ラブライブ!サンシャイン!!アンソロジー『夏――待ちわびて』   作:鍵のすけ

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『ラブライブ〜みんなで奏でる物語〜』でお馴染みの紅葉久さんです!どうぞ!!はいどうぞ!どうぞぉ!By企画主催者


鍵のすけ読者の方々へ
鍵のすけ様と同じくハーメルンで『ラブライブ〜みんなで奏でる物語〜』を執筆させて頂いている紅葉久と申します。
初めましての方は初めまして。知っている方はお久しぶりです。
今回、このような企画・機会に参加出来たこと、数々の名高い参加者達と同じテーマを書けることに恐縮してる紅葉です。
拙い物書きの一人として、次の方へ良いバトンを渡せるようなモノを書けたかな?と思いつつ、私なりの『告白』をサンシャイン!で綴らせて頂きました。
初めて書いたサンシャイン!ですが、皆様に楽しんで頂ければ幸いです。


夜空に咲く花、君の笑顔

 真夏の夜は、思っていたよりも涼しかった。

 肌に感じる風が心地よく、月がのぼっている夜だと真夏の気温が下がっている今がとても居心地が良い。

 昼間の鬱陶しい暑さが、まるで嘘のようだと思わずにはいられない。

 

 

「今日は月が綺麗に見えてる。きっと花火も綺麗に見えるんだろうな……」

 

 

 自宅の縁側に座りながら、僕は呑気に夜空を見上げた。

 住んでみてわかったが――この町の夜は、凄く綺麗だ。この時期は月の光が夜の町を照らし、鮮やかな景色が視界に広がっている。

 この町に来て、まだ一年も経っていない。春に僕がこの町に引っ越して来て、最初の夏だった。

 田舎だと思いたくなる何もない辺鄙な場所に来たと最初は思っていたが――意外にもここでの生活が充実していることに、心なしか満足している自分がいる。

 

 父親の仕事の関係で、僕はこの町へ引っ越してきた。

 

 父親の仕事は、教師だった。最初は父親が一人でこの町へ単身赴任をするはずだったのだが、母親のお告げにより僕もほぼ“強制的”にこの町へと連れて来られた。

 

 廃校になる予定の学校に転勤なんて断れば良いのに、と僕は思った。しかし大人になると、そんな自分勝手なことは通りにくいらしい。

 

 そんな父親の仕事の関係で、この町で引っ越してきた僕は新しい学校へ転校を強制されたわけだ。

 しかも僕がこの町で転校する学校が“女子校”だと聞かされ、心からウンザリしていたのが……この町に来る前の僕の正直な感想だった。

 

 しかし、いざ転校して少しばかりか過ごしていると、意外にも毎日が楽しく過ごせているのだから人生どうなるか分からないモノだと思いたくなる。

 

 転校した学校で同じクラスになったこの町に住むクラスメイト達と親しくなり、僕には幸運なことに友達がたくさん出来た。

 

 いつも楽しげに笑う子。男の人が苦手な歳下の子。すこし方言の訛りが強い変わった子などなど、色んな個性豊かな友達が気付けば僕の周りに出来ていた。

 そんな友達と楽しい毎日を過ごす日々。それが僕にはかけがえのない思い出になっている。

 仲間達と過ごす楽しい毎日。それは前に居た街では得られなかったモノだ。

 楽しくて、賑やかで、そして僕の毎日が華やかに彩られていく。こんな日々がずっと続いたら良いのになと、僕は思わずにはいられなかった。

 

 それもきっと――僕が、この人に出会ったからかもしれない。

 

 

「うん! 今日は空が晴れてる! これなら花火も綺麗に見えるねっ!」

 

 

 僕の隣で座る少女が楽しげに笑みを浮かべた。

 縁側に座りながら足をぷらぷらとバタつかせ、その少女――渡辺曜はにひひと魅力的な笑顔を見せた。

 肩までの髪を風に靡かせ、大きなくりりとした目が可愛い、とても魅力的な女の子だ。

 この町の学校に転校して、沢山の友達が出来た。彼女もその一人だ。

 余所者の僕に親しみを持って接してくれていることに本当に感謝しつつ、今もこうして僕の家に遊びに来てくれている彼女を――僕は今後も大事にしたい人だと思わずにはいられない。

 

 

「もうちょっとかな? 花火の時間まで?」

 

 

 縁側から見える僕の家の時計を見て、曜ちゃんはそわそわと肩を揺らせる。

 

 

 そう、今日は花火大会の日だった。

 

 

 夏休みに入った最初の週末の二日間。町で行われるお祭りの一大イベントとして、花火大会が行われる日だった。

 噂で聞く限り、かなり凄い花火が見られるとのことでわざわざその為に外から町に来る観光客もいると聞いている。

 曜ちゃんから以前に見せてもらった昔の写真では、僕が思っていた予想以上に大きな花火が打ち上げられていた。

 確かにその写真を見れば、この花火は実際に見てみたいと思えた。

 

 そんな話を僕が曜ちゃんにしたのが、今回の僕の家で行われる――二人だけの花火大会のキッカケだった。

 

 僕に写真を見せてくれた曜ちゃんから何気なく提案されたのだ。

 

 

『ねぇ! もし君が良かったら私と一緒に来週の花火大会見ようよ!』

 

 

 断る理由はなかった。むしろ二つ返事で僕は頷いた。

 他の人も誘うのかと思ったけど、曜ちゃんは僕と二人で見たいと言ってきた。

 少しだけ頬を赤らめて俯きながら上目遣いで話す曜ちゃんに、少しだけ僕の心臓の鼓動が早くなったのは今でも覚えている。

 普段は陽気で気さくな曜ちゃんのそんな違った一面に、僕は思わず見惚れていたに違いない。

 

 彼女の何気ない仕草。たまに家族の職業柄で癖になっている彼女の敬礼がとても似合っていて可愛らしい。

 楽しげな表情。悲しげな表情。怒った表情。どれもが僕の目には目新しく映る。

 

 

「エヘヘ〜今日は本当に天気が晴れてて良かった! 君との花火大会が中止になったらどうしようかとそわそわしちゃんたもん!」

「……そんなに楽しみだった?」

 

 

 コトッと小首を傾げて、僕は曜ちゃんに訊き返す。

 僕の態度に曜ちゃんは少しだけ目を大きくすると、ムッと頬を膨らませた。

 

 

「む〜! なに! 君は楽しみじゃなかったのっ!」

 

 

 頬を膨らませてジトッと目を細める彼女に、僕は思わず笑みを浮かべる。

 そんな僕に曜ちゃんは馬鹿にされたと思ったのか隣に座る僕の肩を掴むと「もぉ〜!なにぃ〜!」と言って肩を揺らしてきた。

 左右に揺らされる身体に、僕は彼女の手の温かさを感じながら笑っていた。

 

 

「もちろん僕も楽しみだったよ。曜ちゃんと一緒に花火大会を見るのは」

「……もう、急にそんなこと言わないのっ!」

 

 

 曜ちゃんがキョトンとした表情を見せる。そして僕の言葉を理解すると、乱暴に彼女は僕の肩を軽くパンッと叩いた。

 

 

「でも本当に良かったの? 千歌ちゃんとか呼んでも大丈夫だったんだよ?」

 

 

 きっと今頃、僕と曜ちゃんのクラスメイトである高海千歌ちゃんをはじめとする友人達は町で行われているお祭りを楽しんでいるに違いない。

 千歌ちゃん達には、曜ちゃんから今日のことは話さないようにと言われていたので僕は話していない。

 勿論、千歌ちゃん達にお祭りに行こうと誘われた。しかし僕と曜ちゃんは二人で花火大会を見る約束をしていたので断った。

 曜ちゃんと僕はそれぞれ用事があるから行けないと、それに残念そうに肩を落とす千歌ちゃんだった。

 

 

「千歌ちゃん達とは明日一緒にお祭り行くって約束してるから大丈夫! それに今日は、君と一緒に花火を見たかったから!」

 

 

 しかし花火大会は二日間ある。だから明日の花火大会とお祭りは一緒に行く約束をして、彼女の機嫌が治ったから良しとした。

 

 

「だから今日は君と一緒だよ! 今私と一緒ってことは、つまり私を独り占めだよ! どう! もしかしてドキドキしたりしてる?」

 

 

 にひひと笑みを見せる曜ちゃん。

 曜ちゃんと僕の家の縁側で一緒に座って夜空を見て話している今は……正直、楽しいとしか思えなかった。

 

 

「うん、してるよ。曜ちゃんと一緒にこうやって花火を見れるなんて……初めて会った時は思っても見なかった」

 

 

 初めて曜ちゃんと会った時のことを僕は懐かしく思い出す。

 人見知りを全くしない千歌ちゃんと一緒に僕のところに来たのが、僕達の始まりだったと思う。

 

 もともと僕が転校してきた曜ちゃん達の学校が女子校だったのもあるのか、転校してきた男子の僕を面白そうなだと言いたげに話しかけてきたのが始まりだ。

 

 そんな小さなキッカケで僕は千歌ちゃん達と一緒に過ごしている内に、いつの間にか曜ちゃんとも仲良くなっていた。

 曜ちゃんとくだらない話で笑いあったり、彼女の家に遊びに行ったりなど色々と気付けば遊ぶ機会が多くなっていたと思う。

 

 そしていつの間にか数ヶ月も一緒に過ごしてきたと思うと、本当に時間が過ぎるのは早いなと改めて僕は思った。

 

 それはみんなといる今の時間が楽しいからなのか、それとも……曜ちゃんと一緒だからなのか、僕にはどっちなのか自分でもよく分からなかった。

 

 

「……そ、そっかぁ」

 

 

 僕の返事を聞いた曜ちゃんがキョトンとする。そして彼女がそう言うと、頬を緩ませるなりにひひと笑顔を見せていた。

 

 

「まぁ君がそう言ってくれるなら、私も嬉しいかな?」

「……どうして疑問系なの?」

「ん〜? なんとなく?」

「なんだよ、それ」

 

 

 曜ちゃんの言葉に、思わず僕は眉を寄せた。

 正直に言ったつもりだったのに、何か引っかかる曜ちゃんの言い方に僕は思わず口を尖らせていた。

 そんな僕の表情に、居心地が悪そうに人差し指で頬を掻きながら曜ちゃんは苦笑いした。

 

 

「えっと……正直に言うと、もしかして君は私と一緒にいるのが嫌なんじゃないかなって思ってた時があったんだ」

 

 

 目を伏せがちにして、縁側に座っていた曜ちゃんが足をぱたぱたと振る。まるで何かしてないと落ち着かないような、そんな印象を受けた。

 

 

「そうなの?」

 

 

 間髪入れずに、僕は曜ちゃんへ訊き返していた。

 意外だった。まさかそんな風に自分が思われていたとは、少しも思わなかった。

 

 

「だって私って“こんな感じ”でしょ? なんか女の子っぽくない感じで、馴れ馴れしい人とかって思われてるかもって思ったりしてた」

 

 

 こんな感じ、と言うのがどういう事を言っているのかイマイチ僕は理解出来なかった。

 たぶん、自分の性格というか人柄が女の子っぽくないと言いたいのだろう。

 

 曜ちゃんと初めて会った時、僕が思った彼女の印象は、活発な元気一杯の明るい女の子という印象だっだ。

 

 趣味が筋トレと言っていたので最初はもしかして男勝りな女の子と思ったりもしたが、そんなことはなかった。

 ふとした仕草、時折見せる女の子らしさを見せる曜ちゃんは僕にはとても魅力的な女の子に見えた。

 

 

「僕にとって、曜ちゃんは可愛い女の子だよ。むしろ女の子以外に何に見えるか聞きたいくらいだよ。それに馴れ馴れしいなんて思ったこともない。すごく親しみ易くて、こんな風に曜ちゃんと仲良くなれたことが嬉しいと思ってるくらいだから」

 

 

 だから不安そうにする曜ちゃんに、僕は笑顔で答えた。

 嫌いなら一緒に遊ぶわけない。馴れ馴れしいと思っていたなら、君と一緒に居て楽しいと思うわけない。

 僕は曜ちゃんとこの町で日々を過ごせて、本当に楽しいと心から思っているから。

 

 

「だから今日も曜ちゃんと一緒に居れるのが楽しいよ。こんな風に一緒に話してるだけで僕は楽しいし、不思議と曜ちゃんと一緒にいるだけで落ち着くから」

 

 

 湧き出てくる言葉を僕が口にする。つい頬が緩み、思ってしまったことをそのまま話していた。

 伏せていた曜ちゃんが僕の話を聞いている内に顔を上げていた。

 

 

「あう……」

 

 

 そして僕の話を聞いている内に、曜ちゃんは次第に頬を赤くすると口を震わせて目を点にしていた。

 どうして顔を赤く染めているのか僕には分からなかったが、曜ちゃんは顔を見られなくなさそうに俯くと、ポツリと漏らした。

 

 

「ひきょうだよ……そんな風に言うなんて」

 

 

 チラリと顔を上げて、曜ちゃんが僕を見る。そして僕と目が合うと彼女はまた目を逸らして俯いていた。

 

 

「なんか僕……変なこと言った?」

「あわわわ……!」

 

 

 曜ちゃんの様子がおかしくなったことに、僕は思わず俯いた彼女の顔を覗き見る。

 しかし曜ちゃんはそれに気づくと慌てて身体を捻って僕に背を向けていた。

 

 

「言っていない言ってない! だから今は私の顔見ないでっ!」

 

 

 背を向けた曜ちゃんが首を横に振った。

 一体、どうしたのだろうか?

 顔を合わせない曜ちゃんに僕は怪訝な顔を作る。

 しかし曜ちゃんはそんな僕の表情に気づくこともなく、何度も深呼吸をしていた。

 

 何か変なこと、言ったかなぁ?

 

 僕が内心でそう思う。ただ思ったことを言っただけなんだけど。

 僕が自分の話したことを思い返しても、特に曜ちゃんを傷付けるようなことを言ったつもりはなかった。

 だが曜ちゃんの様子が変なのは、きっと僕の所為だろう。

 それを考えようと僕が思考を巡らせようとした時――家の時計から時刻を伝える音が響いた。

 

 

「あ……花火が始まる時間だ」

 

 

 時計の音に気づいて僕が時計を見ると、時刻はいつの間にか随分と過ぎていた。

 確か曜ちゃんが僕の家に来たのは、花火大会が始まる一時間くらい前だった筈だ。

 本当にあっという間に、それだけの時間が過ぎていたのだろう。

 

 最近思うのだが、曜ちゃんと一緒にいると時間が過ぎるのが早く感じるのは気のせいだろうか?

 

 楽しい時間はすぐ過ぎると言う。僕自身が曜ちゃんと一緒にいるのが楽しいと思っているから、それも当然のことなのだろう。

 僕はそう納得して、満足げに頷いていた。

 

 

「ねぇ、曜ちゃ――」

 

 

 僕が花火大会の時間を曜ちゃんに教えようとする。

 しかしその時――ドン、と外から大きな音が響いた。

 大きな音が響き、そしてひゅーっと響く音が耳に聞こえる。

 

 そして音が止むとその瞬間、夜空に大きな花が輝いた。

 

 僕等を照らす光に、思わず僕はその光を見上げた。

 そこには確かに、夜空に描かれた綺麗な光の花があった。

 それは前に曜ちゃんに見せてもらった写真と変わらない。見惚れるような花火だった。

 

 

「…………」

 

 

 僕が声も出ずに、空に視線を釘付けにされる。

 それは、本当に見てよかったと思えるような景色だった。

 綺麗。その言葉しか僕は出て来なかった。それ以外に、僕には言葉が出て来ない。

 夜空に輝く七色の光達。様々な形を描く光達は、本当に輝かしく、そして儚く消えていく。

 次々に空に放たれる七色の光。それに僕は釘付けにされるしかなかった。

 

 

「……綺麗だね。毎年見ても飽きないよ」

 

 

 ふと、僕の右肩に心地良い重さを感じた。

 思わず僕が顔を向けると、そこには曜ちゃんがいた。

 僕の肩に、恐る恐る寄り添う曜ちゃん。頭を僕の肩に乗せ、身体を優しく寄り添わせる彼女を――僕は払うことはしなかった。

 

 頬を今まで見たことがないくらいに赤く染め、曜ちゃんは夜空に映る花火を見ていた。

 不思議と僕の肩が小さく震えている。きっとこれは曜ちゃんの身体が震えているのだろう。

 

 

「うん。本当に……すごく綺麗だ」

 

 

 それは花火に対して言ったのか、それとも曜ちゃんに対して言った言葉なのか、僕にはわからなかった。

 

 いや……多分、僕はわかっているのだろう。

 ただ、それを認める勇気がなかった。本当に、ただそれだけのこと。

 

 僕は曜ちゃんの肩にそっと手を乗せた。

 ビクッと身体を震わせた曜ちゃんだったが、僕の顔をチラリと見ると――どこか安心したような表情を見せただ。

 

 僕の肩に乗る恐る恐るだった重さが、更に強くなった。

 

 安心した面持ちで、曜ちゃんが僕に寄り添う。そんな曜ちゃんに思わず、僕も自然と彼女に寄り添った。

 自分でも顔が赤くなるのが、嫌でもわかった。心臓の鼓動が早くなっているのが心地良いと思う反面、鬱陶しいと感じる。

 

 

「私……今すっごくドキドキしてる」

 

 

 花火を見ながら、曜ちゃんが言った。

 顔を互いに赤くしながら、曜ちゃんも僕と同じだということにどうしてか無性に僕は凄く嬉しかった。

 

 

「ねぇ……君は?」

 

 

 僕の顔を見上げて、曜ちゃんが訊いてくる。

 訊かれるまでもない。僕はゆっくりと頷いた。

 

 

「えへへ……そっかぁ……良かった」

 

 

 安堵した声色で曜ちゃんが笑みを浮かべる。

 それはいつも見ている笑顔とは違う。僕が初めて見た……可憐な笑顔だった。

 

「あのね、私ずっと……君に言いたいことがあったんだ」

「……なに?」

 

 身体を寄り添わせながら訊いてくる曜ちゃんに、僕は訊き返す。

 曜ちゃんが僕を見ていると気づくと、僕も彼女へ顔を向けた。

 

 互いに吐く息が掛かるくらいの距離。目と鼻の先に曜ちゃんの顔がある。

 

 たぶん、人生で一番顔が赤くなっていると思う。それぐらい顔が熱くて、そしてこんなにも心地良いと思ったことはなかった。

 目を潤わせる曜ちゃんの瞳を見つめながら、僕は彼女の言葉を待つ。

 

 そして曜ちゃんは、声を震わせながらたどたどしく言った。

 

 

「ずっと、ずっと、ずっと言いたかったの……だけど私、勇気が出なくて……君との今の時間が楽しくて、温かくて……今の関係がなくなっちゃうかもしれないって思うと……怖くて……だって今も――」

 

 

 そこから先の言葉を、曜ちゃんは紡がなかった。

 

 

――そっと僕が曜ちゃんの口に、自分の口を重ねた

 

 

 目の前にある曜ちゃんの目が大きくなる。しかしすぐに僕の行動を理解すると、目に涙を溜めて彼女はゆっくりと目を閉じた。

 

 息が少しだけ苦しいと思うまで、僕と曜ちゃんは互いに離れなかった。

 今の時間が終わらないで欲しい。ただ僕はそう思った。

 離れてしまうと、彼女が居なくなってしまう。そんな錯覚を覚えて。

 そして何秒か、それとも何分か、時間すら忘れて――僕と曜ちゃんはそっと離れた。

 

 曜ちゃんが僕を見つめる。目に涙を溜めて、そっと頬に涙が流れる。

 

 

「あう……」

 

 

 僕はそれをそっと手で拭ってあげると、曜ちゃんはくすぐったいそうに目を細めた。

 不安と安堵が混じった曜ちゃんの表情に、僕は笑みを見せる。

 そして曜ちゃんは僕の顔を見ると顔を歪ませて、目から何度も涙を流した。

 

 

「ひっぐ……」

 

 

 嗚咽を漏らして涙を流す曜ちゃん。手で何度も涙を拭うが止まらない涙に、彼女はただひたすらに表情の歪んだ顔を手で覆った。

 静かに嗚咽を漏らして泣いている曜ちゃんを僕がそっと抱き寄せる。

 なにも言わず、僕は曜ちゃんが泣き止むまで彼女の背中を優しく摩った。

 

 

「――ありがと、もうだいじょうぶ」

 

 

 そして曜ちゃんが泣き止むと、彼女は僕からそっと離れた。

 目をゴシゴシと拭い、そして曜ちゃんは僕をまっすぐに見つめた。

 

 

「ちゃんと言わせて欲しいの……私の気持ち。私の言葉で……聞いてくれる?」

「うん。僕も、曜ちゃんにずっと言いたかったことがあるから」

「だめ。私が先だから」

「……うん。わかった」

 

 

 目を赤く晴らせた曜ちゃんが、まっすぐに僕を見つめた。

 そして曜ちゃんは――僕に言った。

 

 

「――ずっと、ずっと前から、君のことが大好きでした! 君が良かったら……私と付き合ってくださいっ!」

 

 

 涙で目を赤くし、頬を赤く染めた曜ちゃんが想いを告げる。

 僕は彼女を抱き寄せると、同じように自分の想いを彼女へ告げた。

 

 

「僕も……君のことが好きだ。だから僕にも言わせて欲しい――良かったら、僕と付き合ってくれませんか?」

 

 

 僕の言葉と同時に、曜ちゃんが僕に抱きついてくる。

 そして僕を見上げるように見つめて、彼女は一度だけゆっくりと頷いた。

 

 

「うん……もちろん。これから、ずっとよろしくお願いしますっ!」

「僕も、他の人より頼りないかもしれないけど……これからもよろしくお願いします」

 

 

 ギュッと強く彼女が僕を抱き締めた。筋トレしているおかげなのか、身体に強く彼女の存在を感じる。

 だから僕も曜ちゃんのことを強く抱き締めた。同じように、彼女が更に強く抱き締めてくる。

 

 

――バンッと、大きな音が響いた。

 

 

 僕と曜ちゃんが揃って夜空を見上げる。

 夜空には、大きな二色の花火が打ち上げられていた。

 まるで僕と曜ちゃんみたいで、思わず見惚れてしまう。

 

 

「今日、忘れられない日になったね」

 

 

 耳元で曜ちゃんが囁いてくる。

 僕は「うん」と頷いた。

 

 

「これからもずっと私と一緒に居てくれる?」

 

 

 続けて、曜ちゃんが訊いてくる。

 答えは決まっている。寄り添う曜ちゃんに向くと、そっと顔を近づいた。

 

 

「うん。ずっと一緒に居よう」

「……ありがと」

 

 

 そっと僕と曜ちゃんが口を重ねる。

 僕等を照らす花火の光を浴びて、僕等は互いを実感する。

 もう離れないように、ずっと一緒に居られるように。

 この幸せが終わらないように、彼女の存在を感じる時間がずっと続くようにと。

 

 絶対に、忘れられない日になった。

 

 これから、彼女と沢山の時間と思い出を作れたら良いな。

 沢山のことを彼女と一緒に共有出来ることを楽しみにしながら、僕は目の前にいる彼女を強く抱き締めた。

 

 

 今日から僕の彼女になった――渡辺曜ちゃん。

 

 

 この町に引っ越せたことを心から感謝して、僕は夜空に輝く花火に――ありがとうと言った。

 そして花火の光に照らされる曜ちゃんと出会えたことに、僕は彼女に「ありがとう」と言った。

 

 

「私も……君と会えて良かった。君と出会わなかったら、私は恋なんてしなかったから」

 

 

 そっと曜ちゃんが僕の頬に口を添える。そして僕を見るなり「……えへへ」と頬を緩めた。

 

 夜空に輝く花火を、僕等は寄り添って見上げる。

 今日から始まる僕等の関係の最初の思い出が増えた。

 これからの日々で、二人の思い出を増やせていけたら良いなと切に願う。

 曜ちゃんの横顔を見ながら、僕は彼女に小さな笑みを浮かべた。




読了された方へ。お疲れ様です。
はい。そういうわけで紅葉久が綴った『告白』でした。
少し季節が早いですがテーマは『告白』。加えて、『花火』と『夏』を追加しました。
あまりこういった内容を書く機会がなかったので私自身新鮮な気持ちで書けました。
サンシャイン!の中で曜ちゃんを選んだ理由は簡単です。
ただの一目惚れ、これに尽きます。
彼女のことを何も知らない状態から書きましたので、皆様の知る“渡辺曜”を綴れたか心配したりしています。
魅力的なキャラクタでしたので、読者様達に少しでも“渡辺曜”という人間を好きになって頂ければ良いなと思う次第、ヨーソロッ!

地の文が多く読みにくいと思われた方がいるかと思いますがご了解ください。好き勝手に紅葉久が書くとこうなるのです。

さて、企画に続く人達と物語はまだまだあります。
これから数々の書き手が綴るサンシャイン!のキャラクタ達と数々の『告白』が待っています。
皆様が“知っているかもしれない”沢山の作者が綴るAQUAの物語を楽しみにして頂ければと思います!

それでは、今回の企画を立てた頂いた鍵のすけに感謝して。次回の物語をどうぞ、それでは!
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