ラブライブ!サンシャイン!!アンソロジー『夏――待ちわびて』 作:鍵のすけ
はじめましての方は初めまして、豚汁です。
今回鍵のすけさんのサンシャイン企画に、僭越ながらも参加させて頂きました!
もし良ければ読んで頂けると嬉しいです!
では、是非どうぞです。
――それは、俺がまだ小学三年生だった時の話。
その当時の俺はたしか、窓の外を眺めてたら夕日が綺麗だったからという理由で、家を出て夕日を見ながら外を歩きたくなったんだ。
するとその散歩道の途中の海辺の砂浜で、一人の女の子が泣いているのを俺は見つけた。
しかもその子は俺にとってただの女の子じゃなく、俺の近所に住んでいて、幼稚園の頃から何をするのにも一緒に居た仲の良い友達だった。
その子の名前は、
いつも俺と、もう一人いた女の子の友達と、お姉さん達とかに甘えてばかりなズルい奴。
でも、それでも、時々頼まれてしぶしぶ学校の宿題を手伝ってやった時に、必ず『ありがとー』って俺に明るく笑って言う所が可愛くて憎めないような――そんな、まるで妹みたいな奴だった。
でも、そんないつも笑って元気だった千歌が泣いていた。
だからそれを見たその時の俺は、思わずびっくりして千歌の所に走ったんだ。
『みんなお姉ちゃんたちのことばっかりほめて……わたしのことなんてきっとどうでもいいんだ。もういいもん、どうせわたしはお姉ちゃんたちのおまけっ子なんだし……だから気にしてないもん……』
俺が来たのに気づかずに、涙目でそう呟いて無理して強がろうとする千歌。
その時の俺には、そう呟く千歌に何があったのかは分からなかったけど――でも俺は、どうしてもそんな千歌の事を慰めたくなったんだ。
『そんなことない――千歌はお姉さんたちのおまけなんかじゃないよ』
俺の声にようやく千歌は俺が居る事に気がついて、ビックリしてこっちを見た。
でもそんなびっくりした顔も一瞬、すぐに千歌はまた元の悲しそうな表情に戻る。
『ううん……ちがうもん。わたしは何やってもお姉ちゃんたちみたいにうまくできないし、いつもお姉ちゃんやお母さんや君に甘えてばっかりだから。だからきっと、わたしのことをめいわくだって思って――』
『――そんなことない!』
千歌の言葉を遮るように俺は大声でそう言った。
言った瞬間、何でこんなにムキになっているのか俺は自分自身が分からなかった。
でもその後――すぐにその理由に気付いたんだ。
確かに千歌にはいつも迷惑をかけられっぱなしだった。
学校の宿題だってよく手伝わされたりしてた。
でも俺は――そんな千歌の面倒を見るのが好きだったんだって事に気が付いたんだ。
『ありがとう』って言って明るく笑う千歌の笑顔に、ずっと前からやられていたんだって事に。
だからその時の俺は、とにかく千歌に笑顔になって欲しかったから――今から考えても『お前何考えてたんだ』って言いたくなるぐらいに、恥ずかしいセリフを千歌に言ったんだ。
『おれは千歌の事めいわくになんて思ってない! どうでもよくも思ってない!
だって、おれは――千歌の事がすきだから!』
そんな俺の勢いまかせの告白に、千歌は涙目でキョトンとした顔になった。
そしてしばらくして俺の言った言葉の意味を理解した後、千歌は海辺を照らす夕日の色と同じぐらいに顔を真っ赤にして言った。
『う、うそだよ! やさしいからそう言ってるだけで、ぜんぜんそんなこと思ってないのわたしにはわかるんだから!』
『ほ、ホントだよ! おれは千歌の事……すきだよ!』
勢いで告白してしまった後悔と恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じたが、言ってしまったからには引っ込みがつかなくなり、その時の俺は、もうなるようになれっていう開き直った気持ちになった。
すると、そんな俺に千歌はムキになって言ったんだ――
『わたしの事すきって、そんなの……うそに決まってるもん!
じゃあ、だったら――わたしとケッコンできる!?
わたしとケッコンしたら、君に一生いっぱいめいわくかけるよ! もしこの先何かこまった事があったら、その時はずーーっとてつだってもらうんだから!
どう? それでもすきって言える? ――わたしと、ケッコン出来るのっ!?』
そんな千歌の言葉に、気づけは俺は頭で考えるよりも先に口が動いていた。
『うん、おれ千歌の事がすき! 千歌とケッコンする!
一生めいわくかけてくれてもいい、だから笑って――
――おれ、千歌の笑顔が大すきなんだ!』
そう即答した俺に、千歌はボーっとした様子でしばらく俺の顔を見つめた後――恥ずかしそうにしながら笑顔で言った。
『……あ……ありがとう……えへへっ、うれしいな……』
そう言って笑う千歌の表情にはもう、さっきまでの涙は無かった。
すると千歌は小指を俺の方に差し出して、こう言った。
『わかった! わたし、しょうらいは君のおよめさんになるね――やくそく!』
『――うん、やくそく!』
そんな事を言いながら俺と千歌はこの日、水平線に沈みかけの夕日がキラキラと水面を照らす幻想的な光景の砂浜の上で、そんな将来の約束を交わす
■ ■ ■ ■ ■
―――懐かしい夢を見た。
夢から覚め、意識がはっきりしてくるのを俺は感じる。
あの約束した時から約八年の時が過ぎ――もう高校二年生。
俺は一人、海辺の砂浜の上で横になっていた。
「ああ……こんな所で寝た所為か、ついつい夢に見ちゃってたか。
全く、いつまであんな子供の頃の口約束覚えてるんだよ俺……我ながら気持ち悪いわ」
そう一人呟きながら、雲一つない空に強く輝く太陽を砂浜で仰向けで見上げながら手を翳す。
あんな子供の時の約束、千歌だって本気じゃないに決まってるだろ、それなのにいつまで俺は覚えてるんだか。
正直バカみたい
それに、肝心のその相手は――
――と、そんな事を考えていたら、誰かが俺の傍にやってくる気配を感じた。
「なにやってるの? こんな砂浜で寝てたら波に流されちゃうよー?」
そんな声が頭上から聞こえてきて、俺は砂浜の上で寝ころんだままでそちらの方を見る。
するとそこには、頭のオレンジ色のアホっ毛をぴょこんと揺らしながら俺の顔を覗き込む女の子が一人。
まさに、さっきの夢で登場したばかりの女の子――千歌がそこに立っていた。
しかもその姿は夢で見た小さい頃の姿じゃない。
身長も伸び、その顔は子供っぽい可愛らしさを残したそのままで成長したような可愛い顔をして――正直、テレビで見るようなそこら辺のアイドルなんかよりも、ずっと可愛く成長した“女の子”が居た。
幼稚園の時から毎日会ってるとそこまで気にもならないけど、こうして改めて見るとやっぱり千歌は可愛い。
正直、幼馴染でもなかったら、俺みたいな普通の男では話かけることも出来なかっただろうと思える位だ。
――まぁ、それも黙っていればの話だけどな。
ひとたび口を開けばバカみたいに能天気な事しか言わないし、いつも元気いっぱいで話しかけてくるので聞いてるこっちが逆に疲れてしまう。
そう、まさに千歌は、子供の時の性格そのままに成長したという形容詞がピッタリ当てはまる位に子供っぽい性格をしているのだ。これでは容姿目当てに近寄った男共もすぐに
全く――俺は何でこんな奴の事を好きになってしまったのだろう。
いや多分、そんな性格だからこそ……だよな。
そう思い、さっきの夢の影響もあって動揺する気持ちもあったが、それを顔に出さないようにしながら上体を起こしつつ冷静に千歌に言った。
「――おはよう
いや、学校帰りで海を近くで眺めたくなってさ。そしたら何となく気持ちよさそうだったから眠たくなっちゃって……」
――よし、完璧だ。
完全にいつも通りの俺で対処出来た、良くやったぞ俺。緊張も全くしてない。
「あははは! なにやってるの~制服の背中にいっぱい砂ついちゃってるし、これは洗濯しないとダメだね~」
千歌は笑って言うと、ポンポンと俺の背中を軽くはたく。
「――――っ!?」
そんな千歌の何気ない行動ではあるが、制服越しに千歌の手の感触を背中に感じて意識してしまった俺は、思わず慌てながら俺は立ち上がった。
「い、いいってそんな事しなくても、俺が自分でやるから!」
俺は制服の上着を脱いでカッターシャツになり、そのまま脱いだ上着をパンパンとはたいた。
――急に触られたらビックリするじゃん千歌! そういう態度が男を勘違いさせるんだってテレビで言ってたぞ、気を付けろよ! 俺をドキドキで殺す気か!?
「なに急にそんな慌ててるの?」
「む……お子様な千歌には教えてあげませーん」
「あ~! ひっど~い! そんな事言われたらますます気になるよ~!」
俺はこっちが制服越しに触られただけで物凄く意識しているのにも関わらず、全く意識せずにキョトンとした顔でそう言う千歌についムッとして、俺は意地悪を言ってしまった。
千歌はそんな俺に少し頬を膨らませながらそんな文句を言った。
――そう、この通り俺を男として意識していない言動からわかるように、千歌は小さい頃に俺とした結婚の約束を覚えていない。
あれから八年もの時間が経ったから仕方ないのもあるのかもしれない。
でもこうして、俺だけが覚えているのに千歌が覚えていないというのは――例えそれが小さい頃にした幼い口約束とは言えど、何となく悲しい気持ちを感じているのだった。
と、俺がそんな事を考えて黙っていると千歌がしびれを切らしたのか、急にこちらに近寄ってきながら言った。
「ねぇ~! お~し~え~て~よ~!」
「――ち、近い近い! わかった、お子様って言って悪かったから離れてくれ!」
そう言って俺の顔の近くにグイッと自らの顔を寄せる千歌に、俺は慌てて距離を取る。
全く……心臓に悪いって千歌。
そう言って急に離れた俺を見て、千歌は不満そうな表情を見せた。
「むー……なんか最近冷たい気がする。
あーあ、小さい時はあんなに遊んで仲良かったのになー」
「あのな……流石に俺達もう高校二年生だぞ? 何時までも子供の時のノリでベタベタしたらおかしいだろ」
「えー、おかしくなんてないよー! それにまだ、私たち法律上では子供だもん」
胸を張って俺にそう言う千歌に、俺は内心でため息をつく。
全く――子供扱いされたくないんだか、されたくないんだかどっちなんだよ。
と、千歌にそんな事を言ってやりたい気持ちがあったが、それを軽く押さえながら俺は口を開く。
「わかった、わかった――そういう事にしとくよ。
で、千歌はこんな所にまで来てどうしたんだ? 俺に何か用か?」
そう言って、俺は千歌に俺に声をかけた用を尋ねた。
まぁ、千歌の事だから用も無く俺に声をかけて来たとか普通にありそうなんだけど、でも一応聞いておくのが“親しき仲にも礼儀あり”というものだろう。
しかし、そんな俺の予想を裏切り、千歌は急に目をキラキラさせながら、いかにも『用があって来ました!』と全力でいいたげな顔をして言った。
「そうそう、そうだった! よくぞ聞いてくれました! 実はね―――」
おや意外だ……千歌にしてはしっかり用があって俺に声をかけて来たなんて。
そう思ってビックリしながら、俺は千歌の続く言葉を待つ――その時だった。
「おぉーい、お二人さーん! 今日もアツいねー、なにやってるのさー?」
遠くのほうから突然そんな声が聞こえて思わずそっちを見るとそこには、海に浮かぶゴムボートの上でウェットスーツ上半身のみ脱ぎビキニ姿という、非常に煽情的なスタイルでこちらに向かって手を振るポニーテールの女の子が居た。
そんな、男の俺の目から見たら無防備が過ぎる格好の女の子だが――実は、この子も千歌と同じく小さい頃からの俺の幼馴染だったりする。
そんな幼馴染の冷やかし文句に、俺は顔に熱が帯びるのを感じながらも、すぐさま向こうに届くような大声で言ってやった。
「そんなんじゃないって
「ちっ……違うよーー
「あはははは! ごめんねーあんまりにも仲よさそうだったからさー! 待ってて、今そっちに行くからー」
俺と千歌が慌てる様子を見てその子――
ウエットスーツ上半身半脱ぎ状態のその、高校三年生とは思えないぐらいの大きな胸を強調させた妙に色っぽい姿のままでやってくる果南の姿に、俺は思わず軽く目を逸らす。
どうせ果南はさっきまでいつもの趣味のダイビングやってたんだろうけど――いくら着替えるのがめんどくさいからと言っても、そのまま来られたら男の俺にとって目に毒だからやめて欲しい。
小さい頃から友達で、どうせ俺の事は正直弟みたいに思って意識してないんだろうけど――俺だって立派な思春期真っ盛りの男子高校生なんだからな!
その何も気にしてない脳みそ空っぽお気楽思考も、そろそろ何とかしてくれ!
そう思って、俺は内心で果南に文句をつける。
すると、その文句を言いたい気持ちが俺の表情に出ていたのか、果南は何故か申し訳なさそうに眉根をひそめて言った。
「――あ、もしかしてやっぱり私おじゃまだった? ゴメンね、ちょっと潜るの疲れたから休憩ついでに話そうって思って来たんだけど……」
「邪魔じゃない、邪魔じゃないって! なんでそんな無駄に変な方向に気を回すんだよ果南は!」
「そうだよ果南ちゃん、全然邪魔じゃないよ! それに私たちがそんな関係じゃないって果南ちゃんが一番よく知ってるよね!?」
果南の言葉に対して俺と千歌が同時に文句を言うと、果南はまた笑いだしてしまった。
「あははははっ! 息ピッタリ、やっぱり二人はお似合いだと思うなー。
ねぇ、本当に付きあってるんだったら気にせず言ってね? 私だって、二人っきりになれる時間を作ってあげれるように気を遣う事ぐらいは出来るんだから」
「もうからかうのもいい加減にしろーーー!!」
「果南ちゃーんーー!!」
「あははーごめんね、つい二人が仲良さそうだったからさー」
果南のペースに引っ張られ続け、千歌と俺はついに我慢の限界を迎えて爆発する。
そんな俺達を見ながら、果南はお気楽そうにそう言って笑った。
もう、果南は全く……軽く笑って流せない話題だからやめて欲しい。千歌は覚えてないとはいえ、俺はしっかりとあの日の結婚の約束を覚えているから変にドキドキしてしまう。
「もー、果南ちゃんは……あ、そうだ! そんな事より、私、果南ちゃんにも話があって来たんだった! ねぇ、聞いて聞いて二人共!」
「え? なになにどうしたの?」
興味をもったようにそう言って千歌の言葉の続きを促す果南の傍ら、俺は千歌の言葉に人知れずダメージを受けて胸を軽く抑えた。
ああ……“そんな事より”かぁ……。
さっきまで一緒になって反論してくれたから、もしかしたら心の中で意識してくれてるのかもって思ってちょっと嬉しかったのに……!
結局……千歌にとってはそこまで気にしてない事だったんだな。
そんな胸の痛みを抑えつつ、俺は果南と一緒に千歌の話に耳を傾けた。
そして千歌はそんな俺達に対し、瞳をキラキラと輝かせながら言う――
「ねぇ、私たち……スク―――」
♪~~♪♪~
すると、今まさに何かを言おうとした千歌の言葉を遮るように、携帯電話の着信音が遮った。
「え……あ……もう! 今いいところだったのにっ!」
そう言って文句を言いながら、千歌は携帯に出た。
その電話で話す千歌の口ぶりから、電話の相手は千歌のお母さんだという事が伺える。
そしてしばらくした後、会話が終わって電話を切り、千歌はげんなりした顔で言う。
「なんか……急に団体様のお客さん達が旅館に来たから、緊急で手伝いに来てくれだってさ……もー、わざわざこんなタイミングで呼び出さなくてもいいのに~。間が悪いよお母さ~ん……」
「まぁ、電話で話してる内容で何となくわかってたよ、ほら早く行って来いって」
「千歌の話だったら何時だって聞いてあげるからさ、ほら、千歌行ってきなよ」
「わーん! 二人共ゴメンね! またこの話は今度~~!!」
そう言って、千歌は急いで旅館に向かって走って行ってすぐに見えなくなってしまった。
そんなの走る千歌の後姿を見ながら俺は呟く。
「全く……千歌は慌ただしい奴だよな、見てて飽きないよ」
「まぁ、そこがちょっと放っておけない所なんだけどね……。
あ、そうだ、千歌も行っちゃって二人で寂しいことだし、今から一緒に潜らない?
今日は海の中の透明度も良好だし、気温水温共に最適だから、最高のダイビング日和だよ~?」
果南はそう言って、手に持った予備のものらしきシュノーケルを俺の方に差し出した。
わざわざ予備を取りだしてくるという用意周到な所を見て、最初から果南は俺と千歌をダイビングに誘う気満々だった事を察した俺は、思わず笑ってしまった。
「はははっ! 果南はさっきまで潜ってたのにまだ潜る気? ってかもう今日は何時間潜ってるんだよ?」
「ええっと……四十五分ごとに十五分の休憩挟んで、もう三回ぐらい潜ってるから……大体二時間以上はもう潜ってる計算になるかな~? でも、今日はあと二回ぐらいは潜りたい気分かも」
「わぁ……すご、相変わらず体力あるな果南。あれ俺一回でけっこう疲れるよ?」
「いやいや、慣れたら全然そんな事ないって~。
それに今日は特に海の中綺麗だからさ、ず~っと眺めてたくなっちゃうんだよね。
だからほら、私がバディーになって綺麗な所いろいろ案内してあげるからさ、行こう行こうー!」
そう言って、意気揚々と俺の手を引く果南。
この瞬間、幼馴染とはいえ自然な感じで女の子と手を繋いでしまったが、千歌とは違って触られても全くドキドキはしない。
でも、それは果南が俺にとって、一緒にいて心地良い存在であるという証明。
果南はどこかあっさりとしたようなサバサバした性格をしていて、いつも一緒にいても、年が上だとか女の子だとか、そういう
だから果南は俺にとって、一つ上の幼馴染のお姉さんというより、最早息の合う悪友とさえ言える関係だった。
「よっし、じゃあ俺も潜るの付き合うよ! 海中案内よろしくな、果南!」
「オーケー任されました! じゃあ、サイズ合うウェットスーツ取ってくるから、ボートの前で待ってて!」
そしてその後、俺のサイズに合うウェットスーツをすぐに取って来た果南と共に海に出て一時間の間、海中に潜って遊んだのだった。
■ ■ ■ ■ ■
「あー疲れたー! でも今日は果南の言う通り、今日は本当に綺麗だったな海の中!
誘ってくれてありがとう、果南」
「でしょ~? あーあ、千歌にも今日の海見せてあげたかったな~」
ひとしきり海の中に潜った後、俺と果南はウエットスーツ姿のままでそんな会話を交わしながら、果南の家のダイビングショップ店の裏手側で、ダイビングに使った道具を全て片付けていた。
流石、内浦のダイビングショップ店長の孫娘である果南が絶賛するだけあって、今日の内浦の海水はとても澄んでいて透明で、まるで真っ青な空の中で周りににいる魚と一緒に空を飛んでいるような感じをも覚えた。
だから果南が、千歌にも見せてあげたかったという気持ちもよくわかった。
実際、千歌も居たらもっと楽しかったんだろうなと思うと、少し残念な気分になってしまうからだ。
「まぁ果南、千歌は家の手伝いなんだから仕方ないって、また今度今日みたいな日にみんなで一緒に潜ろうぜ」
「うん、まぁそうだね~また今日みたいな日に二人を誘えばいい話だし、そうするかなー。
――それに、落ち込んでそうな誰かさんには元気だして貰えたから、今日の目的は達成したって事で……ね?」
そう言って、上手く隠せてるつもりでも私には落ち込んでるのを丸わかりなんだぞ――って言いたげに笑う果南。
――ああ、やっぱり果南にはバレちゃってたか。
果南は普段は何にも考えてないように見えても、俺か千歌に何かがあった時には一番早くにそれに気づいてしまうぐらいには、周りの事をよく見る事が出来ているぐらいに、ある種の達観した大人な考え方をしている。
だから、俺達三人組の中でまとめ役は誰かと問われれば、真っ先に俺は果南の名前をあげるだろう。
――ああ、また果南にお節介かけさせちゃったな。
そう思って俺は観念するように軽く笑った。
「あはは……全く、敵わないなー果南には。
ああ、綺麗な海見てたらちょっと元気出たよ、内浦の海は本当にスゴイよ……ありがと、果南」
「うん、なら良かった。悩んでるならすぐに相談しなよ? 抱え込んでても良いことないんだからさ――任せて、大抵の悩みだったら私が全部受け止めて、明るく笑い飛ばして上げるから」
「そうだな、果南はこの海みたいに広い心持ってるもんな、相談しやすそう。
ああ、悩みあったらその時はしっかり相談するよ、ありがとう果南」
俺は果南の言葉に、実際に相談する事は無いだろうと思いながらそう返して、さっきまで潜っていた海を眺めた。
さっきよりかはマシになったとはいえ、俺はまだズキズキと痛む胸を抑える。
原因は分かってる――千歌のことだ。
いつもなら、千歌にさっきみたいな意識されていない態度を取られても平気だった。
でも、今日は違った。
あの小さい頃の約束の日を夢に見てしまって、あの日の気持ちがまたぶり返してしまったから、いつもはそこまで気にならない千歌の態度だったのに、今日だけは胸に突き刺さっていたのだった。
ああ、一体何時まで俺は小さい頃の約束を大事にしてるんだろうか。千歌はもうどうせ、忘れてるに決まってるはずなのに……馬鹿だ俺。
いっそ、この千歌が好きだっていう気持ちを、あの日の思い出と共に忘れてしまえたら楽になのに―――
「――はぁ、もうじれったいんだから。そんなに悩むぐらいに千歌の事が好きだったら、早く告白でもしちゃえばいいのに」
「え……!?」
千歌の事を考えてる事を察せられてしまったのか、単刀直入もなんのそのな勢いで核心を突くような果南の言葉に、俺は心臓が飛び出そうな気分になってしまう。
いや――果南なら、言わなくても何となく俺の気持ちを察してたとしてもおかしくないのかも。
そう思い直して、俺は開き直った気持ちで今の気持ちを弱気と共に吐き出した。
「いや……果南、でも俺は千歌に全然意識なんてされてないし、どうせ千歌も俺みたいな奴に告白されても困るだけだって……」
「――そんな事ないと思うよ」
「え……?」
思いがけない果南の言葉に、俺は今度こそびっくりして果南の顔を見た。
すると果南は少し顔を背け、恥ずかしそうに顔を少し赤らめながら言った。
「他の人がどう思うのかは知らないんだけどさ、少なくとも私は君の事……その……か、かっこいい方だと、思うよ?」
「そう……なのか?」
「うん、だから断言してあげる、千歌は君が告白しても絶対嫌な顔しない。
ほら、だから思いっ切って告白してきなよ――男でしょ?」
そんな果南のハッキリとした真っ直ぐな発破に、俺は勇気を貰った。
わかった――もう昔に結婚の約束をしたとかそういうのはどうでも良い。
ただ今の千歌が好きだから俺は――!
「ありがとう……じゃあ、俺、思い切って告白してくる!」
「――よっし、そうと決まったらまずは告白場所だね!
千歌は案外ロマンチックな所あるから、綺麗な所とかに呼び出してみたらいけると思うよ!」
ノリノリでそう言って、告白する計画を立てるのまで手伝ってくれようとしてる果南に、俺は頭を下げて言う。
「ありがとう果南……本当、どうやってお礼を言えば良いのか――」
「私は大した事はしてないって――でも、じゃあ“一個貸し”ね、覚えといてよ~?」
イタズラっぽく笑ってそう言う果南。
その笑顔に俺は、後日何か奢らされることになるかもなという覚悟を決めた。
「ああ、好きなの何だって奢ってやるよ果南、じゃあ俺行って来る!」
そう言って、店の更衣スペースに置きっぱなしの制服を着る為に俺は店内に向かって走る。
「あ、待って――君から連絡したら気配から察されそうな気がするし、私が代わりに呼びだしてあげるよ」
すると、果南にそう言って呼び止められてハッっとする。
確かにこの今の自分のテンションだったら、呼び出すときに意識していなくても千歌に今から告白しますよっていう雰囲気を出してしまうかもしれない。
本当、果南にはしばらく頭が上がらないな。
「そう言えばそうだな……ありがとう果南、何から何まで……」
「いいよー。もう私にとって君と千歌は姉弟姉妹みたいな感じだもん、だから、二人には良い仲になって欲しいんだー」
そんな果南の無駄にお姉さんぶった言葉に、俺は思わず笑ってしまう。
全く……お節介なお姉さんだよ、果南は。
そう思って俺はまた口を開く。
「本当にありがとう果南、やっぱり年上の威厳には敵わないもんだね」
「それに二人が――――と、私が――るし」
「――え? どうしたんだ果南、今なんて言ったの? 被っちゃってよく聞こえなかったからもう一回言って……」
俺が言うと同時に、果南がいつもの印象とは違った暗い声のトーンで何かを言ったような気がしたので、俺は心配になって果南に聞き返した。
でも、果南はいつも通りの気楽な笑顔で笑って言う。
「何でもない――ほら、私の事なんか気にしないで、千歌をどこに呼びだしてほしいか言いなよ」
「ああ、分かったよ……じゃあ、――――に頼む!」
「うん、分かった。じゃあどうやって呼びだすかは私に任せといて、絶対千歌を呼びだしてみせるから!」
俺は果南の普段通りのその様子に、カン違いだったかと気にするのをやめ、千歌を呼びだしてほしい場所を指定した。果南も俺の言葉に意気揚々とそう返した。
――告白する場所は決まってる。
場所は“あそこ”以外に考えられない。
■ ■ ■ ■ ■
果南に千歌を呼びだして貰ってから一時間後。
俺はあの日約束した砂浜で千歌が来るのを待っていた。
果南の言葉では、千歌は旅館の手伝いが終ったら来るという事だったのでいつ来るかは分からなかったけれど、それでも俺は一時間もこの場所でずっと千歌を来るのを待ち続けていた。
この思い出の場所で千歌との過去の約束に決着をつけ――そして、新しい関係を始める為に。
そんな覚悟を抱えながら、ドキドキしながら俺は千歌を待っていた。
そして、ついに俺の待った人影のシルエットが夕日に照らされた浜辺に、走ってやって来た。
「――はぁ……はぁ……ま、待たせちゃってゴメンね」
「あ、千歌……!」
千歌は旅館の手伝いを終わらせて急いで来てくれたのか、旅館の作業着から速攻で着替えたのか分かるように、昼に会った時の学校の制服姿で俺の前に現れた。
こんなに急いできてくれるなんて、果南の奴いったいどう言って千歌を呼びだしたんだよ。
果南がどうしたのか気になるが、俺はそんな事を気にしてる場合じゃないと思い直して、話を始めた。
「ご、ごめんな……急に呼んじゃって。旅館の手伝いはもう良いのか?」
「うん、何とか後は人手が足りるから大丈夫だって言ってたから、もう大丈夫だと思う」
「そうか――なら良かった」
軽くそんな他愛のない話しから初めて、本題を切り出す前に自分自身の心の準備を決めていく。――うん、もう大丈夫だ、そろそろ始めるか。
そう覚悟を決めて俺は口を開く。
「じゃあ、千歌……今から話したいことがあるんだけど、聞いてくれるか?
実は―――」
「――――待って!」
千歌の言葉にびっくりして俺は話を止める。
一体どうしたんだ千歌……まさか、俺の言おうとしてる事がわかって止めたんじゃ――
そんな不安に駆られなから、俺は千歌の言葉を待った。
すると千歌の口から飛び出したのは、俺の予想もしていなかった言葉だった。
「あの……さ、この場所、覚えてる?」
「―――え?」
その言葉に、俺は捨てたはずの期待が膨らんでいく。
さっきまで待ってた時とは違った意味で心臓がバクバクしているのを感じた。
まさか……千歌。
そう思って俺が黙っていると、千歌は少し震えながらも、意を決したように両目を閉じて言葉を紡ぐ。
「き、君はきっと忘れちゃってると思うんだけど……私は忘れた事なんて一度もない。
私達……その……ここで……!」
ああ……間違いない。
もうここまで言われてしまったら、もう俺の都合の良いカン違いでもなんでもない。
俺は震えながらそう言う千歌に、安心させるようにこう言う。
「――結婚しようって、約束したよな?」
「えっ……! 嘘……お、覚えて……」
千歌は信じられないような表情で俺の顔を見た。
その表情に、俺はずっと気になっていた事の答えがやっとわかったようなスッキリした気分になってしまう。
――そうか、そういう事だったんだな。
俺達二人共、相手が忘れてるって思いこんで、何でもないように振る舞ってただけなんだ。
「俺だって、ずっとあの日から忘れた事ないよ。
だから千歌――俺の話を聞いてくれ」
「う、うん……! どうぞ……」
千歌はそう言うと、何かの覚悟を決めたようにグッと両足を踏んじばって俺の顔を真っ直ぐ見据える。
もう自分が今から何を言われるのか悟ったのか、千歌の顔は真っ赤で、浜辺を照らす夕日の色と全く同じ色をしていた。
そんな千歌を見ながら俺は、自分でも驚くほどすんなりと“その言葉”が出て来る。
「千歌……好きだ。
過去も今も――ずっと俺はお前の事が好きだったんだ」
「う……うんっ! 私も……ずっとずっと君のことが大好き!
忘れてるかも知れないって思っても……それでも忘れられないぐらいに君の事が大好きだったの!」
千歌の言葉に、俺は両足がふわふわするぐらいに嬉しい気持ちを感じる。
そうか……俺と千歌ってずっと前から両想いだったんだ。
「あ……あははは……夢みたいだ……嬉しい。
俺、千歌がてっきり約束忘れてるってずっと思い込んでたよ」
「うん……私も嬉しいっ!
だってだって、ずっと私の事子供扱いしてからかってきて……てっきり忘れてるって思ってたから……わぁ、顔あついよ……」
そう言うと、千歌は両手で自分の頬を抑えて熱を抑えにかかる。
その仕草がとっても可愛く見えて、俺は思わず千歌を抱きしめたくなってしまう。
うわぁ……気持ちを抑えていた分の反動がヤバい。無理やりみたいな感じにしないように気をつけて嫌われないようにしないと――
「あれ……? それにしても、今私告白されたって事は……あーーー!!
果南ちゃんもしかして私の事を騙したなーーー!!」
すると、突然そう言って果南の名前を叫ぶ千歌。
え、なんだよ千歌、一体どうしたっていうんだよ?
「ねぇ……今日女の子に告白されて、その告白を受けるかどうか悩んでるって果南ちゃんから聞いて来たんだけど……それって嘘?」
「――ブッ!!」
思わず俺は、果南が千歌を呼びだした口実を聞いて吹き出してしまう。
アイツ、そんな千歌焦らせるような嘘言ってどうしたんだよ。
まぁ……おかげで上手くいった所もあるから文句は言えないんだけど――って、もしかしてその為にやったのか果南? 全く……らしくもなく気を回し過ぎだっての。
「あーー! 笑うって事はやっぱり嘘だったんだ! もう~~! 果南ちゃ~~ん!!」
両手をあげて果南に文句を言う千歌に、俺は思わず笑ってしまう。
「あはは、果南にやられたな千歌。でも、おかげでうまくいったんだから良いだろ?」
「まぁ……そうだね……うん!」
元々そこまで怒っていなかったのか、千歌はすぐに頭を切り替えて笑顔で笑う。
――ああ、それにしても今でも信じられない。ずっと好きだった千歌と付き合う事が出来るなんて……本当に信じられないぐらいに嬉しい。
そう思って俺は、明るく笑って千歌に言った。
「――でも、俺うれしいよ。ずっと好きだった千歌と両想いで付き合う事が出来るなんて……嘘みたいだ」
「――うんっ! 私も嘘みたい…………あ」
すると、千歌はいきなり何かに気付いたかのような表情になって固まった。
「ど、どうしたんだよ千歌、またなんかやらかしたのか!?」
思わず心配でそう声をかける俺に、千歌は勢いよく頭を下げて言う――
「――ごめん!! 私、君と付き合うの今は無理なの!!」
「え……えええええええええええーーーーーー!!!???」
信じられないような千歌の言葉に、俺は驚愕するあまり大声でそう叫んだ。
え……なんでだよ!? 完全に俺達付き合う流れだっただろ!?
なのに……なんで……?
「なっ……なんでなんだよ!? 俺達……両想いじゃ……」
信じられず俺は千歌にその理由を問う。
すると、千歌は両手をグッと握りしめながら宣言する。
「私……決めたの! スクールアイドルになって、学校に人を集めて廃校になっちゃうのを何とかしたい!」
「――スクールアイドルって……
俺はびっくりして千歌にそう言ってしまう。
「うん、そう言っちゃう気持ちは分かるよ――こんな田舎に住んでる私には無理だって前は思ってた――でも、そうじゃなかった!
東京の音ノ木坂学院っていう学校の、伝説のスクールアイドルが教えてくれたの!
始める前から夢を諦めるんじゃないって――やりたい事を思いっきりやって、夢を信じて突き進めば必ず夢は叶うって! だからスクールアイドルやりたいの!」
そう言って夢を語る千歌のその瞳は俺は今まで見た中で、一番の輝きを放っていた。
そして、最後に千歌はもう一回頭を下げて言う。
「でも……アイドルは、恋愛禁止だから! だから付きあえないの……ごめん!」
そんな千歌を見て、俺は軽くため息をついた。
俺がため息をついたのを聞いて、千歌は頭を下げたまま両肩をピクっと震わせる。
違うよ千歌、俺は千歌に呆れてため息ついたんじゃないんだ――
そう思って俺は、千歌の肩に手を置いて言う。
「――それって、一人で出来る事なのか?」
「え……? ううん、違うよ……でも、なんでそんな事聞くの?」
「ばーか。もう、察し悪いな千歌は。――その夢、俺も手伝わせろってことだよ」
俺の言葉を聞いた千歌は、驚きで目を見開かせながら言う。
「うそ……怒ってないの……?」
「ばか、怒るもんかよ――それに、昔の自分が言った事、もう忘れたのか?」
そう言って、俺は千歌に自分の記憶力を自慢するように笑った。
「え……? あっ……!」
千歌は何かに気付いたようにそう言う。
やっと、思い出したみたいだな。
――わたしとケッコンしたら、君に一生いっぱいめいわくかけるよ! もしこの先何かこまった事があったら、その時はずーーっとてつだってもらうんだから!
どう? それでもすきって言える? ――わたしと、ケッコン出来るのっ!?
――うん、おれ千歌の事がすき! 千歌とケッコンする!
一生めいわくかけてくれてもいい、だから笑って――
――おれ、千歌の笑顔が大すきなんだ!
「――怒るもんかよ。
こちとら、一生千歌に迷惑かけられても良い覚悟で好きって言ってるんだ。
だから――その夢、俺も手伝わせろよ千歌」
「~~~っ!!」
俺がそう言った瞬間――千歌は急に俺の肩を掴んで、俺の右頬に顔を寄せる。
そしてその直後、俺の右頬に柔らかくて少し湿ったような感触を感じた。
――え……まさか、千歌……今俺に……!?
俺はジンジンと熱いぐらいに熱を帯びた右頬を抑えながら、千歌の方を見る。
すると、千歌は俺と同じぐらい真っ赤になりながらも笑顔で言った。
「やっぱり……だから大好き!! 将来、絶対結婚しようね!
――約束だよ!」
「あ……ああ! 約束だ!」
そう言いあって、俺と千歌はまた新しく約束をした。
――結局は『恋人未満友達以上』って結果になっちゃったけど、でも充分それだけでも俺にとっては幸せな結果だった。
「――よーし! じゃあメンバー集めなきゃ!
まずは、果南ちゃんからだー! 私を騙したお返しもまだだし!」
千歌はそう言うと、一直線に果南の家の方に走って行く。
ああ――本当に慌ただしい奴だな千歌。ま、そんな千歌の事が好きになった俺も、なんだかんだで変な奴なのかもな。
そう思って千歌の背中を見ていると、千歌は急に振り返って言う。
「おーい! じゃあ私、先に果南ちゃんの家に行ってるからねー! 待ってるよーー!!」
それだけ言って、千歌は走って行ってしまった。
――それはつまり、俺も来いっていう事だろうか。
そう思うと、俺は面白くなってついまた笑ってしまった。
だって、目に見えるからだ――これから先、千歌に付き合って色んな事がありそうだっていう事が。
「あっはははははっ! ――これから先、忙しくなりそうだ!」
「――なーにニヤニヤしてるの? 結局、振られちゃったんだよ?」
すると突然隣りから声がして、ビックリした俺はそっちを向くと、そこには果南が呆れた様な表情をしながら立っていた。
「――果南!? あー……見てたのか?」
「当然。誰が協力してあげたと思ってるの? こっそりと隠れて見守ってたのにあんな曖昧な結果……本当に、君はそれでよかったの?」
そう言う果南に、俺は迷わずに言い返す。
「ああ当然。――だって俺は、心から笑う千歌の笑顔が好きだからな」
「はぁ~~……変なの、何それ」
ため息混じりにそう言う果南。
本当、自分でも変なのは分かってるけど、でも好きなんだから仕方ない。
これが、惚れた弱みってやつっていうのなら、俺は全力でそれを肯定するだろう。
そうだ、今果南がこっちに来てるんだったら、早く果南がこっちに居るって事を千歌に教えてやらないと。
そう思って俺は携帯を取りだそうとすると――果南は、らしくもないぐらいに真剣な声のトーンで言う。
「―――本当……なにそれ。
二人が付きあって欲しいって思って、今までずっと心の中で応援してきたのに……それに、ここまで私が手伝ったから、もう付き合うだろうって思って安心して見てたのに。
それなのに、あんな曖昧な結果……私、困っちゃうよそういうの……」
「か、果南……?」
俺はそんな、らしくない果南の様子に驚いて声をかけた。
すると果南は、しばらく顔を俯かせた後、吹っ切れたような表情で頭をあげた。
「――ゴメン千歌。私、もう我慢できそうにないや――千歌が、悪いんだからね」
「え……果南、何が我慢できないん―――――っ!!!???」
――予測不可能、回避不可。
俺が気が付いたその時には、俺の唇に果南の唇が押し付けられていた。
意味も分からず真っ白になってしまった頭で過ごす、永遠にも感じる五秒の後、ゆっくりと果南の唇が離れるのを感じた。
離れた後、俺はゆっくりと果南から距離を取りながら、ロクに
「―――な……なに……? どういう事……
「あははっ……ファーストキス、貰っちゃった。
――大丈夫、私も初めてだから。
これで、いくらニブい君でも私の気持ち分かってくれたよね?」
余裕そうな口調で果南はそう言うが、その顔は真っ赤に染まっていて、とても余裕なんて感じない表情をしていた。
だからこそ今やっている果南の行動が、ふざけてるのでもなんでもなくて、真剣そのものだという事がわかる。
「な、なんで……? 果南、俺の事弟みたいに思ってたんじゃ……?」
「思おうとしてたよ……でも、いつからだろ……そう思えなくなっちゃったのは」
「――だ、ダメだって果南。俺、千歌の事好きだし……それに、結婚する約束だって」
「うん、でもそれ今付きあう訳じゃないよね? ――だったら、今私と付き合ってよ。
私、君の事、実は小さい頃から好きだったんだ――だから、ダメかな?」
俺の精一杯の反論をことごとく打ち返していく果南。
しまいには本気で告白までされてしまって、俺はもう訳が分からなくなってしまう。
「ご……ごめん……! 俺、千歌の事が好きだから付き合えない! 本当に、ゴメン!」
そんな中、ハッキリと断れたのは自分でも奇跡だと思う。
でも果南は、そんな事もう知ってると言いたげに軽く笑うと、俺の腕に急に抱き着きながら言った。
「――じゃあ、勝手に私が好きでいるからそれでいい?
君が好きって言ってくれるまで、私はずっと待ってるからさ」
「果南っ!? ちょっ……腕に胸が……あたっ……!」
「おー……ドキドキしてる……流石にここまでしたら意識してくれるみたいだね?
よっし、意識されない関係から一歩前進……っと」
「もうーーー! 果南ーーーー!!」
俺は沸騰しそうなぐらいに熱くなった顔の温度を感じながらも、せめてもの抵抗で全力でそう叫んだ。
しかも、ただ抱き締められてるだけなら何にも気にならないんだけど、余裕そうに振る舞いながらも、俺の腕を抱き締めてる果南の早い心臓の鼓動を感じてしまって、そのギャップに果南の事を可愛いと思ってしまうんだからよりタチが悪い。
「あははっ、じゃあ今日はこれぐらいしといて……千歌の所行こうか! 呼んでるみたいだしね、じゃあ私もお先ー!」
そう言って、果南は走って千歌の行った先を追い掛けて行く。
そんな果南の背中を見ながら俺は、あんな事をされても果南の事を全く嫌いになれない自分にため息をつく。
――本当にややこしいことになってしまった。
もう度重なる衝撃で俺の頭はパンク寸前。しかもこの後で千歌と果南が二人が揃った空間に行かなければならない――その事実に俺は思わず頭を抱える。
それに、果南自身が千歌の事をライバルだからと思って敵視していないのもまた悩みどころだ。俺が言わない限り絶対に千歌にバレないのがまずい要素だ。
しかも、ばれてしまっても果南のさっきの様子を見る限り、開き直りそうな気がするからなおの事マズい。
つまり俺は、果南のさっきみたいなアタックに耐えながら、千歌の夢を応援すればいいのか――あはは、思わず笑っちゃうほど笑えない冗談だ。
そう思いながら、俺は海の水平線に沈もうとする太陽を見て言った。
「千歌、やっぱりスクールアイドルやるのやめて、すぐに俺と付き合ってくれ~……」
そんな弱音を一つ吐いたのを最後、俺は腹をくくって千歌と果南の後を追って走る。
――俺の苦労の日々は、これからがスタートだ。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
千歌ちゃん可愛いなぁ……と思いながら、ノリノリで幼馴染設定で書いていたら、果南ちゃん交えて気が付けばこんな事に。
でも……まぁ、これも悪くないですよね!(ニッコリ) 私はこういうノリも結構好きです!
では、後に続く方の作品も、もし良ければ是非読んでいってください!