「……パスタ?」
「ああ! このアンチョビ特製アンチョビパスタだ! 今日のためにわざわざレシピとか研究したんだぞ!」
「お、おう。ありがと千代美。……そんじゃあ、いただきます」
「千代美じゃなくてアンチョビだ!」
ポカポカと暖かい太陽の光が降り注ぐ山の中、ハイキングに来た俺と千代――じゃなくてアンチョビは頂上付近に広がる野原にレジャーシートを敷いて、そこで予定通り昼食を取るつもり……だったのだが。
「ハイキングって普通おにぎりとかじゃねぇの?」
思わず言葉が漏れてしまったのは、誰も咎めることは出来ないだろう。
――いや、それにしてもパスタはないだろパスタは。……折角作ってくれたものだから食べはするけど。
アンチョビがフォークにパスタを巻いて「あーん」と差し出してきた。
何となく気恥ずかしいが同時に嬉しくもあり、その色々を誤魔化すように俺は口を開け、パスタを口の中に迎え入れる。
「どうだ?」
「うん、旨い!」
俺は親指をぐっと立てる。
本当に美味しい。絶妙な味加減に、思わず俺は笑みを溢す。アンチョビはそんな俺を上気した頬で見つめると、満面の笑顔で再びフォークにパスタを巻き始めた。
*******
「千……アンチョビ」
「何だ? おかわりならまだまだあるぞ!」
「あー、いや。そうじゃなくてさ」
「どうした?」
首をかしげるアンチョビに、俺は軽く苦笑した。
「いつもありがとな。大好きだぜ、そういうところも」
たまには、言っておかないとな。
丁度今日でアンチョビと付き合ってから半年なんだし。
俺の言葉が予想外だったのか、アンチョビは数秒の間口をポカンと開けていた。……だが、時間が経つに連れ、顔が真っ赤に染まっていく。
途端にあわわわわとでも言うかのように手をブンブンと振り回した。
「バ、バカ! 突然何を言い出すんだ! ……は、恥ずかしい……だろ……」
尻すぼみになる言葉。顔を俯かせ、表情を必死に隠そうとしているが、髪の間から覗く耳はトマトもかくやと言わんばかりに真っ赤で、彼女の表情はいとも簡単に想像できた。
「な、アンチョビ。……顔、あげてみ」
半年間、沢山言ってきたのに、彼女はまだこんなに初々しい反応をしてくれる。そんなアンチョビが愛おしく感じて、俺は静かに頭を撫でた。
「な、なんだ……?」
俺の言う通りに顔を上げた彼女に顔を寄せ、小さく笑う。そして――
彼女の唇に、自分の唇を重ねた。
「ッ!?」
よく考えると、半年間、今までキスはしてこなかった。だが、半年経った今なら、やっても許されるだろう。
唇を合わせた状態で薄く目を開けると、アンチョビは目を固く閉じて、顔を真っ赤にしたままプルプルと震えていた。
暫くそうした後、漸く口を離す。
「ぷはっ」
二人の間に、唾液が線を引いた。
それを見たアンチョビは慌てて口を拭うと、俺に何か言おうとし、だが途中でそれを止めた。
そして顔を赤く染めたアンチョビは、俺に向かってはにかむと、小さく笑った。
「
そう呟いて。
因みにこのあと……
「なあ、さっきのってどういう意味だったんだ? イタリア語分かんないんだけど俺」
「大丈夫だ。私が分かってればそれで良いんだから」
こんなやり取りがありましたとさ。