いや、正確に表すならば、
死ぬほど後悔したことがあり、今現在、死ぬほど後悔している
と言う方が正しい。
それを俺の眼前で物語っているのは、もう動かないこの手だ。
なぜあの時どうにか出来なかったのだろうか。考えてみるとすぐに答えは出た。バカみたいな答えが。
そんなバカみたいな行動の主である俺は、この時、
自分自身から、逃げた。
周りが騒がしい。というか無駄に騒がしい。
そりゃあ、小学生が騒がしいのは当然と言えば当然なんだけど、今日はいつにも増して騒がしい。
僕、
いやいや、こんなことで僕の睡眠が邪魔されていいのか。寝ろ! 寝るんだ僕!
ゆっくりと目を閉じて、意識を夢の世界に…………。
「ねえねえ隼兎! 起きてよ! 大変なんだよ!」
「やーめーてー、体揺さぶるの止めてー。起きる、起きるから止めて
僕の意識を完全に現実に戻したのは、幼なじみの
いつもなら気を利かせて起こしてはこない遊羽だけど、それでも起こしてくるのは周りのこの騒がしさに何か関係しているのかな、多分。
「まったく、また夜更かししてたの?」
「そうだけど夜更かしして無くても寝るよ」
「もー自信満々に言わないでよ。あ、でもきっと昨日はバイオリンの練習とかで夜更かししたんだよね!」
そう、僕と遊羽は一緒にバイオリンをやっている。
二年くらい前、偶然一緒にテレビで観たバイオリンコンチェルトに、僕と遊羽は不覚にも……感動してしまったんだ。
それから二年、今も僕と遊羽はバイオリンを続けている。
「普通にゲームで夜更かししたんだけどね」
「おい!」
「……で、いったいどうしたの?」
「えっ……あ、そうだった! 大変なんだよ!」
「だから何が大変なの?」
「転校生だよ!」
「……転校生?」
ああ……そりゃみんな騒ぎもするよね。
「なんかリアクション薄くない、転校生だよ! 転! 校! 生!」
「うーん……僕のリアクションが薄いのは否定できないけど、でもね遊羽、僕は知っているんだ」
遊羽が頭上に疑問符を浮かべているところに僕はズバッと切り出した。
「転校生がイケメンだったり可愛い子だったりするのは幻想だってね」
「夢無さ過ぎじゃない!? 小学生が言うことじゃないよ!」
そう言われても、今まで見てきた転校生でずば抜けてカッコいいか可愛い子なんて見たことないし、父さんも従兄弟の兄ちゃんもそう言ってたし、僕も正直納得しちゃうとこあったし。
「じゃ、じゃあさ、隼兎はどんな子が来ると思う?」
「え? そうだな……僕は」
「あたしはやっぱりカッコいい子がいいな! 金髪で!
「質問しといて聞いてないし。てか、さすがにそれは夢見過ぎなんじゃないの?」
「女子ってそういうもんなの!」
「ああ、納得」
「で? 隼兎はどんな子だと思う!」
「あ、聞き直すんだ。じゃあ……すっごい可愛い子とか」
「それはあたしとキャラ被るから無しで」
「自意識過剰過ぎない!?」
これが実際そうだから困る。欲目とか無しで。個人的な感想とかはいっさい無いんだよ。ほんとほんと。
と、八時三十分のチャイムが鳴り、それとほぼ同時に先生がやって来た。さっきまでの騒がしさが嘘のように静まる返ると、朝の会が始まる。
「えー、お前ら何となく分かってると思うが、今日は転校生が来る。お前らどうせ知ってるだろうし早く見たいだろうから、とっとと紹介してやる。ほら、入りなさい」
担任の適当な前置きと手招きでガラガラと扉が開き、一人の男子がおずおずと中に入って………………………………………………。
「あ、えと、み、みなさん、初めまして。こ、
緊張していたであろう狛倉君の自己紹介が終わった。けれど、それをちゃんと聞いていた、というより、ちゃんと聞けていた人がどれだけいたのだろうか。だって……
みんな彼の容姿に見入っていたのだから。
『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!』
「!?」
みんなの反応に驚いている様子の狛倉君だけど、正直それも仕方ないことだとは思う。
淡麗な顔立ち、サラサラの金髪、透き通ったような蒼い目、そして、緊張しているであろうこの状況ですら滲み出る爽やかイケメンオーラ。何よりそれが同じ小五とは思えない程の小学生離れしたイケメンなのだ。……って、これって。
はたと遊羽の方に顔を向けると
「……ふぁぁぁ……」
普段じゃ絶対に出さない声を出していた。これはつまり……。
「遊羽の超タイプ?」
「…………うん」
そりゃ女子なら誰だってそうだろうけど、だからといって別にどうということもないんだけど、なんか……胸がチクチクするのは、なんでだろう?
この狛倉君との出会いが、僕が、本当にバイオリンを始める位置づけになったんだ。