ラブライブ!サンシャイン!!アンソロジー『夏――待ちわびて』   作:鍵のすけ

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「μ's+ MUSIC START!!」でお馴染みの香月あやか(kazyuki00)さんです。この企画を立ちあげる際、あやかさんにはいろいろとお世話になりました。ではどうぞ!By企画主催者


初めましての方は、お初お目にかかります。
香月あやかと申します。

まず初めに、このような企画を主催して下さったすけたろうさん。寄稿して下さった他の作家のみなさん。そして、このページを見て下さっている読者のみなさんに改めて、お礼を申し上げたいと思います。

さて
今回のアンソロジー企画には、二つの大きなテーマがあります。
「ラブライブ!サンシャイン」
そして「告白」
これら二つを合わせた時にどうしたら面白いものが出来るのか、自分なりに答えを出してみたつもりです。
拙い文章ではありますが、少しの間お付き合い頂ければ幸いです。
それでは、どうぞ!!


網元の次女と仲良くなるための、たったひとつの冴えたやり方

「ねぇ、こっちこっち!早く早くぅ!」

 

「は、はぁい……」

 

笑顔を浮かべて、彼女は私の手を引く。その引力は、小柄な身体のどこから出ているのかと思うくらい強くて、私は文字通りぐいぐいと引っ張られた。バランスを崩さないようにおっとっとと小走りになりながら、その小さな背中を追っている。

 

時折そよりと吹く磯風が気持ち良い、内浦ののどかな町並み。

真っ青な空が延々と続く快晴は水平線の彼方で海と混ざり合っていて、逆立ちしたってどっちがどちらかわからないほど青く綺麗に澄んでいる。

 

 

 

でもそんな景色を眺める私の心は、絵画のような穏やかな風景とは裏腹に、緊張で張り裂けそうで――

 

繋いだ手から、この熱が彼女に伝わってしまわないかとても心配になる。

 

 

「アイス半分こしよ!ルビィじゃ落としちゃうから、あなたに割ってほしいな!」

 

そんな私の気持ちを知ってか知らずか、腰掛けたベンチの隣で心底楽しそうに笑う彼女の瞳は、この海や空に負けないくらい純粋で透き通っていた。

幼子のような愛らしい笑み。額縁に入れて飾っておきたいくらい、それは正に天使のそれ。

 

 

でも同時に、その笑顔は私の鼓動を、より一層速いものにしていく。

 

 

「――はい、どうぞ」

 

「うわぁ、上手だねぇ!ありがとぉ!」

 

そう言って破顔する彼女があまりにも眩しすぎて、私は思わず目を逸らした。この日のために新しく買った、白のワンピースの影できゅっと掌に力が込もる。

 

 

「そのワンピース、可愛いね!初めて見た!

すごく良く似合ってるよ!」

 

「え?あ、うん。一昨日買ったの……

そう言ってもらえると嬉しいな」

 

姉に毎日のように怒られるくらいどこか抜けているはずなのに、意外にしっかりと見ていることに驚きつつ、同時にびくりとする。

 

もしかしたら、気付いているのだろうか?

でも、半分に割れたアイスの片方をかじりながら無邪気に破顔する彼女からは、そんなそぶりは微塵も感じられず、もやもやはますます募っていく。

 

 

……言わなくては。

今日こそ伝えなくては。

 

「――――ルビィちゃん」

 

「ん?」

 

意を決して上げた視線の先、大きく丸い空色の双眸をとらえる。こくりと唾液を飲み込んで、膝の上に置いた拳をぎゅっと握って、大きく息を吸った。

 

 

 

「あのね、私――

ルビィちゃんのこと――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

ラブライブ!サンシャイン!企画短編

「網元の次女と仲良くなるための、たったひとつの冴えたやり方」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『黒澤ルビィさん!一目見た時からずっと好きでした!!

付き合ってください!!』

 

 

『――――う』

 

 

『(……う?うん!?

もしかして快諾か!?)』

 

 

 

 

 

『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!

ごめんなさいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!』

 

 

『あ、ちょっ、待って!待ってくださぁぁぁぁい!!』

 

 

 

 

 

「……で、返事を聞くでもなく、断られるわけでもなく、

『ただ逃げられた』と

っくく……ダメだ……もう耐えられん……」

 

「そんなに笑うなよ!!

こっちは死ぬほど傷付いてんだぞ!?」

 

腹を抱えて爆笑する友人を、僕は顔を赤くしながら怒鳴りつけた。こっちは失恋のショックで心に深い傷を負っているというのに、笑うなんて不謹慎だ。

 

 

「それにしても、どうしてあそこまで嫌われてたんだろ……

逃げられるようなことはおろか、話したことさえほとんどないっていうのに」

 

「……ふぅ、笑った笑った。

お前それはアレだ。黒澤家の次女はとびきりの箱入りでな。

自分の父親以外の男とはまともに会話すら出来んそうだ。

俗に言う『男性恐怖症』ってやつだな」

 

「っ、お前、それを知ってて何で僕に言わなかったんだよ!?

僕の気持ち知ってんだろ!?」

 

「いや、面白そうだったんでつい」

 

「この野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

ここは、場所は静岡が沼津の内浦。海を臨む高台に建てられた学校、「入江の月男子高校」。

その教室の一角で、僕は友人に先日――先日と言ってもつい昨日起きた出来事なのだが――のことについて話していた。

 

 

そう、実は僕には好きな人がいる。

 

 

入江の月男子校から自転車で少し行った先にある、うちと双璧を成す様にして建っている学校「浦の星女学院」。

そこに通っている、元網元の名家「黒澤家」の次女。

 

黒澤ルビィさんに恋しているんです。

 

「あいたたたた……そんなに怒んなって……

にしても、どうしてあの子が好きなんだよ」

 

僕に叩かれていた友人がふと尋ねてきた。

 

「可愛いから」

 

「またざっくりだなおい!

きっかけくらいあるだろ!?」

 

「……あぁ、それは、まぁ」

 

きっかけと言っても、本当に大したことではない。

 

 

 

たまたま浦の星の近くを通りかかった時だ。

後ろから駆け足で僕を追い越して行った生徒のかばんから、学生手帳が転がり落ちた。僕はそれを拾い上げると、慌てて声をかけた。

 

「あのっ、これ落としましたよ!」

 

「ひうっ!?」

 

持ち主はビクッとしてこちらを振り返った。よっぽど急いでいるのか、こちらへ走ってきて、僕の手から手帳を受け取ると、

 

「あ…………ありがと、ござ……ます――――」

 

妙にカタコトな挨拶をして再び走って行ってしまった。

 

そして僕はその間、全く動くことも声を発することもできなかった。

 

艶のある、ほぼ真っ赤な明るい茶髪。

小動物を思わせる、小柄で身体と気弱そうな雰囲気。

吸い込まれそうな、淡い青色の大きな瞳。

 

幼さが残るあどけない顔に、年齢相応に成長した身体が、絶妙な美を演出している。

 

 

要は、彼女に見惚れていたのだ。

 

 

「名前は手帳に書いてあったから、それで覚えた」

 

「なるほどな、要はコシヒカリってやつか」

 

「一目惚れな。つまんないからそういうのやめろ」

 

心底楽しそうに話を聞く友人は、何を納得したのか大仰に腕を組んで頷いている。

一方僕はと言うと、彼女の情報を知ることができたという喜びと、知らなきゃ良かったという気持ちが同時に押し寄せていた。

 

「にしても、厄介な相手に惚れちまったもんだなぁ……」

 

「ほんとだよなぁ……まさか選んだルートがベリーハードとは……」

 

男性恐怖症、その単語のあまりの重さに頭を抱える。

今思えば、手帳を拾ってあげた時の妙な態度も、その片鱗だったのではないかと思う。直後は、突然話しかけられて驚いたからかな、とか考えていたわけだが。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!どうすりゃいいんだぁぁぁぁぁ」

 

「いっそすっぱり諦めたらどうだ?」

 

「それが出来たら苦労しないって……」

 

「女なんて星の数いるんだぜ?わざわざ茨の道を行かなくたってそのうち良い子に巡り合うって。

俺の姉ちゃんとかどうだ?身内補正除いても美人だしおっぱいでかいし」

 

「僕より背の高い女の子はちょっと……」

 

「ははっ!姉ちゃんも同じこと言ってた」

 

「お前なぁ!!いい加減にしないと……」

 

わかってる。女の子はみんな背が高くて大人な雰囲気の男が好きなんだ。僕みたいにギリギリ160センチくらいで、童顔な男なんて誰も相手にしてくれないって。

 

でも、そんな僕が勇気を振り絞って告白に踏み切ってしまうくらい、彼女は可愛くて魅力的に写ったんだ。

そんな簡単に気持ちを切り替えられるようなぬるい想い方ではない。

 

 

「…………男性恐怖症なぁ……

困ったもんだよなぁ……」

 

入学当初からずっとつるんでいる友人は、椅子に座って腕組みをしながらじっと僕の方を見つめて考え事をしている。

 

「いやぁ……お前が男である以上付き合うのは無理だろ……

 

 

 

……ん?」

 

穴でも開きそうなほどじっと僕の顔を見つめていた友人は、何かに気付いたような声を上げると。

 

 

次の瞬間、死ぬほど悪い顔を貼り付けた。

 

「…………俺、今最高に素晴らしい名案を思いついた」

 

「素晴らしい名案って意味被ってるからな。

んで、なんなんだよその名案ってのは」

 

「まぁまぁ、今すぐにというのは不可能だ。

少し準備が必要だからちょっと待っててくれ。

なぁに、親友のよしみで絶対に悪いようにはしないから」

 

「そんな極悪人の面じゃなかったら素直に喜べたんだけどな」

 

嬉々としてどこかへ電話をかけ始めた友人を見ながら、僕はほんのわずかな期待と大きな不安に駆られていた。

 

 

 

 

 

□ ■ □ ■ □

 

 

 

 

 

「あなたが、果南が言っていた人かしら?」

 

「は、はい。そうです」

 

「…………」

 

「…………」

 

その女性は、しばらく僕の頭の上からつま先までを観察するようにじっと見つめて、小さく息を吐いた。

 

 

「突然『ルビィに紹介したい人が居る』なんていうものだからどんな子が来るのだろうと思ってしまいましたわ」

 

ドーム何個分……という言葉が頭のなかでチラつくくらい大きなお屋敷の大きな門の前、そこで僕を迎えてくれたのは――

 

「初めまして、ルビィの姉のダイヤと申します。

友人の頼みとはいえ、今日こうしていらしたことを歓迎いたしますわ」

 

彼女の優雅な一礼に思わず見惚れてしまう。まだあどけなさが残るルビィさんに対し、ダイヤさんは大人びた雰囲気で、可愛いという言葉よりも綺麗とか美しいという形容詞が相応しい出で立ちだ。腰のあたりまで伸びた長い黒髪が麗しい。

 

「さ、立ち話もなんですし、どうぞこちらへ。

ルビィは部屋に居りますわ」

 

おっかなびっくり、案内されるまま広いお屋敷の中を歩いていく。全ての規模観があまりにも違い過ぎて、同じ日本かよと思ってしまうくらいだ。

 

「つかぬことを伺いますが、ルビィとはどちらで?」

 

「えっ……」

 

先を歩くダイヤさんがこちらをちらりと振り返り、そんなことを尋ねてきた。

まぁ、予想できる質問だ。赤の他人が何をどうしたら自分の妹と接点を持とうなんて思うのか。

警戒しているわけでもなんでもなく、純粋に興味本位であることは伝わってくる。

 

「えっと、その、ルビィさんも、アイドルが好きだと聞いて。

それで是非お話してみたいなぁって……」

 

「…………アイドル……ふぅん」

 

納得したのか、何度か小さく頷いて再び前を向いた。

 

 

ちなみに、これは嘘ではない。

しかし、僕が元々アイドルが好きだったことと、彼女もアイドル好きだったことは全くの偶然だ。

 

「姉の私が言うのもなんですが……

ルビィはとても難しい子というか、お友達を作るのがとても下手なんですの。

だから、もしあなたが仲良くしてくださったら、私も嬉しく思いますわ」

 

「……あ、はい。ありがとうございます」

 

凛とした、少し悪い言い方をすれば冷たい雰囲気を纏っていたダイヤさんから発せられた言葉。

それには自分の妹を大切に思う気持ちが篭っていて、思わず笑顔になった。

見た目以上に、とても優しい人なのかもしれない。

 

 

「――こちらです」

 

そこから更に歩くこと少し、長い廊下にいくつか点在している扉のひとつの前で足が止まった。

 

「こちらがルビィの部屋ですわ。あとでお茶とお菓子を持って来させますので、ごゆっくりどうぞ」

 

また堂に入った一礼を見せたダイヤさんは、そのまま背を向けるとローファーの音高らかにこの場を後にした。

 

 

この奥に、ルビィさんがいる――――

震える指を押さえつけて、ノックをする。

 

 

「はーい」

 

 

くぐもって聞こえる、彼女の可愛い声。それを聞いた僕の心臓は一段と速くビートを刻んだ。

ぱたぱたと近づく足音、そして、がちゃりと扉のノブが回る。

 

「あっ…………」

 

「あっ、初めまして――――」

 

扉の隙間からひょこっと顔を覗かせたルビィさんは、突然の来訪者に一瞬驚いたような顔を浮かべた後、困ったように笑った。

 

「え、えっと……どちら様ですか」

 

「あっ、あの……友達に紹介してもらって来ました……っ!」

 

「は、はい!お姉ちゃんから話は聞いてます。

ど、どうぞ……」

 

 

そうしておずおずと扉を開けてくれた。

 

「お、お邪魔します……」

 

そうして僕は、想い人の部屋に――もっと言えば女の子の部屋に、生まれて初めて入ることができた。

 

 

 

――それにしても、

 

「(本当に入れてしまった……こうも上手くいくものなのか?)」

 

お姉さんのダイヤさんには勘繰られるどころか快く迎えてもらい、ルビィさんとは逃げられるどころか部屋にすら簡単に入れてくれた。

 

これは不本意ながら――本当に気に食わないが、友人に感謝するしかないだろう。

 

 

「(良いたいことは山のようにあるけど、ありがとう!とりあえずありがとう!

これからどうなるかわかんないけど、僕頑張る!)」

 

 

この日のために用意した――正確には用意してもらった勝負服。

 

 

 

 

襟から縦に向かって、レースがあしらわれているパフスリーブのブラウス。

身体の両サイドに紐の編みが入っている、キュロットタイプの吊りスカート。

柔らかい素材で、暖かくもあり涼しくもある淡い色のカーディガン。

そして、厳選に厳選を重ねて選んだ(これも正しくは選んでもらった)かばん、タイツ、ウィッグ、その他の小物。

 

 

 

簡潔に言おう。

 

僕は今、「女の子の格好」をしているのだ。

 

 

 

 

 

□ ■ □ ■ □

 

 

 

 

 

「お前女装しろよ。小柄だし顔幼いし絶対可愛いわ」

 

「は?」

 

真面目な顔をしてふざけたことを言った友人に対し、考えるよりも先に口から言葉が出てしまった。

 

「は?は?はぁ?」

 

「それは1回でいいだろ。

 

とにかく、俺は大真面目だ。

黒澤家の次女は男性恐怖症で男が苦手。そしてお前は男。これじゃ付き合うなんて夢のまた夢だ。1回死んで女に生まれ変わるのが一番手っ取り早い」

 

「急に辛辣になったな」

 

「でもそれは現実的じゃない。だから、死なずに彼女と仲良くなる方法を考えた。

お前は小柄だし顔も中性的だ。おまけに声も高い。

上手くやれば完璧な男の娘になれる」

 

「人としての尊厳と引き換えにな」

 

「……おいおい、お前あの子が好きなんじゃないのか!?人間を辞めるくらいの覚悟がなきゃ、あの子と仲良くなること自体不可能だぞ!?」

 

「それは…………」

 

確かに、コイツの言うことも一理ある。僕が男である以上、ルビィさんと仲良くなることは不可能だ。

現状良い方法が思いつかない以上、僕は悪魔に魂を売る他ない。

 

 

彼女のことを忘れる――――無理だ。とてもできそうにない。できるはずがない。

 

衝撃だった。落雷に打たれたような心地だった。人生で感じた一番強い感情だった。

 

彼女が好きだ。仲良くなりたい。

そのためなら――――

 

 

 

 

「――――どうすればいい?」

 

「よし、それでこそ我が親友よ」

 

友人は満足そうに笑って頷いた。

 

「案ずるな。スペシャルなスーパーアドバイザーを手配した。

これで女装指南も、黒澤家とのコンタクトも問題ない」

 

「だからスペシャルとスーパーで意味が……まぁいいや。

…………ちなみに?」

 

 

「俺の姉ちゃんだ。

心配するな。必ずお前を超絶美少女へと生まれ変わらせてやる」

 

名字を「松浦」という僕の親友は渾身のドヤ顔を浮かべ、僕の肩をバンバンと叩いた。

 

 

 

 

それからの日々は、激動と呼ぶに相応しかった。

親友の姉の果南さんと、その友人のシャイニーさん(名前忘れた)に、服のコーディネイトの方法、メイクの方法、女の子っぽい所作等をひたすら仕込まれた。

 

 

「ほら、また無意識に脚が開いちゃってるよ!女の子はそんなはしたないことしないよ!

しっかりしなさい!美少女になるんでしょ!?」

 

 

すいません、別に女の子になりたいわけじゃないんです。

 

 

「ん~……ちょっとチーク盛りすぎかなぁ?

それじゃあ、あのオゥコノミヤキィのソースに載ってるジャパニーズマスクよぉ?

グラデーションさせるのよぉ?外側に向かって徐々に薄くなるようにねぇ。

そうそう、冠婚葬祭でもメイクって微妙に変わるのよぉ?」

 

 

すいません。この格好で結婚式やらお葬式には絶対に出ません。

 

 

「…………おぉ!やっぱ俺が見込んだ通りの美少女じゃねぇか!

俺お前すげぇ好みだわ」

 

 

すいません。僕ノンケなんで今すぐ帰るかくたばるかしてください。

 

 

そうして、スパルタで男の娘として仕込まれること2週間、鏡に写る自分の姿は、どこからどう見てもただの女の子にしか見えなかった。

ちなみに、ウイッグのセットもメイクも全部自分でやった。そうできるように仕込まれたからだ。

 

 

そうして爆誕した僕――もとい「私」は、あのダイヤさんの目を欺き、あの男性恐怖症のルビィさんさえ疑わないレベルに完成した女装でもって、想い人の部屋へ招かれることに成功した。

 

 

 

 

 

 

□ ■ □ ■ □

 

 

 

 

 

「あ、ルビィこの曲大好き!」

 

「私も好き!ライブの時のがまた一段と良くて……」

 

そうして無事に入ることが出来た彼女の部屋で、私と部屋の主は音楽プレイヤーの前に仲良く並んで座り、お手伝いさんが持ってきてくれたお菓子をつまみながら長いことおしゃべりに高じていた。

 

話題は、勿論好きなアイドルのこと。蓋を開けてみれば、ルビィさん――もといルビィちゃん(本人がそう呼んでと言った)は、見た目によらずかなりコアなアイドルファンであることがわかった。気になるアイドルを探しては、グッズをこっそり通販で買い集めているらしい。

 

「それにしても、ルビィちゃんって本当にアイドル好きなんだね」

 

「うんっ!テレビとかで写ってたらついつい見ちゃって、お姉ちゃんに早く食べてしまいなさい!って怒られちゃうくらい好き!」

 

頬をかきながらえへへとはにかむように笑う彼女の可愛さに、私は内心悶絶していた。

 

「自分でやりたいとは思わないの?スクールアイドルとか。

ルビィちゃん可愛いし、きっと絶対向いてると思うんだけどなぁ……」

 

「そんな!ルビィにアイドルなんて無理だよ……

どんくさいしお姉ちゃんみたいに美人じゃないし……」

 

「そんなことないって!ルビィちゃんすっごく可愛いよ!

応援するから!」

 

「う、うん……ありがと」

 

やはり共通の話題というのは強いもので、好きなアイドル、ひいては押しが一緒だとわかった瞬間にキャーキャーとなり、あとは加速度的に仲が深まっていった。

 

 

 

「わ、もうこんな時間。

それじゃぁ、そろそろお暇するね」

 

時計を見ると、そろそろ家庭では夕飯の支度が始まる頃だった。出来ることなら永遠にこの場所に居続けたい気分だが、一応私とルビィちゃんは初対面(ということになっている)。あんまり長居するのも憚られた。

 

 

「う、うん……わかった」

 

ルビィちゃんは一瞬残念そうに顔を伏せたが、すぐに笑顔を浮かべた。

 

「今日はすっごく楽しかった。また来るから、その時はよろしくね」

 

「うん、絶対だよ?今度は、夕飯も一緒に食べて帰ってね」

 

期待値を遥かに超える高感度の上昇に内心両腕を振り上げながら、私は笑顔で部屋を後にした。

 

すげぇ、女装すげぇ。

スキップでもしたい心地で(というか、多分してたと思う)、家までの道を最高に幸せな気分で帰った。

 

親友には本当に感謝しないと。

 

 

 

 

 

 

□ ■ □ ■ □

 

 

 

 

 

『おはよう!今日も良い天気だね!

よかったら、放課後一緒に新譜買いに行かない?』

 

 

『じゃーん!きょうのお昼はこれー!

ここのカフェセットがとっても美味しくて、マルちゃんとも良く行くんだ!

今度は、あなたも一緒に行こうね!』

 

 

『昨日お洋服買っちゃった!この間あなたが着てたのが可愛くって、こっそりお揃いにしちゃった……えへへ』

 

 

それから2ヶ月程、彼女との交友を深めていった。私の携帯には、毎日のように彼女からこんな可愛いメッセージが彼女から画像付きで届く。それを見ながら、私はベッドの上でひとりニヤけている。

 

ルビィちゃんは想像を遥かに超えて私に懐いてくれた。最近では親御さんに紹介してもらったり、ダイヤさんとも一緒にお話をしたりするほど、家族ぐるみで仲良くなっていた。

 

 

『……でもさぁお前、それって本来の目的と違ってきてねぇか?』

 

「そうなんだよねぇ……まだ本当のことは言えてなくて……」

 

『流石に電話の時くらいは男でいいだろ』

 

「あっ、ごめん。

あっ、あぁ~~~。

…………すまん」

 

『……本当に男の娘になっちまったんじゃねぇだろうな?』

 

「そんなわけあるかよ。ただ、時間が長くなってきたからつい、な」

 

女装を始めて2ヶ月あまり。

ルビィちゃんとの友情を手に入れた僕は、同時に罪悪感と寂しさも積み重ねていた。

 

彼女とのこの絆は、偽りの縁。

本当に僕が勝ち取ったものではない。

 

ルビィちゃんが好きなのは、「私」であって「僕」ではない。

僕が彼女と本当になりたいものは、「恋仲」だ。「友達」ではない。

 

 

でも、今のこの関係を失ってしまうのはたまらなく嫌だった。

 

良く笑って、良く泣いて、天真爛漫に振舞う彼女を一番近くで、見ていたかった。

 

でも、それは永遠に続けられるものではない。

2ヶ月間ばれずに過ごしてきたことは、もしかしたら奇跡のようなものだったのかもしれない。

いつまでも、このままでは居られない。

いつかは、言わなければならない。

 

――それでも、僕は怖かった。

もし、「私」が実は男である、なんて言ったら、ルビィちゃんとは二度と会えなくなってしまう。

涼しい顔をしてだまし続けていたダイヤさん、今までずっと良くしてもらっていた黒崎家の人達を裏切ってしまうことになる。

きっととても傷付くだろう。きっととても怒るだろう。

それくらいのことを、僕はしてしまっているのだから。

それが怖くて、ずっと先延ばしにしてしまっていた

 

『――いいか。俺はお前とあの子で友達ごっこをさせるために協力したわけじゃない。

とりあえず女として接することで、恐怖症の壁を乗り越える。後はお前の力で、1人の人間として好きになってもらうためだ。

女としてじゃなく、性別なんて関係なく、お前自身のことを好いてもらうためだ。

今のままじゃ何も変わらないし、女装だってじきにボロが出るぞ』

 

「…………」

 

親友の言葉が、肩に、心に、重くのしかかる。

わかっている。そろそろ潮時だ。種明かしをしなければならない、幕切れの時が近づいてきたのだ。

 

『大丈夫だ。姉ちゃんの話によると、彼女のお姉さんは最近妹に良い友達が出来たと本当に嬉しそうに話しているそうだ。

きっと上手くいくさ』

 

「――わかってる。わかってるよ」

 

 

そうさ、言いたいことはよくわかってる。

僕が意気地なしだから――彼女と過ごす時間があまりにも幸せで、別にこのままでもいいと思ってしまっているから、招待を明かした時に傷つけてしまうかもしれない、嫌われるかもしれない。

そう思っているから、今の今までずっと言えなかったのだ。

 

 

『次会うのはいつだ?』

 

「……明日。一緒に出かけることになってる」

 

クローゼットにかかっている、通販で買った真新しいワンピースを横目で見ながら僕は答える。

 

『そうか。それなら明日言っちまうことをお勧めする。

これ以上先延ばしにしても絶対にいいことはない。

仮にお互いの関係に亀裂が走っても、早い方が傷は浅くて済むからな』

 

 

 

「…………わかった」

 

数分の間沈黙して、やっとそれだけ絞り出して電話を切った。

スマホを枕元に投げて、ベッドへ身を投げる。

 

友情を捨てて賭けに出るか。

友情を取って退廃の道を歩むのか。

頭の中でそれらが永遠にぐるぐる回り続け、とてもじゃないけど眠れそうになかった。

 

そしてようやくまどろみの中に落ちたとき、空は既に白んでいた。

 

 

そして話は、冒頭へと帰って来る。

 

 

 

 

 

□ ■ □ ■ □

 

 

 

 

 

「私、ルビィちゃんのこと――」

 

 

 

 

 

「あ~~~~!!!」

 

騙してたの、とは言わせてもらえなかった。

 

彼女が、既に割られているはずのアイスを落としてしまったからだ。

 

 

「うわぁぁぁぁぁん!アイスがぁ…………」

 

「あぁもう……ほら、私のあげるから泣かないで」

 

地面に食べられた無残なアイスを涙目で見つめる彼女を宥めながら、自分の持っていたアイスを差し出す。

 

「ありがとう……

 

 

ところで、さっき何か言いかけなかった?」

 

 

「え?あ、あれは――――

 

 

別に、何でもないよ」

 

「そう?ならいいんだけど……」

 

燃料をかき集めてどうにか火を付けた勇気の炎は、落ちた氷の塊に消されてしまった。

自分自身にそんなしょうもない言い訳をして、「私」の時間は過ぎていく。

 

 

 

 

 

「今日は楽しかったね!」

 

「……そうだね」

 

どうしてこんな気分の時は、いつにも増して時間が過ぎるのが早いのだろう。気が付けば、

日はもう西へと傾いてしまっていた。先程まで真っ青だった空と海は、夕日に照らされて燃えるように赤い。

 

目の前を駆ける彼女の髪がぴこぴこと跳ねる。その光景は、束ねた髪が筆のように、世界を赤く塗りつぶしていっているかのような錯覚を覚えた。

 

「……私、あなたとお友達になれて本当によかった!

今度また、一緒に出かけようね!次はマルちゃんやお姉ちゃんが一緒でもいいなぁ……」

 

 

「……ふふっ、ありがとう。

楽しみにしとくね」

 

隣で嬉しそうに話しかけてくるルビィちゃん。その言葉とても無邪気で、とても嬉しくて、

 

――とても心を締め付けられた。

 

ダメだ。とてもじゃないけど、私には――僕には、とてもこの笑顔を曇らせることなんてできない。

 

 

 

そんなことを考えていた時だった。

 

 

 

 

「――――あっ!」

 

びゅうと、一際強い風が吹いた。

 

その風は、ルビィちゃんの頭から帽子を攫い、海面へと吹き飛ばそうとする。

 

咄嗟に腕を伸ばすもその手は空を切り、体勢を崩した彼女は海へと――

 

 

 

「――――っ、危ない!」

 

 

 

落ちることはなかった。

 

無我夢中で、何をしたのかは自分でもよく覚えていない。

無意識に彼女の腕を引っ張って、そのまま飛んで帽子を掴んで岸に向かって思い切り投げて、

 

 

僕が海に落ちた。

 

 

 

 

「――――ぷは」

 

 

冷たい水の感触。

我武者羅に腕を掻き、海面に顔を覗かせる。

 

「よかった!よかったよぉ…………

 

ごめんなさいごめんなさい、ルビィが不注意だったからあなたが――っ!

 

 

寒くない?大丈…………夫?」

 

帽子をぎゅっと握り締めて、泣きながらこちらを見るルビィちゃん。

 

 

そして、その表情が段々凍りついていくのがわかった。

 

 

「えっ、ルビィちゃん?

一体どうした…………の」

 

彼女の様子が急変した理由に気が付いて、慌てて自分の格好を確かめる。

 

 

いつもなら、肩やうなじにかかる髪の感触。

それがなかった。

 

茶色いウイッグが、遥か沖の方に流されているのが、どうにか確認できた。

 

 

 

「…………」

 

 

ついに、ついに彼女にばれてしまった。

最悪とも呼べる、こんな形で。

 

しばらく無言で見つめ合う、僕とルビィちゃん。

ぴしりと固まった表情を浮かべていた彼女だったが、不意に、

 

 

 

「――――っ」

 

 

一粒だけ涙を零し、何も言うことなく走って行ってしまった。

 

残されたのは、海に浮かぶ女装男子ただひとり。

 

 

 

「――終わった」

 

夕日を仰ぎ見ながら、僕は呟いた。

 

「完全に終わった」

 

あの時ちゃんと伝えていたならば、こんな幕切れにはならなかっただろうか。

 

 

いっそこのまま海を漂って、沖で魚のエサになってしまいたい。

僕は日が沈むまでの間、ずっと波に揺られ続けていた。

 

 

 

 

 

□ ■ □ ■ □

 

 

 

 

 

それから約2週間が経った。

 

あの日から一度も、ルビィちゃんからの連絡は来ないままだ。

まぁ、そりゃ当然だろう。今までずっと騙されてきた相手なんだから。

 

彼女をどれほど傷つけてしまったのかは、想像に難くない。

 

「……お前はそれでいいのか?」

 

向かい合って昼食を一緒に取っている親友がそんなことを尋ねてくる。

 

「――うん」

 

「…………それが納得してる奴の顔かよ」

 

「だって仕方ないだろ。

これは罰なんだよ。偽りの姿で、彼女の気持ちを弄んだ僕へのな」

 

 

僕が彼女の立場でも、怒るか傷付くかするに違いない。

 

これでよかったんだ。

どうあったって、僕は彼女とは結ばれない運命だったんだ。

 

 

「……まぁ、元気出せよ。

女なんて世の中には星の数――」

 

「その話はもう聞いたって。

……大丈夫だから」

 

親友は親友で、彼なりに気を遣っていてくれているらしい。

結果はこんなことになってしまったが、ほんの少しの間だけでも夢を見させてもらえて僕は幸せだった。

感謝こそすれど、恨む理由はない。

今度何かご馳走してやろう。

 

今はまだ新しい人を探す気にはなれないが、そのうち時間が解決してくれるだろう。

 

 

 

 

 

「――――おい、なんか鳴ってるぞ」

 

そんなことを上の空で考えていたら、親友に頬を叩かれて意識が現実に引き戻された。

弁当箱の隣、伏せて置いていたスマホが小さく震えて、机の上から逃げ出そうとしているかのように動いている。

 

普段そうしているようにロックを解除して、通知を確認する。

 

届いていたのは、一通のメッセージ。

 

差出人は――

 

 

 

「――――え?」

 

 

 

 

 

 

 

「…………どうも」

 

「貴方は『はじめまして』?

それとも『お久しぶりです』?」

 

「あ、いや、あはは……」

 

もはや見慣れた、黒澤家のお屋敷の大きな門。

久々に訪れた僕を待っていたのは、いつぞやの時と同じように凛と立つお姉さんだった。

しかし、その視線はいつにも増して厳しい。

 

 

「部屋でルビィが待っています。

ただし、くれぐれもお気をつけて。

あの子は殿方に対する免疫が皆無で、意思の疎通も困難なくらいです。

もし何か変な気でも起こそうそしたら――」

 

「ち、ちょっと待ってください!

別に何もしませんってば!」

 

「……どうだか。

今までずっと私たちに隠し事をしてきたと言うのに?」

 

「それは……」

 

彼女の部屋へ向かいながら、僕はダイヤさんの言葉に答えることができなかった。

ぐうの音も出ないほどの事実。ずっと騙してきた僕の言葉に、信頼できる要素は欠片も残っていない。

 

「…………『貴女』のことは、私自身もとても好ましく思っていただけに、ルビィからその話を聞いた時は少なからず残念に思いましたわ。」

 

次々と投げられる言葉の槍。ルビィちゃんだけでなく、ダイヤさんまで傷つけていたという事実を知って、僕はますます項垂れた。

 

「今日ルビィが貴方に何を話すのか、そこまでは聞いてません。

ですが、再び妹が泣くようなことが無いようにお願いします」

 

そうして着いてしまった、ルビィちゃんの部屋の前。ダイヤさんはいつものように礼をして、その場を後にした。

 

 

 

『おはなししたいことがあります

今日このあと、お時間ありますか?』

 

彼女らしからぬ、簡潔な文章。昼休みに僕のスマホに送ってきたのは、他でもないルビィちゃんだった。

一体何を言われるのだろう。

 

罵声?

非難?

恨み言?

 

最初に来た時以上に震える手で、小さくノックをする。

 

 

 

「ど、どうぞ……」

 

こわばった声が扉の奥から聞こえてきた。

 

意を決して、ノブをひねる。

 

 

「お、お邪魔します……」

 

「ひっ――――」

 

彼女の部屋は、いつも通りのままだった。

しかし、ベッドの上でクッションを抱きしめながら、入ってきた男子高校生を見て小さく悲鳴を上げた彼女は、初めて見るくらい青ざめていた。

 

告白したあの時と、全く同じ顔。

それは、僕らの時間がリセットされてしまったことを示している。

 

「や、やぁ……久しぶり――」

 

「…………」

 

軽く挨拶をするも、彼女はますます強くクッションを抱き、目を泳がせる。

 

そうして、両者の間に会話がないまま数分が経過した。

 

 

 

 

 

「…………あ、あの……」

 

「――っ、本当にごめんなさい!!」

 

「!?」

 

彼女の口が動く瞬間、僕は人生で最も深く頭を下げた。

ルビィちゃんに何を言われるか、怖くてたまらなかったからだ。

 

「今まで騙してて本当にごめん!

今日の今日まで謝らなくて本当にごめん!

ルビィちゃんを――ダイヤさんやおうちの人にまで迷惑かけて本当にごめん!

 

僕、どうしても君と仲良くなりたくて、友達に相談して女装のやり方を勉強したんだ!

女の子の格好だったら、お話したり、色んなところに一緒にいけるかなぁって!

でも男だってばれたら、君に嫌われるんじゃないかって、怖くて言えなかったんだ……

 

言い訳をするつもりじゃないけど、本当にごめん!ごめんなさい――」

 

 

最後の方は思わず涙がこみ上げてきて、声が裏返ってしまった。

ルビィちゃんの顔を見るのが怖くて、頭を下げたままじっと彼女の言葉を待つ。

 

 

 

 

「――――――わ、わたしこそ、ご、ご、ごめんなしゃい!」

 

 

彼女からかけられたのは、僕を責める言葉ではなく、

謝罪の言葉だった。

 

「せ、せっかく帽子を取ってもらったのに、わ、わ、私が海に落ちないようにし、してくれたのに、だ、黙って帰っちゃってほんとうにごめんなさい!」

 

がばっと頭を下げるルビィちゃん。

彼女の言葉が未だに信じられず、僕は顔を上げたまま呆然としていた。

 

 

要約すると、こうだ。

 

あまりにもびっくりしてどうしたらいいのかわからず、あの時は気が動転していてそのまま帰ってしまった。そのことをずっと謝りたかった。

今まで嘘をつかれていたことはかなりショックだったけど、仲良くしてくれたという事実は性別に関係ないとようやく思うことができたこと。

 

そして――

 

「こ、この帽子、マルちゃんからもらったとっても大切な帽子なの……

海に落ちちゃったらもう被れなくなっちゃってたから、あなたが取ってくれて本当に嬉しかったの。

 

 

 

……ありがとう」

 

「そんな、お礼だなんて……」

 

時折どもりながらも、こうして彼女は頑張って僕と会話をしてくれる。

それが嬉しくてたまらなかった。

 

 

そして、更に驚くことがあった。

 

 

「そ、それと……

あ、あの時は逃げたりしてごめんなさい……」

 

「あの時……?」

 

 

 

「る、ルビィ、こここ告白なんてされたの生まれて始めてで……

恥ずかしかったりびっくりだったりで頭いっぱいになっちゃって……」

 

僕の目が驚愕に見開かれる。

 

「あの時のこと、覚えてくれてたの……!?」

 

思い出したのは、濡れねずみと化した僕から逃げて家に帰ってからだったと、ルビィちゃんは小さく頷きながら教えてくれた。

 

 

 

 

「あ、あああのね。あの後色々考えたの……

いっぱい泣いて、いっぱい考えて、いっぱい悩んだの。

 

あなたが男の子だったことにはすごく驚いたし、嘘つかれてたことはすごく悲しかった。

 

――でもね、あなたとアイドルの話をしてた時、すごく楽しかった。

一緒に遊びに行ったり、お買い物をしたりした時、すごくすごく楽しかった。

 

それでね、ルビィ思ったの。

 

男の人は怖いけど、『あなた』は私の大切なお友達だって」

 

クッションをベッドの脇に置き、おもむろに立ち上がると、まっすぐこちらへ近づいてきた。

 

手を伸ばせば届いてしまうような距離。そんな近くで、彼女はがくがくに震えている脚を支えながら向かい合っている僕に――

 

 

 

「も、もう一度――

 

私とお友達になってください!」

 

その小さな手を差し出した。

 

 

 

 

 

「っ、こちらこそ――

 

よろしくお願いします!!」

 

手汗でびっくりするくらいに冷たくなっていたその手を、僕は触れるか触れないかの力で、包むように握り締めた。

 

 

もう彼女と会うために、「私」なんてものは作らなくていい。

 

これからは「僕」が、ルビィちゃんとの仲を深めていくんだ。

 

 

 

 

「…………う」

 

「(……う?)」

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁんやっぱり無理だよぉぉぉぉぉぉ!!!

おねえちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

 

「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!結局こうなるわけね!!!

 

ルビィちゃん!誤解されちゃうからあんまり叫ぶのやめてね!!

ダイヤさん呼ぶのもやめて……ちょっ、ダイヤさん!?その長いエモノは一体何――薙刀!?いやいやいやいいですって!錆びになんてなりたくないですって!!だから誤解だってば助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

勿論、男性恐怖症のルビィちゃんのことだ。一筋縄ではいかないかもしれない。

前途多難であるかもしれない。

「友達」から再び始まる僕らの関係の行く末は、良くも悪くもまだわからない。

 

 

でも、

 

 

でも今だけは、

もう少しだけ、彼女の側に居られるこの時間を大切にしていこう。

 

 

彼女と「私」の思い出は、ここでおしまい。

これからは、彼女と「僕」の思い出を、沢山作っていこうと思う。

 




如何でしたでしょうか?
「告白」という言葉を「愛の告白」という意味に限定して解釈するのではなく、少し捻った形で扱ったらこんな内容となりました。

男性恐怖症である黒澤ルビィちゃん。それと仲良くさせるにはどうしたら?
→女装しかねぇだろJK

こんな安易な発想から生まれたお話ですw
所々に笑える要素を盛り込んでみたり、色々と新しい事にも挑戦しています。

企画もまだまだ折り返し。投稿作品はまだまだ続きます。
どの作品も絶対に面白いとお約束するので、最後までお付き合い願えればと思います。
それでは、みなさんにまた読んで頂ける機会を心待ちにしております!!
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