こぐま座のポラリス 作:そよ風
中学校に入ってから、私は明るく振る舞うようになった。誰からも好かれる良い子。私はそれを演じ、優秀な友人は自然にそれを手伝ってくれた。誰から本性を隠すようになったのかといえば、それは教師ではなく、母親だ。
休日には一切家事をせず、ソファーに寝転んでお菓子をつまみ、ためていた一週間分のドラマやテレビ番組を見る母親には、もう学校で困っているところを見せたくなかった。母親がこれ以上壊れるのは嫌だった。あの狂ったような顔は見たくなかった。
家族に自分の無防備な姿は見せられない。もともと音楽が好きで、母親もそれを知っていたから、吹奏楽部に入った。ここで帰宅部だったり、もっと楽な違う部活に入ったら、母親に怪しまれる気がした。
部活では、花形のフルートになり、私は練習に励んだ。二日で普通のドから高いミまでの指遣いを覚え、それを母親の前で実演してみせ、自分は大丈夫だとアピールした。更に高いシまで覚え、高くて音がかすれながらも出した私に、先輩は私を天才だと褒めた。違う。私は天才じゃない。ただの弱虫だ。発表の場でも、私は短いながらもソロパートを吹き、母親は喜んだ。
その頃、私には新しい友達が出来ていた。違う小学校出身の、とても頭の良い女の子。名前は、野村さくら。さくらちゃんは、模試でもトップ近い成績をとるほど優秀で、リーダーシップもあった。運動も得意。彼女は同じ吹奏楽部で、ファゴット。習い事では、ヴァイオリンもやっているらしい。
超が付くほど完璧で、冗談も通じ、面白いさくらちゃんは、クラスでも大人気だった。そして、気の利くさくらちゃんは、私の家の事情になんとなく勘づきながらも、何も言わずにいてくれたんだと思う。
さくらちゃんは、大和撫子を演じる私のボロを、誰にも気づかれないように補ってくれた。さくらちゃんには、今でも感謝している。
そんな、学校でも家でも、表面上は普通に過ごしていた私の身に、また事件が降りかかった。長い間、ろくに顔を合わせず、しゃべっていなかった父親が、急に離婚を切り出したのだ。
母親の母からは理解が得られず、また、父親との不和が続いてストレスが溜まっていた母親はまた壊れた。私は父親に「しばらくは離婚のことは言わないで」と頼み込んだ。爆発して、何かされたらたまったもんじゃないから、と。父親は仏頂面ながらも頷き、夜中に寝る以外、家に帰って来なくなった。
家柄も、家族関係も、友人関係も、何もかもが完璧なさくらちゃんにはこのことは打ち明けられなかった。ただ、私の大和撫子のボロがでる回数が多くなったんだろう。さくらちゃんに、「悩みごとがあったら、いつでも相談してね」と言われた。
私は大和撫子の猫をかぶることすらやめることにした。ボロが出て、それが母親にバレるくらいなら、いっそしゃべることもやめてしまおうと。私は今まで通りさくらちゃんと行動を共にしたが、ほとんどと言っていいほどしゃべらなくなった。
さくらちゃんは、この時に至っても私を助けてくれた。保護者の前では私にしゃべりかけ、私の相槌を返事に会話に繋げ、異常を外部に悟られないようにしてくれた。もともとさくらちゃんと以外にはろくにしゃべっていなかった私だから、誰にも不自然には思われなかった。
そのまま中二、中三と学年が上がり、私は受験した。県内の、結構頭の良い学校に受かり、私はそこに進学した。さくらちゃんは、今までどうしてそうじゃなかったのか不思議なくらいだったが、名門の私立のお嬢様学校へ入学した。