ラブライブ!サンシャイン!!アンソロジー『夏――待ちわびて』 作:鍵のすけ
はじめまして、ゆいろうと申します!
この度、鍵のすけさん主催の『ラブライブ!サンシャイン!!合同二次創作企画』に参加させて頂きました!
『告白』がテーマという事で、今回私は国木田花丸ちゃんの話を書いてみました。
それでは、お楽しみください!
私――
今日の目的は、そこにある大きな図書館。借りていた小説の返却期限が迫っていたので、こうして足を運んだのだ。
私は本が好き。
鼻腔をくすぐる独特な匂い、ページを捲る時の感触、手に持った時の重量感。そして何よりも、書き手の紡ぐ物語が大好き。
最近では電子書籍というものも流行っているみたいだけど、私は断然書籍の方が好きだ。
借りていた小説をカウンターで返却して、私は新しく借りる小説を探し求めて本棚を回っていく。
図書館という場所は不思議と落ち着く。
人が多いにもかかわらず静かな空間。聞こえてくるのは本を探して歩く人の足音、ページを捲る音、人の僅かな息遣い。
今は本を探して歩いている私の足音が、やけに大きく感じて恥ずかしくなる。
私はより忍び足で歩く事にした。
そうやって本棚を色々と見て回っていると、ふと気になるタイトルの本を見つけた。私はその前で立ち止まる。
確か、以前テレビ番組で紹介されていたのを見た事がある。それ以来気になってはいたけど、何となく手をつけずにいた。
折角なので、この機会に借りて読んでみよう。
そう思い、本を取ろうと手を伸ばすと――
「――っ!」
横から伸びてきた手に気付かず、その手と私の手が触れた。
想定外の出来事にビックリして声を上げそうになったが、ここが図書館だという事を思い出し、出かかった声を飲み込んだ。
「あっ……ゴメンね」
すると先に手の触れた相手が、抑えた声で謝ってきた。
どこか温もりを感じさせる、男性の声。
私はそこで初めて、手の触れた相手が男性なのだと理解した。
もし私がルビィちゃんだったなら、今頃大声を上げていただろう。
「私の方も、ごめんなさい」
男性に目を向けて、私は被せるように謝った。
おそらく年上の、優しそうな男性だった。大学生だろうか、スラッとしていて大人びた雰囲気がある。
「そうだね。じゃあ、お互い様って事で」
ニッコリとハニカミながらそう言う男性。
私の目線は丁度男性の胸辺りで、その身長差に私は自然と男性を見上げる格好になる。
「キミが取ろうとしてた本、もしかしてこれ?」
男性が一冊の本を本棚から抜き取り、それを私に見せて問う。
私はコクリと小さく首肯した。
「そうか……なら、この本はキミに譲るよ」
「えっ、でも……」
少し残念そうに言う男性に、私は思わず躊躇してしまう。
この人が探していた本もきっと、私と同じ物だと直感的に分かってしまった。
「いや、キミの方が先に見つけたみたいだし。そこに僕が横槍を入れてしまったからね。だから、はい」
そう言って男性は私に本を手渡そうとする。
それを素直に受け取っていいのか、私は迷っていた。
「キミがその本を返却した時に、また借りればいいからさ」
私の迷いを汲み取ったのか、男性は優しい声で言った。
そう言われてしまっては、私はその本を受け取るしかなかった。
「ありがとうございます」
「いえいえ、こっちこそ邪魔してゴメンね」
先ほど手が触れた事だろうか、男性は再度そう謝ってくる。
そして踵を返し、私の前から去ろうとした。
「あ、あのっ」
男性の大きな背中を、気が付けば私は呼び止めていた。
男性が足を止め、振り返る。
「えっと、よかったら少しお話ししませんか?」
何が私にそう言わせたのか分からない。
同じ本を求めていたところに、自分に似たものを自然と感じ取ったのだろうか。
無理矢理そんな理由を後付けしてみる。
「うん、いいよ」
私の誘いに、男性はニッコリと微笑んで答えた。
***
「へぇー、あの作家さんの作品が好きなんだ」
「うん! 文章が綺麗だし、ストーリーが好きなんだぁ!」
「うんうん、分かるよ。僕もその人の作品好きなんだ」
「本当っ!?」
図書館にある屋外の休憩スペース。そこのベンチに腰掛けて、私と男性は小説談義に花を咲かせていた。
高く昇った太陽の光を浴びながら、本の話をするのは気持ちいい。
これまで男性と話して分かった事がある。
私と男性の好きな本の趣向が、とても似通っているのだ。
どちらかがこの本が好きだ、この作家さんが好きだと言っては、相手がそれに共感する。
私と男性は、この短時間ですっかり打ち解けていた。
「お兄さんは、他にはどんな本が好きなの?」
出会って間も無い男性を“お兄さん”と呼べる程に。
「そうだね、推理小説とかも好きかな。今ドラマが放送してるやつとか」
「あぁそれっ! オラも大好きずら!」
「……オラ? ずら?」
大好きな作品の話題になり、ついついルビィちゃん達と一緒にいる時の口調になってしまった。
気を付けていたのに……恥ずかしい。
「あっ……ごめんなさい、興奮したらついいつもの調子になっちゃって」
「さっきのが素の喋り方なの?」
「うん、小さい頃から。直そうと思っても中々直らなくて……」
変な子だって思われていないだろうか。そんな不安に駆られる。
「この辺りの方言だけど、今は喋る人少ないよね」
うぅ……やっぱり変な子だって思われてる。
「方言を大切にするって良いよね。それに可愛いと思うな」
「かっ、かわ――っ!?」
唐突にそう言われて、私は取り乱した。
「あっ、ごめん。気に障ったかな?」
お兄さんが心配そうに私の顔を覗き込む。
私はその言葉をブンブンとかぶりを振って否定した。
「気に、障ってない……です」
「そっか。でも取り乱したみたいだし、ゴメンね」
私を気遣って謝ってくれる、優しいお兄さん。
私より頭一つ以上も背が高くて、おそらく年上の大人っぽい雰囲気の人。
「推理小説だと、今度映画化する作品は読んでみたいかな」
「あっ、マルはその本読んだずら!」
「……名前、マルちゃんっていうの?」
今度は名前を出してしまう。
私はコクリと頷いた。
「そっか。ねぇ、マルちゃんはその本どうだった?」
お兄さんはあまり気にせずに話を戻す。
「面白かったずら! 予想外の展開の連続で、登場人物の人間関係も奥が深くて読み応えがあったなぁ」
「そっか。まだ図書館では貸出してないから、今度買ってみようかな」
独り言のように言うお兄さん。
その本は私も購入して読んだのだけど、お兄さんに貸してあげようかとは言えなかった。
それ以降も私とお兄さんは外のベンチで会話を繰り広げた。
そして太陽が傾いてきた頃合い。
「あ、もうこんな時間。そろそろ帰らないと」
お兄さんのその言葉で、私達は互いに図書館を後にした。
本当はもっとお兄さんと会話していたかったけど、時間がそれを許してくれなかった。
また図書館に行ったら会えるだろうか。
***
二週間後、私は再び図書館に来ていた。
先々週借りた本をカウンターで返却し、また新しい本を求めて本棚を歩き回る。
本を探すと同時に、二週間前に出会ったお兄さんの姿も捜していた。
どうやら私は、あのお兄さんともっと本のお話をしたいらしい。
ルビィちゃん達といる時とはまた違った楽しさが、お兄さんとの会話にはあった。
本の話はルビィちゃん達とはあまりしないので、お兄さんとの会話は新鮮だった。
そんな思いを秘めながら本棚を眺めていると、気になるタイトルの本を見つけた。しかし、
「高いずら……」
ボソッと呟く。
本棚の一番上にそれは陳列されていて、私の手では届きそうにない。
「んっ、んんーっ」
精一杯背伸びをして手を伸ばすが、やはり届かない。
もう一度、今度はさっきよりも高いように爪先立ちになって手を伸ばすが、届かない。
図書館の人でも呼ぼうか。
そう思った時――
「あっ……」
横から伸ばされた誰かの手が、私が欲しかった本を掻っ攫った。
思わずまた背伸びをしてその手を追うが、またしても届かない。
私は今までで一番、自分の背の低さを呪った。
「はい、マルちゃん」
聞き覚えのある声が横からする。
私はパッと勢いよくその人物に目をやった。
「こんにちは、二週間ぶりだね」
前言撤回。
背が低くても良いことはある。
そこにいたのは、二週間前に出会ったお兄さんだった。
「こ、こんにちは」
ペコリと頭を下げて挨拶する。
私はお兄さんに会えた事で込み上げてくる嬉しさを、抑えるのに必死だった。
「取ろうとしてたの、この本でしょ?」
お兄さんのが手に持つのは、まさに私が取ろうとしていた本だった。
「ど、どうして分かったの?」
そう聞かずにはいられなかった。
「この前いっぱい話したでしょ? だからマルちゃんの好みだったらこの本かなぁって。あれ、違ってた?」
「あ、合ってるずら……」
お兄さんが先週の会話で、私の好みを覚えてくれて嬉しくなる。
それと同時に、お兄さんに全てを見透かされているような、そんな恥ずかしさも感じる。
嬉しさと恥ずかしさがごちゃ混ぜになり、自分でもよく分からない感情になっていた。
「はい、どうぞ」
手に持っていた本を、お兄さんはスッと私に差し出す。
「あ、ありがとう」
まるで二週間前の焼き増し。お兄さんから本を受け取る。
前回はお兄さんに本を譲ってもらったけど、今日はお兄さんが私が求めていた本を取ってくれた。
「あ、あのっ」
本を手に抱えて、私はお兄さんを真っ直ぐ見つめる。
「今日もお話し、したいなぁ……なんて」
「ん、いいよ」
お兄さんはニッコリと微笑んで、私の誘いに答えてくれた。
***
それから二週間後も、私は図書館を訪れた。
そこでまたしてもお兄さんに会い、私達は会話に花を咲かせていた。
図書館の返却期限が丁度二週間なので、その日に本を借りた私とお兄さんは、また二週間後に図書館を訪れるのだ。
二週間に一度のお兄さんとの会話は、とても楽しい。
お互いに本について語り合い、時に笑い合う。
お兄さんと出会って一月半。
こうして会話をするのは今日で三回目。
「以前読んだ本にこんな文章があったんだ。『恋はするものじゃなく、落ちるものだ』って。マルちゃんはどう思う?」
いつものように外のベンチに座って会話をしていると、お兄さんに尋ねられる。
「『Fall in Love』って言葉があるから、落ちるで合ってると思うずら」
「なるほど、確かにそうだね」
「その本、読んでみたいなぁ……」
お兄さんの言葉で、私はその本が気になった。
「僕持ってるから、貸してあげようか?」
「えっ、いいのっ!?」
「いいよ。再来週持ってくるね」
「ありがとうお兄さん! あっ、前にお兄さんが読みたいって言ってた本、オラ持ってるから貸してあげるずら!」
「そうなの? ありがとう、嬉しいよ」
そんな約束をして再来週。
図書館でお兄さんに会って、お互いに持ってきた本を交換した。
その場で読むのは何だか勿体無く感じて、私は家に帰ってからお兄さんに借りた本を読み始めた。
よくある恋愛小説。
主人公の女の子が、図書館で出会った男性に恋する物語。
「ふふっ、まるでオラとお兄さんみたいずら」
二人の境遇があまりにも私とお兄さんに似ていて、思わず笑いが漏れてしまう。
読み進めていく内に、私は主人公の女の子にすっかり自分を投影していた。
少しずつ、図書館で出会った男性に惹かれていく女の子。
本当に、私とお兄さんみたいだ。
『恋はするものじゃなく、落ちるものだってよく言うだろう』
ページを捲ると、お兄さんが言っていた文章が目に飛び込んできた。
恋に恋している印象の女の子に向かって、男性が言った台詞。
その言葉をキッカケに、それまで男性の事を表面上でしか見ていなかった女の子は、男性の本質に触れていく。
そして少しずつ、男性に惹かれていく。
物語の結末は、女の子は男性に想いを告げ、二人はめでたく両想いとなった。
***
「オラって、お兄さんの事好きなのかな?」
カランと音を立てて、お兄さんが持っていた缶コーヒーが手から滑り落ちた。
まだ中身が残っていたスチール缶から、ドクドクと液体が流れ出ている。
お兄さんに本を借りて二週間後。
いつものように図書館でお兄さんと会い、お互いに借りていた本を返した。
そして外のベンチで会話をしていた時、私はお兄さんにそう尋ねた。
「え、ごめん。何?」
「オラ、お兄さんの事好きなのかな?」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をするお兄さん。
いつも余裕があって大人なお兄さんが、珍しく感情を表に出していた。
私はこれが恋なのかどうか分からないでいた。
恋は落ちたら気付くものなのか、そもそも落ちた経験の無い私には知る由も無い。
もしかしたら本の中の女の子と同じで、恋に恋にしているだけなのかもしれない。
「もしかして、本に影響受けた?」
「そう、かも……」
お兄さんの問いに正直に答えると、お兄さんはお腹を抱えて大きく笑い出した。
「ちょっ、どうして笑うずら!」
そんな反応をされて私は怒った。
真剣に尋ねたのに、まさか笑われるなんて思わなかった。
お兄さんなら、答えを知っていると思ったのに。
「僕なら知っていると思った?」
こっちの気持ちを見透かしたようにお兄さんは言う。
私は小さく頷いた。
「残念だけど、僕はマルちゃんじゃないから、マルちゃんの気持ちは分からないな」
いつもより強い口調で言われ、私はスカートをキュッと掴み萎縮してしまう。
「マルちゃんは、どうしたいの?」
しかし次の瞬間には、お兄さんは優しい口調で私に尋ねてきた。
「オラは……お兄さんの事、もっと知りたい……お兄さんともっとお話をしたいと思ってるずら」
思えば、お兄さんの名前すら知らない。
お兄さんも、私の事を全然知らないと思う。
マルちゃんって呼ばれてるけど、それは渾名みたいなものだ。
二週間に一度、図書館に来て会話をする。
それが私とお兄さんの関係。
「そっか……じゃあまずは、ちゃんと自己紹介しなきゃだね」
またしても私の気持ちを見透かしたかのように、お兄さんはそう言って自己紹介を始めた。
お兄さんの名前、年齢、読書以外の趣味。他にもお兄さんは色々と自分の事を私に教えてくれる。
「僕もマルちゃんの事、もっと知りたいな」
自己紹介を終えたお兄さんが言う。
お兄さんも私の事を知りたいと思っていてくれたのが、とても嬉しかった。
私もお兄さんと同じように自己紹介を始めた。
名前、年齢、誕生日、血液型、趣味、特技、好きな食べ物、嫌いな食べ物。
お兄さんにもっと私を――国木田花丸を知って欲しくて、お兄さん以上に自分の事を伝えていく。
「うん。よろしくね、
今までの“マルちゃん”ではなく、きちんと私の名前を呼んでくれる。
私は今初めて、お兄さんと知り合った気がした。
「これからも二週間に一度、図書館でお話しよう。その中で少しずつ、花丸ちゃんが自分の気持ちを理解していけばいいから」
自分の気持ちを理解する。
それは簡単なようで難しいものだと、今しがた分かった事だ。
「うん! よろしくずら!」
***
休日。
私は外出に着ていく服をどれにしようか、小一時間ほど悩んでいた。
あれでもないこれでもないと悩みに悩んだ末、ようやく納得のいく服装が決まった。
「よし、これでバッチリ!」
着ていく服が決まると急いで支度をする。
服選びにかなり時間を取ってしまった為、時間に間に合うかどうかギリギリだ。
「行ってくるずら!」
支度を終え、両親に出かける旨を伝えて玄関に向かう。
靴を履き終えると、玄関にある大鏡で自分の姿を確認する。
いつもよりお洒落な服装。
こんな格好で行って、変な子だと思われたりしないだろうか。
いや、きっと大丈夫。
根拠はないが、あの人はそんな風に思ったりしないだろう。
「それじゃあ、行ってきまーす!」
もう一度そう言って、玄関を開けて外に出る。
「あっ、急がないと!」
時間が無いのをすっかり忘れていた。
私は慌てて歩き出す。
時間に押されていて焦る筈なのに、私の心はいつも以上に浮かれていた。
それもその筈。
今日は二週間に一度の楽しみな日。
私はお兄さんに会う為、図書館へと向かう。
今回はこのような企画に参加させて頂き、ありがとうございました!
『ラブライブ!サンシャイン!!』はまだアニメが放送されていないので、花丸ちゃんの特徴を掴むのに苦労しました。
でもそうやって花丸ちゃんの事を考えている時間が楽しくて、私は花丸ちゃんの事がもっと好きになりました。
企画を主催された鍵のすけさん、ありがとうございます!
このような素敵な企画に参加できた事、感謝しております。
そして最後に。
このアンソロジー企画小説を読んで下さった皆様が、『ラブライブ!サンシャイン!!』をより好きになってくれると嬉しいです!