似て非なるもの   作:八割方異形者

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言語的な会話ver.WO

 タ級の案内で泊地へと進み始めてどれくらいの時間が経過しただろうか。俺達は横一列に並列し、水面をかきわけ道なき海を進む。

 俺は列の中央に位置しており、ちょうどホ級とタ級に挟まれる感じだ。二人がいうには、また沈みそうになられても困る、ということだが……それを言われるとぐうの音も出ない。

 

 何気なく空を見上げると、出発した時の晴天とはうって変わり、一条の日の光さえ許さないとばかりに、厚く継ぎ目の無い雲に覆われている。

 その空模様に少しばかり憂鬱な気分になり、足元に視線を移す。いつの間にか、広がる海の色は静謐な青から、時間が経った血のような赤へと変化しており――思わず足を止めてしまいそうになる。

 いや、これはおかしいだろう。赤潮でも急に発生したのだろうか。もしそうなら微生物頑張りすぎ。

 

 「ココマデクレバ、当分ハ安心ネ」

 

 若干の混乱に陥る俺をよそに、気を張っていたのだろうか、隣にいるタ級が一安心した様に息をつく。どうやらここから中枢泊地内という事らしい。確かに深海棲艦にとっては安心できる場所となる。

 だが、恐らく今から深海棲艦のトップに会う事になる俺にとっては、最終面接に臨む新人の気分というか。正直どういう扱いをされるのか、全く不明。下手な事を口走ればその場で敵とみなされる危険も容易に想像できる。

 緊張のためか、先ほどから胃を絞り上げるような痛みが断続的に走り、喉の奥から酸っぱい物がせり上がってくる様な感覚を覚える。

 

 「大丈夫カ? 顔色ガ良クナイガ」

 

 よほどひどい顔をしていたのか、ホ級が心配そうに顔を覗き込んでくる。それに大丈夫と返答し、ホ級に何気なく質問を投げかけてみる。

 

 「ホ級は、深海棲艦のトップに会った事はありますか?」

 

 「無イナ。ソウ簡単ニ会エル方デハ無イ」

 

 「では、私達はなぜここまで連れてこられたのでしょう」

 

 「オ前ノ、妖精ガ見エルト言ウ発言ガ要因ジャナイカ?」

 

 「……ですよね、やっぱり」

 

 自身の迂闊な発言に自己反省しながらしばらく進んでいると、目の前に黒く変色した陸地が現れる。変色した地面はあらゆる箇所がひび割れ、割れた部分が血管のように赤く脈動している。

 まるで陸地自体が一つの生命という印象を受ける、奇妙な外観。タ級の先導で、島へ足を進めていくと一つの人影が視界に入る。

 

 「出迎エノヨウネ。少シ話ヲシテクルワ」

 

 ここで待っていろとばかりに、タ級がこちらに向けて広げた手を突き出してくる。

 ここからではよく分からないが、タ級はその誰かと軽く言葉を交わした後、こちらに手招きをしてくる。どうやら話がついたようだ。

慎重にその人影に接近していくと、少しずつ相手の全貌が明らかになる。

 

 相手の上半身はぴっちりとした灰白色のウェットスーツらしき物に覆われ、腰から下は皮膜のような薄く黒いレギンスの様な物に包まれている。

 タ級とは違い露出はほぼ無い……が、いかんせん身体に張り付くような服のせいか、女性らしい身体のラインが浮かび上がっており、それが目の保養――いや、毒だ。

 手には黒く捻れた杖を持ち、同系色のマントを上から羽織っている。その姿になぜか、魔法少女という単語を連想してしまう。

 

 顔のほうに目を向ける。両目とも黄色の瞳だが、左の目には戦闘状態の自分と似たような青い炎が漁火のように灯り、どこか虚ろな印象を受ける。

 髪は短く整っているが、唯一、両耳の前で伸ばされた灰色の髪が胸の辺りまで垂れ下がっている。

 だがやはり目を引くのは、頭の上に乗っている帽子のような艤装だろう。軽母ヌ級に頭をかじられ……いや、そのまま頭に被ったような異様な風貌。

 すらりとした身体とは相反する巨大な艤装に、思わず目が吸い寄せられる。

 

 「ヲッ」

 

 すごいなーでっかいなーと子供の様に眺めていると、彼女……ヲ級は硬い表情のまま、こちらに向けてビシッと敬礼をしてくる。

 その様は訓練された兵士、もしくは本拠地を守る番兵だろうか。

 

 友好的かは判断できないが、せっかく向こうからコミュニケーションを取ろうとしてくれたのだ。返さなくては失礼だろう。

 

 「ヲッ」

 

 ヲ級に向けて見よう見まねの敬礼を返す。

 

 「ヲヲー」

 

 すると、無表情だったヲ級の雰囲気が一変する……どうやら感動しているようだ。

 光を映さず、淀んでいた目は主人を見つけた犬のように輝きを増し、さっきまで固まっていた顔の筋肉は緩み、微笑みをたたえている。

 そのわずかだが劇的な変化に――少しばかりのいたずら心が湧き出してくる。こちらからの行動にはどう反応するのだろう、と。

 あちらが軍隊礼式でくるのなら、こちらは世界で通用する握手で対応だ。俺は無言で右手を差し出し、相手からの反応を待つ。

 

 ――五秒

 

 ヲ級は差しされた俺の手と、自分の手を見比べている。

 

 ――十秒

 

 おずおずと、ゆっくりと。しかし確実に黒色の手袋に包まれたヲ級の手がこちらに接近し、そのまま影のように静かに、互いの手が重なり合う。

 ミッションコンプリート(任務完了)、成し遂げたという謎の達成感に満たされ、思わず俺の顔も緩んでしまう。

 

 「何ヲ遊ンデイルノカシラ」

 

 和やかな雰囲気になっていると、タ級の呆れたような溜め息が耳に届く。

 失礼な。これはれっきとした相互理解を深める為の第一歩であり、決して遊んでいる訳ではない。むしろ俺はこの上なく真面目なのだが、タ級はそうは受け取ってくれなかったようだ。

 

 「私はただ握手しただけなのですけど」

 

 「ハイハイ、イイカラ進ムワヨ」

 

 俺の言い分を聞くことなく、タ級は俺の手を取り先にずんずんと先に進む。

 そのまま手を引かれるままに進むが、島の沿岸に差し掛かった所でタ級の足が止まる。

 

 「私ハココデ待ッテイルワ。ココカラハ貴方一人デ行キナサイ」

 

 「なぜ、と聞いても?」

 

 「私達ノ司令ガ、ソレヲ望ンデイルカラヨ」

 

 俺に向けてタ級が有無を言わさない、とばかりの強い調子で告げてくる。正直、聞きたい事はまだ残っている。その司令とは誰で、なぜ俺をここまで連れてきたのか。なぜ一対一でなければならないのか――俺に、ここで何をやらせるつもりなのか。

 ……まあ、それは直接相手に聞けばいいだろう。

 

 「わかりました。ではその司令と呼ばれる方に会ってきます。その前に」

 

 まあ、それよりも目下の問題は。

 

 「どこに向かえばいいのか分からないので、道を教えてもらってもいいですか?」

 

 今進むべき方向が、全く持って分からないという事だ。

 

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