ラブライブ!サンシャイン!!アンソロジー『夏――待ちわびて』 作:鍵のすけ
特定のキャラへの描写が細かい作品ですのでぜひお楽しみください!By企画主催者
――僕らが出会ったのは、僕がこの静岡県
なんで引っ越してきたか? それは家庭の事情というか、僕自身の都合だからだ。
ここ、内浦はとても空気がきれいだ。自然が多くて潮風がきついけれど、排気ガスがきつい都会よりもはるかにいい環境だ。
身体が弱く、都会の空気が肌に合わないということで、僕はお母さんの実家であるここにきた。
そんな自然に囲まれている街ということは、都会と違って同じくらいの年の人が少ない。
――いわゆる過疎地だ、地方特有問題だとか、学校で習ったこともある。そんな現象だ。
僕はそんな地方から更に離れた地……海にポツンと存在する【島】に引っ越した。
離れたといっても、まぁ船で五分かそこらでしかないけど。
いや、五分かそこらだとしても、海に在るから船でしかそこへ行けないんだ。
昔は島に通ずるロープウェイがあったらしいけど、今は全く動いていないということを、ここに引っ越したばかりの頃祖母から聞いた。
さて、話を戻そう。
僕はそこで一人の女の子と出会った。
数少ない同年代というか……ほとんど同じ年の子というか、そんなこの場所では貴重な存在。
その始まりは僕が引っ越したばかりの頃。まぁ、住む場所を散策しようというのは多分当然のことだと思う。
そう考えて、ふらふらと近所に挨拶しつつ歩いてた時だ。
「――ッハァ!」
「ンッ!? なにっ! なんなの!?」
「ん……? 誰君、見ない顔だね」
突如海から上がってきたダイバー服の少女。
その名は
……ダイビングスーツだなんて、テレビか池袋の水族館だとかくらいでしか見たことが無い僕には、とてもじゃないけれど彼女の姿は刺激が強すぎて、この時は自己紹介くらいしか交わすことはなかった。
女子と話すことも特に得意じゃなかったから、顔も真っ赤だったと思う。
そんな彼女と次に出会ったのはわりと経っていないすぐの時期で、彼女の家と真反対の場所――祖母の家の近くでだった。
ここに引っ越してきてから、僕はよく夜に島、それも家の付近の海岸を散歩するようになった。
そんなある日の夜、家の近くにある岩礁で果南――このころは松浦さんと呼んでいた彼女が、ひっそりと泣いているのを見つけたんだ。
「あぁ……君かぁ、恥ずかしいとこ……見られちゃった。ごめんね、見なかったことにしてくれると嬉しいんだけど……」
「だめですよ松浦さん。こんな時期にそんな短い袖なんて着てたら風邪ひいちゃいますから、見なかった振りなんてできません」
「やめてよ……今はほっといてほしいから……」
「そうだとしても、僕は放っておけない。理由は聞かないけれど、泣いてるあなたをこのままにしちゃいけないって」
泣いてる理由なんて、まだ知り合ったばかりの僕に聞けるわけもない。
だけど、目の前で体を震わせながら、こんな肌寒い夜に泣いてるような、そんな彼女を。見過ごして何も無かったことになんてできるほど、僕は俗に言う【クズ】になった覚えもない。
ただそばにいてあげることしかできないけれども、独りで泣かせるよりも、遥かに良いことだって、今でも僕はそう思っている。
――結局、何故彼女が泣いていたのかは今になっても聞いていない。だけど、それは別に僕がこだわるべきではないとは思う。
「――ありがと、少しだけ気が晴れたよ」
「いえ、僕にできるのはこれくらいですから」
「それでも、だよ……ねえ」
「はい、何でしょう」
「もっと……砕けていいよ? 君、堅すぎ」
「……あー、善処……します」
「そっか、じゃあ追々に、だね」
あんまり長く無い時間での出来事だったけど、この時既に僕は彼女に魅かれていたのかもしれない。
今ならそう確信できる。だって、気付けば彼女の家の前でぼおっと立っていたり、彼女がよく上がる岬で時折誰かを探すように日向ぼっこしていたり、してたのだから。
今でも彼女に意地悪な顔で言われてしまう。
『あのときから私って君に恋されてたんだね、だって私が行くところに君がいつもいたし』
――我ながらストーカーじみてて恥ずかしい限りだった。
そんなことしてたくせに彼女の顔をまともに見れなくて、さらにまともに彼女の声を聴ける余裕がなくて、すぐ顔が真っ赤になってたっけ。
結局彼女と顔を合わせると妙な気まずさで避けていたし、それがあっていつだったか、彼女に無理やり顔を掴まれ、彼女の方へ向けさせられたこともある。
あの時は果南の眼を見た瞬間熱を出したようにフッと倒れちゃったせいで、目を覚ました時は彼女の家のベッドに寝かされて、『心配した』と叫ぶ果南に泣かれたし、果南のお爺さんには彼氏だと誤解されて拳を振られるしと、割と散々な目にもあったっけ。
まさかあの時誤解された関係に、今僕と彼女はなっているというのも面白い話なんだろうか。
前に正式に果南のお爺さんに挨拶に行ったら、再び殴られたわけじゃなくて『あの時殴って悪かった』と謝られたのには少しだけ笑ってしまったなぁ。
果南と一時間くらい思い出しつつクスクス笑ってたら、彼女のお爺さんにへそを曲げられたので謝り倒したのもいい思い出。
思えば果南と付き合ってからいろんなことをしたなぁ。
彼女が好きな内浦の海を実際に潜って、いろんな魚を見ることができたし。
果南の幼馴染達から幼い頃の彼女の話を色々と聞いて、それを恥ずかしがった果南に怒られて。
伊豆の方へ旅行したついでに天城に山登りもしたし、果南がスクールアイドルになったからってLIVEの応援しにも行ったし、なんでか知らないけど僕がそのスクールアイドルのサポートメンバーに任命されたこともあるし――ほんと、色々あったなぁ……
徒然と思いながら、僕は浜辺の石を一つ、サイドスローで水へと投げ込む。
……え、どうして今浜辺で一人寂しくいるのかって?
――実は今日もデートの待ち合わせをしているんだ。
ただ僕が待ち合わせの時間よりも一時間早く来すぎた、それだけのことなんだよね。
付き合い始めて既に何年経った。
彼女の存在がいるからこそ、僕は療養として暮らしていたこの場所から離れたくなくなり、高校も急遽転校してこっちの学校に通い、そして卒業し、そして静岡の大学に進学をした。
いつからか体調も崩さなくなり、都会にいたころよりかは長く運動もできるようになったし、咳もしなくなったし。
だから思う。本当に、この内浦はいい自然にあふれている。
――突然携帯が震える。メッセージが届いたみたいで、メッセージの送り主は――話題の彼女、果南だった。
≪ごめん、今すぐウチに来てほしいんだ≫
≪どうしたの?≫
≪えっとね……こればっかりは言葉で説明したくて……ゴメン、急いで来てほしいな≫
≪わかった、すぐに行くよ≫
≪ありがと、待ってるね≫
何やら深刻そうな内容。彼女に何があったのだろうか……メッセージを送るということは少しばかりの余裕が彼女にもあるのだろうけれど……
果南とのメッセージのやり取りを終えて、僕は走って待ち合わせ場所から彼女の家に向かう。
彼女の家の前につくと、玄関でいつでも出られるように待っていたのか、ドアが開いて果南が出てきた。
「ごめんね、デートの日に急に予定変えちゃって」
「いや大丈夫だよ。それよりも、大丈夫? 一体何が……」
僕を玄関で迎えた果南の表情は、何かに喜んでいるようにもどこか戸惑っているようにも見えて。
タラリと一筋の汗が流れる彼女が、重々しく言葉を発した。
「あー、あのね……君に今すぐ言わなきゃいけないことがあるんだよねー」
「どうしたの、今日調子が悪いんだったら直前でもいいから、メールか電話で言ってくれればよかったのに」
「ううん、そのね、調子が悪いんじゃなくて……いや、悪いのかもしれないけどそういう悪いじゃなくてね……」
いつも言葉を濁さない彼女が珍しくどもる。
せわしなく動く視線は時々僕の顔をとらえて、その顔はだんだんと熱が回っているのか赤くなっていて……
そこで突如腕が果南によって引っ張られる。とにかく家の中で話をしたいということなんだろう。
果南に連れられたのはリビング。
そこには彼女のお爺さんと、同じく彼女のお婆さんが正座していた。
お爺さんのほうは心なしか顔が強張っているし、お婆さんのほうはとてもニコニコしていて喜びを隠せていない。
一体何事だと思っていたら、リビングに僕を連れてきた後何処かへ行っていた果南が何かを持って再び僕の隣に座りこんだ。
果南に勧められて同じように座った僕に、彼女が手渡したのは妊娠検査薬。
そして彼女が続いて告げたのは――
「あのね、私――
「……パードゥン?」
「だーかーらぁ、デキたんだって。君との、子供」
「……まぁ、そりゃあ……そうなるよね」
「まぁねー、安全日だからって絶対にデキないわけでもないしねぇ」
――いつかは来ると思っていた妊娠報告だった。
いや、まぁたびたび避妊せずに彼女とイタしたこともあるのだから、いつかはそうなるだろうと覚悟はしていた。
『しばらくは海に潜れないかもね』と苦笑する果南に、僕は彼女の手を握る。
果南がこっちを向いたとき、僕は一度深呼吸をし――
「果南、ほんとだったら、今日のデートで言うつもりだったんだ」
「……なにを?」
「僕と、僕と結婚してくだぁッ――ッ!」
「い、今ガリッて鳴ったけど……大丈夫?」
「
――プロポーズをしようとして、恥ずかしながら舌を噛んでしまった。
果南は僕の言葉が通じていたのか、少し涙ぐみつつも、僕の無様な舌噛みに笑いをごまかしきれていない……泣きそうだ。
プッと笑いを我慢する音が聞こえたのでそっちを向くと、果南の祖父母が笑いを堪えながらお腹を抱えていた。
……ああ、恥ずかしいなぁ。
「もう、そんな笑わなくてもいいでしょお爺ちゃん」
「すまん……坊主の舌を噛むタイミングがあまりにも素晴らしくてだな……」
「確かに綺麗に噛んだけどさぁ……ねぇ、お爺ちゃんは認めてくれるの?」
「当然だ」
果南の問いに、彼女のお爺さんは目を閉じ、静かに肯定の言葉を返してくれた。
僕の眼がしらが自然と熱くなる。
果南を見ると、彼女も涙を流しているのがわかった。
「俺の答えは坊主があいさつしに来た時から変わっとらん。果南を悲しませたら許さんということだけだ」
「あっ……ありがとうございます……お義爺さん!」
「お爺ちゃん……ありがと……」
「坊主、お前は大学に通っているんだろう。空いている日は家に来い。果南と結婚するならばウチを継いでもらわんとならんからな」
「はっ、はい!」
「果南、曾孫の名前は俺が付けてもいいか? ずっと考えてた名前が10はあってなぁ!」
「お爺ちゃん、そんなにあってもつけられるのは一つだけだからね!?」
「はっはっは! なぁに、玄孫ができるまでは死なんからな、10の名前を全部つけてみせるぞ!」
「お義爺さんだったら本当にありそうですね――」
――僕と果南のお話は、ここで一つの区切りを迎えた。
この先の未来かい? それは僕にもわからないかな。
ただ、僕らのほかにもさまざまな区切りを迎える人たちもいる。
次は、その人たちのお話を見に行こう。
・告白内容
妊娠報告及びプロポーズ