ラブライブ!サンシャイン!!アンソロジー『夏――待ちわびて』 作:鍵のすけ
この度、ご縁がありまして鍵のすけさん主宰のこの企画に参加させていただくことになりました。
私自身ラブライブ!の二次を書いていますし、サンシャイン!!の二次を書くかどうかはまだ考えていません。
しかし今回の企画を通して、サンシャイン!!の作品が少しでも増え、ラブライブ!というコンテンツを続けるひとつのきっかけになればと思い、参加を決めました。
前書きが長くなりましたね。
では、Aqoursのはじまり。高海千歌のはじまりを。
Thema song 「大塚愛/恋愛写真」
俺には幼馴染が居た。
いや、正確には〝居る〟だ。
そいつはすごく呑気で、
でも明るくて、優しくて。
「スクールアイドル始めるんだ!」なんて言ってきたくせに、
「千歌には得意なこと何もないから...」
俺の前でそう言いながら必死に涙を堪えたりする。
俺はそんなあいつが嫌いだった。
でも、
俺はそんな千歌が–––。
★ ハジマリノクチヅケヲ ★
ついこの間まで冬だったことを忘れさせるぐらいの日差しが、窓の外から俺の机に差し込む。
外に咲き誇る桜が美しい。その散り様すらも、見惚れてしまう。
俺が通う“入江の月男子高校”。その名の通り、男子校ということもあってまあ自分なりにはかなり楽しんでると思う。女の子は居ないけど、居ないなりの楽しさもあってね。
というかすぐ近くには〝浦の星〟もあるし。あ、ちなみにこの浦の星女学院。文字通り女子校だ。
俺らの学校の中でもそことのつながりがあるやつも結構居た。もちろん、健全な男女の付き合いもあるはずだ。ま、俺にとってはどうでもいいことだけど。
ぼーっと教室で駄弁っているクラスメイトを眺めながら、昼休み独特の眠気に身を任せようかと考える。
そんな時だった。
「浦の星、廃校決まったらしいな」
教室のどこかで話している言葉がふと耳に入ってきた。
少しだけ俺の鼓動がどくんと高鳴った。変な感覚だ。
決まった、のか...。
最初に出てきたのはそんな感情。残念だ、とか、なんでだろう、とか。そんな感情よりも、ほぼ〝無関心〟に近い感情が出てくるということは、俺の中でそれぐらいの問題にしか過ぎなかったのだろう。
だけど、ひとつだけ引っかかることがあった。
「...あいつ大丈夫か」
あいつ。俺の幼馴染のことだ。いつもならあいつのことをそんな気にすることもないが、内容が内容なだけに。変にあいつを心配している俺に気持ち悪さすら感じる。が、時間もちょうど昼休み。寝るには短すぎるのもあるが、まあ確認するには丁度いい時間だろう。
わざわざ席を立つまでもない。俺は携帯電話でそいつの名前を探す。
「...」
通話ボタンを押し、携帯を耳に当てるとそれを見たクラスメイトが黙り込む。
気を遣っているわけではない、ニヤニヤとこちらを見ている。単なる冷やかしだ。
結局俺は席を立ち、教室を出る。あんな冷やかしの中話す勇気もない。
『もっしもーし!どうしたの〜?』
第一声を聞いた俺は察した。余計な心配だったと。
わざわざ席を立ってやったのに!立ってやったのにさ!ここまでしてあげたことに対する見返り?があまりにも軽く、彼女の反応は喜ばしいことだろうけど、俺としてはなんとも微妙な感情だ。
「その様子なら大丈夫そうだな...」
『んー?何がー?』
「廃校、決まったんだろ?浦の星」
『あぁ~...そのことで電話してくれたんだね』
電話越しに聞く声は、廃校の話題を出してもそこまで落ち込んだ様子はない。
本当に気にしていないのだろうか。それとも気にしているけど、俺に変に気遣っているのか。そうだとすれば余計なお世話だ。ま、千歌はそんなこと思ってないだろうけど。
『もう知ってたからね~。生徒は』
「まさかのそのパターンかよ!」
『えへへ』
「笑うところ違うけどー?」
俺の幼馴染、
よく昔、千歌のアホ毛をからかって泣かしたこともあった。その度にウチの親からこっぴどく叱られたこともあった。『そんなんじゃ千歌ちゃんと結婚出来ないぞ』なんて言われてさ。
幼いながらに意味わかんねえと思ったよ。正直。
好きでもない女の子、といえば語弊があるかもしれないが、別に特別好きな感情を持たない女の子と結婚だなんて。
俺の中で、それがものすごくストレスだったのかもしれない。その反抗心からか、体が大きくなっていくにつれ彼女に対する対応もそっけないものになっていった。
それを彼女も察したのか、中学生の頃ぐらいからやたら話しかけてくるようになった。いや、そこは引いてくれよって話だけど。
それでも彼女を突き放すことなく、そっけないながらに相手をしてあげたというのは俺なりの優しさなのかもしれない。
『でもね』
そんなことを考えていると、電話越しの彼女の声が少ししっとりとしたものになる。
「ん」
『やっぱり寂しいよ。自分の通ってる学校が終わっちゃうって...』
「...そっか」
たまに見せるしおらしさ。普段は元気で少し男勝りだったりするのに、たまにそんな姿を見せられるとこっちとしても何とも言えない気持ちになる。
いまに限らず、思わずそっけない返事をしてしまうのもそれが原因だとわかっている。だからそんな自分が嫌だった。
「...そろそろ授業始まるから切るな」
『うん。ありがとっ。電話くれて』
「...それじゃ」
俺がそう言うと、はーいと〝いつもの〟彼女の声。
別人、とまではいかないが、やはり印象が大きく変わることもあり違和感。ずっとだ。彼女と出会ってからずっと。
この感情は何なのだろう。違和感は、しおらしい彼女を見ると、抱くこの感情は。
...まあいいか。戻ろう。
これ以上考えても埒が明かない。こんなことを考えるのは今日に限ったことでもないし、今日この日までわからないのならちょっとやそっと考えたところで無駄だと。
教室に戻る足取りもどこか重いものへと変わっていた。
それからすぐ、だった。
千歌がスクールアイドルをやると言い出したのは。
***
「で、なんでまたスクールアイドル?」
後日。千歌が急に電話でそんなことを言うものだから、俺は家のリビングで彼女にそう問いかける。今家には誰もいないせいか、リビングでひとり電話するのはどこか寂しさすら覚える。
『どうしてかぁ...うーんと...』
そこまで悩むことなのだろうか。そもそもいきなりそんなことを言い出すということは何かしらの理由があるはずだ。
彼女の返答を待っていたが、答える様子は一向にない。質問を変えてやるか...。
「その前に、スクールアイドルってなに?」
まずはそこだ。スクールアイドルとはいったいなんなのだろうか。文字通り学校のアイドルだろうが、それが本当にそうなのかはわからない。ここは直接聞くのが...
『学校のアイドルだよ!えへへ!千歌、アイドルになるんだぁ』
期待した俺がバカだったよ、うん。
まあ当の本人がそう言うってことは、きっとそうなのだろう。ひとつため息をつく。
「それで、なんでまたそれをやろうと思ったわけ?」
話を元に戻す。今度は「どうしてやろうと思ったのか」とはっきりと千歌に伝える。
すると千歌はさっきと同じようにうーん...と考え込むが、割とすぐに答えが返ってきた。まとまったのだろうか。
『やってみたい...からかな?』
「...なんで疑問系?」
『こんな理由でいいのかなって...あはは...』
理由に体裁も何もない、はず。
特に高校生の部活の一種、になるのかはわからないが、やりたいからやる。その理由はごく真っ当なものだと思った。
それを変に考え過ぎるのも、高海千歌という人間。
昔から知っているから、そう言い切れる。
「いいんじゃねえの?やってみれば」
『本当...?』
「本当だって。やりたいんだろ?」
『...うんっ。やりたい!』
なんだかんだで背中を押す形になってしまったが、まあ吹っ切れたのならそれでいい。
ずっと抱いている、彼女に対するこのわけのわからない感情が何なのか。それがわからない自分自身へのイラつきを心の中に押し込むように。
「それじゃ、切るな」
『あ、ちょ、ちょっと待ってよぉ!』
「...どうした」
『あ、あのぉ...さ?その...』
電話を切ろうとすると呼び止められたもんだから、仕方なく彼女の言葉に返事をすると、その千歌はモジモジとなかなか言葉を発しない。
「なんだよ?」
『い、いまから会えないかなぁ〜。なんて』
「...なんで急に」
『...だって、しばらく会ってないじゃん。ずっとこうして電話だけ。すぐ近くにいるのに、すぐ会えるのに』
「それは...」
...千歌の言うことは正しかった。
会おうと思えば、すぐに会える距離。思いつきで遊びに行けるぐらいに。
それでも、会うことはなかった。ここ...何年だろう。少なくとも、高校生になってからは一度も会っていない。だが、こうしてお互いに声を聞くだけの関係でもあった。
その頻度は多いこともないが少ないこともなかった。
それが千歌には歯がゆかったのだろうか。冷静に考えればそれもそうだ。
...でも、俺は会いたくなかった。会うのが怖かった。
自分のこの感情に、気づいてしまいそうで。理解したいけどしたくない、でも理解したい。
その無限ループに嵌ってしまった気がした。
『...ま、いいか!いつでも会えるからね!』
「お、おい千歌」
『ううん。気にしないで大丈夫だからねっ!今日は背中押してくれてありがと!切るね!』
俺の返答を待たずして千歌はひとり、そう言葉を発して電話を切った。ツーツーという音だけが、俺の耳に悲しいぐらいに響く。
俺は知ってる。
千歌の「大丈夫」は、かまってほしいということを。
心配させたくないと、変にひとりで強がる優しい子だということも。
やっぱり、俺はそういういらない気遣いをする君が嫌いだ。
☆
それから数日後。いつも通りに学校を終え、家への道を歩く。少し歩きたい気分だったから、少し遠回りで海沿いの道を。
あれから千歌から電話は来ていない。上手くいっているのだろうか、大丈夫だろうか。そんな心配をしてしまう自分がダサいというか、なんというか。ま、いい。
そんなことを考えていると。後ろから声が聞こえる。
女の子の声だ。妙に聞き慣れた、声。
「やっほっ」
「...千歌?」
「違う。私だよ」
「果南姉か...」
「私で悪かったね」
その声の正体は千歌の幼馴染の
千歌の幼馴染ということは、自然と俺とも繋がりが出てくる。年も1個上だし、いい姉ちゃんと俺は見ていた。
「そんなに千歌に会いたかったの?」
「いや...そういうわけじゃ」
「ふーん。ならいいけど。いま帰り?だったら途中まで一緒に帰らない?」
果南姉の提案に頷いて意思表示をする。彼女も俺の意思を見て少しだけ微笑む。
「...まだ会ってないんだ」
「...うん。わからないけど、会えないんだ」
「ふたりとも大きくなった、ってことじゃない?」
「大きく?」
果南姉は「そう」と一言、言葉を発して少しだけ歩くスピードを速める。
自然と俺も彼女のスピードに合わせてしまう。前からずっと一緒にいたからだろうか、まぁそれはどうでもいい。
果南姉は不思議と、話しかけづらい雰囲気を醸し出していた。千歌とは違い、よくこうしてばったり会うことが多い。だから話しかけづらいなんてことは感じたことなかった。
でも、今は違う。
俺と千歌のことを心配してなのか、はたまた、違う何かか。俺には全く想像つかなかった。
「大きくなって、それと一緒に思うことも大きくなったんじゃないの?」
「思うこと...?」
「...自分で気付かないと。私はあの頃みたいに、また3人で...」
そう言ったきり、果南姉は口を開かなかった。
1番辛かったのは、彼女自身には違いなかった。それがわかっているのに、改善しようとしない、
そんな自分が嫌いだった。
心の底から、嫌いだった。
***
それでも、俺なりに考えてみた。
どうすればいいのかと。
この感情は何なのかと。
部屋でひとり、学校の課題に向かいながら考える。
当然のごとく、意識は課題に向いていない。
––– 大きくなった、ってことじゃない?
...わかんねぇ。どういう意味なんだ...。
果南姉に言われた言葉が、俺の思考を停止させていた。考えようと思っても、その言葉が俺の考えを遮る。まるで、自分を理解してほしいと言わんばかりに。右手に持っていたペンをクルッと回す。
その時、ふと鳴り響く携帯電話。静かな自分の部屋にジンジンと響く。
相手を見ると、まさにドンピシャな相手だった。
「もしもし。千歌」
『ごめんね急に。いまいい?』
「大丈夫。どした」
電話越しの聞き慣れた千歌の声。どこかいつもよりも冷静さを含んでいるようにも聞こえた。
なぜだろうか、彼女の声を聞くだけで、
『...うん、ちょっと...ね。あはは...』
「なんなんだ?それだけじゃわかんない」
『...人が集まらなくて』
人?と思ったがすぐに彼女の話を思い出す。スクールアイドル、だっけ。千歌がやりたいと言ってたやつは。
彼女の話を聞くと、いざ募集をかけてみたものの、やはり抵抗がある人が多いらしく、現段階では千歌以外にやりたいと言ってくれる人がいないらしい。
...ひとり、か。
孤独、なんだろうな、なんて思ってしまった。
話をしていくうちに、どんどん千歌の声も沈んでいく。
「...そっ」
『相談する相手もいなくて...あはは...』
「果南姉は?」
『あなたに聞いてみたらって言われたから...』
全く余計なことをしてくれる。
最終的に落ち込んだ千歌を励ますのは俺の仕事。昔からずっとだ。
あれだけ威勢が良かったのに、すぐ壁にぶつかるとこうなる。千歌はそういうやつだ。
だから嫌いなんだ。
...でも、
「いつまでお前はそうなんだよ。やるって決めたならいけるところまでいけばいい」
『べ、別に辞めるなんて言ってないもん...』
「今のままなら辞めるだろ?」
放っておけないのも千歌なんだ。
...どうしてだろうな。わかんないさ。自分でも。
わかっていたら、もっと笑っているんだろうな、なんて思ってしまった。
どうして笑っていると言い切れるのか、どうして、いいことしか思い浮かばないのだろうか。
好き、だから...?
思考が止まる。ぴたりと、止まる。
いや、そんなわけないと言い聞かせても、いままで頭の中に散らばっていた感情が綺麗に結び合わさっていく。
「...いやまさか」
思わず声を出してしまう。その一瞬だけ、電話中であることを忘れてしまっていた。
『ん...?どしたの...?』
「あ、いや...」
それを疑問に思った千歌が問いかけてきた。言葉を探すも、見つからない。
うまく場を逃れることが出来る言葉が。
「ち、千歌」
『ん?なに?』
「い、いまから会えないか」
どうして自分がこんなことを言ったのか、わかるわけがなかった。
でも、いまの俺はそう思った。千歌に会いたいと。
俺の言葉を聞いた千歌はというと、だ。
『...ふぇっ、えっ、あっ、ええっ!!???』
電話越しでもかなりあたふたしているのがビンビン伝わってくる。
そんな千歌に落ち着くように促す。
『だ、だってもう2年近く会ってないのに...ど、どうして急に...』
千歌の言う通り、こんなに近くに居るのに2年も会っていない。そんな奴から急に会えないかと言われればそりゃ動揺しても不思議ではない。
ただ理由を聞かれると、なんて答えればいいのかわからない。
「...なんとなくだ。今から、海辺に来てくれるか」
『いつもの場所“だった”あそこだね。...うん、わかった』
いつもの場所。
懐かしいな、なんてわずかな感傷に浸る。
昔、3人でよく遊んだあの場所に、もう一度向かう。よく通ってはいても、足を踏み入れることはなかったからか、変に緊張している自分がいる。
時間は、夜の20時を過ぎていた。
それでも千歌は嫌だと言わずに電話を切った。時間が遅いから日にちをずらそうとも考えたが、なぜかそんな気にはなれなかった。
なんか、懐かしい。この気持ち。
どこか、体がふわふわと浮くような。
緊張しているのか、いやそれはない。
でもそうとは言い切れないと思ってしまう自分が居る。
課題を投げ出して家を出る。真っ暗な夜道を駆け抜けていく。息を切らし、心を躍らせ。
自分の感情が、あと少しでわかる。確信に変わる。
確信に変わった時、俺には何が出来るだろう。ふと考える。
少しだけ息が苦しくなってペースを落とす。
その分、思考に意識を集中させる。少しだけ。でもすでに視界には約束の場所が目に入っていた。再び意識を身体に持っていく。
海辺に足を踏み入れる。少しだけ硬い砂を踏みしめる感覚がジンジンと骨を伝って身体に染み渡る。
真っ暗な海には月の光だけが映し出されていた。
ふと、考える。これまでのことを。
俺は、千歌が嫌いだった。
親から毎回あんなことを言われて、イライラとしたことが全ての始まりだった。
...でもそれだけ?
本当に、それだけの理由?
違うと自答する。
じゃあなんなんだ。どうして彼女を突き放さないんだ。
どうして、彼女のことを考えるんだ?いつもいつも、申し訳ないと思いながら。
あと少しで、答えに辿り着く。
そう気付いた途端、考えるのをやめてしまった。まだ、半信半疑の自分がいる。
もう会っていない彼女のことを考えるだけで、
「...久しぶりだねっ」
「...千歌」
そこで意識を目の前に戻した俺は、辺りを見回す。すると後ろから声をかけられた。
振り向かずともそれが誰かすぐにわかった。
振り向いてみると、わずかな外灯で姿を確認できる。間違いなく、高海千歌だと。
瞬間、胸の鼓動が高鳴る。今まで感じたことがないぐらいに、どくんどくんと。
はちきれそうな胸を隠すので精一杯だった。彼女の顔を見るだけで、壊れてしまいそうな。
久々に会った彼女は、美しかった。
昔よりも、より女の子っぽくなって。
でも昔の面影も残していて。
「...ようやく会えたねっ」
「...ごめん」
「どうして、謝るの...?」
「俺のせいで、いまお前を泣かせてるから」
千歌はうっすらと流れる涙を手で拭いながら必死にごまかす。
「これは嬉し涙だよ」
「そうまでさせてしまったのは俺だから」
「...ばか」
せっかくのフォローをなんで受け取らないんだと言わんばかりに顔を背ける千歌。
涙は収まり、少しだけ顔が赤くなっていた。
俺はその場に座り、千歌も俺の隣に腰を下ろす。
俺は何も気にせず座ったが、砂の上にハンカチを敷いて座る彼女の様子を見ると、やはり女の子らしくなったんだなと、しみじみ感じる。
夜の海は不気味。波の音だけがザーザーと響く。
「ねぇ」
「どうした」
「どうして、会ってくれたの?」
至極単純な質問。なんと答えよう。
いつもなら、適当にごまかしごまかし答えるような質問だが、今日だけはそんな気にはなれなかった。
「...自分の気持ちを」
「気持ち...?」
そう言ったところで、言葉を飲み込む。
どうしようか、と考える。が、俺自身まだ気持ちの整理がついていない。
沈黙が、苦しい。
ふと、千歌の左手が砂の上に突いていた俺の手の上に重なる。
「千歌...?」
「...ご、ごめんね...なんか...こうしたくなって」
驚いた俺は、ふと昔のことを思い出した。
昔はこんな風に、手を繋いで遊んでた。
いまよりもっと笑っていた。
いまより、ずっとずっと楽しかった。
だから俺は、
千歌を、失いたくない。
...あぁそうか。
「...俺はお前が嫌いだった。やりたいことはすぐにやるくせに、壁にぶつかるとすぐに弱音を吐くお前が」
「...そう、だよね...あはは...」
「...でも」
千歌は、うつむきかけた顔を上げる。
「そういうのも全部ひっくるめて、」
「俺は...君が好きだ」
「えっ...?」
2人の間の時間が止まる。止まったような感覚を覚える。
俺はいま、彼女に想いを伝えた。『好き』だと。
「い、いまなんて...?」
聞き返してくる千歌に、俺はどうしようかと戸惑う。もう一度言うべきか否か。そんな悩みは、波の音とともにすぐに消え失せる。
「君が好き。千歌のことが、好き」
「...うぅ」
千歌は暗がりでも、はっきりとわかってしまうぐらいに顔を真っ赤にしてうつむく。
夜の海は少し冷える。潮風の香りとともに、冷気を含んだ冷たい風と化して俺たちに吹き付ける。
「...嬉しい......」
「千歌」
「ずっと、ずっと、千歌もあなたが好きだったから」
嬉し涙、だろうか。頬に伝う優しい涙。
それを拭うこともせずに、泣き笑いの表情で俺にそう言ってくる千歌。
嬉しかった。すごく、すごく。
いままで彼女を避け続けていた自分をぶん殴ってしまいたいぐらいに、彼女が愛おしくて愛おしくて。
「...ずっと会いたくなかったんだ。千歌には」
「どうしてなの...?」
まだ少し涙声のまま千歌はそう問いかけてくる。
もやもやとした気持ちが晴れた俺自身、すぐに答えが出た。
「...千歌に嫌われたくなかったから。厳しく言いすぎたりして、千歌が離れていくのが怖かった」
千歌はやりたいことはすぐにやる行動力がある。だがその一方で自分に自信がないためか、すぐになんでも自分に非があるのではと考え込んでしまう癖がある。昔からそうだ。
何度も言うように、俺はそんな千歌が嫌いだった。
嫌いな理由、それは、
千歌はすごく可愛いし、彼女だけの魅力があるから。
それなのに、すぐに悲観的になってしまう彼女に対する妬み、みたいなものも多少はあったかもしれない。
だけど、実際は俺がそれを指摘して千歌に嫌われるのを恐れたからだ。
でも、
すごく弱い人間の俺を、彼女は愛してくれていた。
本当にいいのだろうか、なんて思ったけど。
俺も、君が好きだから。誰よりも、誰よりも、愛しているから。
「ねぇ。もっと、近くにいっていい?」
「...ああ。おいで」
千歌はえへへと笑みを浮かべながら、俺にピタリとくっついて、肩に頭を委ねる。甘い髪の香りが、潮風にも負けず俺の鼻を甘く刺激する。
「千歌」
「ん?」
「...応援するから。頑張れよ」
「...うんっ」
この先どうなるかなんてわからない。
千歌のスクールアイドルが上手くいくかなんてわからない。
それでも、きっと彼女たちなら何か奇跡を起こしてくれるんじゃないかって、密かに願う自分がいた。
それが出来たら、叶ったら、この海辺で、
君とキスがしたい。なんて、
柄にもないことを思ってしまった。
やっぱり、
僕は君が好きだ。
ありがとうございました。
いかがでしたでしょうか?私の現在の推しである高海千歌ちゃんをヒロインにしまして書きました。
設定や、性格。それがほとんどわからない状態での執筆活動だったため、かなり難しかったです。
ですが、今だからこそ書ける話でもあったかなと。Aqoursの始まりに期待を込めて書きました。
最後に、この場をお借りして素晴らしい企画を考えてくださった鍵のすけさんに改めてお礼申し上げます。
それでは、明日以降も素晴らしい作家様の作品が待っています。一読者として、皆様と同じように楽しみにしてますね。
それでは、次回は私の作品でお会いしましょう。