ラブライブ!サンシャイン!!アンソロジー『夏――待ちわびて』   作:鍵のすけ

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 今回の企画主催者であります鍵のすけです。四番目です。
 僕のあとにはまだまだ十八作品が控えていますが、四番バッターさながらにかっ飛ばしていきたいと思いますのでよろしくお願いします。


隣の温もり、同じ世界

 心地の良い風が僕の頬を撫でる。暖かな陽だまりは僕を包み、生い茂る草花の香りが鼻孔をくすぐる。今日は素晴らしき日になりそうだ。

 待っていた校舎裏でスマホのカメラモードを切り替え、自分の顔を映し、身だしなみを整えていると――。

 

「あ、あのぉ……」

 

 草を踏みしめる音がしたのでそちらの方へ顔を向けると、そこには彼女がいた。

 栗色の長髪、小鹿を思わせる雰囲気、そして何より小柄な美少女。間違いない、彼女だった。ふわつく感情を何とか抑えつつ、僕はその名を呼んだ。一言一句を大事に、そして噛み締めるように。

 

「来てくれてありがとう花丸ちゃん!」

「先輩……」

 

 国木田花丸ちゃん。僕の後輩であり、お寺の子であり、本の虫であり、そして誰よりも魅力的な――僕が今から()()をする女の子である。

 自然と拳を握っていた。そこはかとなく緊張しており、思わず走り出しくなるぐらいだ。

 

「花丸ちゃん僕は――」

「せ、先輩っ! まずはその、おら……マルの話を聞いてもらっても良い……ずら?」

「ん? う、うん……良いよ」

 

 突然の申し出に早速出鼻をくじかれた僕はとりあえず花丸ちゃんに続きを促した。途端、彼女は視線を彷徨わせる。

 僕の告白を前に、一体何を言いたいのか。僕は黙して促した。

 

「えっと、その……」

「花丸ちゃんから先にどうぞ。いいよ、僕は待つから」

「う、うぅ……その……あの……」

 

 何度も喋ろう喋ろうとしている花丸ちゃんを見ているのが少しだけ楽しい。いつまでも見ていたいくらいだ。彼女の困り顔はいついかなる時見ても良い物であるのは彼女を良く知る者達の間では既に知られている事実。

 やがて諦めかけたのか、花丸ちゃんが僅かに肩を落とす。

 

「……ずらぁ」

「ついに語尾だけになっちゃったか」

「そ、そんなことはどうでもよくて! あの、ちゃんとマルの話を聞いて欲しいずら」

 

 その真剣な表情に茶々を入れるほど、僕は人間が出来ていない。代わりに彼女の目だけを見る。それ以外は何も入らない。僕の視界にはもう花丸しか入っていないのだ。

 

「うん」

「先輩はいつも優しいずら」

「優しい……う~ん、そうかなぁ? 僕はいつも花丸ちゃんを怒らせちゃってると思って――」

「せ、先輩は少しニブイ所があると思うずら……」

 

 そう言って、花丸ちゃんは僕に少しだけ近づいてきて。小柄な体格のせいで自然と上目遣いになる彼女に、少しだけ僕はドキリとした。身長差って、本当にいいよなぁ。そんな感想を抱くくらいには心臓が高鳴っている。

 思わず言葉を失ってしまった僕を気にせず、彼女は続ける。

 

「本当にマルが先輩の事が嫌ならその、いつも話しかけに行ったりはしないずら」

「えっ……?」

「う、うぅ……あぁもう! 何でこうマルの気持ちが伝わらないずらぁ!?」

「は、はぁ!? そりゃこっちのセリフだよ!」

 

 そう言った瞬間、僕の中の()()が切れた。ここまで言われて黙る僕ではない。ここをスルーしてはもうこの先の言葉が届かない。そんな確信と共に僕は言葉を吐き出した。

 

「花丸ちゃんこそ! 僕の気持ちが分かっていないんじゃないの!?」

「……へ?」

「僕は初めて会った時から花丸ちゃんの事が可愛いと――ずっとそう思っていた!」

「へ、へ? ……へ? か、可愛い!? マルが!?」

「そうだよ! 本を選んでいる時の花丸ちゃん、読んでいる時の花丸ちゃん、歌を歌っている時、踊っている時の花丸ちゃんの全てが好きなんだ!」

 

 初めて出会ったときには心を奪われた。最初は容姿だけだったが、会う時間が増えていくとだんだん彼女の内面が見えてきた。控えめなのに確かな意志があり、なおかつどこかおっちょこちょいなそんな彼女。

 周りがちゃんと見えて、それとなく支え、だけど決して自分を押していかない。背中を押していきたいと手を添えていきたいと思った。

 そして喋っている間、ずっと花丸の顔が見られない僕がいた。いや見ているのだけどどこか焦点が定められないのだ。喋っている間にだんだんと恥ずかしくなってきたのだ。しかしここでそっぽなんて向けられない。視線を外してしまえばそこで全てが終わってしまうような気がして。

 

「マルは……マルこそ、先輩が……」

 

 一言置いて、花丸がぽつりぽつりと喋り始めた。

 

「最初はすごく優しい人だなぁって。高い所にある本を取ってくれたり、重い物を持ってくれたり、お寺のお手伝いをしに来てくれたり……。そんな先輩を見ていると、マルも頑張ろうって思えるんだずら。何にでも真剣にやる先輩が、いつでもマルに勇気と力を与えてくれる先輩が……マルは……」

 

 一思いに、一息で、一言で、花丸が言葉を――――解き放った。

 

 

「先輩が好きなんです」

 

 

 一言だけのはずなのに、感じる感情は十全。そして万感の思いは自然と表情に現れ、思わず口元を隠してしまった。それはそうするだろう。ニヤケているのがバレてしまうのだから。

 いつまでも黙ってしまったままだったのがいけない。花丸が途端、不安げな表情へと変わっていく。

 

「……ず、ずっと黙らないで欲しいずら」

「ごっごめん!」

「こ……これで、マルたち、その……」

「恋人だね」

「そんなはっきりと言わないでくれたら嬉しいずら! は……恥ずかしいぃ」

 

 この妙な気恥ずかしさに名前を付けるとしたら何なのだろう? 互いがそわそわしているこの感じ。僕が好きと言い、花丸が好きと言い、両想いを確認し、そして晴れて恋人となった。

 ――だったらどうする?

 自然と花丸と目が合った。なんだがドギマギしてしまう。

 

「えと、これからどうする……ずら?」

「う、う~ん……と、とりあえず……もうちょっと近づいてみる?」

「わ……分かったずら」

 

 歩み寄り、そして互いを隣にし、校舎の壁にもたれかかる。肩と肩が触れる距離。それは僕と花丸の心の距離でもあって。近づいたのだ。温もりが感じられるぐらいに。

 

「……良い天気だね。ほら今日は快晴だよ?」

「え、何で今その話から始まるずら?」

「いやぁ緊張しちゃって……おっかしーなー。告白したときは緊張したというか、無我夢中だったのもあるんだろうけど。花丸ちゃんは?」

「オラは……マルも、同じだったずら。先輩に告白しようと思ったら胸がカーッとなって、頭も真っ白で、だけど言いたいことはスラスラと出てきて。不思議だなぁ。グルグルとした迷路みたいな気持ちなのに、目を瞑ってでも歩いて行けるんだから」

 

 だんだんと表情が綻ぶ花丸の横顔を見て、僕は何だか安心する。黙っていても不快ではない、むしろずっと黙っていて傍にいてもいいくらいだ。これくらいがちょうどいいのかもしれない。

 

 

「え、えい!」

 

 

 ふいに頬に感じた柔らかな感触、まるでお餅のようだ。それが花丸の頬と分かったのはすぐの事だった。

 

「こ、恋人って何をすればいいのか分からないから、そのとりあえずほっぺとほっぺをくっつけてみたけど……どう、ずら?」

 

 絶句しながら僕はただ首を縦に振ることしか出来なかった。何せふわりと香ってくる花丸の香りと頬の体温が伝わってきて、僕の言語能力を根こそぎ破壊するには十分すぎたのだ。

 これは照れくさい。それしか言えないはずなのに、それが全く悪くないのだから不思議なものである。

 

「け、結構なお手前で……」

「……照れくさいけど、何だか良い気分ずら」

 

 一言置いて、花丸が続ける。

 

「それに、これは結構好きずら」

「何で?」

「先輩はマルより背が高いずら。だからマルはいつも先輩を見上げなければならないんだけど……これなら先輩と同じ目線で物を見ることが出来るずら。それに、こうしてほっぺをくっつけることも出来るずら。それはとても素敵なことだと思うんだぁ」

 

 確かに僕と花丸には身長差があった。だからこそ僕は花丸の世界が見られず、そして花丸は僕の世界が見られない。

 だけど、これなら見えるのだ。僕だけのものでもなく、花丸だけでもなく、()()()()()が。

 

「まあ、大した景色は見えないから空見るくらいしか出来ないけどね」

「何でこう先輩は空気を壊すような発言がつらつら出来るのかが気になるずら」

「それは言いっこなしでいこうね」

 

 ふっと通った風の冷たさに少しだけ身震いした僕はそろそろこの場を後にしようと提案した。

 

「確かにそろそろ寒くなってきたずら。せっかくだし暖かいものでも食べに行きません……か?」

「いいね! じゃあ行こうか! お尻も痛くなってきたしね!」

 

 立ち上がろうとした刹那――。

 

 

「っ――――」

 

 

 僕の頬に当たった感触。頬でも手でもない柔らかさ。ふいに横を見ると、顔を俯かせ、僕から視線を外す花丸。そこでようやく僕は察する事が出来、思わずそこを手で触れてしまった。

 

「い、今花丸ちゃん……」

「これも同じ目線で見ることが出来たから……ということで」

 

 そういう花丸の表情にはもう気恥ずかしさはなく、どこか悪戯っぽい微笑みがあった。もちろん少しばかり頬が赤いけど。

 

「先輩はどこへ行きたいずら? 実はマル、最近見つけた美味しい和菓子の店があってそこに行ってみたかったり……」

「おっけー! そうしたら次は僕のおすすめを教えてあげるよ!」

 

 所謂、デートだろうか。口には出さないまでも、確実にその流れである。今日はとても良いことだらけだ。

 良いことがありすぎて僕、そのうち死ぬのではないのだろうか。

 

(ま! アニメじゃないんだからそんなことはないよね)

 

 花丸と歩き出そうとした――その時。

 

「せ、せんぱい! 今日はヨハネとデートしましょ!」

「せせ先輩! あのぉ……そのぉルビィと一緒にあ、あああ遊びません……か?」

「あ」

 

 僕は()()の姿を確認した瞬間、全身が強張った。そしてすぐに十字を切る。別に宗教的な意味ではなく、自分の心を落ち着けるという意味で。

 フラグって本当にあるんだね。

 

「……善子ちゃんに、ルビィちゃん? 今二人とも……あれ? あれれ?」

 

 左右からやってきた善子とルビィを見た花丸の表情が途端、困惑の色に染まる。頭の中でカシャカシャと考えを纏め終わったのか、どんどん半目になっていく花丸。視線は僕へ。心なしかその眼に込められている色がどす黒いものになっているのが良く分かる。

 そして――追及が始まった。

 

「こ、これはどういうことずらぁ……!」

 

 花丸は花丸で、そして善子とルビィはそれぞれで状況を察したのか僕にだんだん詰め寄ってきた。バットでも持っていようものなら即座に殴り殺されそうな勢いである。

 冗談として笑い飛ばすにはいささか物騒すぎる。

 

「先輩! 説明をよーきゅーします! このヨハネの他に愛の告白をした人がいるっていうんですか!?」

「る……ルビィにしてくれた告白って……や……やっぱりルビィなんて……」

「あ、愛の告白ぅ!? 先輩説明してほしいずら!」

 

 三人がずらりと僕を囲み、そして睨みつける。その目力に負け、僕は説明した。

 うん、告白していたのだ。津島善子ちゃんや黒澤ルビィちゃんにも。だけど、神に誓って言いたいのは決して遊びやおふざけなどではない。もしそうと断じられたのなら僕はその場で舌を噛み切る所存だ。

 ちなみに告白した日程としては二日前に善子、昨日はルビィ、そして今日は花丸である。

 

「そ、そんな馬鹿なことがあるずらか……」

「こ……このヨハネがまさかリトルデーモンに弄ばれていたなんて……」

「うぅ……やっぱりルビィみたいな地味で暗い子なんて……」

「ちょっと待ってよ皆!! 落ち着いてよ!」

 

 そんな彼女達に僕は必死に両手を挙げて止めた。

 

「さっきから聞いていれば弄ぶだの、地味で暗い子だのって! 僕がその程度の気持ちで告白しただぁ!? 違うよ! 僕がみんなに言った言葉に一切嘘はない。ってああもうまどろっこしい!! いいかい!? 僕は、僕はね――――」

 

 

 至極単純な事さ。たった一言。こう言ってやれば良い。

 万の言葉を以てしてもその人らの胸には心には届かない。なれば一の言葉を以てその人らの心へ一直線に届けて見せる。

 

 

 

「僕は君達が大好きなんだ! 三人とも僕と付き合ってくれ!! 幸せにして見せるから!」

 

 

 

 そうなのだ。僕は皆が大好きだから告白した。

 

 ――馬鹿!

 

 一言一句同じ、そして向けられる感情も同じで。飛び交う罵倒の雨を掻い潜りながら、僕は今日も三人の()()達と楽しい毎日を繰り広げるのかもしれない。

 上等である。彼女達を全て抱きしめられなくて何が僕なのか。有象無象の艱難辛苦なぞ払って捨てる。

 

 ――ああ、これが僕たちのこれからも続く物語の序章なのかもしれない。そして、未来はどこまでも明るく、そして輝かしく、僕たちのこころと未来を照らしてくれるのだろう。




 今回は花丸ちゃんメイン、善子ちゃんルビィちゃんメインで書かせていただきました。ストレートに見せかけてのジャイロボールだったと感じてくれれば個人的には成功です。あえてキスとかそういうことをせず、子供っぽいことをする花丸ちゃんが書きたかったんです。あとはまあ普通に終わらせることが少々不得手なので搦め手を少々……といった感じです。賛否両論はあると思いますがあくまでギャグ的なオチがある展開が好きなのです。
 前書きでも書きましたが、これからあと十八作品が皆さんを待っています。ぜひ全てを読み、作者たちが夢想するサンシャインの世界に浸っていただければと思います。
 一番最後にも一筆したためますので今回はこれまでに。それではまたあとで会いましょう。
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