ハリー・ポッターと一粒のオニキス 作:のんびり屋さん
レギュラス・アークタル・ブラック
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レギュラス・アークタルス・ブラック
に訂正。ご指摘ありがとうございました。
彼女の名は、アトリア・シャウラ・ブラック。レギュラス・アークタルス・ブラックの娘である。
碧い瞳に、中性的で整った顔立ち。肌は白く、清潔感のある白いブラウスに、紺のワンピース姿。腰まで伸びたストレートの黒髪は、一つの三つ編みにきっちりと編まれている。
まだ、僅か七歳の彼女は、この年齢にして名家・ブラック家の当主だった。
父・母共に今は亡く、父の兄であるシリウス・ブラックは監獄・アズカバンにいる。その他、親戚の類いもほぼいない為、彼女は幼いままブラック家の要となっているのだ。
祖父が遺した家は、屋敷しもべ妖精のクリーチャーによって清潔に保たれ、爽やかな風が窓から入り込む。その風は、自室で本を読んでいたアトリアの元まで届き、ページを捲った。
アトリアは、栞を挟み、本を閉じるとソファーから立ち上がった。サイドテーブルに置かれた紅茶を一口飲み、妖精を呼ぶ。
「クリーチャー。準備は出来た?」
「もちろんでございます、お嬢様。応接間にご移動下さい。まもなく来られると思われます」
クリーチャーと呼ばれた妖精は、恭しく述べた。アトリアは頷き、ホテルのスイートルームほどの広さがある自室を出た。
階段を一つ降り、書斎に入る。自室程の広さを誇る書斎には、魔法薬が詰められた、宝石をあしらったゴブレットも置かれている。これは祖母が遺したものだが、アトリアは書斎のテーブルに、自身が調合した魔法薬も保存していた。
クリスタルの小瓶に詰められた魔法薬を幾つか取り出し、ベルベットが内側に張られた木の箱に並べて入れる。そして、その箱を小さな巾着に押し込んだ。
どうみても箱が収まらないサイズの巾着だが、此処は魔法界。そのような魔法があってもおかしくはない。
巾着を手に、階段を下り、一階にある応接間へと入る。其処には既に、来客が座って待っていた。
「こんにちは、スネイプ先生」
「お久しぶりだ、ミス・アトリア。早速本題に入ってもよろしいかな?」
「もちろんです」
スネイプ先生———セブルス・スネイプ。半純血の魔法使い。ホグワーツ魔法魔術学校に魔法薬学教授として籍を置き、そして、アトリアの様子を定期的に見に来る、顔とは裏腹に優しい一面も見せる。
スネイプは咳払いをすると、先程の言葉通り、前置き無しにいきなり本題へと入った。
「ミス・アトリア。最近校長は、君に懸念を持っているようだ」
「懸念? どうしてですか? あ、やっぱり言わなくていいです」
尋ねてから、理由を思い付いたのか、アトリアは前の言葉を打ち消した。
アトリアは、元死喰い人・レギュラス・ブラックの娘である。その為、反ヴォルデモート筆頭であるアルバス・ダンブルドアが疑うのは当然。また、ブラック家は代々スリザリン寮に入る為、それだけで懸念の対象になってしまうのだ。
「んー、特に疑われるようなことはしてないんですけどねぇ……」
「当たり前だ。君はまだ七歳である上に、この屋敷から出たことは一度もない。悪事など出来るはずなかろう」
きっぱりと言い切るスネイプに、アトリアは微妙な反応を返した。
「まあ、やろうと思えば出来ますけどね。クリーチャーを使って。でも、私、クリーチャーにやらせるくらいなら自分でやりますしね。あ、そういえば先生、新しい薬が出来たんです。見て頂けますか」
自然な流れで話題を変え、巾着から先程の箱を取り出す。
テーブルにそれを乗せ、パチンと留め金を外して小瓶を出す。アトリアは指を顎に当てて軽く悩んだ後、一つの小瓶を選び取った。
無色透明な液体に浮かぶ金箔。スネイプはお手上げだ、というように言った。
「これは何の魔法薬なのだ?」
「フェリックス・フェリシスの強化版。既存品でも充分な効果を発揮しますが、こちらは副作用を無くしたものです」
「つまりは、飲み過ぎても身体に害は無いという訳か」
アトリアは頷く。
「まあ、完成には一年掛かりましたけどね。要らんものです」
スネイプの手からすっと小瓶を取り、箱に戻す。
「あと、右から真実薬解毒剤、真実薬強化版、服従の呪文検知薬、服従の呪文液体化……そして最後に、地下の資料室にありました、バジリスクの毒の成分表を元に人工的につくった、劣化版のバジリスクの毒です」
「バジリスクの毒? 危険だ。依頼はしていない」
「危険は承知の上。先生、これは先生からの依頼ではなく、校長からの依頼です」
「校長? どういうことだ」
小瓶に伸ばし掛けた手を引っ込め、スネイプは鋭い声で問う。
「私にはわかりません。何か闇の魔術に関するものを破壊する為にでも使うのでは? 例えば……永久粘着呪文解除にも使えますし、その他呪いの類い、おぞましいもので言えば分霊箱などでしょうか、破壊することが出来るとのこと。資料をお持ちしましょうか?」
「いや、大丈夫だ。これは我輩が校長の元に持ち帰れば?」
「危険ですので、直接本人に来て頂きましょう。クリーチャー」
「はい、お嬢様」
クリーチャーが羊皮紙と羽ペン、インクを持って現れる。
アトリアはそれをテーブルに広げ、羽ペンをインクに浸した。
———
私、アトリア・シャウラ・ブラックは、××××年○月△日午前十時より一時間、アルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドアが我が屋敷の応接間に立ち入ることを許可する。
貴殿の来訪手段は、規定時間内に、応接間へ直接の姿現しのみとする。
ブラック家屋敷の安全対策へのご理解を頂きたし。 アトリア・シャウラ・ブラック
———
「これを校長へお渡し下さい」
アトリアが羊皮紙を畳みながら言う。
それに対し、スネイプは眉をひそめた。
「それは構わないが……立ち入り許可は、今から四年後になっている。これでいいのか?」
「良いのです。先生、昼食を召し上がっていかれますか?」
「頂こう。……君は、不思議で溢れているな」
「今に始まったことではありません」
アトリアは微笑み、スネイプを厨房へ案内した。
*
ブラック家の今日のランチは、オムライスだった。真っ白の皿にケチャップライスが盛られ、それを半熟の卵で包む。
一見ヨーロッパ系の料理に見えるが、実は日本食のこれを、アトリアは結構気に入っている。
新鮮な野菜サラダを食べてからこれにスプーンを入れ、アトリアは口に運ぶ。
「やはりオムライスは美味しいですね。クリーチャーの腕は流石です」
「前回もこれだった気がするのだが」
「偶然でしょう、きっと。お水は如何ですか?」
「頂こう」
スネイプのコップが水で満たされる。揺れる水を眺めながら、ふとスネイプが言った。
「ミス・アトリア。君はホグワーツへ来るのかね?」
アトリアは口に入っていたライスを飲み込み、しばらく沈黙してから口を開いた。
「お母様の遺言では、行かなくても良いと。もし行っても、どの寮に入っても、私らしく生きればそれで良いと、書かれていました」
スネイプは、一口卵を口に入れる。
「私は、個人的には行かなくて良いと思っています。この屋敷は安全だし、学ぶ為の環境も充分整っています。足りないものも、クリーチャーが全て補ってくれます。ただ……」
アトリアは水で口を湿らせた。
「今より上を目指すことは出来ません。才能の開花。これは、此処では出来ません。良い師の元で、良きライバルと共に学ばねば、手に入れることは、大いなる高みまで登ることは出来ません。その点では、私は此処を出て、ホグワーツへ行きたいと思っています。しかし———」
「もう良い。そこから先は言わずともわかる。この事については、校長とでも相談するが良かろう」
アトリアは頷き、オムライスを完食した。そのまま立ち上がり、言う。
「デザートを用意します。少々お待ちを」
普段ならクリーチャーにやらせる事を、アトリアは自らの手で行った。