な気持ちを言うと嬉しかった。こうして普通に楽しく、ひねくれた自分で長時間話したのは家族以外だと初めてだったから。

 

もうこの時にはすでに俺にとって愛川はその他大勢の内の一人では無くなっていたと思う。だけどそれは当時の由比ヶ浜や戸塚と同じ感情のものだった。

 

そのあと一緒に下校し、本を借りに家に来た。

俺のオススメの本を気に入ってくれて柄にもなく嬉しくなったんだ。それで貸すか?なんて言った。

 

小町が家にいて愛川を家にあげたんだよな…。愛川は俺の家に嫌な顔一つせずに入り小町と楽しくおしゃべりをして帰った。

 

楽しげにしゃべってる愛川と小町を見て微笑みがこぼれたのを覚えてる。あの二人に見つかったら不審者だと思われるだろうからすぐ顔を引き締めたけどな。

 

夏休みのボランティア。

愛川とそんなに関わらなかった気がする。マッカンを恵んでもらったのと水着を見るのを拒否されたのは覚えてる…。

 

特にこの時も特別な感情はなかった。

 

二人で行ったプール。

本当は小町も行くはずだったのに二人になったんだよな…。

そこで初めて愛川の水着を見たんだが…正直予想以上だった。完全に見とれてしまった。

愛川を可愛いって再確認したのはあの時だ。

 

そして普通に遊んだあと愛川と初めて手を繋いだんだ。

 

とてもドキドキしたのを覚えてる。

そしてあいつはそのあと俺に私の事が好きかと問いかけてきた。照れ臭くなり嫌いじゃないと答えたんだがそのあと愛川は俺に

 

『私も比企谷君の事きらいじゃないよ!』

 

 

と告げた。

 

その時の笑顔は最高に輝いていて、またもや俺は見とれてしまっていた。完全に時が止まっているのを感じていた。

 

…この時か。

 

今のこの感情の始まりはあの笑顔を見たときからだ。

 

文化祭で実行委員会の仕事を一緒にしてたときは余裕がなかったのだがあいつといると、妙な気持ちになることが多かった。

 

そしてライブ。愛川の歌った『小さな恋のうた』

 

他に観客はいなくてもいい、俺にだけは聞いてほしいと愛川は言っていた歌。

 

その歌はプロに比べるとやはり全然下手で、演奏も間違いが多かった。でも…それでも愛川たちは輝いていた。歌は心へ届き、その演奏をしてる姿から俺は目をそらすことが出来なかった。

 

 

文化祭も終わり動物園にも行ったな。

正直これはもうデートなのでは?とか思ったりしたが、勘違い乙など考えて乗り越えた。

 

生徒会選挙で愛川が、雪ノ下や由比ヶ浜との関係を守るために私が立候補すると告げたあの日。愛川はテニス部があるのにあんなことする必要はないはずだ。今のクリスマスのイベントの手伝いもそうだ。それなのに俺を手伝ってくれた。

 

さて、ここまでの気持ちを整理しよう。

 

友情?

違う。戸塚や材木座とは違う感じだ。

 

親愛?

雪ノ下や由比ヶ浜はたぶんこれだが愛川は違う。

 

庇護欲の対象?

小町とはやっぱりちがうな。

 

 

「…」

 

この感情がなんなのか、本当はとっくにわかってたはずだ。

 

ただそれが本当にその通りなのか不安になった。

その気持ちを自覚すると今のままじゃ居られなくなるのが嫌だった。

 

…もう誤魔化して、逃げて、目を背けるのをやめろ。

 

もう覚悟を決めるんだ。

 

俺はあいつの事が…愛川の事が…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

翌日、今回の会議で別々に準備することが決定した。

決まったら一色を含めた生徒会の面々と由比ヶ浜、雪ノ下、愛川の三人は慌ただしく準備やら計画やらをすすめている。

 

現在俺も小学生たちの使う道具の整理や修正を行っている。

 

あぁ…なんかどっと疲れた…。この疲労感で仕事って正気か?

将来会社に入ったら毎日がこんな気持ちになるのか…やっぱ専業主婦になりたいなぁ…。

 

専業主婦になると再び決意を固めたところでピシャッと扉が開けられる音が響いた。

 

スーツの上に白衣を羽織った女性、我らが顧問の平塚先生だ。

 

平塚先生は俺を見つけるとこちらに向かってきた。

 

「お疲れ比企谷」

 

「お疲れさまです。今日はどうしたんですか?」

 

「君たちの様子が少し気になってね。少し見に来たんだが…」

 

「?」

 

「雪ノ下や由比ヶ浜がいる事とその顔、どうやら上手く行ったみたいだな」

 

平塚先生はくすりとまるで子供の成長を喜ぶ母親のように微笑んだ。

それを見るとなんだか俺もむずがゆく、照れ臭いったらない。

 

「いや…まぁ…そっすね」

 

「本当に良くやったな…」

 

「やめてくださいよ…」

 

「後は愛川との事だけかな…」

 

今度は微笑みをしまい、腕を組んでうーんっと唸る。この人もころころ表情が変わるな…美人だからその全てが絵になる。

 

そう思っていると平塚先生の口がにりるとつり上がりわざとらしい態度を取りはじめた。

 

「良くやった君に私からささやかな贈り物をしようじゃないか!ほら受け取りたまえ!」

 

「…デスティニーランドのペアチケット?」

 

「ああ!この間、友人の結婚式で…も…らったんだ…」

 

そう言いきる前に奥歯をぎゅっと噛み締め悔しがる顔をしている。

 

誰だ!?この人にこんなもの贈った大馬鹿者はだれだ!?

 

「みんな羨ましがってたよ…デスティニーいいなーってな…でもペアチケットって…私はソロなんだがどうしたら…」

 

もう誰かもらってあげてー!じゃなきゃ俺が貰っちゃうよ!?こんな先生見てられない!

 

「そ、そうですか…でも今小町は受験期ですし俺もソロなんで渡されても困るんですが…」

 

はっ!まさか平塚先生にお誘いされてる!?どうしよう流石に先生と二人ってのは…

 

「何をいっている。君は渡したい人間がいるんじゃいか?」

 

「…」

 

「比企谷。今しかできないことがある。あと少ししたら今出来ることが出来なくなるんだ。分かるな?」

 

「はい」

 

「じゃあ…受けとるか?」

 

「はい。いただきます」

 

いつだって平塚先生は生徒の事を見てる。俺の事もここまで見てくれている…やっぱり魅力的な女性だ。

世の男は見る目がないな…。

 

「よし。私の屍を越えて行け!」

 

嬉しそうにそう言い捨てると颯爽とその場から去っていった。

 

なんか生き生きしてたな…あの台詞言いたかったんだろうな…。

 

…魅力的だよな…うん…。

 

「渡したいやつ…か…」

 

携帯電話を取りだしメールを開く。

 

『終わったら待ってるからな』

 

宛先は愛川花菜。

 

それだけ送り俺は再び時間になるまで作業に取りかかる。

 

このあと帰り道で話すであろう事を想像し手元も心も落ち着かない時間はやけに長く感じだ。

 

 

 

 

 




ここまでです。

今回は進まない回でした。

今回もお付き合いありがとうございます!

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