似て非なるもの   作:八割方異形者

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反応が遅くて申し訳ありません。


√deep sea

 タ級の腰部から伸びる、人の顔に似た艤装――その数は6。

 いずれも、目に該当する部位から砲身が伸び、口の部分は人の歯並びを再現した外観。

 艦娘の艤装とは違い、機械のようでいて、どことなく人間(ヒト)じみた、いびつな形だ。

 

 その艤装が、タ級の号令に合わせて一斉に口を開ける。

 金属を擦り合わせるような、鈍い音を立てながら完全に口が開くと、内部から3つの砲身が姿を現す。

 そこまで認識した一瞬の後に、耳元で雷が落ちた様な轟音と、全身を揺さぶる空気の振動に襲われる。

 目の前には煙が立ち込め、それを吸い込んだ俺は思わずむせこんでしまう。

 

 上の空で、砲弾が飛んでいった方角を眺めていると、身体に軽い衝撃が走る。

 どうやらタ級に背中を叩かれたようだ。その衝撃で、呆けていた意識が我を取り戻す。

 

 「――着弾確認。ホラ、呆ケテナイデ行キナサイ」

 

 「……ホ級はどこにいますか?」

 

 「私ガ砲撃シタ方向ニ進メバ良イワ」

 

 つまり、敵の射程圏内に突っ込めと言う事。

 改めて、自分の艤装(そうび)を確認する。単装砲1門、使いかけの高速修復材(バケツ)1個、以上。

 貧弱というレベルではない。初期装備(ひのきのぼう)でボスに挑むようなものだ。

 

 「タ級、援護を……お願いしますね」

 

 「大丈夫、心配イラナイワ。貴方ガ離脱スルマデ、私ハココニイル」

 

 「……ありがとうございます。また後で、タ級」

 

 俺の返答に、気にするなとでも言うように、タ級はひらひらと手を振ってくる。

 タ級に背を向け、向かうべき進路へ目を向ける。

 援護射撃があるにせよ、ここから先は独りで行動する事になるだろう。

 息を吸い込み、肺の中を空にするように吐き出す。

 

 「――よし」

 

 身体を前に傾け、ホ級が居るであろう場所に向かって移動する。

 進みながら、ふと――どこからか見られている様な奇妙な感覚が身体を包む。

 なんとなしに右手の艤装に目を落とす。すると台座に座りながらこちらを見ている妖精さんと視線が合う。

 妖精さんは俺と目が合った瞬間に、すばやい動きで艤装の陰に隠れ、顔だけこちらに出しながら様子を伺っている。

 

 臆病な小動物を相手にしているようだが……気まずい、非常に。

 この外見(なり)では仕方の無い事だと思うが、明らかに警戒されている。

 妖精さん(あちら)としても、私はこれからどうなるの、といった感じなのだろう。

 

 敵に鹵獲された兵器がどうなるか。

 改造、もしくは転用。研究対象などになる事が考えとして浮かんでくる。

 もし深海側に工廠があるのなら、妙にぞわぞわする音が響き渡る事も否定できない。

 

 これは、対話が必要か。

 水面を滑るスピードを緩めることなく、妖精さんに話しかける。

 

 「……話をしてもいいですか?」

 

 端からみれば、大砲に話しかける変な人になってしまうが、周囲は海。誰を気にする事も無く、醜態を晒すことができる。

 

 「私は貴方を害する気はありません。むしろ助けてください」

 

 俺はきっぱりと断言したあと、手のひらを返したように協力を懇願する。

 航行の仕方、艤装の扱い。どちらも俺は素人。ゆえに妖精さんの協力があれば、多少はマシになるかもしれない。

 それをどう受け取ったのかは分からないが、伺うような視線は鳴りをひそめ、妖精さんはこちらを見つめ返してくれる。

 

 「これから艦娘と交戦します。その支援をお願いしてもいいですか」

 

 支援といっても、どこそこを狙えとかそんな感じでいいのですが、と付け足す。

 俺のお願いに対し妖精さんは――伏し目がちにすまない、といった表情でふるふると首を振る。

 言葉は無いが、そこには拒否の感情がにじみ出ているのが見て取れる。

 

 やはり無理か。駄目で元々、当たって砕け散れの精神で頼んでみたが、妖精さんは艦娘側に属するもの。

 深海側に協力する事はできないという事だろう。

 協力が得られないのは残念だが、ここまできたら進むしかない。心を蝕む不安も、行き先を閉ざす恐れも、底に沈めて。

 緊張か、それとも高揚か。いつの間にか荒くなっていた呼吸を押さえながら歩を進め、ホ級の姿が確認できる距離まで近づく。

 

 

 ……様子がおかしい。敵の撃った砲弾が、ホ級に迫っている。

 それなのにホ級は避けるそぶりを見せない。いや、あれは……動く事ができないのか。

 このままだと直撃する。その後に待っているのは、轟沈という名の――

 

 「……ホ級!」

  

 その先を想像してしまった瞬間、脱兎の如く駆け出す。

 早く、急げ、間に合え。

 散り散りの単語が頭の中を駆け回り、それに追いたてられるかの様に滑るスピードも上がる。

 ホ級の姿が間近に迫る。

 砲弾は刻々と迫ってきているが、ホ級はぐったりと腕を投げ出し、動く様子は見られない。

 

 迫る砲弾を撃ち落す――不可。

 残念だがそんな技能は備わっていない。

 ホ級を突き飛ばす――不可。

 この身体と体格が違いすぎる。弾き返されて終わりだ。

 

 つまり結論は。

 迫る砲弾と、ホ級との間に身体を滑り込ませ、手を広げてホ級をかばう――これだ。

 

 背後から息をのむ気配が伝わってくる。

 それに反応する間もなく、右腕に金属バットで叩かれた様な衝撃が走り、炸裂音と共に目の前が煙で覆われ視界がふさがれる。

 見通しがきかない中、攻撃を受けた右腕に目を向ける。肘から先の袖部分が吹き飛び、ボロボロになっているのがかろうじて確認できた。

 痛みはさほど感じないが、右前腕から先が感電したかのように痺れ、感覚が無い。

 右手を開き、閉じる。その行為を数回繰り返し、動作に不自由が無い事をたしかめる。

 ――大丈夫、()()動く。

 

 「ホ級、無事ですか?」

 

 背を向けたまま、ホ級に声をかける。

 正直な所、すぐにでもホ級の無事を確認したいが、俺は未だにホ級の質問にきちんと答えられていない。

 その事実が、振り向くという行為をためらわせる。

 ……言ってしまえば、誤解まがいのやり取りをしたまま別れてしまったので、どのツラを下げて話せばいいのか分からない。

 

 「ナゼ……ココニ?」

 

 背中越しに聞こえてくるホ級の声は、俺がどうしてここにいるのか図りかねている様に聞こえる。

 これは、自らの立場をはっきりさせるいい機会だ。しかしそれは、今まで積み重ねてきた大切ななにかを捨て去る事と同義。

 だがいつまでもグズグズしている様では、それこそ機を失うことになりかねない。

 

 「――私は」

 

 後ろを振り向き、ホ級と目を合わせる。

 

 「私は深海棲艦(ホ級)の味方です。ここに来た理由は――それだけです」

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